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Redmine Japan vol4.開催記録

に公開

はじめに Redmine Japan実行委員会より

2025年7月25日にRedmine Japan vol4.を開催しました。
私はRedmine Japan実行委員としてこのカンファレンスの企画・準備を約1年間にわたり実施してきました。
遅くなりましたが、このカンファレンスの記録を書きましたので、公開いたします。
(なおいまのところ、各講演の資料や動画を無料公開する予定はありません。ご了承ください。)

今年の開催テーマは「Redmine Spark – 情熱と行動で未来を灯す」。会場はお茶の水のワテラスコモンホールで、ちょうちんやすだれなどを飾ってお祭りの雰囲気を演出しました。Peatixで事前予約として100名としておりましたが、早々に満員御礼となり、調整して125まで増枠したチケットもすべてなくなる状況で、まさに、Redmineが「情熱」をもって使い続けられているツールなんだな、と感じさせられました。

会場

当日のタイムテーブル

イベントは朝10時のオープニングセッションから19時半の閉会・ビアバッシュ・The Redmine Awardまで、約10時間超にわたる長丁場でした。

時間 内容 時間
9:30-10:00 開場・施設案内 30分
10:00-10:15 開会あいさつ 15分
10:15-10:30 オープニングセッション 15分
10:30-11:20 基調講演1(及川様) 50分
11:20-12:20 休憩 60分
12:20-12:45 招待講演1(前田様) 25分
12:45-13:10 招待講演2(飯田様) 25分
13:10-13:20 休憩 10分
13:20-13:45 招待講演3(赤羽根様) 25分
13:45-14:10 招待講演4(尾形様) 25分
14:10-14:40 コーヒータイム 30分
14:40-15:05 公募講演(高橋様、傳野様) 25分
15:05-15:30 グループディスカッション 25分
15:30-15:40 休憩 10分
15:40-16:05 パネルディスカッション 25分
16:05-16:30 ライトニングトーク 25分
16:30-16:40 休憩 10分
16:40-17:00 スポンサーセッション 20分
17:00-17:50 基調講演2(石井様) 50分
17:50-18:00 休憩 10分
18:00-19:30 閉会・ビアバッシュ・The Redmine Award 90分

セッションハイライト

基調講演1:及川 卓也 氏(Tably株式会社 代表取締役)「AI時代のプロダクト開発のあり方」

及川様は、生成AIの進歩によりツールが「副操縦士」から「パートナー」へと変わりつつある点を指摘しました。具体例としてヤクルトスワローズの話を挙げ、組織の目的や方針は一様ではなく、人間の価値判断が重要であると述べられました。

歴史的には、機械語から高級言語へと抽象化が進み、プログラミングはより高いレベルでの価値創造へとシフトしてきました。生成AIの台頭により、開発者は実装より上流の要件定義やビジネス戦略により多くの時間を割けるようになる、という見立てが示されました。

及川様は価値を「事業収益」「顧客の問題解決」「ビジョン(世界を変える)」の三つに整理し、AIは収益最適化を重視しがちだが、人間は多様な価値を評価できると強調しました。例として、スピッツの楽曲やピカソのキュビズムを挙げ、過去データに基づく学習だけでは新しい「ズレ」を生み出せない点を説明しました。創造性には専門知識と内発的動機が必要であるというTeresa Amabileの理論も紹介されました。

最後に、「情熱駆動開発」の重要性が繰り返され、AIはあくまで意思ある人間を支援する道具であるというメッセージで講演は締めくくられました。
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招待講演1:前田 剛 氏(ファーエンドテクノロジー株式会社 代表取締役)「Redmine 20周年以降も使われ続けるために」

前田様は長年のRedmineコミュニティでの活動を踏まえ、19周年を迎えた現状と今後の課題について端的に整理されました。Redmineは高い知名度と柔軟なカスタマイズ性(カスタムフィールドやワークフロー等)を持つ一方で、新規ユーザ獲得や継続的な開発体制に課題がある、という評価です。

主要な提言(要点)

  • 開発体制の強化:現状はコアなコミッターに依存しているため、貢献者の裾野を広げ、組織的に継続できる体制を整備する。
  • 他システム連携の強化:APIの強化、インポート・エクスポート機能の強化、WebHook、MCP
  • 情報発信の改善:www.redmine.org を中心にドキュメントや実践的なガイドを充実させ、導入事例やカスタムフィールドの活用法を共有する。
  • 使いたくなるユーザインターフェース:デフォルトテーマは若干改善されたがまだまだ改善要。Web1.0風の操作感の改善、テキスト入力はブラウザ標準ではなく、気持ちよく入力できる入力支援
  • チケット管理以外の機能改善:Wiki、フォーラム、文書、ファイル、ニュース、リポジトリなど

これらの取り組みを通じて、20周年以降も実用的に使われ続ける基盤を整えることが重要。これまで以上に努力して、みんなで未来のRedmineを作っていきましょう、と締めくくられました。
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前田様発表資料

招待講演2:飯田 治行 氏(大手SIer勤務)「Redmine AI Helper」

飯田様は「Redmine AI Helper」プラグインの実務的な活用を紹介しました。Redmine上で動作するAIエージェントとして、チケットの要約やコメント案作成、子チケット生成、類似チケット検索などをショートカットで呼び出せる点が特徴です。また、ユーザーが機能を拡張できる柔軟性も強調されました。

注目点として、AIによるプロジェクト健全性判定機能が紹介されました。チケットのクローズ状況や統計を元にバージョンごとの健全性を評価し、客観的な判断材料を提供します。さらにリモートMCPサーバとの直接接続により、外部のMCPと認証情報を介して連携できるようになり、運用の幅が広がっています。

飯田様が示した今後の取り組みは、健全性レポートの履歴分析、計画支援(優先度・担当者の提案や工数予測)、およびAgent2Agentプロトコルの実装などです。これらが進めば、Redmineでのプロジェクト管理がよりAIに支援されるようになり、業務効率化が一層進むと期待されます。

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招待講演3:赤羽根 州晴 氏(株式会社島津ビジネスシステムズ)「使われ続ける情報基盤の整備」

赤羽根氏は、島津製作所の研究開発現場での実運用事例を分かりやすく紹介しました。RedmineとSubversion/Git、そしてGroongaによる全文検索を中核に据えたOSSベースの知識基盤を構築し、長期にわたる情報の保持と高速検索を両立させた点が要点です。現場では「名前と構造」を厳格に定め、チケットと版管理の差分や文書を密にリンクさせることで日常業務で自然に記録が残る運用を実現しました。また、情報セキュリティや法規制対応のためにエンジニアリングITSとコミュニケーションITSに分離して導入した点も紹介されました。

導入効果としては、約3,900名の利用者と約600プロジェクト、累計で約30万チケット、月間アクセスは百万単位、チケットのクローズ率は約78.4%と高い定着を示しています。Groongaを組み込むことで膨大なコーパス(約3154億文字)を短時間で検索できるようになり、現場から高い評価を得たと報告されました。最後に、OSSと現場主導の定着、そして「名前と構造」の徹底が成功の鍵であると締めくくられました。

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赤羽根様発表資料

招待講演4:尾形 純一 氏(Ridgelines株式会社 テクノロジーグループディレクター)「プロジェクトマネジメントの近未来 — 陥りがちな罠」

尾形氏は、ウォーターフォールとアジャイルの使い分けや、現場で陥りがちな実務の落とし穴を整理して紹介しました。背景としてPMBOKやPRINCE2、P2Mなどの標準の変化(原理原則ベースへの移行や価値実現の重視)を説明し、日本でのプロジェクト成功率が低い現状に触れつつ、実務的な対処法を示しました。

主な示唆は次のとおりです:

  • プロジェクト特性に応じてウォーターフォール/アジャイル/ハイブリッドを選ぶ。研究開発や新規事業はアジャイル、建設や大規模基幹系はウォーターフォールが相性が良い。
  • ステークホルダー(利害関係者)対策は必須。OCMによるビジョン設定、影響分析、コミュニケーション計画、成熟度診断などを実行して賛同を得ること。
  • スコープ・予算・期間の相反関係を理解し、変化に応じた調整を経営層と合意すること。
  • リスクは早期発見と予防が重要。PMBOK/PRINCE2の観点からリスク洗い出しを行い、対応を先行させる。
  • 日々の「見える化」とツール活用(Redmine等)はプロジェクトの透明性と効率化に寄与する。

まとめとして、プロジェクトマネージャーは最新の標準を継続的に学習し、失敗を恐れずチャレンジを楽しむ文化を作ること、そして経営層にはチャレンジを応援する姿勢が求められると締めくくられました。

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公募講演:高橋英己 氏(NTTドコモソリューションズ/NTT IT戦略事業本部担当課長)傳野 晶則 氏(株式会社システムニシツウ 東京支店 シニアアシスト部 担当部長)「NTTグループの統合Redmine — AIとデータで切り拓く次のステージ」

NTTグループ共通ITの問合せ管理基盤「統合Redmine」は、6つの業務領域(調達、決裁、財務ほか)の問合せを一つのRedmineに集約することで、シンプルな運用設計と安定稼働を実現してきました。運用開始から約2年で登録ユーザー9,000人超、累計約19万件のチケット処理というスケールに成長しており、現在は276→396プロジェクトへ拡大しています。

講演では、以下の進化と取り組みが紹介されました:移行と可用性対策(CentOS EOL対応→RedHat移行、冗長化、バックアップ強化)、BIによる分析自動化(Excel手作業をTableauで30分へ短縮)、およびRAGベースのAI問い合わせアシスタントの導入に関する実務的な知見です。AI導入に際しては、チケット内の複数QAの分解、添付ファイルのテキスト化、個人情報マスキング、時限的データの運用管理といった課題に取り組みながら実用化を進めている点が強調されました。

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パネルディスカッション(モデレータ:Redmine Japan松谷、パネリスト 尾形様、赤羽様、飯田様)

パネルディスカッションでは「プロジェクト管理 × AI」をテーマに議論が行われ、意思決定におけるAIの役割、ナレッジ蓄積の活用、進捗管理の自動化、ツール設計の示唆などが話題になりました。主な要点は以下の通りです。

  • 最終判断は人が行う:AIは助言・可視化で支援する存在。PMの責任や人の感性・感情は残るべきという共通認識。
  • ナレッジ蓄積の重要性:チケットやWikiを教師ありデータとして活用し、事業体ごとのローカルLLMでファインチューニングすることで実務で使える知見を生成できる。
  • 進捗管理の自動化:定常的な報告作業をAIで自動化・分析し、PMが課題解決に注力できるようにする。外部要因(他プロジェクト状況や個人のスケジュール等)を取り込む連携が鍵。
  • ツール設計の示唆:ベテランPMのノウハウをツールに組み込み、起票時に解決ヒントや診断を提示する機能が有用。
  • 実装の方向性:現状の健全性チェックから将来的なリスク予測へ発展させる。MCP経由で外部データを取り込み予兆検知を強化する案が示された。
  • ビジョン:報告作業をAIに任せ、PMは人の意思や感情に向き合う「人間中心」のプロジェクト管理を目指す。

PanelDiscussion

基調講演2:石井様「AIがもたらす開発現場の変革」

石井様は、生成AIの「第2幕」における技術潮流と、それが実務へ与える影響を具体的事例とともに解説しました。ポイントは「推論性能の向上」と「ハブ機能(多様データ・他システム連携)の強化」で、これらにより単なる実験的利用から業務中核への組み込みが急速に進んでいると述べました。

技術トレンドと事例:

  • 推論能力の改善:推論時の計算(test-time compute)を増やすことで応答品質が向上し、ハルシネーションの問題が軽減されてきている。
  • マルチモーダル/動画生成の進展:画像・音声・動画を扱う能力が高まり、製品説明動画の自動生成など実務的な活用が現実的になっている。
  • システム連携の標準化(MCP等):ローカルファイルや外部サービスとAIを安全に連携させる仕組みが整いつつある。
  • 企業事例:外部SaaSをAIベースの内製へ置換したり、VibeコーディングやPRエージェントで開発効率を劇的に上げる事例(Klarna、Cursor等)を紹介。

業務・組織への影響:

  • スキルギャップの解消:非エンジニアでもAIを使えば自動化スクリプトや簡易なプログラムを作れるようになり、従来の役割境界が変わる。
  • リソース代替と生産性:AIが一部の専門作業や人手を代替することで、少人数で大きな成果を出せるようになる(講演では大幅な生産性向上の例を紹介)。
  • 事例の陳腐化が速い:導入事例が急速に古くなるため、事例の模倣よりも継続的なツール探索と迅速な切替が重要。

人的側面とマネジメント:

  • AIは目的(欲望)を持たないため、人が『何を達成したいか』を言語化してAIに指示する能力(マネジメント力)が鍵。
  • 多くの社員がAIを使い切れない理由は「やるべきことが明確でない」ことにあり、教育・業務設計・要求の言語化支援が必要。
  • 推奨アクション:AIに単にチェックさせるのではなく、目的を与えて生成させ、出力に対して強くフィードバックする習慣を育てること。

結論:

Redmine Japanでこのような話をするのは爆弾発言かもしれないが、講演の核心は単にAIが賢くなるという話ではありません。重要なのは、今のマネジメント業務や人手による調整作業をAIに『指示して減らす』ことにより、現状の仕事の付加価値を大幅に高められる可能性があるという点です。

講演では試算として、現行の人的マネジメント的作業をAIによって代替・補助し、運用や指示系の効率化を進めれば、桁違いの生産性改善(概算でおよそ2000%程度の効果が出るケースも想定される)を実現できるかもしれない、という強い示唆が示されました。これはあくまで一例であり、業務の定義や導入方法によって結果は変わりますが、方向性としては非常に示唆的です。

したがって、AI導入は単なるツール導入ではなく、業務設計・評価軸・責任分担の再定義を伴う変革であり、組織として『何をAIに任せ、何を人が担うか』を明確にする試みが鍵になります。

ishii

LT

以下の方々にLTを実施していただきました。

発表者 題名
大和田 裕 様 ソフトウェア開発プロジェクトでの品質管理への提案(温故知新)
八重樫 剛士 様 Redmineを社内SaaSとしてクラウド移行・運用するためのゼロトラスト認証基盤設計
西田 雄也 様 Redmine×Solid Queue:安心簡単キュー構成

第3回 The Redmine Award

以下の方々が受賞されました。おめでとうございます。

受賞者 受賞理由
加藤 隆史 様 Redmine 6.0で行われたRails 7.2への移行に関する貢献/ラスターアイコンからベクターアイコンへの移行に関する貢献
日高 克也 様 Redmineのテストの安定化とテスト基盤により品質向上と開発効率改善に貢献
飯田 治行 様 日本でのRedmine利用の黎明期にプラグインを多数公開/今年Redmine AI Helperプラグインの公開によりRedmineのさらなる進化をリード

Award

おわりに

Redmine Japan Vol.4は、AI時代の発展によってプロジェクト管理やAI利用がどう進むか、という示唆に富んだ内容となりました。
次回のRedmine Japan Vol.5は、Redmineの20周年記念イベントとして2026年6月25日に前夜祭、26日にカンファレンスを開催予定で準備をしています。
詳細は後日、Redmine Japan公式サイトにてご案内いたします。ご期待ください。

謝辞

Redmine Japan Vol.4は以下のスポンサー各社のご協力により開催されました。ご協力ありがとうございました。

プラチナスポンサー

NTTドコモソリューションズ株式会社

テクマトリクス株式会社

アジャイルウェア株式会社

SHERPA SUITE(シェルパスイート)

ゴールドスポンサー

ファーエンドテクノロジー株式会社

株式会社インプリム

シルバースポンサー

株式会社ネットワーク応用通信研究所

株式会社システムニシツウ


Redmine Japan実行委員会より: "Redmine Japan vol4.の記録"

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