JaSST'24 Tokyoに参加してきました〜マネジメント編〜
はじめに
坂本です。年明けから食生活を改め、毎日体重計で自分の体重をモニタリングし始めたところ、最近身体が軽くなってきて快調になってきています。ソフトウェアも目標を設定して正しくモニタリングすれば健康を維持できると信じております。
2024年3月14日、3月15日の2日間でJaSST'24 Tokyoという、ソフトウェアテストシンポジウムが開催され、MICINからは、私(初日はオンライン、2日目は現地)とQAエンジニアの野里(2日間オンライン)の2名が参加しました。この記事は、私が参加したセッションについて、主にMICINでのマネジメント観点でポイントだと思ったことを書きたいと思います。
MICINでは2024年から本格的にQA組織を立ち上げたいと考えており、立ち上げにトライできるポジションを募集してますので、ご興味おありの方はぜひご応募ください。
JaSST Tokyoについて
JaSST(Japan Symposium on Software Testing)は日本各地で開催されている有名なソフトウェアテストシンポジウムです。東京で開催されるJaSST Tokyoは2003年3月の1回目から数え、今回が21回目の開催、20周年を迎えるようです。
今回は20周年という大きな節目で、今回は「Keep legacy、welcome change」をテーマが掲げてられています。
X(Twitter)では、タグ「#jassttokyo」で、参加者などからの投稿をみることができます。
参加目的
MICINにおける私のミッションは、最高のプロダクトを生み出すためにチームや仕組みを整備することです。そして、最高のプロダクトを生み出すための重要な要素として品質があることは疑いようもありません。
MICINでは複数のプロダクトを開発しており、現時点ではそれぞれの開発チームで開発スタイルも異なり、QAのあり方もそれぞれです。今後、より良い品質のプロダクトを生み出し続けるようになるために、QAチームやQA業務のあり方を全社最適の目線で考えて整備していく必要があると考えています。個々のテスト技法やテスト環境の整備もそうですし、組織としての品質意識の浸透といった文化づくりももちろん含まれます。
ここで、日本のQAに関する代表的な団体やイベントを見てみると、TEF(Testing Engineer's Forum)というテストエンジニアのコミュニティやソフトウェアテスト技術振興協会(ASTER:Association of Software Test EngineeRing)というNPO法人があり、そして代表的なシンポジウムにJaSSTがあります。このため、まずJaSSTに参加して、最新のトレンドを多角的に把握し、今後MICINに構築していくQAの戦略や組織の形などの解像度を高めたり、今後MICINにジョインしてくれるQAの皆さんに対して、あらかじめ魅力的なQAのキャリアプランを準備しておきたいと考えました。
私が参加した主なセッション
公式ページのJaSST'24 Tokyo セッション概要 に全てのセッションの概要がありますので、各セッションについて正式な概要を確認されたい場合はこちらをご覧ください。
以下では、セッションに参加してみて私が感じたポイントを中心に記載します。
1日目(2024年3月14日)
10:30-12:00 基調講演「Tangible software quality」
発表者:Gojko Adzicさん
私が感じたポイント
プレゼンの途中で、マズローの5段階欲求を模した品質のピラミッドが表示され、デプロイから始まり、パフォーマンス、使いやすさ、有用性ときて、最上位に「成功」という目標が設定されていました。この「成功」という言葉は抽象的ですが、最終的にはWhole-Teamを実現すべく、QAだけではなくプロダクトの関係者全員が共通的に持つべき大事な目標です。
この他、プロダクトのリスクを機能や特性で細かく分析し可視化することの必要性が強調されていました。MICINでも、各プロダクトでインシデントによる影響範囲やインパクトは全然違いますし、また、その個々のプロダクトの中でも、機能や特性で整理した項目単位でリスクのインパクトは異なります。このため、これを可視化し、これを関係者で認識を合わせておくと、本当にケアしないといけない重要なリスクが浮き彫りになり、日頃の開発の優先度や品質担保で工数をかけるべきポイントなどの意識が揃ってきます。なお、このリスクは自社目線ではなく、ユーザ目線での項目が整理されてはじめて価値を持つものになると私は思います。
13:00-13:30「チームトポロジーに対応するQAアプローチのご紹介」
発表者:タイミー赤澤 剛さん、小林 依光さん
現在タイミーさんでは、プロダクト及び技術から持続可能な顧客価値を創出することを重視し、実現するための手段としてチームトポロジーをベースとした組織設計を採用されており、顧客に価値をすばやく届ける適応型組織におけるQAの関わり方について紹介いただきました。
私が感じたポイント
インシデントの対応のパフォーマンス指標に対応にかかった時間を用いて、ポストモーテムで振り返り、不足しているのは監視なのか、エスカレーション速度なのか等を分析されており、これはMICINでもぜひ取り入れたいと思いました。
また、QAの関わり方として、スクラムチームに自分の考えを押し付けないことを重視し、できるだけ途中で口を挟まず、言いたいことがあってもできるだけ我慢してじっくり聴くことが重要とのことで、まさにそうだと強く思いました。
そうした中でも特に印象的だったのは、スマートウォッチのようにチームがいつでも数値で品質を確認でき、改善が継続するというように、その時々のプロダクトの健康状態がわかるようなQAを目指していきたいと言われており、MICINでも最終的にQAが目指す姿としてこうしたシンプルで強いステートメントを発信したいと思いました。
尚、このプレゼンの中で、私はこれまで存じていませんでしたが、QA関係者の5つの役割を整理したQAファンネルというシート(このQAファンネルは他のセッションでも出てきていました)が紹介されました。タイミーさんは「インプロセスQA」と「QAコーチ」という役割を導入しているようです。QAファンネルにある5つの役割は以下の通りです。
MICINでもこのQAファンネルのエッセンスを取り入れながら組織の構想を練っていこうと思います。
・フェーズゲートQA・QAサービス:開発とは別組織でQAの実業務や出荷判定を担う
・インプロセスQA:開発組織に常駐しながらQAの実業務と品質文化を担う
・QAコーチ:開発組織に時々常駐してQAの技術移転
・QAコンサルタント:開発組織に常駐せずにQAの技術移転や技術向上を担う
・QAプロモーター:組織全体にQAを推進していく役割
参考資料:「品質を加速させるために、テスターを増やす前から考えるべきQMファンネルの話(3D版)-P3
13:30-14:00「最速思考でバクラク品質を!スタートアップのリアルな課題とQAの実践」
発表者:LayerX中野 直樹さん
発表資料(Speaker Deck)
高速なデリバリーと最適な品質を考える上で、バグをなくすことを目的としないというのと、Whole-Teamでの品質アプローチ、の2つについてお話しいただきました。
私が感じたポイント
LayerXさんとMICINは、複数プロダクトを提供しているという点で共通しており、エンジニア組織やQAも含むプロダクトプロセスの構築の考え方について、MICINにも学びとして取り入れさせていただけることも多くありそうな気がしております。まず、冒頭に、プロダクト間の連携の良さそのものがプロダクトであり、またデータを中心に業務がサイロ化しないことを重視しているとのことでした。MICINのプロダクトでも複数事業のシナジーが大変重要であると考えており、とても共感したところから始まりました。
QA体制面は、横断のQAチームがあり、そこからQAエンジニアが各開発チームにQA担当として入りつつ、QA担当間で連携しながら活動しているということでした。MICINの場合、プロダクト開発チーム毎にピークが異なるため、QAチームの連携による全社の生産性の底上げに加えて、同じチームに所属するQAメンバ間の協力でピークを乗り切るといったこともできそうです。実は、MICINではすでにSREチームがこの形をとっており、昨年、あるプロジェクトのピークを主担当SRE以外のSREも協力してチームで乗り切ったという実績があります。
また、Whole-Teamの形成を目指すにあたり、自分たちが顧客に届けたい価値は何かを考えることをQAがリードされているとのことで、こちらも、今後、MICINでQAに持たせる役割を考える際の貴重なインプットになりました。
最後に、お客様にとっては仕様通りかバグかということは関係なく、結局使いやすいのか、使いづらいのか、使えないのか、という体験だけが残るので、こうした基準でリスクを考えているというお話があり、この考え方はMICINでも全てのプロダクト関係者に、忘れてはならない大原則として確実に浸透させたいと思いました。
14:30-15:30「QAエンジニアの〇〇UP!キャリア解剖で見える今どきの成長軸とは?」
プレイヤー編、マネージャー編で、QAエンジニアの成長軸やスキルの動向をディスカッション形式でご紹介いただきました。
なお、登壇者の皆さんは「We are SigSQA」という2018年4月にできたコミュニティの関係者で、今どきのQAについて発信されているようです。
私が感じたポイント
QAのスキル軸をテストスキル、エンジニアスキル、ドメイン知識、ソフトスキルの4つで可視化してみると、QAメンバの強みを生かしたプロダクトチームの運営ができ、また、個々のQAメンバのキャリア志向に応じた機会の提供もしやすくなるということで、MICINで今後QAに関するスキルアセスメントをする際の指標として参考にさせていただこうと思いました。
セッションで投影されたQA/テストエンジニアのスキル領域のシート
後半では、QAマネージャは何とかする力が必要で、そのために多くのことを経験をしてもらいたいというお話がありました。私もITに関して幅広い職種を経験してきたタイプですので、お話の内容は共感でき、MICINでは、QAメンバに対して、キャリアパスの中に一定期間のアプリケーションエンジニアの機会も提供するなど、長くQAを楽しめ、最終的により強いQAが育つ環境を作りたいと考えています。
16:00-17:00「三社三様のQAのカタチ」
事業会社として東急 URBAN HACKSさん、製品開発会社としてサイボウズさん、テストベンダーとしてテクバンさんの3社によるパネルディスカッションです。各社ごとに事業方針が全く異なる中で、QAチームや開発チームへのリソースへの向き合い方に対して意見を交換されていました。
私が感じたポイント
QAに限らずのお話でしたが、東急さんはオンボーディングの際にスタンプラリーをしているようで、ゲーム性があって面白いなと思いました。こういうちょっとした楽しさって、会社で活動するにあたってはとても大事なことだと思います。
また、東急さんは、不具合を見つけるQA、自動化、可視化QAの3本柱で5ヵ年計画を立てているということで、QAからこういうわかりやすいメッセージを全社に発信することはとても意義があると思いました。
サイボウズさんは、最初にリグレッションテストで仕様を確認してもらい、メンターの方がサポートしながら半年くらいかけて実務に入れるように立ち上げていくようで、QAメンバのオンボーディングのメニューを考えるにあたって大変参考になります。
テクバンさんからは、新卒のQAメンバへの新人研修が2ヶ月ほどあり、ビジネスマナー、テスト設計から実装までのQA実務に関するもの、JSSTBの資格に関する研修を提供されているとのことでした。また、QAからスクラムマスターへのキャリアチェンジなどのキャリアプランも多く用意されているとのことです。今後、QAメンバに関するオンボーディングメニューやキャリアプランを考えるにあたりこちらも大変参考になります。
2日目(2024年3月15日)
10:00-12:00「価値あるソフトウェア」の”価値”ってなぁに?」
発表者:HBA安達 賢二さん、サイボウズ永田 敦さん、NEC吉澤 智美さん
バグが多い、少ない/システム化する目的/ユーザーストーリーなど、さまざまな価値が存在する中、われわれが向き合うべき「価値あるソフトウェア」の”価値”とはいったい何なのか?例えば「顧客満足を最優先し、価値のあるソフトウェアを早く継続的に提供する」を重視するAgile開発においてプロジェクト関係者は”価値”をどのように認識し、その結果何が起きているのか?そして、理想的にはソフトウェアの”価値”をどのように認識して実務を行うのがよいのか?などざっくばらんにお話されていました。このセッションでは、Vulsというツールを使って、参加者から意見を求めながら双方向のコミュニケーションをされていました。
私が感じたポイント
色々と話題に尽きない展開でしたが、その中で、日本の大手S社と米国の大手A社は日本の大手と比較して機能的価値の評価は高くないが、情緒的価値が高く、最終的に、消費者に選ばれたのはS社やA社のプロダクトだったという紹介があり、MICINでも、機能的価値の投資効果に過度に偏ってフォーカスしていないか、情緒的価値を高めることによって利用を促進できることがないかを考える必要があると感じました。
13:00-13:30「スタートアップのQA採用戦略」
発表者:ログラス大平 祐介さん
Web系スタートアップ企業でのQAエンジニア採用の難題に対する戦略について、短期、中期、長期に渡る採用戦略の策定とその実行方法、採用広報や試験手法、アトラクト方法に関する私たちのアプローチを詳しく説明いただきました。
私が感じたポイント
QAに限らず採用全般で言えることだと思いますが、やはり候補者へのコンタクトポイントを作っていくことが重要で、QAに関する発信を重ねていき、MICINがQAという業務を重要に思っていることを伝えていくことが大事だと改めて思いました。この記事もその発信の1つとして世の中のQAの皆さんに届けば良いなと思います。
13:30-14:00「サイボウズのQAエンジニア育成」
発表者:サイボウズ斉藤 裕希さん
発表資料(Speaker Deck)
サイボウズに中途入社し、配属されたチームで実施されたオンボーディングについて、オンボーディングの内容と、入社前に感じていた3つの課題がどのように改善されたか、自分の気持ちがどのように変わっていったか等、入社した側の目線からご紹介いただきました。
私が感じたポイント
スキルアップアプリとスキルマップの準備をされて、ここのタスクを達成したらマーキングしていくというツールの利活用は、本人が成長を実感しながら仕事を楽しめるようにするための方法論として大変勉強になりました。
14:30-15:30「Welcome change by GenAI」
発表者:ベリサーブ好澤 聡さん、瀬在 恭介さん
品質創造企業であるベリサーブさんから、AIの進化に伴う技術的変化を先導するための取り組みの紹介がありました。
AI活用による「効率化」だけではなく、AIの特性に応じた能力を引き出すことで得られる「高品質化」を目指されているようで、このセッションでは人材開発と技術開発の両側面における具体的な施策と成果の紹介がありました。
私が感じたポイント
まず、人材開発については、AI領域におけるテックリード人材の育成の取り組みがあり、各部から「AIテックリード」を募集して、R&D部門に6ヶ月間出向して企画開発を行ったとのことです。最初の1ヶ月で学習、その月の2ヶ月でプロンプトエンジニアリング、RAGなどを使いながら、何かをやりたいとなった場合に、生成AIの活用が良いのか、独自モデルが必要なのか、ルールベースがよいかなど、正しく活用できるレベルになるための試行錯誤、残りの3ヶ月でPoCに取り組まれ、いくつかの有用なツールを作成されたようです。
MICINでも2023年は情報セキュリティ部門で生成AIを利活用できるように、ガイドラインの整備やSlackで手軽にOpenAIのAPIを利用できる環境など、色々と仕組みを整備しましたが、各部が自分でできるように育成するような取り組みができていなかったので、今後検討したいと思いました。
技術開発については、AIと人間の協働による新しい品質保証の形を模索・研究する取り組みとして、テスト戦略、分析のアシスタントをするソリューションの話がありました。このソリューションは、モデルで書いたものを元にテストコードを自動生成するというものでした。
生成AIをうまく活用して、仕様書の作成、レビューなどのプロセスを自動化していくというのは、特に量が求められるようなQAタスクにはかなり有用そうに思いました。
おわりに
複数の事業を展開しているスタートアップ各社の体制、仕組みの整備の仕方、キャリア形成の支援等、多岐に渡り多くの学びがありました。
今回学んだことを社内に落とし込み、今後、MICINが最高のプロダクトを作れるようになることに加えて、MICINにジョインしてもらうQA関係者の皆さんが楽しみながら長く活躍できるステージを作れそうな気がしてきました。
あとはやれることをクイックにどんどんやっていって、QA目線でのPDCAを高速に回していき、それがプロダクトチームのスクラムにも良い影響を及ぼせるようになると良いなと思います。
最後に重ねて、MICINでは2024年から本格的にQA組織を立ち上げたいと考えており、立ち上げにトライできるポジションを募集してますので、ご興味おありの方はぜひご応募ください。
MICINではメンバーを大募集しています。
「とりあえず話を聞いてみたい」でも大歓迎ですので、お気軽にご応募ください!
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