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ペルソナの感情からはじめる肥満症治療プロダクト設計〜 Cursorで一日ハッカソンに挑んで見えたこと〜

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この記事は MICIN Advent Calendar 2025 の 18日目の記事です。
前回はKento Sasakiさんの、「Figma と違う」をなくす Storybook 運用 でした。

こんにちは。オンライン医療事業部PdMの藤原です。

先日、社内のPdMとデザイナーが集まり、Cursorを使って「一日で新サービスのプロトタイプまでつくる」オフサイトが企画されたので、そのレポートと振り返りを記載します。

オフサイトの内容は、MICINの肥満症オンライン診療サービス「スリマル」のペルソナをベースに、課題の抽出から機能アイデア、要求仕様書、プロトタイプ作成までを一気通貫で挑む、かなり野心的な試みでした。特にCursorがプロトタイプを一瞬で作り上げるあのスピード感は、例えるなら「瞬きしている間に、目の前にビルが建った!」くらいの感覚で、本当にびっくりしました。

当日の進め方とワークフロー

当日の流れは、おおまかに次のようなステップで進みました。

  1. First ペルソナと現状の課題を確認する
    Confluenceに整理されている自社サービス「スリマル」のペルソナを改めて読み込み、日常の行動や抱えているペインを共有します。

  2. Second ペインから課題を抽出する
    ペルソナの「困りごと」や「モヤモヤしている点」をいくつか挙げ、その中から今回フォーカスする課題を選びます。

  3. Third 課題を解決するソリューション・機能案を出す
    選んだ課題に対して、どのような体験や機能で解決できるか、アイデアをブレストします。

  4. Forth 要求仕様書を作成する
    「誰のどんなシーンで使われるのか」といった形で要求仕様書として整理します。

  5. Fifth プロトタイプを作成する
    作成した要求仕様書をFigmaMakeに読み込ませて画面構成を生成し、必要に応じて細部を調整します。

  6. Sixth 各自アイデアとプロトタイプを発表
    作成したプロトタイプの説明とアイデア(WhyとWhat)の共有を行い、質疑応答を通じてお互いの議論を深めます。

オフサイト参加メンバーのアイデアから考えたこと

発表で特に印象的だったのは、同じツール・同じ制約でも、ここまで違うサービスになるのかという驚きです。その差を生んだのは「何を問い、どこを切り取るか」というインプットの置き方だったように思います。どれも流石でしたが、特に「これは斬新」「そこまで深く切り込むか」と唸らされたのが、次の2つです。

咀嚼スピードに着目したアプローチ

一つ目は、「咀嚼の速さが体重増減に影響しているのでは?」という着眼点から始まったAさんのアイデアです。

  • 食事中の咀嚼スピードをモニタリング
  • ユーザーごとの傾向を学習
  • AIが咀嚼行動を解析し、ユーザーに合った食べ方のアドバイスを提供

体重や摂取カロリーではなく「行動の中のミクロな癖」に着眼した点が新鮮でした。「気をつけなきゃ」と意識的にならなくても、気づいたら行動が変わっている設計にもなっている点のユーザビリティの良さや、競合の少なさからもプロダクトとしての可能性を強く感じました!

恋愛の力でモチベーションをブーストする発想

もう一つは、マッチングアプリの構造を、肥満症治療に転用するというFさんのアイデアです。

  • 「理想の自分」に近づく過程を、恋愛のドキドキに置き換える
  • 誰かに選ばれる/期待される感覚をモチベーションにする
  • 自己管理ではなく、関係性の力を使う

自己嫌悪や義務感ではなく、「会いたい」とか「もっと良くなりたい」という感情を使うのは、恋をした経験があれば誰しも納得感があり、人間の本能に刺さる点で、LTVに直結する斬新で面白いアイデアだと感じました!

ここまでが、オフサイト当日のざっくりした流れです。

足元のタスクに追われがちな我々PdM・デザイナーにとって、多くの示唆と気づきを得られる充実した時間でした。企画・参加された皆様、改めましてお疲れ様でした!

ただ、みなさんが斬新なアウトプットを出す中で、私自身はアイデアをうまく昇華しきれず、「もう少し利用者の感情の部分まで掘ってみたい」というモヤモヤが残りました。

そこで今回のアドベントカレンダーを機に、同じテーマで再挑戦することにしました。ここからは「オフサイトをきっかけにした一人ハッカソン」として、ペルソナの感情を深掘りし、プロダクト要求仕様書(PRD)とプロトタイプ作成まで落とし込んでみたプロセスをご紹介します!

スリマルのペルソナを見直し、フォーカスすべき課題を選定

今回対象サービスとなった「スリマル」は、医師の伴走のもとで、安全に肥満症治療を提供するサービスです。

肥満症治療を終えたユーザーは、治療を終えたあとも引き続き、

  • 食事の自己管理
  • 運動習慣の維持
  • 体重や体調との向き合い

といった、長期的なセルフマネジメントのフェーズが訪れます。

このフェーズをどう支えるかは、治療中の体験と同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのではないか?そんな問いが生まれました。

具体的には、「体重が減らない」という表層的な悩みではなく、その裏にある**「また続かなかった自分が嫌だ」「どうせ自分には無理だ」という深い痛み**にフォーカスしました。単に数値目標を追うだけでは、こうした感情は置き去りにされてしまいます。 そこで今回はあえて、「ペルソナの感情をどこまで深く理解できるか」をテーマに設定。Cursorの手も借りながら、徹底的に掘り下げてみることにしました。

ペルソナを"感情の深さ"まで掘る

まずは既存のペルソナ資料を、あらためて深掘りしました。

使ったプロンプトはこんな感じです。

プロンプト例

あなたは経験豊富なシニアPdMです。ペルソナ_スリマル.mdを深く分析し、以下の手順で出力してください。

1.インサイト分析: このペルソナが抱えている、顕在化していない深い「課題(Pain)」と「欲求(Gain)」を5つずつリストアップしてください。など

抽出した深層課題(Pain)

  • 自己責任論による慢性的な自己嫌悪と罪悪感
  • 時間的制約と治療継続の構造的困難
  • 加齢による身体変化への適応困難と無力感
  • 社会的スティグマと医療への抵抗感
  • 過去の失敗体験による自己効力感の低下

抽出した深層欲求(Gain)

  • 自己肯定感の回復と「自分は変われる」という確信
  • 家族や社会との関係性の質的向上
  • 将来への不安の解消とコントロール感
  • 時間的制約を超えた治療継続の仕組み
  • 専門家による伴走と安心感の獲得

Cursorが出してきたPainとGainを眺める中で、本当の痛みは感情の側にあり、体重はあくまで1つの指標に過ぎないと感じました。だからこそ、単にKPI(体重減少)を追うのではなく、この感情的な課題に寄り添い、伴走することをサービスの「肝」と置くことにしました。

人は「正論」では動かないもの

次に考えたのは、自己嫌悪・罪悪感・無力感を抱えた人の背中を、何が押すのか?という問いです。個人的に思いつくモチベーションをブーストする要素を整理しながらアイデアの整理をCursorに依頼します。

プロンプト例

深層課題、深層欲求から

・自己嫌悪、罪悪感、無力感があり、自己効力感の低い状態にある人に行動を促す後押しとして何ができるか?

・モチベーションをあげるもの、以下ふくめ他にあればあげてください

┗推しの存在
┗こんな人になりたいというロールモデルの存在
┗同じ悩みや喜びをシェアできる仲間の存在
┗自分のやったことの可視化。運動実績のグラフや期間比較でのビフォーアフター

これらの要素から、オンライン、またはオンライン×オフラインで実現できそうな超厳選されたアイデアをください など

生成された回答から気になったアイデアを深堀り

  • 未来の自分からの手紙 × AI伴走
  • 最高のコーチ × パーソナライズAI
  • 多角的可視化 × 自己肯定アプリ

このあたりのアイデアを起点に、「人が実際に動きたくなるときの感情」と「プロダクトで提供できる体験」をどう結びつけるかを、さらに深掘りしていきます。

「最高のコーチ」って未来の自分なのでは?

ここで出てきた「最高のコーチ × パーソナライズAI」というキーワードをもう少し噛み砕きます。

利用者にとっての「最高のコーチ」は誰なのか?

  • 有名なインフルエンサー?
  • カリスマ的な専門家?
  • 仲の良い友人?

いろいろ候補はあるのですが、自分ブレストをしながら出てきたのは「理想を体現している"未来の自分"こそ、全ユーザー共通の"最高のコーチ"になり得るのでは?」という仮説でした。

自分が本当になりたい姿は、他の誰かではなく「未来の自分」。そう考えると、「最高のコーチ」を外側に探すのではなく、

  • 未来の自分を人格化して
  • その"未来の自分"から今の自分に語りかけてもらう

という設計にすることで、より汎用的で説得力のある体験にできそうだと思いはじめました。

「過去との比較」と「多角的可視化」で、日々の小さな進歩を可視化する

もう一つの軸が「比較対象は他人ではなく過去の自分」、という発想です。

SNSによる「他人との比較」疲れが社会問題化する中で、タイムラインに流れる他人の「ハイライト」と、自分の「素の日常」を比べて落ち込んでしまう。これは私自身もよくあることだからこそ、この軸が大切だと感じました。

また、本来比較したいのは他人ではなく「過去の自分」のはず。なりたい姿も、究極的には「誰かのコピー」ではなく「理想の未来の自分」のはずです。

  • 昨日の自分
  • 半年前の自分
  • 3年前の自分

と比べて、どこが成長しているのか。どんな小さな前進が積み重なっているのか。ここを丁寧に見せていくことで、自己肯定感はじわじわと育っていくのではないかと仮説を立てました。

ここで「多角的可視化」というキーワードが効いてきます(あまり日常使いする言葉ではありませんが、AIが出してきた意味を探ろうとすると発想が広がります)。多くのプロダクトは、例えばフィットネスなら体重や体脂肪率、仕事なら売上やKPIの達成率など「わかりやすい成果」にフォーカスしがちです。でも、実際にはもっと細かいところに"進化のサイン"が隠れています。例えば:

  • 昨日と同じ駅の階段を上り下りしても、今日は息が上がらなくなっている
  • 同じ距離を歩いているのに、平均心拍数が少し下がっている
  • 寝る前のスクロール時間が、先月より5分短くなっている
  • 「しんどいからやめた」が、「しんどいけど10分だけやった」に変わっている

こうした変化は、実は本人には意外と気づきにくい点だったりします。そこで、過去のデータと現在のデータをAIが解析し、「〇ヶ月前のあなたより、いまはここがこれだけ良くなっていますよ」と、多角的にフィードバックしてくれる存在がいたら、今の自分をデータが肯定してくれる仕組みになりそうと考えました。

ここまでの自分議論で、しっくりきたのは次の3点です。

  1. 未来の自分を"最高のコーチ"にする
  2. 比較対象を「他人」ではなく「過去の自分」にする
  3. 小さな変化を可視化する

これらを統合し、「未来の自分を最高のコーチにした、自己肯定感を育てるAI伴走アプリ」というアイデアに収束させました。

PRDとデザイン指示まで落とす

ここまでくればあとは、

  • プロダクト要求仕様書(PRD)
  • FigmaMake向けのデザインプロンプト

をCursorに手伝ってもらい、それをFigmaMakeに設定し、細かいUI、ラベル、テキストの修正・調整を重ね、プロトタイプまで一気に作成していきます。

FigmaMakeで完成したプロトタイプ


ユーザーが身長・体重などの基本情報を登録し、「なりたいイメージ」を入力して自撮りを行うと、AIがその意図を解析。ユーザーの願望を反映した「未来の姿」を即座に生成します。

デザイナーとしてWeb業界に入った私にとって、頭の中のイメージが一気にコードやUIとして形になる感覚は、何とも言えない中毒性がありました。

そして圧倒的な没入感で時間が溶けていく体験は、かつてインターネット黎明期に自身のホームページ制作に熱中し、時間を忘れたあの頃の感覚に近いものを感じました。

AIをどうプロダクトに活かすか(試行錯誤の記録)

AIの驚愕な生成スピードを肌で感じる中で、もしかすると「以下のループをとにかく速く回すこと」が現状における「プロダクト開発におけるAI活用」の一つの方向性なのでは?と思います。

  • AIで、課題 → ソリューション → 最初の形を最速で作る
  • すぐにターゲットに当てる
  • 反応から新しい課題を見つけ、磨き込む

また、トライアンドエラーの中で痛感したことは、「初期の課題設定」重要性です。問いが浅ければ、AIが返す答えもまた浅くなる。裏を返せば、課題の解像度さえ高めることができれば、AIは頼もしく素敵なパートナーになり得ます。

現時点での私の仮説は、次の2点です。

  • AIに入れる手前の情報の精度を上げること
  • 課題を特定できたら、その解をAIと共に「最速で検証」すること

これが正解かはわかりません。ただ、このサイクルを回し続けること自体が、これからのPdMやデザイナーに求められるスタンスなのではと感じています。


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