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解析力学をシンプレクティック幾何学にする

2022/12/25に公開

はじめに

この記事は 数学・物理 Advent Calendar 2022 の 25 日目の記事です.半年ほど勉強した結果,解析力学をシンプレクティック多様体の言葉で記述できるようになってきたので,記事にまとめてみようと思って書きました.本記事は,解析力学と多様体論の知識がある方向けの記事となっています.あるいは,解析力学を微分幾何学の言葉で整理してみようとしたことがあるが,細かいところが詰められていないという人向けかもしれません.本来は前提知識を設けたくなかったのですが,時間の制約上仕方ありません.

方程式の共変性を形式的に定義する

関数 f に依存する方程式を \mathrm{Eq}[f](x) と表記することにします.たとえば f^\prime(x) = 0 みたいなものです.方程式 \mathrm{Eq}[f](x) が座標変換 \phi に対して共変であることを,次で定義します:

\forall f,\,\exists g,\ \ \{\,x\,|\,\mathrm{Eq}[f](x)\} = \{\,\phi \circ X\,|\,\mathrm{Eq}[g](X)\,\}
この式の意味は,「すべての f に対して,\mathrm{Eq}[f](x) を解く代わりに \mathrm{Eq}[g](X) の解 X を求めてから x = \phi \circ X として解を求めても解(複数存在する場合も可)が変わらないような g が存在する」です.少し雑に言い換えれば,方程式の局所座標表示が well-defined になるような座標系の集合を考えているということです.

Lagrangian は TM 上の関数である

Euler-Lagrange 方程式

\forall t \in [t_0,\,t_1],\ \ \frac{\partial L(q,\,\dot{q})}{\partial q_i}(q(t),\,\dot{q}(t)) - \frac{\mathrm{d}}{\mathrm{d}t}\frac{\partial L(q,\,\dot{q})}{\partial \dot{q_i}}(q(t),\,\dot{q}(t)) = 0
は任意の座標変換に対して共変です.Euler-Lagrange 方程式は次のことと同値です:
\forall f \in C^\infty(\mathbb{R}^n),\ \ \lim_{\epsilon\to 0}\frac{S[q + \epsilon f] - S[q]}{\epsilon} = 0
ここで作用 S : C^\infty(\mathbb{R}^n)\to\mathbb{R}

S[q] = \int_{t_0}^{t_1} L(q(t),\,\dot{q}(t))\mathrm{d}t

で定義される汎関数である.これの証明は S[q + \epsilon f] - S[q] を丁寧に計算すればできるはずですがここではしません.上記のことから,Euler-Lagrange 方程式が座標変換 \phi : \mathbb{R^n} \to \mathbb{R^n} に対して共変であることを示すには,任意の L : \mathbb{R}^{2n} \to \mathbb{R} に対して

\{\,q\,|\,\forall f \in C^\infty(\mathbb{R}^n),\,\mathrm{Eq}[L](q)\,\} = \{\,\phi \circ Q\,|\,\forall f \in C^\infty(\mathbb{R}^n),\,\mathrm{Eq}[\tilde{L}](Q)\}
を満たす \tilde{L} : \mathbb{R}^{2n}\to\mathbb{R} が存在することを示せばよいです.ただし
\mathrm{Eq}[L](q) \Leftrightarrow \lim_{\epsilon\to 0}\frac{S[q + \epsilon f] - S[q]}{\epsilon} = 0
です.実は
S[\phi \circ Q] = \int_{t_0}^{t_1} L\left(\phi(Q(t)),\,\sum_{i=1}^n\dot{Q_i}(t)\frac{\partial \phi}{\partial Q_i}(Q(t))\right)\,\mathrm{d}t
だから
\tilde{L}(Q,\,\dot{Q}) = L\left(\phi(Q),\,\sum_{i=1}^n\dot{Q_i}\frac{\partial \phi}{\partial Q_i}(Q)\right)
としてしまえば,求めたい \tilde{L} が得られる.したがって,Euler-Lagrange 方程式は任意の座標変換に対して共変である.共変であるというのをもう一度説明すると,q の代わりに q = \phi \circ Q として,先に Q について解いてから q = \phi \circ Q で戻して得た解 q と,元々の q に関する方程式をそのまま解いた解が一致するということである.ここで,\tilde{L} の定義式に着目すると,配位空間 M の座標変換 q \to Q,\ q = \phi \circ Q を行うとき
q = \phi \circ Q,\ \ \dot{q} = \sum_{i=1}^n\dot{Q_i}\frac{\partial \phi}{\partial Q_i}(Q)
で定義できるような座標変換 (q,\,\dot{q}) \to (Q,\,\dot{Q}) を Lagrangian に施すことを約束すれば,Euler-Lagrange 方程式は,M の座標に依らずに q : [t_0,\,t_1]\to M に対して定義された作用
S[q] = \int_{t_0}^{t_1} L(q(t),\,\dot{q}(t))\,\mathrm{d}t
が(先ほどの意味で)極値を取る問題であると書き直すことができる.この作用の定義式の見た目は通常のものと変わらないが,L は局所座標表示されていることに注意してほしい.すなわち,M のある局所座標系を使って qq(t) = (x_1(t),\,\ldots,\,x_n(t)) と局所座標表示できるとき,作用の定義も局所座標表示できて
S[q] = \int_{t_0}^{t_1} L(x(t),\,\dot{x}(t))\,\mathrm{d}t
となるということである.ただし,どんな M の局所座標系を持ってきて Euler-Lagrange 方程式を解いても,解は変わらないということが重要である.ここで,M の座標変換に対して定義される Lagrangian の座標変換をよく見ると,Lagrangian は M の接束(接バンドル) TM 上の関数となっていることがわかる.これはすなわち,Lagrangian を TM 上の関数とみなすことで,Euler-Lagrange 方程式(\Leftrightarrow 最小作用の原理)を M の局所座標系に依らないで記述できるということである.Lagrangian を TM 上の関数とみなす必然性は必ずしもないが,解析力学が座標系に依らないような定式化(すなわち,幾何学的な定式化)をするには必要不可欠なことであることが理解できる.

線形空間上の Legendre 変換

線形空間 V 上の実数値関数 f : V \to \mathbb{R} の Legendre 変換 f^\ast : V^\ast \to \mathbb{R}

f^\ast(p) = \sup_{x \in V}\left(\,p(x) - f(x)\,\right)
で定義する.この定義は V の基底に依らずに定義できていることに注目してほしい.V^\astV の双対空間である.ここで,双対基底について復習しておく.V の基底 \{e_1,\,\ldots,\,e_n\} の双対基底 \{e_1^\ast,\,\ldots,\,e_n^\ast\} とは,次のような線形関数であった:
e_i^\ast(x_1e_1 + \cdots + x_ne_n) = x_i
ここで
f = f_1 e_1^\ast + \cdots + f_n e_n^\ast \in V^\ast
に対して
f(x_1e_1 + \cdots + x_ne_n) = f_1x_1 + \cdots + f_nx_n
だから,すべての V の元に対して f0 \in V^\ast となるためには,f_1 = \cdots = f_n = 0 \in \mathbb{R} である必要がある.すなわち,\{e_1^\ast,\,\ldots,\,e_n^\ast\} は線形独立である.また,上の等式から f_i = f(e_i) となるので,V^\ast の任意の元が \{e_1^\ast,\,\ldots,\,e_n^\ast\} で展開できることが分かった.以上により,\{e_1^\ast,\,\ldots,\,e_n^\ast\}V^\ast の基底を成す.

さて,V の基底 \{e_1,\,\ldots,\,e_n\} とその双対基底により Legendre 変換の定義式を具体的に計算できる形に変形してみる.p \in V^\ast を双対基底で展開すると

p = p_1e_1^\ast + \cdots + p_ne_n^\ast\ \ \ \ (p_i = p(e_i))
となる.これにより,Legendre 変換は
f^\ast(p) = \sup_{(x_1,\,\ldots,\,x_n) \in \mathbb{R}^n}\left(\sum_{i=1}^np_ix_i - f(x_1,\,\ldots,\,x_n)\right)
として計算できる.ただし,f(x_1,\,\ldots,\,x_n)f(x_1e_1 + \cdots + x_ne_n) の意味で用いた.この,具体形を用いた Legendre 変換の定義式を物理の教科書で見たことがある人は多いと思うが,線形空間 V 上の実数値関数の Legendre 変換を定義するときは,V の基底の選び方によって Legendre 変換の結果が変わってしまうようでは困るので,Legendre 変換 f^\ast の定義式は自然に双対空間 V^\ast になる.

Legendre 変換を行うには,f の Hesse 行列

\left[\frac{\partial^2f}{\partial x_i\partial x_j}\right]
が正則であることが要求されます.Hesse 行列の正則性が V の基底の取り方に依存しないことは計算により確かめられます.

以上により,式

f^\ast(p) = \sup_{(x_1,\,\ldots,\,x_n) \in \mathbb{R}^n}\left(\sum_{i=1}^np_ix_i - f(x_1,\,\ldots,\,x_n)\right)
で定義される f^\ast(p) を,f^\ast : V^\ast \to \mathbb{R}p = p_1e_1^\ast + \cdots + p_ne_n^\ast における値だとみなすことで f^\astV の基底の選び方に対して well-defined に定義できるし,また,上式における Legendre 変換可能性も V の基底の選び方に依存しないことが分かった.つまり,

多様体上の Legendre 変換

線形空間上の実数値関数の Legendre 変換は,双対空間上の実数値関数を基底の選び方に対して well-defined に定義するものであった.これとは別に多様体上の実数値関数の Legendre 変換を考えることができる.線形空間上の Legendre 変換とは異なり,多様体上の Legendre 変換は,新しく関数を定義するとともに,多様体の局所座標系として新しい座標系を採用するという点が重要である.あとで見るように多様体上の Legendre 変換は多様体上の座標変換をもたらし,これは熱力学や,解析力学の正準変換において利用されている.

f \in C^\infty(M) の,局所座標系 x_{i_1},\,\ldots,\,x_{i_m} に関する Legendre 変換 f^\ast \in C^\infty(M) を次で定義する:

f^\ast = \sum_{k=1}^m x_{i_k}\frac{\partial f}{\partial x_{i_k}} - f
添え字 j_1,\,\ldots,\,j_{n-m}
\{\,i_1,\,\ldots,\,i_m,\,j_1,\,\ldots,\,j_{n-m}\} = \{\,1,\,\ldots,\,n\,\}
を満たすように定め,また
p_{i_k} = \frac{\partial f}{\partial x_{i_k}}
とすれば
\mathrm{d}f^\ast = \sum_{k=1}^m x_{i_k}\mathrm{d}p_{i_k} - \sum_{k=1}^{n-m}\frac{\partial f}{\partial x_{j_k}}\mathrm{d}x_{j_k}
が成り立つことがわかる.このとき,(p_{i_1},\,\ldots,\,p_{i_k},\,x_{j_1},\,\ldots,\,x_{j_{n-m}})M の局所座標系を成すならば
\begin{align*}\left\{\begin{aligned}\frac{\partial f^\ast}{\partial p_{i_k}} &= x_{i_k} \\ \frac{\partial f^\ast}{\partial x_{j_k}} &= -\frac{\partial f}{\partial x_{j_k}}\end{aligned}\right.\end{align*}
が成り立つことが分かる.すなわちこのとき,上の関係式は元の座標系 (x_1,\,\ldots,\,x_n) と,新しい座標系 (p_{i_1},\,\ldots,\,p_{i_m},\,x_{j_1},\,\ldots,\,x_{j_{n-m}}) の間の関係式を与えている.

(p_{i_1},\,\ldots,\,p_{i_k},\,x_{j_1},\,\ldots,\,x_{j_{n-m}})M の局所座標系となる条件を求めてみよう.(x_1,\,\ldots,\,x_n)(p_{i_1},\,\ldots,\,p_{i_m},\,x_{j_1},\,x_{j_{n-m}}) の間に微分同相写像があればいいから,(p_{i_1},\,\ldots,\,p_{i_k},\,x_{j_1},\,\ldots,\,x_{j_{n-m}})M の局所座標系となる必要十分条件は

p_{i_k} = \frac{\partial f}{\partial x_{i_k}}\ \ \ \ (k = 1,\,\ldots,\,m)
x_{i_k} に関して解けて,ある微分同相写像 \phi が存在して x_{i_k} = \phi_{i_k}(p_{i_1},\,\ldots,\,p_{i_m},\,x_{j_1},\,\ldots,\,x_{j_{n-m}}) として表示できることである.これは
\mathrm{det}\left[\frac{\partial^2 f}{\partial x_{i_k}\partial x_{i_l}}\right] \neq 0
と同値である.特に,f の局所座標表示が (x_{i_1},\,\ldots,\,x_{i_m}) に関して凸であれば
f^\ast(p_{i_1},\,\ldots,\,p_{i_m},\,x_{j_1},\,\ldots,\,x_{j_{n-m}}) = \sup_{x_{i_1},\,\ldots,\,x_{i_m}}\left(\sum_{k=1}^m p_{i_k}x_{i_k} - f(x_1,\,\ldots,\,x_n)\right)
が成り立つ.

以上のことより,多様体上の Legendre 変換が座標変換

(x_1,\,\ldots,\,x_n) \to \left(x_{j_1},\,\ldots,\,x_{j_m},\,\frac{\partial f}{\partial x_{i_1}},\,\ldots,\,\frac{\partial f}{\partial x_{i_m}}\right)
を定めていて,その関係式は
\begin{align*}\left\{\begin{aligned}\frac{\partial f^\ast}{\partial p_{i_k}} &= x_{i_k} \\ \frac{\partial f^\ast}{\partial x_{j_k}} &= -\frac{\partial f}{\partial x_{j_k}}\end{aligned}\right.\end{align*}
で与えられることがわかった.多様体上の Legendre 変換では,関数の定義と共に新しい座標も定めているのだから,線形空間上の Legendre 変換のように,Legendre 変換の定義式が座標系に対して well-defined になっているかどうかは確かめない.

Hamiltonian は T^\ast M 上の関数である

Lagrangian が L の系を考える.L : TM \to \mathbb{R} を適当に変換して,Hamiltonian H : T^\ast M\to\mathbb{R}M の局所座標系に対して well-defined に定義したい.(p\,;\,v) \in TM に対して,L(p\,;\,v) = L_p(v) と表示してみると,L_p : T_pM\to\mathbb{R} は線形空間上の実数値関数である.T_pM の基底は M の局所座標系に対応しているから,L_p の線形空間上の Legendre 変換 {L_p}^\ast を用いて H を定義すれば M の局所座標系に対して well-defined に定義できそうである.そこで,(p\,;\,v^\ast) \in T^\ast M として H(p\,;\,v^\ast) = H_p(v^\ast) とし,H_p = {L_p}^\ast として Hamiltonian を定義すればよい.このとき,H_pT_p^\ast M 上の実数値関数であるから,HT^\ast M 上の実数値関数となる.

T^\ast M はシンプレクティック多様体である

T^\ast M の元は

p_1(\mathrm{d}q_1)_q + \cdots + p_n(\mathrm{d}q_n)_q
と表示される.この (q,\,p) は多様体としての T^\ast M の局所座標系を成しており
\omega = \sum_{i=1}^n\mathrm{d}p_i \land \mathrm{d}q^i
シンプレクティック形式を定めると,(T^\ast M,\,\omega) はシンプレクティック多様体を成すことが確かめられる.

Darboux の定理

余接束 T^\ast M ではシンプレクティック形式を自然に

\omega = \sum_{i=1}^n \mathrm{d}p_i \land \mathrm{d}q^i
に取ることができる.実は,一般のシンプレクティック多様体 (M,\,\omega) に対して
\omega = \sum_{i=1}^n \mathrm{d}p_i \land \mathrm{d}q^i
となる局所座標系 (q,\,p) を取ることができることが知られている.その証明を与えるのが Darboux の定理である.また,このような座標を Darboux 座標 と呼ぶ.Darboux の定理は次のように言い換えることもできる:
\mathbb{R}^{2n} の(局所)座標系を (x,\,y) とし,標準的なシンプレクティック形式を
\omega_{\mathrm{std}} = \sum_{i=1}\mathrm{d}y_i \land \mathrm{d}x^i
で定める.このとき,任意のシンプレクティック多様体 (M,\,\omega) において
\omega = \phi^\ast\omega_{\mathrm{std}}
を満たす微分同相写像 \phi : M\to\mathbb{R}^{2n} が存在する.

この \phi を用いると,対応する Darboux 座標は q^i = \phi^\ast x^i,\,p_i = \phi^\ast y_i となる.

後で解説するように Hamilton 運動方程式の局所座標表示は Darboux 座標において不変であり,この事実により正準変換を用いて Hamilton 力学は発展していく.一般のシンプレクティック多様体において Darboux 座標の存在を保証する Darboux の定理は,一般のシンプレクティック多様体上で Hamilton 力学を行うことを可能にする.

正準変換

正準変換とは,シンプレクティック多様体の Darboux 座標間の座標変換である.すなわち,シンプレクティック多様体 (M,\,\omega) の局所座標系 (Q,\,P)(q,\,p) の正準変換であるとは

\omega = \sum_{i=1}^n \mathrm{d}p_i \land \mathrm{d}q^i = \sum_{i=1}^n \mathrm{d}P_i \land \mathrm{d}Q^i
が成り立つ場合をいう.

Hamilton 運動方程式の共変性

Hamilton の運動方程式は,解曲線を \gamma : [t_0,\,t_1] \to T^\ast M とすると

\frac{\mathrm{d}\gamma}{\mathrm{d}t} = X_H
と,座標系に依存しない形で書くことができる.ただし,X_H は Hamiltonian HHamilton ベクトル場である.Hamilton ベクトル場は,Hamiltonian 以外に対しても,一般に f \in C^\infty(M) に対して定義されるベクトル場であり,内部積 i : \Omega^n \to \Omega^{n-1} を用いて
i_{X_f}(\omega) = -\mathrm{d}f
で定義される.この式において,\omega はシンプレクティック多様体のシンプレクティック形式である.

Hamilton の運動方程式は正準変換に対して共変である.言い換えれば,Hamilton 運動方程式の局所座標表示は Darboux 座標に関して well-defined であるということである.ここで,方程式の局所座標表示とは,方程式に現れる関数・ベクトル場・微分形式をそれぞれ局所座標表示して得られる方程式という意味とする.このことは,Hamilton ベクトル場が(当たり前のことだが)座標に依らない定義であり,特にシンプレクティック形式を用いて定義されていることからわかる.Darboux 座標とはシンプレクティック形式の局所座標表示が不変であるような座標であるから,当然,Hamilton ベクトル場の局所座標表示もすべての Darboux 座標で同じ形になる.ちなみに具体的にはそれは

X_f = \sum_{i=1}^n\left(\frac{\partial f}{\partial q^i}\frac{\partial}{\partial p_i} - \frac{\partial f}{\partial p_i}\frac{\partial}{\partial q^i}\right)
である.これは少し計算を行えばわかる.一方,\dfrac{\mathrm{d}\gamma}{\mathrm{d}t} は,\gamma の局所座標表示を \gamma = (q(t),\,p(t)) とすれば
\frac{\mathrm{d}\gamma}{\mathrm{d}t} = \sum_{i=1}^n\left(\dot{q}^i\frac{\partial}{\partial q^i} + \dot{p_i}\frac{\partial}{\partial p_i}\right)
だから
\dot{q}^i = \frac{\partial H}{\partial p_i},\ \ \ \ \dot{p_i} = -\frac{\partial H}{\partial q^i}
となる[1]

この状況は別の Darboux 座標 (Q,\,P) を持ってきても変わらない.\dfrac{\mathrm{d}\gamma}{\mathrm{d}t} の局所座標表示は当然

\frac{\mathrm{d}\gamma}{\mathrm{d}t} = \sum_{i=1}^n\left(\dot{Q}^i\frac{\partial}{\partial Q^i} + \dot{P_i}\frac{\partial}{\partial P_i}\right)
だし,上で説明したように,Darboux 座標ではシンプレクティック形式の局所座標表示が不変なのだから,Hamilton ベクトル場の局所座標表示も不変であり
X_f = \sum_{i=1}^n\left(\frac{\partial f}{\partial Q^i}\frac{\partial}{\partial P_i} - \frac{\partial f}{\partial P_i}\frac{\partial}{\partial Q^i}\right)
である.だから結局,別の Darboux 座標 (Q,\,P) における局所座標表示も
\dot{Q}^i = \frac{\partial H}{\partial P_i},\ \ \ \ \dot{P_i} = -\frac{\partial H}{\partial Q^i}
となる.この式を解いて,\gamma = (q(Q,\,P),\,p(Q,\,P)) として解 \gamma を求めても解は変わらないから,Hamilton の運動方程式は正準変換に対して共変である.

正準変換とシンプレクティック同相の関係

シンプレクティック多様体 (M,\,\omega) 上の正準変換を (M,\,\omega) から (M,\,\omega) へのシンプレクティック同相とみなそうとしても全く面白くない.なぜなら,シンプレクティック同相写像として恒等写像を取ればいいだけだからである.実際,恒等写像は M から M への微分同相写像であり,\omega = \mathrm{id}^\ast \omega を満たす.しかし,Darboux の定理の言い換えを使って,M 上の正準変換を \mathbb{R}^{2n} から \mathbb{R}^{2n} へのシンプレクティック同相だと思うと少し面白い.Darboux の定理の言い換えを思い出しつつ,M の2つの Darboux 座標 (q,\,p),\,(Q,\,P)

q^i = {\phi_1}^\ast x^i,\,p_i = {\phi_1}^\ast y_i,\,Q^i = {\phi_2}^\ast x^i,\,P_i = {\phi_2}^\ast y_i
とする[2].このとき,\omega = {\phi_1}^\ast\omega_{\mathrm{std}} = {\phi_2}^\ast\omega_{\mathrm{std}} なのだから,\omega_{\mathrm{std}} = (\phi_2 \circ {\phi_1}^{-1})^\ast\omega_{\mathrm{std}} である.よって,\phi_2 \circ {\phi_1}^{-1}\mathbb{R}^{2n} から \mathbb{R}^{2n} へのシンプレクティック同相写像となっている.ただし,後で見るように,正準変換ではその変換則の1階微分の部分までしか見なくていいから,シンプレクティック多様体上の正準変換と\mathbb{R}^{2n} から \mathbb{R}^{2n} へのシンプレクティック同相写像が一対一対応するわけではないことに注意したい[3]

このように,シンプレクティック多様体上の正準変換を \mathbb{R}^{2n} から \mathbb{R}^{2n} へのシンプレクティック同相写像と見ることによって,正準変換を \mathbb{R}^{2n} 上で議論できるようになる.シンプレクティック多様体から Darboux 座標 q = {\phi_1}^\ast x_i,\,p_i = {\phi_1}^\ast y_i が得られたら,人間が具体的に計算するときは結局いつも \phi_1\mathbb{R}^{2n} に飛ばした上で計算を行うのだから,正準変換なども \mathbb{R}^{2n} で論じることにして,必要な場合は後から全部 \phi_1 で元の空間に引き戻せばいい[4]

一般にシンプレクティック多様体 (M_1,\,\omega_1) から (M_2,\,\omega_2) へのシンプレクティック同相写像に対して,母関数を対応させて議論することができるらしい[5]

正準変換とシンプレクティック群の関係

シンプレクティック多様体上の正準変換はシンプレクティック行列と一対一に対応することがわかる.実際

\Omega = \begin{pmatrix}O & I_n \\ -I_n & O\end{pmatrix}
とし,シンプレクティック変数 z = (x,\,y),\,Z = (Q,\,P) を導入すれば
\omega = \frac{1}{2}\sum_{i=1}^{2n}\sum_{j=1}^{2n}\Omega_{ij}\mathrm{d}z_i \land \mathrm{d}z_j = \frac{1}{2}\sum_{k=1}^{2n}\sum_{l=1}^{2n}\Omega_{ij}\mathrm{d}Z_k \land \mathrm{d}Z_l
である.特に一番右の式を計算すると
\begin{align*}\omega &= \frac{1}{2}\sum_{k=1}^{2n}\sum_{l=1}^{2n}\Omega_{kl}\left(\sum_{i=1}^{2n}\frac{\partial Z_k}{\partial z_i}\mathrm{d}z_i\right) \land \left(\sum_{j=1}^{2n}\frac{\partial Z_l}{\partial z_j}\mathrm{d}z_j\right) \\ &= \frac{1}{2}\sum_{i=1}^{2n}\sum_{j=1}^{2n}\sum_{k=1}^{2n}\sum_{l=1}^{2n}\Omega_{kl}\frac{\partial Z_k}{\partial z_i}\frac{\partial Z_l}{\partial z_j}\mathrm{d}z_i \land \mathrm{d}z_j\end{align*}
である.ここで行列 M
M_{ij} = \frac{\partial Z_i}{\partial z_j}
で定義すると,上式より
\sum_{l=1}^{2n}\left(\sum_{k=1}^{2n}M_{ki}\Omega_{kl}\right)M_{lj} = \Omega_{ij}
なので,M^{\mathrm{t}}\Omega M = \Omega が成り立つ.この条件を満たす行列 Mシンプレクティック行列という[6].シンプレクティック行列が成す群をシンプレクティック群と呼び,\mathrm{Sp}(n) と表記する[7].シンプレクティック行列が群を成すことに対応して正準変換も群を成す.これを正準変換群という.

母関数と Poincaré の補題

シンプレクティック多様体 (M,\,\omega) 上の正準変換 (q,\,p)\to(Q,\,P) を考える.このとき

\omega = \sum_{i=1}^n\mathrm{d}p_i \land \mathrm{d}q^i = \sum_{i=1}^n\mathrm{d}P_i \land \mathrm{d}Q^i
が成り立つ.(M,\,\omega) 上の 1 次微分形式 \theta_1,\,\Theta_1
\theta_1 = \sum_{i=1}^n p_i\mathrm{d}q^i,\ \ \ \ \Theta_1 = \sum_{i=1}^n P_i\mathrm{d}Q^i
で定めると,上式は
\mathrm{d}(\theta_1 - \Theta_1) = 0
と書くことができる.ここで
q^i = {\phi_1}^\ast x_i,\,p_i = {\phi_1}^\ast y_i,\,Q^i = {\phi_2}^\ast x_i,\,P_i = {\phi_2}^\ast y_i
なる \phi_1,\,\phi_2 : M \to \mathbb{R}^{2n} を取る.さらに,\mathbb{R}^{2n} 上の 1 次微分形式 \overline{\theta_1}
\overline{\theta_1} = \sum_{i=1}^n y_i\mathrm{d}x^i
で定めれば,\theta_1 = {\phi_1}^\ast\bar{\theta}_1,\,\Theta_1 = {\phi_2}^\ast\bar{\theta}_1 だから
0 = d(\theta_1 - \Theta_1) = {\phi_1}^\ast d(\overline{\theta_1}- (\phi_2 \circ {\phi_1}^{-1})^\ast\overline{\theta_1})
である.このとき,\Sigma = \overline{\theta_1} - (\phi_2 \circ {\phi_1}^{-1})^\ast\overline{\theta_1}\mathbb{R}^{2n} 上の1次微分形式であり,さらに上式で \phi_1 が微分同相写像であることから \Sigma は閉形式である.\mathbb{R}^{2n} は可縮な空間であるから,Poincaré の補題により \overline{W_1} \in C^\infty(\mathbb{R}^{2n}) が取れて \Sigma = \mathrm{d}\overline{W_1} が成り立つ.こうして W_1 \in C^\infty(M)W_1 = {\phi_1}^\ast\overline{W_1} で定めれば
\theta_1 - \Theta_1 = {\phi_1}^\ast\Sigma = \mathrm{d}W_1
となり,M 上の 1 次微分形式 \theta_1 - \Theta_1 が完全形式であることがわかる[8].この W_1 を正準変換 (q,\,p)\to(Q,\,P)Type I の母関数と呼ぶ.
\sum_{i=1}^n p_i\mathrm{d}q^i - \sum_{i=1}^n P_i\mathrm{d}Q^i = \mathrm{d}W_1
なので,(q,\,Q)M の局所座標系を成すときは,この式は \mathrm{d}W_1(q,\,Q) による局所座標表示になっているから
\begin{align*}\left\{\begin{aligned}p_i &= \frac{\partial W_1}{\partial q^i} \\ P_i &= -\frac{\partial W_1}{\partial Q^i}\end{aligned}\right.\end{align*}
が成り立つ.(q,\,Q)M の局所座標系を成す必要十分条件は
\mathrm{det}\left[\frac{\partial^2W_1}{\partial q^i\partial Q^j}\right] \neq 0
で与えられる.

  • 必要性
    (q,\,Q)M の局所座標系を成すと仮定すれば,M の各点に対して (q,\,p)(Q,\,P) は一意に定まるから,(q,\,p)U \subset \mathbb{R}^{2n} を,(Q,\,P)V \subset \mathbb{R}^{2n} を動くとすると,q,\,p,\,Q,\,P の値をこれらの集合の中で自由に動かしたときに,(q,\,p)(Q,\,P) の間に微分同相写像がなければならない.M の各点に対して

    p_i = \frac{\partial W_1}{\partial q^i}(q,\,Q)
    が成り立つのだから,Q はこの連立方程式を解いて,ある微分同相写像 \psi を用いて Q^i = \psi^i(q,\,p) と表示できるはずである.このための必要十分条件は,逆関数定理により
    \mathrm{det}\left[\frac{\partial^2W_1}{\partial q^i\partial Q^j}\right] \neq 0
    で与えられる.\square

  • 十分性

    \mathrm{det}\left[\frac{\partial^2W_1}{\partial q^i\partial Q^j}\right] \neq 0
    が成り立つならば,逆関数定理より
    p_i = \frac{\partial W_1}{\partial q^i}(q,\,Q)
    Q について解いて,ある微分同相写像 \psi を用いて Q^i = \psi^i(q,\,p) と表示できるはずである.今,(q,\,p)M の局所座標系を成すとしているから,このとき (q,\,Q)M の局所座標系を成す.\square

今までは正準変換から母関数を作ってきたが,逆に母関数から正準変換を作ることを考えてみる.つまり,最初に W_1 \in C^\infty(\mathbb{R}^{2n}) を与え[9],関係式

\begin{align*}\left\{\begin{aligned}p_i &= \frac{\partial W_1}{\partial q^i}(q,\,Q) \\ P_i &= -\frac{\partial W_1}{\partial Q^i}(q,\,Q)\end{aligned}\right.\end{align*}
により,M の各点に対して Darboux 座標 (q,\,p) から新たに (Q,\,P) を座標として定義することを考える.(P,\,Q)M の局所座標系を成すには
P_i = -\frac{\partial W_1}{\partial Q^i}(q,\,Q)
q について解けて,ある微分同相写像 \psi を用いて q^i = \psi^i(Q,\,P) と表示できなければならない.このための必要十分条件は,逆関数定理により
\mathrm{det}\left[\frac{\partial^2W_1}{\partial Q^i\partial q^j}\right] \neq 0
で与えられる.すなわち,最初から W_1 はこの条件を満たすものとして用意しておく.このとき,正則行列の転置行列もまた正則であることから
\mathrm{det}\left[\frac{\partial^2W_1}{\partial q^i\partial Q^j}\right] \neq 0
が成り立つ.したがって
p_i = \frac{\partial W_1}{\partial q^i}(q,\,Q)
Q に関して解けるから,確かに (q,\,p)(Q,\,P) の間には全単射(微分同相写像)があって,(Q,\,P)M の局所座標系を成す.さらに,さっき見たように,このことから (q,\,Q)M の局所座標系を成していることが分かるから,元の関係式を,M 上の関係式を (q,\,Q) で局所座標表示したものとみなすことができ,W_1 \in C^\infty(M) に関する方程式
\begin{align*}\left\{\begin{aligned}p_i &= \frac{\partial W_1}{\partial q^i} \\ P_i &= -\frac{\partial W_1}{\partial Q^i}\end{aligned}\right.\end{align*}
を得る.しかも,(q,\,Q)M の局所座標系だったことにより
\begin{align*}\mathrm{d}W_1 &= \sum_{i=1}^n\frac{\partial W_1}{\partial q^i}\mathrm{d}q^i + \sum_{i=1}\frac{\partial W_1}{\partial Q^i}\mathrm{d}Q^i \\ &= \sum_{i=1}^n p_i\mathrm{d}q^i - \sum_{i=1}^n P_i\mathrm{d}Q^i\end{align*}
が成り立つ.この式の両辺の外微分を取れば,\mathrm{d}(\mathrm{d}W_1) = 0 により
\omega = \sum_{i=1}^n\mathrm{d}p_i\land\mathrm{d}q^i = \sum_{i=1}^n\mathrm{d}P_i\land\mathrm{d}Q^i
が成り立つので,(Q,\,P) が Darboux 座標であることが分かる.つまり,母関数によって Darboux 座標を新たに作れたということになる.以上のことにより,正準変換と母関数の一体一対応が得られた.

Type I ~ IV の母関数,および母関数の一般形

前節では Type I の母関数と正準変換の一対一対応を見た.ここでは,別の種類の母関数について論じる.ただし,場合に応じて適切な関数群が M の局所座標系を成していることや,母関数と正準変換の一対一対応の証明は Type I の母関数と同様なので,省略する.

Type II の母関数

Type I の母関数での議論と同様にして,Darboux 座標 (q,\,p),\,(Q,\,P) に対して

\sum_{i=1}^n p_i\mathrm{d}q^i + \sum_{i=1}^n Q^i\mathrm{d}P_i = \mathrm{d}W_2
を満たす W_2 \in C^\infty(M) が存在する.W_2
\mathrm{det}\left[\frac{\partial W_2}{\partial q^i\partial P_j}\right] \neq 0
を満たすとき,(q,\,P)M の局所座標系を成し
\begin{align*}\left\{\begin{aligned}p_i &= \frac{\partial W_2}{\partial q^i} \\ Q^i &= \frac{\partial W_2}{\partial P_i}\end{aligned}\right.\end{align*}
が成り立つ.

Type III の母関数

Type I の母関数での議論と同様にして,Darboux 座標 (q,\,p),\,(Q,\,P) に対して

-\sum_{i=1}^n q^i\mathrm{d}p_i - \sum_{i=1}^n P_i\mathrm{d}Q^i = \mathrm{d}W_3
を満たす W_3 \in C^\infty(M) が存在する.W_3
\mathrm{det}\left[\frac{\partial W_3}{\partial p_i\partial Q^j}\right] \neq 0
を満たすとき,(p,\,Q)M の局所座標系を成し
\begin{align*}\left\{\begin{aligned}q^i &= -\frac{\partial W_3}{\partial p_i} \\ P_i &= -\frac{\partial W_3}{\partial Q^i}\end{aligned}\right.\end{align*}
が成り立つ.

Type IV の母関数

Type I の母関数での議論と同様にして,Darboux 座標 (q,\,p),\,(Q,\,P) に対して

-\sum_{i=1}^n q^i\mathrm{d}p_i + \sum_{i=1}^n Q^i\mathrm{d}P_i = \mathrm{d}W_4
を満たす W_4 \in C^\infty(M) が存在する.W_4
\mathrm{det}\left[\frac{\partial W_4}{\partial p_i\partial P_j}\right] \neq 0
を満たすとき,(p,\,P)M の局所座標系を成し
\begin{align*}\left\{\begin{aligned}q^i &= -\frac{\partial W_4}{\partial p_i} \\ Q^i &= \frac{\partial W_4}{\partial P_i}\end{aligned}\right.\end{align*}
が成り立つ.

母関数の一般形

今まで Type I ~ IV の母関数の構成を見てきた.これらの構成では

\sum_{i=1}^n\mathrm{d}p_i\land\mathrm{d}q^i = \sum_{i=1}^n\mathrm{d}P_i\land\mathrm{d}Q^i
を,\mathrm{d}(1次微分形式) = 0 の形に変形する際に,1次微分形式を色々に取ることにより母関数を構成してきた.実は1次微分形式の作り方を工夫すれば,Type I ~ IV 以外の母関数も構成できることがわかる.例えば1次微分形式 \theta
\theta = p_1\mathrm{d}q^1 - q^2\mathrm{d}p_2 + p_3\mathrm{d}q^3 - \cdots
などと取る場合を考えればよい.このような場合の,すなわち一般形の母関数について論じることもできるが,添え字の取扱いが厄介なのでここでは省略することにする.一般形の母関数については井田大輔『現代解析力学入門』で扱いがある.

母関数の Legendre 変換

これまでは1次微分形式の構成方法により Type I ~ IV (と一般形の)母関数を構成できることを見てきた.実は,すでに構成した母関数の(多様体上の) Legendre 変換を考えると,これもまた母関数となることが分かる.特に,Type I ~ IV の母関数は Legendre 変換により互いに移り変わる.これからそのことについて解説する[10]

Type I \to Type II

Type I 母関数 W_1Q に関する Legendre 変換の -1 倍として Type II 母関数が得られる:

W_2 = W_1 - \sum_{i=1}Q^i\frac{\partial W_1}{\partial Q^i}
W_1
\mathrm{det}\left[\frac{\partial W_1}{\partial q^i\partial Q^j}\right] \neq 0
を満たすとき
\begin{align*}\left\{\begin{aligned}p_i &= \frac{\partial W_1}{\partial q^i} \\ P_i &= -\frac{\partial W_1}{\partial Q^i}\end{aligned}\right.\end{align*}
が成り立つから,このとき W_2
W_2 = W_1 + \sum_{i=1}^nQ^iP_i
となる.W_1 の全微分を (q,\,Q) で局所座標表示すると
\mathrm{d}W_1 = \sum_{i=1}^np_i\mathrm{d}q^i - \sum_{i=1}^nP_i\mathrm{d}Q^i
だから,W_2 の外微分は
\mathrm{d}W_2 = \mathrm{d}W_1 + \mathrm{d}\left(\sum_{i=1}Q^iP_i\right) = \sum_{i=1}^np_i\mathrm{d}q^i + \sum_{i=1}^nQ^i\mathrm{d}P_i
となる.このとき
P_i = -\frac{\partial W_1}{\partial Q^i}(q,\,Q)
Q について解けるとき,すなわち
\mathrm{det}\left[\frac{\partial W_1}{\partial Q^i\partial Q^j}\right] \neq 0
のとき[11] (q,\,P) は局所座標系を成し
\begin{align*}\left\{\begin{aligned}p_i &= \frac{\partial W_2}{\partial q^i} \\ Q^i &= \frac{\partial W_2}{\partial P_i}\end{aligned}\right.\end{align*}
が成り立つ.以上により,Type I 母関数 W_1
\mathrm{det}\left[\frac{\partial W_1}{\partial Q^i\partial Q^j}\right] \neq 0
を満たすとき,W_1Q について Legendre 変換して Type II 母関数 W_2 が得られることが分かった.

逆に,Type II 母関数 W_2 が先に与えられていて

\mathrm{det}\left[\frac{\partial W_2}{\partial P_i\partial P_j}\right] \neq 0
が成り立っている時に
W_1 = W_2 - \sum_{i=1}^nQ^iP_i
として Type I 母関数 W_1 を得ることができる.W_2 がそもそも W_1 を Legendre 変換して得られたものであれば,この逆変換はいつでも可能である.Legendre 変換は変数に関する凸性を保存し,また
\left[\frac{\partial W_2}{\partial P_i\partial P_j}\right] = \left[\frac{\partial W_1}{\partial Q^i\partial Q^j}\right]^{\mathrm{t}}
が成り立つからである.

Type I \to Type III

Type I 母関数 W_1q に関する Legendre 変換の -1 倍として,Type III 母関数が得られる:

W_3 = W_1 - \sum_{i=1}q^i\frac{\partial W_1}{\partial q^i}
W_1
\mathrm{det}\left[\frac{\partial W_1}{\partial q^i\partial Q^j}\right] \neq 0
を満たすとき
\begin{align*}\left\{\begin{aligned}p_i &= \frac{\partial W_1}{\partial q^i} \\ P_i &= -\frac{\partial W_1}{\partial Q^i}\end{aligned}\right.\end{align*}
が成り立つから,このとき W_3
W_3 = W_1 - \sum_{i=1}^nq^ip_i
となる.

Type II \to Type IV

Type II 母関数 W_2q に関する Legendre 変換の -1 倍として,Type IV 母関数が得られる:

W_4 = W_2 - \sum_{i=1}q^i\frac{\partial W_2}{\partial q^i}
W_2
\mathrm{det}\left[\frac{\partial W_2}{\partial q^i\partial P_j}\right] \neq 0
を満たすとき
\begin{align*}\left\{\begin{aligned}p_i &= \frac{\partial W_2}{\partial q^i} \\ Q^i &= \frac{\partial W_2}{\partial P_i}\end{aligned}\right.\end{align*}
が成り立つから,このとき W_4
W_4 = W_2 - \sum_{i=1}^nq^ip_i
となる.

最後に

微分形式を使わない Hamilton 力学では,座標不変性を論じる上で Poisson 括弧や Lagrange 括弧の非常に煩雑な計算を経由する必要があったり,わざわざ数式を見るたびに独立変数はどれであるか気にする必要があったりしました.この記事で見てきたように,微分形式を使うとそのような煩雑な計算は回避され,より本質的な議論を行うことができるようになります.また,熱力学においても,微分形式は有用です.

参考文献

  1. 山本義隆,中村孔一『解析力学I』
  2. 井田大輔『現代解析力学入門』
  3. 畑浩之『解析力学』
  4. 近藤慶一『解析力学講義』
  5. 深谷賢治『解析力学と微分形式』
  6. 木村利栄,菅野礼司『微分形式による解析力学』
  7. V.I.アーノルド『古典力学の数学的方法』
  8. 大森英樹『一般力学系と場の幾何学』
  9. 松本幸夫『多様体の基礎』
  10. 今野宏一『微分幾何学』
脚注
  1. この式で,左辺と右辺の q,\,p の意味が異なることに注意してほしい ↩︎

  2. このような \phi_1,\,\phi_2(q,\,p),\,(Q,\,P)\mathbb{R}^{2n} の開集合への写像であることを思い出せば,Darboux の定理は考えなくても取れることに注意してほしい ↩︎

  3. この事実は正準変換を \mathbb{R}^{2n} で論じる上での論理的障害にはならない.\mathbb{R}^{2n} でも,シンプレクティック同相ではなく正準変換を論じれば,母関数の2階以上の偏微分係数の誤差は同様に無視されるから,\mathbb{R}^{2n} 上の正準変換とシンプレクティック多様体上の正準変換は一対一に対応すると思われる. ↩︎

  4. 本記事では正準変換で用いている座標系はシンプレクティック多様体の座標であるとしているが,\mathbb{R}^{2n} で論じても全く同値な議論であることは分かると思う.むしろ,\mathbb{R}^{2n} で論じたほうが,母関数を取る際にいちいち引き戻しなどをしなくていいので簡単でよいかもしれない. ↩︎

  5. シンプレクティック幾何入門 ↩︎

  6. M は実際にはシンプレクティック多様体上の2次テンソル場だから,M が実行列であるとは言えないことに注意はしたい. ↩︎

  7. シンプレクティック群の表記は,山本義隆,中村孔一『解析力学I』の表記に基づく ↩︎

  8. ここで W_1 を取ってきている手法は,可縮な空間への微分同相写像による引き戻しとして表すことができる閉形式は完全形式であるという主張に一般化できると思う ↩︎

  9. これは後で W_1 \in C^\infty(M) の局所座標表示とみなす ↩︎

  10. ここでは例として解析力学の教科書によく載っている Legendre 変換を紹介しているだけで,他にも Legendre 変換は存在するし,当然 Type I が一番偉いということもない. ↩︎

  11. これは多様体上の Legendre 変換の具体的な計算式を導出するのに必要な条件式である ↩︎

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