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混乱したエンジニア

2024/10/15に公開

あるところにベンチャー企業で働くエンジニアがいたらしい。

日々好きなものを作って、会社も成長していたらしい。

ただある日、「ミッション・ビジョン・バリュー」が設定され、朝会で復唱したり、スピーチしているうちに、サクッと辞めてしまったそうだ。

会社の同僚にも経営陣にもあっさり年収やストックオプションをなげうってしまった彼の行動は理解できなかったし、やがて従順にミッション・ビジョン・バリューを唱和する100人もの社員に飲み込まれ、彼という変人はすっかり忘れさられてしまった。そして彼のほうでも忘れられることを望んでいた。


ここから導き出される答えはただ一つ(であるべき)で、それがあなたというエンジニアを成長させるたったひとつの真実なのだが、あえていくつか例え話をさせてほしい。


あるところに中学受験でいい学校に入った生徒がいた。
その学校では過半数が医学部に進学する。彼はなんとなく医者ではなくエンジニアになった。
40になった今、同級生の給与はうらやましいのだが、エンジニアになって良かったのだそうだ。

あるところにとてもモテない男の子がいたらしい。
その彼が、とても可愛い女の子と付き合った。彼の周りの友達も、喜んでくれた。
ただ、突然彼から別れてしまったのだそうだ。その女の子は傷つき、友達も「モテないくせに何を考えてるんだ」と怒ったそうだ。

あるところに変わった研究者がいた。
彼は興味がなくなると、セミナーをサボるのだ。
誰よりもサボっているのに、結局は誰よりも成果を残した研究者になったそうだ。

あるところにIT企業の社長さんがいた。
彼は巨万の富を得たが、ビジネスをしていくうちに、色々なことが嫌になってしまった。
ある日、高収入の仕事や人脈を全てなげうって、山に籠り、それ以来音信不通だそうだ。

2300年前、中国にあるお金持ちがいたらしい。
その人は貧しい出自で、粗衣粗食でお金を貯めこんでいた。
その当時中国では万里の長城を築いていて、財政はすっからかん、人民は疲弊し過労死するものもいた。だが他国に侵略されないためにはしょうがなかった。
しかしその人は水害のほうが気になっていた。勝手に全財産を投じて治水工事をしてしまって、貧乏になってもケロリとしていたそうだ。

世界の始まりに、混沌という神様がいたらしい。
混沌はとてもいいやつだったが、顔が無かったので、あるとき秩序の神様たちが日頃のお礼に目や鼻や口や耳を作ってくれた。
すると、その7つの穴から大量出血して混沌はコロリと死んでしまったのだそうだ。


同じような話は枚挙にいとまがない。要するに、「社会」と「自分」の話で、何千年も前から現在に至るまで、繰り返されている真理である。

「社会」と逆でもいいのだ。

医学部にいかなくたっていいし、二度と彼女ができなくてもいいし、セミナーに出ないで研究したっていいし、巨万の富を人脈をどぶに捨てたっていいし、苦しむ農民のために破産したっていいし、顔が無い神様がぼーっと過ごしていてもいいのだ。

これは「自由を勝ち取る」話ではない。「自分を守る」話である。

人生は一回しかない。

医学部に行ったら即エンジニアにはなれない。
無駄な時間を過ごしてたら研究者は出来ない。
彼女や財産や人脈を捨てなかったら今の人生はない。
白圭がケチだったら水害でみんな死んだ。
混沌は混沌のままでいい。

そして、「ミッション・ビジョン・バリュー」で洗脳されたくなければ会社を辞めたっていいのだ。(筆者の周りだけかも知れないが、実例多数あり)

客観的にはわかるだろうが、今のあなたの状況は主観的に真逆ではないのか?

具体的には、あなたは

  • 事業貢献ができなきゃいけないし
  • 経営陣と話せなきゃいけないし
  • 年収を上げなきゃいけないし
  • kaggleをやらなきゃいけないし
  • AtCoderをやらなきゃいけないし
  • SoTA論文を読まなきゃいけないし
  • プロジェクトを回せて
  • プロダクト創れて
  • 長期目線のアーキテクトができ
  • いずれマネジメントができなきゃいけないし
  • AIに追いつかなきゃいけないし
  • AIに代替されないために
  • コミュニケーション力などのソフトスキルを高めつつも
  • 技術力を高め続けて
  • エンジニアとして手を動かしつづけなきゃいけない

のではないのか?そして少なくともひとつは出来ないで悩んでいるのでは?

もしそうだとしたら、あなたは「混乱したエンジニア」である。


「やったことがいいこと」は無数にある。ただそのアドバイスを聴くことは、必ずしも良い結果に結びつかない。

エンジニアの悩みを聞くうちに、それは努力以前に決めることが出来ていないのではないか、と思うようになった。

世の中一般に流布されている価値観から距離を置かないと、人間の成長は止まる。考えることが多過ぎて混乱してしまうからだ。

これが自分の成長を守る鍵である。

実は成長とは、学ぶことではなく、決めることなのだ。

事業視点・経営視点・年収UP・kaggleやAtCoderのスコア主義・SoTA・プロジェクト・プロダクト・設計・SRE・マネジメント志向・AI・エンジニアはエンジニアらしく手を動かせ

既存のあらゆる価値観はそれによってマウンティングをしたい人間のポジショントークだということを理解しないと、精神はいずれ行き詰まる。

あなたはなぜ事業貢献をしたいのか?それは本当にあなたが考えたアイディアなのか?事業部長にそういわれただけじゃないのか?

あなたはなぜ経営者になりたいのか?それは本当にあなたが考えたアイディアなのか?経営者やベンチャーキャピタルににんじんをぶら下げられただけなのではないか?

あなたはなぜお金持ちになりたいのか?本当に買いたいものはあるのか?それを買うと本当に幸せになれるのか?何も買わないならお金を持っていようがいまいが同じなのではないか?

あなたはなぜkaggleやAtCoderのスコアを上げたいのか?他者と競った先に何があるのか?それがコンプレックスやマウンティング欲求でないと言い切れるか?

あなたはなぜSoTA論文を読み続けなければならないのか?なぜ自分の発明でなく、赤の他人の発明にそれほど頼っているのか?それは他人のふんどしで相撲をとってるだけなのではないのか?

あなたはなぜプロジェクト・プロダクト管理を他人に任せたく無いのか?自分より優れた人の力を借りたくないのか?

あなたはなぜSREが大切だと思うのか?単にGoogleで実践されているからでは無いのか?あなたの周りにはGoogle級のエンジニアがゴロゴロしていて、彼らと同じ悩みを今すぐ解決しなきゃならないのか?

あなたはなぜマネジメントを目指しているのか?マネジメントが「偉い」という価値観はあなた自身の内部のどこから生じたのか?

あなたはなぜAIが気になってしょうがないのか?それは本当に問題を解決したり、あなたの人生を改善するものなのか?

あなたはなぜ「エンジニアらしく」しなければいけないのか?あなたが「エンジニアらしい」ほうが幸せになれるという保証は?

それを言ったのは、あなたがどのような幼少期を過ごしたか知らず、またあなたがどのようなことに悩んできたか、あなたがどのような一瞬に感動してきたかを知らない人間に過ぎない。他人はあなたのことをそこまで深く理解することは出来ない。

だから他人や社会にあなたの決断は理解出来ない。逆説的なようだが、社会に認められたいと思うならいつまでも決められず、いつまでも成長出来ない。

実は冒頭の話は混乱したエンジニアの例ではない。それどころか、誰にも理解されていないが、自分の選び取るものを自分で決められた人なのだ。


結局はあなたの全人生を理解できる人間はあなたしかいない。社会がおすすめしているものは必ずしもあなたにパーソナライズされてはいない。それは他人に期待しすぎだ。

社会で正しいとされていることを全部やると、脳内が闇鍋になる。闇鍋の味はぼんやりしていてぱっとしない。料理は足し算ではなく引き算だ。人間ひとりはもともと大したものではない。欲張らず、無理をせず、ひとつのことだけをうまくやる、それくらいがちょうどいい。

自分で決めることにこだわること。

心の内奥に何かを忍び込ませてはいけない。「情報過多」と、それに起因する強迫観念や混乱状態、それがあなたの成長を止めているものの正体だ。

つまり成長が止まる、とは、決められなくなることなのだ。

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