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Semantic Layer に関する整理

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はじめに

本記事にて Sematic Layer に関して調査した内容を随時更新します。

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1. Semantic Layer とは

セマンティックレイヤー(Semantic Layer) とは、データベースやデータレイク、データウェアハウスなどの物理的なデータ基盤上にある複雑なスキーマやテーブル構造と、BIツールやアナリティクスツールなどのアプリケーションとの間に位置する “抽象化層” です。
組織が利用するデータを「ビジネス用語(例:売上、顧客数、在庫数など)」に紐づけることで、非エンジニアユーザーでも直感的かつ一貫した形でデータを扱えるようにし、「データの民主化」「正確なデータの再利用」 を実現します。

1.1 セマンティックレイヤーの特徴

  1. ビジネスロジックの一元管理
    「売上」や「顧客数」といった指標の計算式や定義を一元化し、複数ツール間で整合性を保つ仕組み。
  2. 共通言語(Common Business Vocabulary)の提供
    技術部門とビジネス部門それぞれが異なる用語体系を使うことによるコミュニケーションロスを解消。
  3. ガバナンスとセキュリティの強化
    アクセス制御や監査ログ管理を、データソースのレイヤーでなくセマンティックレイヤーでまとめて実施可能。

1.2 「唯一の真実の源泉 (Single Source of Truth)」を実現

ビジネス用語・ロジックがツール間でバラバラだと、「売上高」「純利益」の定義が部署ごとに異なるなどの問題が起こり、組織内で”どの数値が正しいのか”というトラブルが発生します。セマンティックレイヤーを導入することで、

  • すべての指標に統一的かつ正確な定義が与えられる
  • バラバラに設定されていた計算ロジックが集約される
    結果として「正しいデータを正しく使う」ための共通基盤が形成されます。
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2. 導入のメリット

セマンティックレイヤーを導入すると、以下のようなメリットが全社的にもたらされます。

2.1 データ活用の幅を広げる

  • セルフサービスBIの推進
    エンジニアやデータサイエンティストを介さず、現場のビジネス担当者が自分で分析レポートを作成できるようになり、迅速かつ柔軟な意思決定が可能になる。

  • データドリブン文化の醸成
    用語や指標の定義が統一されているため、「そもそも売上の計算方法が違う」というような初歩的な問題を回避。全員が同じ前提で議論できる環境を整備し、データ活用を自然に根付かせる。

  • 生成 AI によるデータ分析の促進
    近年注目を集める大規模言語モデル(LLM)などを活用した「生成AI」を、セマンティックレイヤーと組み合わせることで、自然言語クエリによるデータ分析が可能になります。
    ユーザーが専門的なSQLを知らなくても、「今月の売上と昨年同月の売上を比較して」といった自然言語での指示を行えば、セマンティックレイヤーの定義を参照した正確なクエリが自動生成されます。これにより、

    • 分析のハードルがさらに低下し、ビジネス担当者がより直感的にデータからインサイトを得やすくなる
    • ビジネス用語との紐づけ(セマンティックレイヤー)をAIが参照することで、間違った指標や定義を使うリスクを低減できる

2.2 コミュニケーションコストの削減

  • 用語の解釈ズレがなくなる
    「新規顧客数」「解約率」など、部署や担当者ごとに少しずつ異なっていた定義を一元化。部門横断プロジェクトの要件調整・レビューがスムーズになる。

  • ドキュメント作成とメンテナンスの効率向上
    セマンティックレイヤーが“自動的に”最新の定義を反映する仕組みを提供する場合、既存ツールに都度定義を個別設定しなくても良くなる。

2.3 データガバナンスの強化

  • アクセス制御と監査の簡易化
    どのユーザーが、どの指標・テーブルを使って分析したかを一元把握できる。規制準拠(プライバシー保護・コンプライアンス対応)にも効果的。

  • データ品質の安定化
    ビジネスロジックの変更や新規指標追加をセマンティックレイヤー側で管理することで、「あるレポートだけ数値が違う」などの事故を未然に防止。

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3. 必要となる機能

セマンティックレイヤーを構築・運用する上では、以下の機能が重要な役割を果たします。

3.1 データモデリング機能

  • 抽象化モデルの設計
    各データソースに散在するテーブル、ビュー、ファイルなどを論理的に再配置・統合する機能。スター・スキーマやスノーフレーク・スキーマなどをベースに、ビジネスユーザーが理解しやすい形へ。
  • ETL/ELTプロセスとの連携
    データウェアハウスやデータレイクにロードされた生データを、ビジネスロジックに基づき統合・加工して、必要な形に整える。dbtやETLツールとの連携で効率化が図れる。

3.2 ビジネス用語とのマッピング機能

  • ビジネス用語辞書(Data Dictionary)の構築
    「売上」「顧客数」「定期購入者」など、組織独自の用語をセマンティックレイヤー上に登録し、対応する物理テーブル・カラム・計算式を紐づける。
  • 指標定義の一元管理
    「売上高=数量×単価」「平均顧客単価=売上高 ÷ 顧客数」などのロジックを一元的に管理することで、常に同じ指標が返ってくるよう保証。

3.3 メタデータ管理機能

  • データリネージの追跡
    ある指標がどのデータソースからどう計算され、最終的にどのレポートで使われているかを把握できるようにする仕組み。
  • バージョン管理と変更履歴
    指標の定義やビジネスロジックの更新は、監査ログやドキュメントとして残し、必要があればロールバックできるようにする。

3.4 クエリ最適化機能

  • 高速なクエリエンジン
    BIやダッシュボードで瞬時に結果を返すため、インメモリエンジンやキャッシング機能を備えていることが多い。
  • マテリアライズドビューの活用
    大量データをリアルタイムで結合・集計するのではなく、事前に要約テーブルを作成しておくことで分析のレスポンスを向上。

3.5 データ提供機能

  • 統一されたアクセスインターフェース
    REST API、SQL、GraphQLなどを通じて、複数のBIツールやアプリケーションが同じセマンティック定義を使ってデータを取得できる。
  • BIツールやアプリケーションへの埋め込み
    セマンティックレイヤー側が持つ指標定義を外部ツールから呼び出すことで、各ツールに個別設定をしなくても同一のロジックを活用できる。
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4. 構築方法論

セマンティックレイヤーは、単にツールを導入すれば終わりではなく、組織全体で取り組むデータガバナンス戦略の一部として位置づける必要があります。

4.1 ステークホルダーの合意形成と要件定義

  • ビジネス側・技術側の両視点を統合
    経営指標や分析要件を理解するビジネスユーザー、データ基盤の知見を持つエンジニア、双方が共同で要件を詰める。
  • 用語や指標の標準化
    まずは最重要なKPI(例えば売上高・利益率・新規顧客獲得数など)を対象に、定義の標準化と相互理解を確立。

4.2 PoC(概念実証)の実施とロードマップ策定

  • 小規模データソースや限定的な部門から開始
    全社展開の前に、PoC(パイロット導入)で実際の運用を試し、ユーザーの使い勝手やパフォーマンスを検証する。
  • フィードバックを踏まえた改良
    PoCで得られた課題(モデルの複雑化、クエリ速度、UIのわかりにくさなど)を潰し込んでから段階的に拡張し、全社導入へとスケールする。

4.3 運用・メンテナンスと継続的改善

  • 変更管理プロセスの確立
    新たな指標追加や既存指標の定義変更時には、承認フローやドキュメント更新、バージョン管理などを適切に運用する。
  • 定期的なレビューと再設計
    事業戦略や組織体制の変化に合わせて、セマンティックレイヤーの定義やモデルもアップデート。年次・四半期単位での棚卸しが望ましい。
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5. Semantic Layer 関連のサービス

セマンティックレイヤーの概念を実装するためのサービスやツールは多数存在し、大きく3つのカテゴリに分けられます。

5.1 BI ベースのサービス

5.1.1 Power BI Semantic models

  • 概要
    MicrosoftのPower BIにおける「データセット」が実質的にセマンティックレイヤーとして機能し、テーブル関係やDAX計算を集中管理する。
  • 特徴
    • ビジネス指標やディメンションを「モデル」として定義し、一貫したロジックを全社で共有。
    • Azure Analysis Servicesと連携させることで、大規模データにも対応可能。

5.1.2 Looker

  • 概要
    Google Cloud傘下のLookerでは、LookML という独自のモデリング言語を使い、データソースと可視化の間にあるロジックをコードで管理する。
  • 特徴
    • コード管理(Git連携)が容易で、複数人での開発やレビューがしやすい。
    • 1つの「Explore」を定義すれば、Looker上のあらゆるレポートやダッシュボードで使えるため、定義がずれにくい。

5.1.3 ThoughtSpot

  • 概要
    自然言語検索インターフェースを強みに、ユーザーが検索バーにキーワードを入力するだけで分析結果を返すBIツール。
  • 特徴
    • 裏側で厳格なセマンティックモデル(リレーションや指標定義)を管理することで、「キーワード検索」と「正確な数値」 の両立を実現。
    • スケーラビリティが高く、大規模データに対してもリアルタイムに近い応答が得られる。

5.2 生成 AI ベースのサービス

5.2.1 Databricks Genie Space

  • 概要
    Databricksが提供する大規模言語モデル(LLM)を活用した解析環境。自然言語での問いかけを基にSQLを自動生成し、セマンティックレイヤーを活用する。
  • 特徴
    • 事前に定義されたセマンティック情報(テーブル・指標定義)をLLMが参照することで、複雑なクエリでも正確かつ最適なSQLを生成。
    • Delta LakeやMLflowとの連携により、大規模なデータサイエンスや機械学習パイプラインもスムーズに扱える。

5.2.2 ThoughtSpot Sage

  • 概要
    ThoughtSpotの生成AI機能。ユーザーが自然言語で質問すると、LLM(GPT-3.5/4など)がクエリ意図を解析し、最適な検索式を生成する。
  • 特徴
    • 従来のキーワード検索に加え、より複雑で自由度の高い質問にも対応しやすくなる。
    • セマンティックレイヤーの定義とAIによる自然言語解析を組み合わせることで、「正確な分析とユーザー体験の向上」を両立。

5.3 データエンジニアサービスのサービス

5.3.1 dbt Semantic Layer

  • 概要
    dbt (Data Build Tool) はSQL変換やモデル管理のプラットフォームとして広く使われており、その拡張機能として**「Semantic Layer」** が提供される。
  • 特徴
    • YAMLファイルなどを用いて指標定義を記述し、複数のBIツールやサービスから一貫した指標を利用可能に。
    • Git連携やCI/CDパイプラインとの相性が良く、チーム開発やレビューに向いた仕組みが標準装備。
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総括

セマンティックレイヤーは、データを扱う上での**「単なる技術的抽象化」** にとどまらず、組織が 「正確なデータを誰もが迷わず活用できる」 体制を築くための中核的要素です。具体的には、

  1. ビジネス用語の統一と定義の標準化
    • 部門や個人ごとに異なる指標や名称を集約し、重複や矛盾を解消する。
  2. セルフサービス分析の促進
    • 現場の担当者が専門的知識なしでも必要なデータに素早くアクセスし、意思決定を下せる環境を用意する。
  3. アクセス制御とガバナンス強化
    • 誰がどのデータを使っているか把握でき、コンプライアンス遵守やリスク管理が容易になる。

そのためには、データモデリングメタデータ管理アクセス制御クエリ最適化 といった機能が必要不可欠です。これらの機能を統合的に提供するサービスは、従来のBIツール(Power BI, Looker, ThoughtSpotなど)だけでなく、生成AIプラットフォーム(Databricks Genie Space, ThoughtSpot Sage)やデータエンジニアリング向けツール(dbt Semantic Layer)にも存在しており、組織のニーズや既存環境に応じて適切な選択を行うことが重要になります。

最終的に、セマンティックレイヤーを導入することで 「全社員が同じ定義のもと、迷いなくデータを活用できる」 世界を構築できます。それはデータドリブン経営の基礎となり、迅速かつ正確な意思決定とイノベーション創出への大きな推進力となるでしょう。