jQueryしか使ったことがないRailsエンジニアがReactを採用したお話
1. はじめに
この記事は、jQuery で Rails アプリケーションのフロントエンド開発をしてきた私が、
はじめて React を採用したプロジェクトでの経験をお伝えするものです。技術選定から実際の開発
まで、一貫して関わる機会を得て、改めて自分の考えを整理する目的で記事にしました。
具体的には以下のような内容について書いたので、興味があれば最後までお付き合いいただけますと幸いです。
- なぜ React を選んだのか
 - 開発中に直面した課題とその解決方法
 - Rails × React での開発の進め方
 
2. Reactを採用した理由
技術選定にあたり、まず Rails7から標準で組み込まれている Hotwire の採用を検討しました。
検討の際はこちらの記事を参考にしました。
記事のなかで
Hotwireを使う際にはStimulus(というかJS)をできるだけ書かずに、サーバーサイドにロジックを寄せて Turbo で処理するというのもポイントかなと思います。JSを書く量が増えるほどHotwireの良さが消えていき、React + TSを使いたくなります。
このように書かれていますが、まさにこちらの指摘は今回のプロジェクトの要件に関係していました。
具体的には以下の理由から、Hotwire の採用を見送り、React の採用を検討し始めました。
フロントエンドのロジック量
Hotwire は「できるだけ JavaScript を書かずに、サーバーサイドにロジックを寄せる」というアプローチが特徴です。しかし、今回のプロジェクトでは要件定義の段階で JavaScript の記述量が多くなることがわかっていました。このような場合、Hotwire を採用したとして良さを活かすことはできるだろうか?という不安があったので Hotwire は見送ることにしました。
UI の管理のしやすさ
プロジェクトには以下のような課題がありました。
- ユーザーの権限によって操作できるオブジェクトが変わる
 - データの状態の種類が多く、各状態ごとの UI の把握が困難だった
 
Rails で動作検証をする場合、実際にデータを作成し、ログインユーザーを切り替えながら検証する必要があります。このやり方は以前から効率が悪いと感じていたため、UI のテスト効率を向上するために Storybook が利用できないか検討しました。
Storybook を利用すれば、各状態ごとの UI の一覧を作成し、ログインユーザーの切り替えなしで動作検証が可能になると考えました。さらに、アプリケーション全体から切り離して UI の開発ができる点も魅力的でした。このように、React 単体の機能だけでなく、周辺ツールの充実した環境も React 採用の大きなモチベーションとなりました。
結論
最終的に、以下の理由から React + TypeScript の採用を決定しました。
- フロントエンドでの複雑なロジック処理に適している
 - 型安全性による開発の安全性向上
 - Storybook との組み合わせによる UI 管理の効率化
 
3. Reactを使えるようにする方法
Rails アプリケーションで React を使用する方法を検討する際、mastodon の実装を参考にしました。mastodon では、バックエンド(Rails)とフロントエンド(React)を完全に分離せず、うまく共存させています。
mastodon の実装
mastodon では React と haml が混在する構成を採用しており、以下のような特徴があります。
- 基本的な HTML 構造は Rails 側で生成
 - React コンポーネントをマウントする DOM 要素を用意
 - その DOM 要素に対して React コンポーネントを注入
 
このアプローチは以下のメリットがあります。
- バックエンドとフロントエンドを分離せずに開発可能
 - 既存の Rails の資産(ルーティング、認証)をそのまま活用可能
 - 必要な箇所だけを React で実装可能
 
実装手順
具体的な実装は非常にシンプルです。以下の手順で React コンポーネントを画面に表示できます。
- まず、Rails のビューで React をマウントする要素を用意します
 
<%# app/views/todos/index.html.erb %>
<div id="root"></div>
- 次に、その要素に React コンポーネントをマウントします
 
// app/frontend/src/index.tsx
const mountNode = document.getElementById('root');
if (mountNode) {
  const root = createRoot(mountNode);
  root.render(
    <React.StrictMode>
      <App />
    </React.StrictMode>
  );
}
- React コンポーネントを実装する
 
// app/frontend/src/App.tsx
const App = () => {
  return <div>Hello, World!</div>;
};
これで画面には「Hello, World!」と表示されます。
この方法で React の導入自体は完了しましたが、実際の開発を進めていくうえでは以下のような課題に直面しました。
- フォルダ構造をどうするか
 - 状態管理をどうするか
 - 開発の進め方をどうするか
 
これらの課題については、次の章で詳しく説明していきます。
4. フロントエンド開発の課題
フォルダ設計
一番悩んだところです。(今も悩んでいますが笑)
ベースとなる構成
まず、rails new で生成される javascript フォルダを frontend に変更し、その配下に src
というディレクトリを作成して React のコードをまとめることにしました。
フロントエンドの設計パターンを調査する中で、多くの記事から参照されている bulletproof-react というリポジトリに出会いました。
このリポジトリで採用されている「package by feature」という設計手法は、以下のメリットがあります。
- 機能ごとにフォルダを分けることで、コードの所在が把握しやすい
 - 1つのフォルダ内のファイル数を適切に保てる
 - 関連するコードが近い場所に配置される
 
bulletproof-react 以外にもこちらの記事も参考にしています。
採用したフォルダ構成
最終的には bulletproof-react の Project Structure をベースに、下記のような構成になりました。
.
└── src
├── App.tsx
├── mocks
├── components   # 共通コンポーネント
├── features     # 機能単位のコード
├── hooks        # 共通フック
├── index.tsx
├── lib          # ライブラリの設定
├── pages        # ページコンポーネント
├── providers    # Contextプロバイダー
├── routes       # ルーティング設定
├── test         # テストユーティリティ
├── api          # グローバルなAPIロジック
├── types        # 共通型定義
└── utils        # ユーティリティ関数
ただし一部要件に応じて変更を加えた部分もあるのでそこだけ追記しようと思います。
pages
pages フォルダには #root DOM 配下に追加される最上位のコンポーネントを配置しました。
ページコンポーネントは features と components のファイルで構成され、ページコンポーネントに関しては必ず Story を実装するようにしました。
features
| フォルダ | 役割 | 
|---|---|
| components | 機能固有のコンポーネント 例) CreateTodo.tsx, DeleteTodo.tsx… | 
| api | TanStack Query を使用した API フック | 
| schemas | フォームで使用する zod スキーマ定義 | 
| hooks | 機能固有のカスタム hooks | 
| types | OpenAPI で自動生成された TypeScript の型 | 
bulletproof-react の構成から変更した主なポイントは、フォームスキーマを api から分離し、schemas として独立させたところです。今回フォームの実装には react-hook-form と zod を採用したのですが、zod で定義された下記のようなコードを配置しています。
const todoSchema = z.object({
  title: z.string(),
  status: z.enum(['completed', 'incomplete'])
});
type TodoSchema = z.infer<typeof todoSchema>;
types
types フォルダには OpenAPI のスキーマから生成された型を配置しました。
OpenAPI に関しては後述します。
import type { components } from '@/swagger';
export type Todo = components['schemas']['todo'];
状態管理
React の状態管理には Redux, Jotai, Zustand...など多くの選択肢があり、どれを採用すれば良いのかかなり悩みました。そんな中、こちらの記事を見つけたのですが、React で扱う状態は以下の3種類に分類できる、という考え方に影響を受けました。
- Local State(コンポーネント内の状態)
 - Global State(アプリケーション全体で共有する状態)
 - Server State(サーバーから取得するデータの状態)
 
この分類に基づいて、今回のプロジェクトに最適な状態管理の方法を考えることにしました。
1. Local State
コンポーネント単位の状態管理には、普通に React の useState を使用しています。
- 画面の Open/Close
 
2. Global State
ページをまたいで保持し続ける必要のある状態のことで、本件では以下の状態を管理する必要がありました。
- 認証情報
 - ページをまたぐトースト通知
 
最初は Jotai などのライブラリの採用も検討しましたが、以下の理由から React の Context API を採用しました。
- 管理が必要な状態が限定的
 - 
Context APIで十分カバーできる規模感 - React-Toastify のようなライブラリの活用
 
学習コストも抑えることができて個人的には良い選択だったと思います。
3. Server State
サーバーデータの管理はデータ以外にも
- データのキャッシュ
 - ローディング状態
 - 成功/失敗のステータス
 
といった非同期の操作に関連して変化する状態も管理する必要があります。
これらを効率的に管理するため、bulletproof-react でも採用されている Tanstack Query を選択しました。
実装例は以下のようにシンプルです。
const getTodos = () => {
  return axios.get('/api/v1/todos');
}
const useTodos = () => {
  return useQuery({
    queryKey: ['todos'],
    queryFn: getTodos
  });
}
const { data, isLoading, isSuccess, isError } = useTodos();
Tanstack Query 公式からもリンクされている TkDodo's blog に主な使い方がまとめられているので、こちらを読んでおけば実装面でそこまで苦労することはないと思います。特に Inside React Query は内部で何が起きているのかをざっくり解説してくれているので、一読をお勧めします。
開発の進め方
フォルダの構造も決まって、使用するライブラリもある程度決めることができました。そこで次に「どうやって UI を効率よく開発していくか」ということを考えることにしました。
今回のプロジェクトで目標としたことは下記の3点です。
- API の開発を待たずにフロントエンド開発を進められる体制を作る
 - バックエンドから受け取る多様なデータ状態の網羅的なテスト
 - ユーザー権限に応じた UI 変更(操作可否など)の効率的なテスト
 
これらの課題に対しては、Storybook と MSW(Mock Service Worker)を組み合わせて対応することにしました。
1. APIモックによる開発の並行化
MSW は API リクエストをインターセプトすることで、リクエストに対してモックされたレスポンスで応答できるので、実際の API の完成を待たずに開発を進めることができます。具体的には下記のようなハンドラーを実装していくことになります。
handler.ts
import { http, HttpResponse } from 'msw'
export const todoHandlers = () => [
  http.get<never, never, TodosResponse, '/todos'>('/todos', () => {
    return HttpResponse.json(todos)
  }),
  http.post<TodoParams, never, Todo, '/todo/:id'>('/todo/:id', ({ params }) => {
    const { id } = params;
    const todo = todos.find(todo => todo.id === id);
    if (todo) {
      return HttpResponse.json(todo)
    }
    return new HttpResponse(null, { status: 404 })
  })
];
Storybook で MSW を使用するには msw-storybook-addon というアドオンを追加する必要があります。
2. 多様なデータ状態のテスト
各状態の Story を定義することで、さまざまな状態の UI を一覧で確認できるようにしました。
新しく入ったメンバーが一々自分でデータの準備をすることなく、UI を閲覧できるように
しておきたかったというのもあります。
todo.stories.tsx
export default {
  title: 'Pages/Todo',
  component: Todo,
  parameters: {
    msw: {
      handlers: todoHandlers,
    },
  },
} as Meta<typeof Todo>;
export const Completed = {
  name: '完了'
}
export const Incomplete = {
  name: '未完了'
}
3. ユーザー権限に応じたUI変更のテスト
Storybook の ArgTypes と Decorators を組み合わせて、ユーザー権限の動的な切り替えを実現しました。
export default {
  title: 'Pages/Welcome',
  component: Welcome,
  argTypes: {
    role: {
      type: { name: 'string', required: true },
      control: { type: 'radio' },
      options: ['管理者', '一般'],
    },
  }
} as Meta<Args>;
このように argTypes を追加して Storybook の Control タブでログインユーザーの権限を切り替えられるようにします。ただし、ログインユーザーの情報は Context API で管理しているため、これだけでは権限は変わりません。
Storybook は Decorators を使用して Story をラップできるので、 ArgTypes で選択した値に応じたユーザーのオブジェクトを Context に渡す Decorator を自作しました。
const withCurrentUser = (Story, context) => {
  const role = context.args.role; // ArgTypesで選択した値はcontextから取得できる
  let currentUser;
  if (role === '一般') {
    currentUser = generalUser;
  } else {
    currentUser = adminUser;
  }
	
  return (
    <CurrentUserContext.Provider value={currentUser}>
      <Story />
    </CurrentUserContext.Provider>
  )
}
5. APIレスポンスの型を自動生成する
TypeScript を採用する大きなメリットの1つは、型安全性です。
せっかく TypeScript を使用しているので API のレスポンスの型が欲しいです。
当初の構想:zod による手動定義
最初は zod を使用して型を手動で定義し、ランタイムでの型検証を行なうことを検討しました。
const TodoResponse = z.object({
  id: z.number(),
  title: z.string(),
  status: z.enum(['completed', 'incomplete'])
});
type TodoResponse = z.infer<typeof TodoResponse>;
const getTodos = async () => {
  const response = await axios.get<TodoResponse>('/api/v1/todos');
  
  return TodoResponse.parse(response.data);
}
しかし、この手法には以下の課題があったのでボツにしました。
- API の仕様変更時に手動での型定義の更新が必要
 - 必須項目の変更時に対応漏れが発生するリスク
 - 型定義と API 仕様の乖離が生じる可能性
 
OpenAPI の採用
上記の課題を解決するため、OpenAPI を採用して型を自動生成する方針に切り替えました。
例えば、Todo API の仕様は以下のように記述できます。
swagger.yaml
openapi: 3.0.1
info:
  title: Sample API
  version: 0.1.0
paths:
  /todos:
    get:
      summary: Todo一覧
      responses:
          content:
            application/json:
              schema:
                type: array
                items:
                  $ref: '#/components/schemas/todo'
components:
  schemas:
    todo:
      type: object
      properties:
        id:
          type: integer
        title:
          type: string
        status:
          type: string
          enum:
            - completed
            - incomplete
Stoplight による仕様定義
YAML で書く場合は上記のように記述するのですが、これを手で書いていくのは大変なので、私は
Stoplight という GUI 上で API の仕様を定義できるツールを使用しています。
最近知ったのですが、 Apidog というツールもあるみたいです。
Apidog は無料プランでも最大4名のメンバーが利用できるのでお試しで使いやすかもしれません。
TypeScript の型生成
さて OpenAPI からどうやって TypeScript の型を生成するかですが、 openapi-typescript を利用しました。使い方は簡単で↓を実行するだけです。
$ yarn openapi-typescript ./path/to/my/stoplight.yaml -o ./path/to/my/schema.d.ts
すると、このような型定義が生成されます。
export interface paths {
  // 省略...
}
export interface components {
  schemas: {
    todo: {
      id: number,
      title: string,
      /** @enum {string} */
      status: 'completed' | 'incomplete'
    }
  }
}
これにより、手動での型定義が不要になり、型定義と API 仕様が一致することが保証された状態でフロントエンドの開発を進められるようになりました。
6. 全体の開発フロー
プロジェクト全体の開発フローとして、スキーマ駆動開発を採用しました。
スキーマ駆動開発とは
スキーマ駆動開発は OpenAPI で API 仕様を事前に定義し、その仕様に基づいてフロントエンドとバックエンドの開発を進めていく手法です。
フロントエンドでは定義されたレスポンススキーマが返ってくることを想定して開発を進め、
バックエンドでは仕様どおりのレスポンスを返す API を実装していきます。
フロントエンドの開発方針は前章までに解説したとおりですので、ここでは Rails で OpenAPI を使用した場合の API 開発について説明します。
Rails での OpenAPI 実装
Rails では rswag という gem を活用して OpenAPI の仕様を生成・管理します。rswag は request spec を OpenAPI ベースの DSL で拡張し、テストと API ドキュメントの生成を同時に行なえます。このように OpenAPI のフォーマットと似た記法で request spec を書くことができます。
rswag のサンプルコード
# spec/requests/todos_spec.rb
require 'swagger_helper'
describe 'Todos API' do
  path '/todos' do
    get 'Todo一覧' do
      tags 'Todo'
      produces 'application/json'
			
      response '200', 'OK' do
        schema type: :array,
               items: { '$ref' => '#/components/schemas/todo' }
        run_test!
      end
    end
  end
end
# spec/swagger_helper.rb
config.openapi_specs = {
  schemas: {
    todo: {
      type: :object,
      properties: {
        id: { type: :integer },
        title: { type: :string },
        status: {
          type: :string,
          enum: %w[completed incomplete]
        }
      }
    }
  }
}
テストがパスすることを確認した後、rails rswag:specs:swaggerize を実行して YAML を生成し、rswag-ui を使用して公開します。さらに rswag-ui は Stoplight で生成した YAML も公開できます。
Rswag::Ui.configure do |c|
  c.openapi_endpoint '/api-docs/v1/swagger.yaml', 'API V1 Docs'
  c.openapi_endpoint '/api-docs/v1/stoplight.yaml', 'API V1 Stoplight Docs'
end
次に API レスポンスが OpenAPI で定義した仕様通りになっているかテストで保証できるようにします。
これには committee-rails という gem を使用しました。インストール後、 assert_request_schema_confirm 、assert_response_schema_confirm が使えるようになるので、上記の request spec にassert_response_schema_confirm を追記するだけでレスポンススキーマを検証できるようになります。
run_test! do
  assert_response_schema_confirm(200)
end
実際に仕様書とは異なるレスポンスを返すように変更して、テストを実行すればテストが落ちることが確認出できると思います。
スキーマ駆動開発のメリット・デメリット
メリット
実装に着手する前に API の仕様をレビューできる
API インターフェースの設計について早期にレビューすることで、データ構造やリクエストの問題点を事前に発見できます。
フロントエンドとバックエンドを並行して開発できる
スキーマを定義した時点でフロントエンドとバックエンドの開発を同時にスタートできるため、開発の待ち時間を最小限に抑えられます。
これはプロジェクト管理の面でも効果的で、タスクの並行作業が可能になり、作業の振り分けもスムーズになりました。
仕様書と実装の隔離が発生しにくくなる
スキーマを単一の情報源(Single Source of Truth)として扱うことで、API 仕様書が常に最新の状態を保てます。実装とドキュメントが別々に管理される場合によくある仕様と実装の不一致という問題を防げます。
デメリット
技術的な学習コスト
Stoplight のようなツールを使用して YAML を作成するとしても、OpenAPI の記法の学習は
必須なので学習コストは発生します。(ツールの使い方自体はすぐ慣れると思います)
また、rswag を使うことで request spec の書き方が従来の書き方とは異なるのでそこも慣れが必要になります。
ただし、これらの学習コストを考慮しても、レスポンスが仕様通りであることが担保されているという安心感があるのは価値があると思います。
7. さいごに
React 単体だけでなく、コンポーネントを独立して開発するための Storybook や、スキーマ駆動のための OpenAPI などのツールを組み合わせて開発を進めることになり、新しく技術をキャッチアップする苦労はありましたが、より良い開発体験を得ることができました。
この記事が、私と同じ Rails エンジニアの方々のお役に立てれば幸いです。
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