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誰にも使われないアプリを作ってしまった話

2024/11/26に公開
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はじめに

少し昔の話になりますが、個人で作っていたHideOutというアプリをリリースしました。

https://apps.apple.com/jp/app/hideout-learn-w-members/id1632561765?l=en-US

https://play.google.com/store/apps/details?id=com.masakisato.hideout

当時自分なりに頑張って作ったこのアプリですが、現在はこんな感じで文字通り誰にも使われてません…

この記事では、このアプリ開発を通しての学びを今後の自分のためにも振り返ってみようと思います。

これから開発をする方の参考に少しでもなれば幸いです。

HideOutについて

まずは、HideOutがどんなアプリなのかを簡単にご紹介します。

最大5人の少人数グループで音声の共有を行うことが出来るアプリです。

“hideout”という単語には「隠れ家」や「秘密基地」という意味があるのですが、日々あったことや学びを共有出来る同じ興味を持ったメンバー同士の居場所になったらいいなという思いを込めて作りました。

Flutterというフレームワークで出来ているのですが、一応ソースコードも貼っておきます。

https://github.com/masa-tokyo/hide_out

(このアプリを作り始めたのはFlutterを始めて間もない2021年頃で、今見返してみると拙くて恥ずかしさを隠せませんが…笑)

では、ここから「こうすれば良かったかもしれないなー」という点を順に振り返っていきたいと思います。ここでは技術的なことではなく、人に使ってもらえるアプリを作るにはという観点に絞って振り返っていきます。

※ 書いていたら細かいことも多く巻物みたいになってしまったので、適当に飛ばしながら興味のありそうなところがあれば読んでもらえたら幸いです。

方向転換時にアイデアが曖昧になってしまう

実はこのアプリ、作り始めた時には英語学習者向けのアプリだったのですが、途中の方向転換をする中でアイデアや届けたい価値が曖昧になってしまっていたなーと今振り返ってみると思います。

元はと言えば、過去の自分の英語学習の経験の中で効果的だった、独り言によるスピーキング練習をアプリ上で実現したいなと思ったことが作り始めのきっかけとなっていました。

実際にアプリの開発に入る前に、このアイデアが本当に人に求められるものなのか、というのを検証するために以下のようなことをしていました:

  • ペルソナとなりそうな友人/知人にひたすらインタビュー
  • 英語学習者のコミュニティで話を聞く
    • オンラインの学習者コミュニティ
    • オフラインで英会話をしているミートアップ的な集まり

ここでアプリのアイデアへのフィードバックをもらう中で、「アプリ内で独り言をシェア出来るようにするのが良いよね」という結論に至り、ソーシャル機能を追加することにしました(元々は最小限に、独り言を録音出来るメモアプリでした)。

それを踏まえて、検証用のMVPとして、

  • みんちゃれという小規模グループを作れるプラットフォーム上で、「ひとりごと英語」専用グループを作成
  • グループ内部でひとりごとを録音してシェア(Otterという別のサービスを利用)

というように、既存のサービスを組み合わせたものを利用してもらっていました。

実際このグループは好評で、入ってくれた人の継続率も良く、基本常に満員状態が続いていました。みんちゃれを久々に覗いてみたら現在も同様のグループがいくつか動いていたので、このアイデア自体は悪く無かったのかなと思います。

(余談ですが、生成AIによりもはや最初からコーディングしてしまった方が早いよね、という時代も来つつあるかも知れません)

ここでいざ自分のアプリとしてリリースするためにアプリ名やコンセプトを練る段階に来た際に、元々のみんちゃれの時のアイデアから以下のような変更案が上がりました:

  • 「HideOut = 秘密基地」にいるように学びを限られた仲間と楽しむ、と言うコンセプトにしたい
  • 目的はあくまで知識のアウトプットなので、「英語学習」ではなく言語が英語であれば良い

実際はみんちゃれ内で検証したことをそのままアプリで実現する or ピボットするなら再度インタビューからやり直し、と言うのが本来のあり方なはずですが、

  • 再度インタビューをやり直すのにもそういったユーザーを身近で見つけるのが現実的に難しそう
  • まずは最初の5人が熱狂するサービスを作ればいい、と言われているがグローバルにリリースすれば一定数そういうユーザーはいるはず
  • ユーザー第一号として自分自身がとても欲しいから、きっと他にもそういう人はいるはず

のようなことを思い、このまま機能実装に進むことにしました。

この段階で、これまで一部検証されたはずの課題仮説含めて諸々が全てひっくり返った、という事の重大さをきちんと認識すべきだった、というのが大きな反省点でした。自分自身が欲しいと思うものを作る、ということ自体は悪いことでは無いはずですが、一人称視点により入ってしまうバイアスへの配慮が足りていなかったと今となっては思います。その重大さを認識した上で、サービスの背景にある仮説をきちんと文言化し、自分以外の人(それが必ずしもペルソナではなかったとしても)にフィードバックをもらう機会をもっと設けるべきだったと振り返ってみて思います。当時の自分も人に話すことを意識はしてはいたのですが、きちんとフィードバックをくれる関係ではなくて「良さそうだねー」で終わってしまうことが多かったです。仮に否定されたとしても、結局「自分が欲しくて自己満で作ってるから良いんだ!」という無敵モードになってしまっていたところはあるので中々難しいとは思いつつですが…。ただ、人に話すという過程で自身を客観視することにつながるというのはあるので、やはりそういった機会は貴重かなと思います。

どうやって広めるのか、がない

ユーザーのターゲットをどこに置くのか、というのはアプリを広める上でとても重要です。

ペルソナとして置くのはアーリーアダプター(情報感度が高く既存のソリューションをよく理解しているユーザー)が良いとされていますが、こういったユーザーは周囲に影響力を持っており気に入ったサービスを広めてくれる存在であることが多いと思います。

しかし、ペルソナとしておいていた当時の自分はSNS等による周囲とのつながりを持っておらず、むしろHideOutの根幹には「隠れ家のように匿名で出会った仲間同士で学びをシェア出来る」という価値をおいていました。これではいくら本人がアプリを気に入ったとしても既存の知り合いにお勧めしてもらえるような構造にはなっていません。最終的には自分自身のようなユーザーに届けたかったとしても、まず最初に置くべきターゲットではなかったのかなという反省があります。

ただし、ユーザー体験の中にアプリが広まる仕組みが内包されていれば、その限りではないと思います。

このHideOutを考えるに当たって影響を受けたものにcappucinoというアプリがあります。素敵なアプリなのでぜひ使ってみてください:

https://apps.apple.com/jp/app/cappuccino-stay-in-touch/id1506849927?l=en-US

名前だけだとどんなものか分かりにくいのですが、これは親しい友人や家族間で音声を共有するためのアプリになります。そのため、誰か一人が知ればこのプラットフォーム上に知り合いを招待して利用される、というように自ずと広まる仕組みになっています。

HideOutの場合、匿名で見ず知らずの人とプラットフォーム上で出会うというように体験設計をしているので、こういったことは期待出来ません。

せめて、ストアからの自然流入を狙うためにもう少し分かりやすく検索されうる名前にすべきだったかもしれません。

機能を詰め込んでしまう

アプリの機能選定の際には、絶対必要と言い切れる「must-have」なものにまずは絞ろう、ということがよく言われています。僕もこれを事あるごとに言い聞かせてはいたのですが、「自分が本当に欲しくて熱狂出来るものを作ろう」という心持ちになってしまっていた & 凝り性な性格も相まってどんどんと作りたい機能が増えていってしまいました。

ここで考えたいのは、何を持って「must-have」とすべきなのか、という点です。

個人的には、1stリリースにおいてはアプリをインストールしてもらえるか(ユーザーを獲得出来るか)どうか、という点に絞るべきだったと振り返ってみて思います。

HideOutにおいては、アプリがユーザーの目に触れてからの流れは以下のようなイメージをしていました:

※ 細かくて見にくいですが、アプリのスクショ以外の部分は後述するAirportというβ版プラットフォームのものです

この中で、ユーザーのアプリインストール(Acquisition)後の体験であるRetention(持続的に使い続けてもらう)を向上するための工夫(eg. メンバーの自動退出機能、音声のプレイリスト再生機能、既読機能)に多くの時間を使ってしまっていました。

ただ実際には、インストール前に伝えられることは限られており(適切なチャネルが無ければストアのスクショ程度)、そもそもインストールをしてもらわなければ何も始まりません。その意味において、「インストールしてもらう上で必要最低限の機能は何か」というように問いを明確にして機能選定をした上で、改善を繰り返すようにすべきだったと感じています。

なぜ機能を作り込んでしまうのが良くないのか、という理由については、検証/改善の時間を無駄遣いしてしまうという点に加えて、以下の二点があるかなと思います。

なぜ今なのか、に答えられなくなる

プロダクトを作る上では「なぜ今そのサービスが必要なのか」というタイミングが重要だと語られているのをよく耳にします。ゆっくり時間をかけすぎてしまうと、このタイミングを逃してしまうという意味においてmust-haveではないものを作り込んでしまうのは適切ではないと言えると思います。

このHideOutのアイデアを考えていた時には、

  • オーディオプラットフォーム自体に世間の関心が向いていた
    • クラブハウス(懐かしい)を始めとした音声系のサービスが流行っていて「音声」という切り口でユーザーやメディアの関心を引けるかもしれない
  • FOMO → JOMO へ流れが傾いていた
    • クラブハウスにより周りから取り残される恐怖(Fear of missing out)を原動力にして動くのに疲れてSNSから距離を置いてゆっくり過ごしたい(Joy of missing out)、という人がかなり増えてきている印象がある

といったことを考えていたのですが、ゆっくり時間をかけてしまったことでそれが「今」では無くなってしまいました。

モチベーションの低下

個人開発においては特に、ゆっくりやっていると段々とモチベーションを保つことが難しくなってくる、という側面があるかと思います。

ここまでそれっぽい理由を色々と偉そうに並べてしまいましたが、結局ここが一番大きいしほぼ全てかなと思います。どんなものを作っていても続けている限りは改善をする余地があるので、(撤退したほうが良い場面はあるかもしれませんが)熱量を持って続けられるのが一番重要なことだと思います。僕自身、自分がアイデアに熱狂している間はこのアプリが届いた未来のことにワクワクしながら作っていたのですが、自身の状況が変わり自分の欲しいものでは無くなってしまったタイミングで熱量がガクンと落ちてしまいました。自分にとってのソリューションとしてより良いもの(具体的にはエンジニアに特化したコミュニティへの所属)が見つかってしまい、過去の自分のような状況の人(まだ何者でもなく、身近な実名コミュニティには所属したくない)にとっては依然として価値があるとは思いつつも、「今の自分がどうしても欲しい」というハングリー精神のようなものが無くなってしまったのが大きかったと思います。

まず早めにローンチをしていれば、実際に自分以外のユーザーに価値を届けられていることが実感出来てもっと頑張ろうとなれていたのかもしれません。

β版で足踏みしてしまう

このアプリは「コミュニティ」や「プラットフォーム」と呼ばれる類のものなので、いわゆる鶏と卵問題があります。つまり、人が集まっていればさらに人が来るけれど、集まっていなければ誰も来ない、というような状況になりがちかなと思います。

これを解決するために、ストアへの正式なリリース(多くの人の目に触れる)の前に一定数のユーザーを事前に取り込んでおきたい、という目的のもとでベータ版を事前に使ってもらう取り組みをしていました。

ベータ版と言っても色々あるのですが、まずは以前インタビューをした知り合いにクローズドな形(内部テスト)で使ってもらうようにしてもらいました。ただ、上述のように開発段階でインタビュー時点からコンセプトがずれてしまっていたこともあり、数人はインストールはしてくれてもちゃんと使ってくれる人はいませんでした。実際に使ってみたくて入れたというよりは、「友達が作ってるアプリってどんなのだろう」や「お願いされたし一旦入れよう」くらいな温度感だったのだと思います。

そこで、AirportというTestFlightを公開出来るプラットフォームに登録してベータ版を第三者にも使ってもらおうと試みました。

https://airport.community/

パブリックにしたTestFlightのURLだけで登録出来るお手軽さもあって良いという話を耳にしたので使ってみたのですが、ほとんどインストールしてもらうことは出来ませんでした。今となってはこのサイト自体完全にクローズしているのですが、その当時からアップロードされるアプリ数がかなり減少傾向にあったのでこのプラットフォーム自体に既に集客力がほとんど無かったのかもしれません。

当時は上述のモチベーション低下に加えて、アプリをリリースした経験も無く審査申請にハードルを感じてしまっていたこともあり、リリースに踏み切るまでにとても時間をかけてしまいました。ストアで見つけてもらう以外にチャネルが無いのであれば、早々にリリースをして自分自身がユーザーとしてアプリ内を盛り上げていくという選択を取るべきだったと思います。

終わりに

ここまでお読みいただきありがとうございました。

現在は別のアプリを共同開発しているのですが、今回色々と振り返ってみてそちらのアプリでも出来ていないことが多々あると感じたので、今後に活かしていきたいと思います。

最後に作っているアプリの紹介を少しさせてください。

「MyGourmet」というグルメ記録アプリになります。

スマホの写真フォルダの中というのは、色んな写真でぐちゃぐちゃになってしまいがちだと思うのですが、このアプリを使うと自分のグルメ写真を楽しくコレクションすることが出来ます。

iOS/Android にてリリースされているので、ぜひ使ってみてください🙌

https://apps.apple.com/jp/app/mygourmet/id6499088858

https://play.google.com/store/apps/details?id=com.blue_waltz.my_gourmet

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Discussion

qaynamqaynam

コメント失礼します。

なんとなく似たような境遇だなと思いました、特に「 モチベーションの低下 」には共感しかないです。

自分もWEBエンジニアですが、同じくネイテイブのアプリを個人で作っていました、それまで全く触ったことなかったのですが、学習しながらだとかなり心が折れます、せっかく作り終えて、審査にだしたら基準を満たさないからと機能面に文句言ってきますし、それでも機能と設計を変えて、頑張ってリリースしたのですが、人に使ってもらえず、ずっと放置されています。

リリースがゴールではなく、リリースしたタイミングがスタートだとすごく思いました、そこから宣伝したりと長い期間の長距離走に入るものだなと。

それと、やはり業務以外での自分のための開発なので、試したことのないトレンドを使ったりするとその勉強だけでお腹いっぱいになってしまい、モチベが下がってしまうんですよね、いかに自分のモチベを下げないようにするかがすごく重要で個人開発には絶対にスピードが命だなと学びました。

また定期的記事で心境や遭遇した問題をなどを聞きたいです、お互い頑張りましょう!

Masaki SatoMasaki Sato

コメントありがとうございます!

いかに熱量を保っていくか大事ですよね...
その意味で共同開発はわいわいしながらやれて良いなあと思います。!
また、入っているコミュニティ(Flutter大学というところです)の中で個人開発の発表会を月に一度開いているのですが、そういう励まし合える場があるのもすごく大事だなーと思います🤔

お互い頑張っていきましょう!

かんちゃんかんちゃん

グーグルのログインが成功しなくて泣いちゃいました…
個人開発でアプリを完成させること自体すごいと思います

Masaki SatoMasaki Sato

せっかくインストールしてもらったのにすいません😭
確認してみます...!