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MCMCと変分推論(VI)の違いと使い分け
1. はじめに
ベイズ統計や機械学習の分野では、未知のパラメータの分布を推定するためにマルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)や変分推論(VI, Variational Inference)が使われます。どちらも確率分布を推定する方法ですが、計算方法や適用場面が異なります。
このブログでは、MCMCと変分推論の違いをシンプルに解説し、それぞれのメリット・デメリット、使い分けのポイントを紹介します。
2. MCMCとは?
✅ 確率分布をサンプリングで推定する方法
MCMC(Markov Chain Monte Carlo)は、サンプルをたくさん生成することで確率分布を近似する手法です。
MCMCの基本的な流れ
- 適当な初期値を設定する。
- マルコフ連鎖(現在の状態に基づいて次の状態を決める)を使って、新しいサンプルを生成する。
- 多くのサンプルを集めることで、目的の確率分布に近づく。
代表的なMCMCアルゴリズム
- メトロポリス・ヘイスティングス法(MH法):サンプルをランダムに受け入れる or 拒否することで、正しい分布に近づける。
- ギブスサンプリング:パラメータを一つずつ更新しながらサンプルを得る。
MCMCのメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
精度が高い(真の分布に近いサンプルが得られる) | 計算コストが高い(サンプルを大量に生成する必要がある) |
高次元の複雑な分布でも推定可能 | 収束が遅く、サンプルの依存性が高い |
ノンパラメトリックなモデルにも適用可能 | 調整パラメータ(バーンイン期間・ステップ数など)が必要 |
3. 変分推論(VI)とは?
✅ 確率分布を関数で近似する方法
変分推論(Variational Inference, VI)は、複雑な確率分布を計算しやすい分布(ガウス分布など)で近似する手法です。
変分推論の基本的な流れ
- 近似する確率分布(q分布)を設定する。
- q分布のパラメータを調整し、目的の確率分布(p分布)にできるだけ近づける。
- 収束したq分布を推定結果として利用する。
VIのメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
計算が速い(最適化問題として解ける) | 近似の誤差が発生する(本来の分布と異なる形になることがある) |
大規模データにも適用可能 | 高次元データでは適切なq分布を選ぶのが難しい |
収束が速い(MCMCよりも早く結果を得られる) | 計算可能な近似分布に限定される |
代表的なVIアルゴリズム
- ブラックボックス変分推論(BBVI):確率分布をニューラルネットなどで表現。
- ステップサイズ調整付きの最適化(ADVI):自動的にスケール調整して最適化。
4. MCMC vs. 変分推論(VI):どちらを使うべき?
どちらの手法を使うかは、目的や計算リソースによって異なります。
比較項目 | MCMC | 変分推論(VI) |
---|---|---|
精度 | 高い(真の分布に近い) | 近似(本来の分布とはズレる可能性あり) |
計算時間 | 遅い(大量のサンプリングが必要) | 速い(最適化で解ける) |
高次元問題への対応 | 可能(ただし計算負荷が大きい) | 難しい(適切な近似分布が必要) |
大規模データへの適用 | 難しい(計算コストが大きい) | 可能(スケールしやすい) |
✅ MCMCを使うべきケース
- 高い精度が必要な場合(近似誤差を許容できない)
- データサイズが小さく、計算コストが許容できる場合
- 高次元の複雑な分布を扱う場合
✅ 変分推論を使うべきケース
- 高速な推論が必要な場合(リアルタイムでの推定など)
- 大規模データを扱う場合(ビッグデータ向き)
- 計算リソースが限られている場合
5. まとめ
MCMCと変分推論(VI)は、確率分布を推定するための代表的な手法ですが、それぞれ異なる強みがあります。
- MCMC は「精度重視」、しかし「計算コストが高い」。
- 変分推論 は「計算効率重視」、しかし「近似誤差がある」。
💡 実務では、両者を組み合わせて使うことも多い!
例えば、まずVIで大まかに推定した後にMCMCで精度を上げるといったアプローチが取られることもあります。
MCMCとVIの特性を理解し、状況に応じて適切な手法を選択しましょう!🚀
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