BERTとGPTの構造的な違い
近年の自然言語処理(NLP)の分野では、Transformerアーキテクチャをベースとした大規模言語モデル(LLM)が主流となっています。その中でも、BERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)とGPT(Generative Pre-trained Transformer)は、それぞれ異なる用途で広く使用されています。本記事では、BERTとGPTの構造的な違いについて詳しく解説します。
1. Transformerの基本構造
Transformerは、自己注意機構(Self-Attention)を用いたニューラルネットワークであり、エンコーダ(Encoder)とデコーダ(Decoder)の2つの部分で構成されます。
- エンコーダ(Encoder):入力されたトークン列全体を並列処理し、文脈情報を学習する。
- デコーダ(Decoder):エンコーダの出力または自身の前のトークンの情報を利用しながら、次のトークンを生成する。
Transformerの代表的な構造を持つモデルがBERTとGPTですが、これらはエンコーダとデコーダのどちらを利用するかに大きな違いがあります。
2. BERTの構造と特徴
BERTは、Transformerのエンコーダのみを利用するモデルであり、双方向(Bidirectional)に文脈を捉えることができるのが特徴です。
2.1 BERTのアーキテクチャ
- エンコーダのみを使用(Decoderは存在しない)。
- 双方向(Bidirectional)アーキテクチャを採用。
- **マスク付き言語モデル(Masked Language Model, MLM)と次文予測(Next Sentence Prediction, NSP)**を事前学習の目的関数として使用。
- 入力全体を一度に処理するため、文全体の情報を考慮した特徴表現を学習できる。
2.2 BERTの学習手法
BERTは以下の2つのタスクで事前学習されます。
-
マスク付き言語モデル(MLM):
- 入力文の一部のトークン(単語)をマスク([MASK])し、そのマスクされた単語を予測する。
- これにより、前後の文脈を考慮しながら単語を推測する能力を学習。
-
次文予測(NSP):
- 2つの文が与えられたとき、それらが実際に連続した文であるかどうかを判定する。
- 文の関係性を学習することで、長いテキストにおける理解を向上させる。
2.3 BERTの用途
BERTは、文の理解を目的としたタスクに適しています。
- 自然言語理解(NLU)
- 質問応答(Question Answering, QA)
- 文書分類(Text Classification)
- 命名エンティティ認識(Named Entity Recognition, NER)
BERTは、文全体を一度に処理し、双方向の文脈を考慮できるため、高精度な理解が可能です。
3. GPTの構造と特徴
GPTは、Transformerのデコーダのみを利用するモデルであり、一方向(Unidirectional)に文脈を捉えながらテキストを生成するのが特徴です。
3.1 GPTのアーキテクチャ
- デコーダのみを使用(Encoderは存在しない)。
- 単方向(Unidirectional)アーキテクチャを採用。
- **自己回帰モデル(Autoregressive Model)**として学習し、次の単語を予測する。
- **因果マスク(Causal Masking)**を使用して、未来のトークンを見えなくする。
3.2 GPTの学習手法
GPTは、自己回帰(Autoregressive)による**言語モデル(Causal Language Model, CLM)**を学習します。
-
自己回帰言語モデル(CLM):
- 入力として過去の単語列を受け取り、次に来る単語を予測する。
- 未来の単語は見えないようにするため、因果マスク(Causal Mask)を適用。
- 言語生成に最適なトレーニング手法。
3.3 GPTの用途
GPTは、テキスト生成を目的としたタスクに適しています。
- 文章生成(Text Generation)
- チャットボット(Chatbot)
- 対話システム(Conversational AI)
- コード生成(Code Generation)
GPTは、過去の文脈をもとに一つずつ単語を予測していくため、長文生成やストーリー作成に適しています。
4. BERTとGPTの比較
モデル | アーキテクチャ | 学習手法 | 文脈の捉え方 | 主な用途 |
---|---|---|---|---|
BERT | Encoder-only | MLM, NSP | 双方向(Bidirectional) | 文の理解、質問応答、分類 |
GPT | Decoder-only | CLM | 単方向(Unidirectional) | 文章生成、チャットボット、対話AI |
4.1 主な違い
-
アーキテクチャの違い
- BERTはエンコーダのみ、GPTはデコーダのみ。
- BERTは双方向、GPTは単方向。
-
学習方法の違い
- BERTはMLM(マスクされた単語の予測)、GPTはCLM(次の単語の予測)。
- BERTは静的な表現学習、GPTは動的な文章生成。
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用途の違い
- BERTは文の理解が得意。
- GPTはテキストの生成が得意。
5. まとめ
BERTとGPTはどちらもTransformerを基盤としていますが、
- BERTはエンコーダのみを使用し、双方向に文脈を理解するため、自然言語理解(NLU)に適している。
- GPTはデコーダのみを使用し、単方向にテキストを生成するため、自然言語生成(NLG)に適している。
これらのモデルを適切に使い分けることで、NLPタスクにおいて高精度な成果を得ることができます。
以上、BERTとGPTの構造的な違いについての解説でした!
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