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JPモルガンが発表した論文の価値について

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はじめに

先日JPモルガンが以下の論文をNatureに投稿しました。
https://www.nature.com/articles/s41586-025-08737-1
以下のような記事で真にランダムな乱数を作成できたとあり、とても面白そうな感じでした。
https://levtech.jp/media/article/column/detail_644/
なので、この記事では実際に論文を見て自分なりに論文の価値を理解していこうとする記事です。
先に価値を感じた部分をいうと「従来のコンピューターで認証可能な真にランダムな乱数を生成できた」になるのかと思います。
では読み進めていきます。

論文を読む前の前提

まず論文を読む前にですが、量子コンピューターを使用した真にランダムな乱数の生成はすでに存在している認識です。
例えば、以下の発表のようにNTTは量子乱数生成器 QRNGの発表を以前行っております。
https://group.ntt/jp/newsrelease/2021/02/24/210224b.html
なので、真にランダムな乱数をただ作成できたというのがこの論文の価値ではなく、どういった真にランダムな乱数を作ることができたかがこの論文の価値へ繋がるのかなと思います。(もしかすると間違えているかもしれないです)

論文の価値

では、この論文の価値を見ていこうと思います。
具体的には以下の点に集約される認識です。

  • 従来のコンピューターで認証可能な真にランダムな乱数を生成できた

上記の中で特に「従来のコンピューターで認証可能」という点がなにより価値が高いと考えています。
もちろん真にランダムな乱数を作れること自体の価値は高いです。
従来のコンピューター(スーパーコンピューター含む)では作成できず、量子コンピューターが必要となるので、乱数そのものに価値はあります。
とはいえ、真にランダムな乱数を作るだけに着目するとすでに生成できるものは存在しています。
なので、この論文ではただ真にランダムな乱数を生成することを優位性にはしていません。
従来のコンピューターが量子コンピューターによって生成されたと判断できる乱数を作り、実際に検証することができたのがなによりの価値となります。
実際論文中では、XEB (Cross-Entropy Benchmarking) という量子コンピューターによる乱数である確率を計測しているのですが、この値が0.3を超えています。
個人的には0.3って低いと思ったのですが、現状0.3を超えると量子コンピューターによる出力である可能性がかなり高くなるみたいです。
そして、上記XEBが0.3を超える乱数を量子コンピューターは2.2秒以内にクライアント側に返すことができたみたいです。
この確率と秒数でのレスポンスは最高峰のスーパーコンピューター(Frontierなど)でも再現することができず、スーパーコンピューターが量子コンピューターのふりをすることはできません。(

この論文の内容の活用方法

論文それ自体の価値は見たので、この論文はどう活かせるのかも見ていきます。
具体的には以下の図になります。
Certified randomness using a trapped-ion quantum processor より引用
Certified randomness using a trapped-ion quantum processor より引用
クライアントと量子コンピューターが動くサーバー側が信頼し合っている関係ではなく、スーパーコンピューターを扱うことができる攻撃者の介入が入るかもしれない状態で接続されたとします。
上記の場合、クライアントが受け取る乱数は想定している量子コンピューターからだけでなく、攻撃者のスーパーコンピューターからの可能性もあります。
そういった中でも論文の内容が発展すれば、量子コンピューターによる乱数かをクライアントが判断できます。
すなわち任意のクライアントからでも、量子コンピューターが生成した真にランダムな乱数のみを受け付けることができます。
これが実現できれば、例えば宝くじのサービスなどで完全にランダム当選番号を使用でき、当選確率に偏りをなくせます。
論文の中ではまだ扱えるビット数に限りがあるなど、この論文が完全に実用化を達成したとは述べておりません。
しかし、将来的に多くの端末で量子コンピューターであることを担保できるなら、さらにサービスの発展に繋がります。
このような実用化に向けて、今回の論文は大きな一歩となったため今回Natureに掲載されたのかなと思いました。
以上となります。
繰り返しとなりますが、この記事を書いている人は量子コンピューター周りは完全に素人です。
誤り・不足は確実に存在するので、正確なことは論文など信頼できる情報を参照するようにしてください。

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