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後付けセンサーで発電設備を予知保全、挑戦の軌跡 ― JAWS DAYS 2024 セッションレポート

2024/03/04に公開

製造現場で稼働するポンプやモーターといった産業機器は、定期的な点検やメンテナンスによって安定稼働を確保しますが、人手や手間がかかるのも事実です。

Amazon Web Services(AWS)のサービスの1つ「Amazon Monitron(モニトロン)」は、後付け型センサーとクラウドが一度に揃う、産業機器向け予知保全ソリューションです。これは、Amazon フルフィルメントセンター(Amazonの倉庫)で実際に使われているテクノロジーが元になっているそうで、倉庫内の産業機器の予知保全に役立っているとのこと。

3/2開催の「JAWS DAYS 2024」のセッションの1つに、Amazon Monitron による火力発電設備の予知保全に取り組まれた事例があったので、その様子をレポートします。

セッション「予知保全はできるのか?Amazon Monitronによるガス火力発電所の機器監視」

本セッションは北海道ガス株式会社(以下、北ガス)の方2名による、自社のガス火力発電所の予知保全をAmazon Monitronで行った様子を紹介いただく内容でした。

https://jawsdays2024.jaws-ug.jp/sessions/timetable/D-11/


左:北海道ガス/國奥さん、右:北海道ガス/小笠原さん

前半は國奥さんより、保全業務の必要性の振り返りとAmazon Monitron導入の全体像、後半は小笠原さんより、システム構成や導入効果を紹介する流れでした。

まず、今回の仕組みは北ガスのメンバーのみで実施したことであると紹介されました。思えばエネルギー事業者がITへ主体的に取り組むこと、そして成果を披露するというのは珍しいのではないでしょうか。

國奥さんからは「既存の考え方に捕らわれることなく地域や社会に貢献できることをしていく集団、それが北ガスであり、"なのに系ガス会社" と称して活動している」と、北ガスの姿勢と國奥さん・小笠原さんの取り組みのバックグラウンドと共に解説されています。


北海道ガス「なのに系ガス会社」

保全業務の高度化と課題

保全(メンテナンス)業務は、機器の安定的な稼働に不可欠です。そのアプローチについての解説からセッションは始まりました。
まずは「事後保全」すなわち、故障をきっかけにメンテする手法です。停止しても損失が軽微であれば、このアプローチでも有効でしょう。

保全業務のアプローチと難易度
一方で、発電設備のようなインフラの停止は大きな損失になります。そこで、予防保全=故障前にメンテナンスをすることが求められますが、手法によっては難易度が高くなります。

特に予知保全は効果を評価しづらいことから、高額な投資がし辛いというのが課題とのこと。

Amazon Monitron は、加速度(振動取得)と温度のセンサーを内蔵したデバイスと、機械学習による判定をするクラウドサービスまでが一体化したソリューションです。これによる状態監視保全、そして予知保全につなげていくという挑戦が今回の趣旨です。

プラントエンジニアリングの課題と、Amazon Monitron による効果の見込み

Amazon Monitron の導入の様子

実際の取り付けの様子も披露いただきました。

Amazon Monitron 取り付けの様子
推奨されている設置条件はAmazon Monitronのドキュメントに書かれてはいるものの、実際の様子を拝見すると、Amazon Monitronの手軽さが際立っていると感じました。

Amazon Monitronのセンサーは、BLE(Bluetooth Low Energy)で情報を発信しています。そのため、Amazon Monitron ゲートウェイを通じてAWSクラウドにデータを蓄積する構成となります。
北ガスの環境下において、最長でや約18mの通信に成功していると報告されていました。BLEが利用する2.4GHzの電波は、工場や発電設備のようなところでは、金属による減衰が起こりやすいです。その中で、この数字を披露いただけたのは、1つの目安として大変ありがたい内容です。

Amazon Monitron センサーとゲートウェイの配置構成

発電停止の損失リスクとAmazon Monitronによる予知保全メリット

実際の計測データも披露いただきました。なかなかできるものではないので、本当にありがたいですね!

Amazon Monitron の計測データの様子
今回ターゲットとなった機器は、稼働後約5年と設備にしては新しい部類であり、またAmazon Monitron を設置して約半年ということもあり、今回の期間における異常の検出は無かったと報告されていました。

異常の検出が無かったのは幸いでしたが、設置による効果を見出す必要はあります。
そこで最後には、設備停止による損失と、Amazon Monitron の長期(5年)に渡る導入費用の比較を披露いただきました。

設備停止による損失と、Amazon Monitron の5年利用の費用比較

当該設備は復旧に2日間(48時間)程度かかるそうです。その間の損失額を推計すると、大きいケースで約500万円にもなります。セッション後にお話を伺ったところ、部品や作業費だけでなく、電力供給のために他社から電力を融通するための費用も内訳とのことでした。

Amazon Monitronが不得意とする機器や運用形態もあるため、万能では無い(銀の弾丸ではない)と注意喚起はしたうえで、損失推計額の10分の1以下の金額で運用でき、また省力化も含めると高い費用対効果が見込めると総括しました。

セッションを受講して ~ 事業会社の内製と、成果を披露する勇気

かつてEUC(End User Computing)という言葉がありました(今もあるけれど)。業務の担当者がITを扱う様子です。
そして現代。AWSをはじめとしてクラウドやプラットフォームによって、非機能要件を私たちが考えなくともシステムを作れる時代が来ています。EUCが "普通" になってきたからこそ、昨今の内製化の流れを作っているのだと思います。

今回のAmazon Monitronも同様です。現場や業務の専門家が中心となって進めています。既存の枠を超えた活動、すなわち北ガスの「なのに系」の心意気を感じましたし、これを支えているのは間違いなくクラウドです。

北ガスのような事業会社が事例を披露するメリットは無さそうに思えます。そこで一つの例として私が紹介しているのが、株式会社大創産業のAWS活用事例です。事例が来店者数や売上に影響するかと言えば難しいところですが、明確なメリットとして挙げられているのが人材です。事例を通じて取り組みに共感し、優秀な人材が集まったと評価されています。

「取り組みを他社に知られたくない」と、消極的な事の方が多い中、ここにも「なのに系」として披露いただいた國奥さん・小笠原さんの勇気(?)に感謝したいと思いますし、ぜひ他の事業会社の皆さんも、思考を変えてみるきっかけになればいいなと思ったセッションでした!

― Max / ご意見ご感想は X: (@ma2shita) (ハッシュタグ #jawsdays2024) でもコメントでも!

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