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論理的に考えるためのキーワード(データと情報、相関関係と因果関係、科学的な仮説、推論、アナロジー)

2024/02/04に公開

論理的思考とは、事実や理由を体系的に整理しながら、客観的で一貫性のある結論を導き出すことです。
課題の発見と解決に向けて不可欠なものですが、とても幅広く、それぞれを理解するのに時間もかかります。

この記事では論理的思考に関するキーワードをなるべく理解しやすく説明をして、誰もが共通の認識を持てることを目的にしています。

データと情報

私たちは何かを判断するために情報を集めますが、その前段階であるデータと区別しておく必要があります。
データと情報を簡潔に表現すると、データは事実で情報は解釈です。

たとえば天気予報を例に考えてみます。
天気予報が便利なのは、将来の天気を予測してくれるからです。その予測は各地の観測地で測定した数値を基にしています。
つまり、各地で測定した数値がデータ、数値を基に予測した天気予報が情報となります。付け加えるなら過去の統計データも予測に使用されていますね。

データ

データとは、ある出来事を加工をせずに記録されたもので、記録用のフォーマットには数値や文字、画像や音声などがあります。
たとえば会員情報や過去の購買履歴などがそれにあたります。

データそのものは事実に過ぎず、誰かが何らかの解釈を加えることで意味が生まれます。
そのため、データを収集する際には、どのように意味づけをおこなうのかを想定しておかないと、データを収集する行為そのものが時間の無駄になってしまう可能性があります。

情報

情報とは、データに意味を付け加えることによって判断材料として使えるようにしたものです。
データを活用すると言った場合、それは適切なデータ収集と情報変換をおこない、活用することに他なりません。

情報理論の父と呼ばれるクロード・シャノンは、情報を不確実性を減少させるものと定義しています。不確実性とは将来の予測が難しいことの度合いのことです。

何かを判断する際に情報が足りなければ、それを補うためのデータを収集する必要があります。
逆に過去のデータやいま持っている知識で十分に判断できるのであれば、データ収集は不要かもしれません。

参考情報

相関関係と因果関係

データを役に立つ情報に変換するためには「相関関係」と「因果関係」を理解する必要があります。

相関関係

相関関係とは、ある要素同士がお互いに関係しあっていること、またその関連の強さのことです。
要素A⇄要素Bのような関係性です。

相関関係には3つの種類があるようです。

  1. 正の相関関係:ある変数が増加すると、もう片方の変数も増加する
    • 例:勉強時間が長い学生ほど、テストの点数も高い傾向がある
  2. 負の相関関係:ある変数が増加すると、もう片方の変数は減少する
    • 例:移動速度が速くなるほど、目的地に早く到着する
  3. 無相関:ある変数の変化が、もう片方の変数の変化に関連しない

因果関係

因果関係とは、要素同士が原因と結果の関係性にあることです。
要素A→要素Bのような関係性です。

因果関係には6つの種類があるようです。

  1. 直接因果関係:ある事象が直接的に別の事象を引き起こす
    • 例:雨が降ると地面が濡れる
  2. 間接因果関係:原因が1つ以上の中間変数を通じて最終的な結果に影響を与える
    • 例:ストレスが多いと免疫システムが弱り、風邪をひきやすくなる
  3. 相互依存関係:双方向になる特殊なケースで、2つの変数がお互いに原因と結果になる
    • 例:経済成長が雇用を増やし、雇用が増えると消費が増えて経済成長を促す
  4. 共通原因関係:因果関係があるように見えて、実際にはある共通の原因によって引き起こされている
    • 例:夏になって気温が高くなると、アイスの販売量が増え、水難事故も増加する
  5. 条件付き因果関係:特定の条件や状況の場合にだけ成立する因果関係
    • 例:花粉が飛散量が増えると花粉症の人は鼻水やくしゃみが起きるが、花粉症でない人には影響がない
  6. 複合因果関係:複数の原因が組み合わさって1つの結果を引き起こす
    • 例:生活習慣・遺伝的要因・環境要因が健康状態に影響を与える

相関関係と因果関係をどのように見分けるか?

「ライターを所持していると、肺がんにかかるリスクが高い」というテーマを例に考えてみます。

言いたいことは理解できますが、ライターを所持していること自体が肺がんを引き起こすわけではありません。ライターを所持しているとタバコを吸う可能性が高いだろうという前提が省略されていると考えられます。

よって次のような関係性が見えてきます。

  • 相関関係:ライターを所持している人は肺がんにかかる傾向が高い
  • 因果関係:タバコを吸う人は肺がんにかかるリスクが高まる
  • 間接因果関係:ライターを所持している人はタバコを吸う人である傾向が高く、結果的に肺がんにかかるリスクが高い人である

上記のように単純に相関関係と因果関係を分けられない場面もあります。
ただ、そこまで正確に把握する必要は少ないように思います。次のような視点での区別にとどめておくのがいいかもしれません。

  • 相関関係:AがBになる傾向が高い
  • 因果関係:AがBを引き起こしている

影響を与えられるものに直接アプローチする

たとえば相関関係である「勉強時間が長い学生ほど、テストの点数も高い傾向がある」を考えてみます。
「勉強時間を増やしてください」と言われても困ってしまいます。目指すべき結果は提示されていますが方法は提示されていないからです。つまり相関関係は具体性が低い傾向にあります。

具体性に乏しいときは、「So what?(何をすればいい?)」と「So Why?(なぜそれをするの?)、「5W1H」を組み合わせて深掘りしていきます。
「スキマ時間に暗記をして勉強時間を増やす」「勉強中はスマホをしまって気が散る通知に気付けなくする」のような原因と結果の形式まで落とし込めれば実際に試せるようになります。

ライター所持と肺がんリスクの例でいうと、マッチやシガレットライター、加熱式タバコも制限するのでしょうか?そもそも火をつける行為はタバコだけではないので、特定の製品だけを制限するとその業界の不利益になってしまうかもしれません。
そもそも肺がんのリスクを高めるのはタバコの喫煙なので、制限するのはライターではなくタバコです。

ここまでをまとめると、具体的でなければ実施できないし、アプローチする対象が適切でなければ効果的ではないということになります。

参考記事

科学的な仮説

何かを判断したとしても必ずうまくいくとは限りません。つまり判断とは仮説(いま考えられる最も妥当な仮の答え)とも考えられます。

適切な仮説を立てるために、その仮説が科学的かどうかが基準になります。
科学的な仮説は「検証可能性」「再現性」「反証可能性」の3つすべてを満たしています。

検証可能性

検証とは実際に調べて証拠を集めることです。

「どのような方法でも観察することができない目に見えない生き物が、私たちのまわりには存在している」という仮説があった場合、観察ができないのであれば何の情報も得られません。

上記のような極端な例は少ないかもしれませんが、次のような条件に適合した検証方法にする必要があります。

  • 妥当な判断ができるデータを得られますか?(客観性)
  • 検証する前後のデータは前提条件が揃っていますか?(比較可能性)
  • それがわかると何ができるようになると考えていますか?(妥当性)
  • どのような基準で判断しますか?(評価可能性)
  • その評価基準が適切であることの合意は取れていますか?(合理性)

再現性

自分が検証可能だったとしても、他の人も同じように結果を出せなければ、その仮説が妥当であるかを結論づけることができません。
その仮説が本当に妥当であったとしても、それとは関係なく評価対象に含めることはできなくなります。

次のような条件に適合した再現方法にする必要があります。

  • その前提条件は誰にでも同じように用意できますか?
  • 誰が見ても解釈のズレが起きない手順になっていますか?
  • 同じ条件で実施して誤差が出る場合、その基準値や誤差を埋める方法はありますか?

反証可能性

反証とは、その仮説が誤っている証拠を示すことです。

「宇宙には生命が存在する惑星が地球以外にもある」という仮説があった場合、検証は可能かもしれませんが反証はできません。なぜなら宇宙は広大でその全域を調べ尽くすことは到底不可能だからです。

次のような条件に適合した仮説である必要があります。

  • その仮説を支える根拠は何ですか?
  • 何が確認されれば仮説が誤ってると判断できますか?
  • 現実的に考えて誰でも検証は可能ですか?

どうなったら科学的根拠が高いと言えるのか?

検証可能性と再現性は前提として、一般的に科学的根拠が高いとは、あらゆる反証に対して十分な反論ができる仮説のことです。
ただし、誤りではないことを証明できても、正しいという証明はできません。あくまでも現時点でまだ反証されずに残っている状態です。

カール・ポパーによると科学には、間違ったもの(非科学、反科学)と不完全な科学(反証可能性)の2種類しかないといわれています。

参考情報

推論

推論とは、既知の事柄から未知の事柄を予想することです。
「演繹」「帰納」「アブダクション」の3つからなります。

  • 推論
    • 分析的推論
      • 演繹(必然的)
    • 拡張的推論
      • 帰納(蓋然的)
      • アブダクション(飛躍的)

演繹的推論

演繹的推論とは、ある事実と関連する既知の法則に基づいて、必然性の高い結論を導くことです。
たとえば次のように考えます。

  • 事実:Aさんは人間である
  • 法則:人間は誰でもいつかは死ぬ
  • 結論:Aさんもいつかは死ぬ

既知の法則が誤っていたら、結論も誤ってしまいます。そのため、科学的に証明された法則を優先して、確かな根拠に基づいた結論を出す必要があります。

帰納的推論

帰納的推論とは、同じ結果を示す複数の事実に基づいて、一般的な法則を導くことです。
たとえば次のように考えます。

  • 事実:アリストテレスは死んだ
  • 事実:織田信長は死んだ
  • 事実:レオナルド・ダ・ヴィンチは死んだ
  • 法則:人間は誰でもいつかは死ぬ

あくまでも蓋然的(完全ではないがある程度の可能性がある)であり、収集データが増えたり、想定していない前提があった場合に、その法則が誤りであると証明される可能性があります。

帰納法の一種である「仮説帰納法」では、帰納法で仮説を導き、演繹法によって検証可能な予測をおこない、実際に実験や観測をすることで仮説の確かさを確認します。
科学や医療分野でよく利用され、ダーウィンは進化論を証明するために、理論を補強する事実を大量に集め、反証となりそうな証拠の検討に時間を費やしたそうです。

アブダクション(リトロダクション)

アブダクションとは、思いもしなかったある事実を説明するために、関連する既知の法則を適用して仮説を導くことです。
たとえば次のように考えます。

  • 事実:内陸部の地層から貝の化石が見つかった
  • 法則:貝は海や川に生存している
  • 仮説:昔この内陸部は海や川だったのではないか?

事実に対して法則を適用するプロセスは演繹的推論と同じですが、演繹的推論が「この事実に法則を適用すれば、他の事実と同じ結果になる」と考えるのに対して、アブダクションは「この事実が起きるためにはこの法則が必要だ、よってこの法則は妥当だと考えられる」のように考えます。

アブダクションは帰納的推論と同じく蓋然的(完全ではないがある程度の可能性がある)であり、収集した事実が少ないので飛躍的(変化が急激)でもあります。
帰納法が仮説帰納法によって確かさを確認するように、アブダクションも仮説を検証することでその確かさを確認する必要があります。

アブダクションは漢字にすると逆行推論ですが、英語圏ではリトロダクション(retroduction、遡及推論)と言い換えられることが多いようです(アブダクションは誘拐の意味にもなるため)。
逆行は順序の流れに逆らうこと、遡及(そきゅう)は過去にさかのぼって適用することを指すため、意味合いとしては同じですね。

参考記事

アナロジー(類推)

アナロジー(類推)とは、いくつかの対象から類似性(類比)を見出し、一方の対象で成立している法則をもう片方に適用することで、手かがりを得たり予測をすることです。

似たものとしてメタファー(比喩)がありますが、メタファーが物事の見た目から共通点を見出すのに対して、アナロジーはロジックやビジネスモデルのような構造の類似点を見出して、同じように適用ができないか考えるのが特徴です。

たとえば次のように考えます。

  • フットボールと会社組織:フットボールは能力の異なる複数の選手が協力し合いながら戦略を実行している。会社組織でもフットボールで使用されているメソッドを流用できないだろうか?
  • サブスクとジムの会員制度:Netlifxなどのサブスクサービスは利用できるコンテンツを増やしたり独自のコンテンツを提供している。サブスクもジムも同じ会員サービスなのだから、ジムでもNetflixのようにコンテンツを提供して利用を促進することはできないだろうか?

参考記事

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