ちょっと古いAI:~エキスパートなシステムの話~
はじめに
これからは、ビックデータ・機械学習・ディープラーニングの時代だと言われて、久しいかと思います。世の中に、期待され、同じくらいの勢いで期待値が下がっていくを繰り返すこの業界、そろそろ3回目の冬が到来し始めているでしょうか(それとも日常に溶け込んだでしょうか)。
そんなこんなで、今やAIと言えば確率統計でしょ!と言われも、そこまで違和感がなくなってきているような気がします。この記事ではあえて、そんな現代とは関係なく、昔のAIブームで流行っていた分野(数学もあったら扱ってみたい)に焦点を当ててみたいなと思って書いた記事です。
今回はエキスパートシステムをとりあげ、専門家の知識と判断を模倣していこうとした試みについて書いていきます。
質問に答えていけば、何かしらに辿り着ける
何かわからないことがあったら、専門家に相談することが多いと思います。体の調子が悪いならお医者さん、野菜の鮮度なら八百屋さん、法律関連なら弁護士さん等etc...、頼りになる方々がいっぱいいらっしゃいますよね。
また専門家にあった私達は、見聞きされることでしょう。医者であれば、「体調はどうですか?」、「心拍はー…」、「血圧はー…」みたいに、色々問診すると思います。患者さんの体調や体の状態を調べることで、状況を絞っていくことで、何が起こっているかを推論することができるわけですね。
単純な話、何故専門家方は、こうして何かしら判断できるのでしょうか。免許があるから?仕事でお金をもらっているから?答えは、もっと単純に「知識と判断基準」があるからです。
ここで話したいのは、もし、そのまま専門家の判断をそっくり組み込んでしまえば、我々の誰もが手のひら上のデバイスで専門家と同等の回答や推論を得られるかもしれないということです。
知識と推論
もう少し具体的に見ていきます。医者で考えてみましょう。画像の診断のプロセスは、かなり簡略化した例です。この例では、風邪かインフルエンザと診断するもので、風邪と診断されるには、冬以外の季節で熱があって咳をしているときになります。
ちなみに、下の画像のように、知識に偏りがあると…注意が必要です。正確な診断をするには、正しい知識と正しい判断が必要となります(元ネタは落語の葛根湯医者です)。
このように専門家の方達がされている判断のプロセス形式化できれば、誰でも同じような判断や推論ができることとなります。
エキスパートシステム
これをプログラムのレベルに落としてみましょう。下の画像は、かなりシステムを簡略した図になります。
- 状況: 上記の例で言うと患者の状態です。
- 知識: 医者が培ってきた知識を集約したものになります。上記の例では、風邪の条件となりうるものをあつめたものです。
- 推論エンジン: 知識と状況から得た情報を照合し、新たに状況を更新するものです。上記の例では質問を繰り返し、風邪かどうかを診断する医者に当たる部分です。
知識の定義の仕方や推論エンジンにはいろんな種類があります。
例えば、先日の記事で解説したファジィ論と合わせ、あいまいな状況から判断させる。これはアキネーターという架空のキャラクターの特徴を聞いて、推測しながらそのキャラクターを特定するものです。
他にも、システムを使用する利用者の考えが正しいのかどうかを確認するためのものだったり(逆引き辞典的なもの)と知識の利用の仕方の分だけのエンジンの種類があるようです。
ある程度成功はした
さて、ざっくり聞いた感じ、色々できそうな気がします。FAQやナレッジマネジメントなどの知識そのものを取り出すようなものや、極端な話、病院に行かずとも、タブレットなどを出して、症状を書いてもらえば、医者の診断を待たずに診断などもできそうです。
では、なぜ広がらなかったのでしょうか。それは、 ルールや知識のデータ化(定式化) が難しいことにありました。なぜそう判断したのかが本人も上手く言葉で説明できない、ルールを作っていくうちに矛盾したものがあった、ルールが多すぎて管理が…そもそも推論エンジンで上手く推論できず回答にたどり着けないみたいなものが、沢山あり、あらゆる分野に適用するのが難しいことが研究開発で分かったからです。
今日では、会計や建築など判断が複雑になりがちな分野で利用されているようです。推論エンジンの性能と知識をメンテナンスする専門家に依存するため、保守や開発は難しいものです。しかしながら、今でも、人の手で動作をコントロールできるため、数十年立った今も、我々の生活に一定の価値を発揮してくれています。
終わりに
かなり大雑把にエキスパートシステムについて振り返ってみました。今では、前回のファジィ論と同じく、エキスパートシステムは廃れた技術ではなく枯れた技術として、私達の生活に溶け込んでいます。これからも、専門家の視点を持ったシステムとして活躍してくれることでしょう。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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