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RAGプロフェッショナルになるために知っておくべき全てのこと

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〜構造理解・技術選定・実装・評価指標・応用設計まで〜

こんにちは、AIエンジニアの中野哲平です。

ChatGPTやClaudeなどの大規模言語モデル(LLM)が注目を集める中、「Retrieval-Augmented Generation(RAG)」は、LLMを現実の業務・データに適用するための最も実用的なアーキテクチャとして急速に普及しています。

しかし、「RAGやってます」という現場でも、
実は「ただ検索結果をプロンプトに貼り付けてるだけ」なケースが多く、本来のRAGの強みを活かしきれていないこともしばしば。

この記事では、RAGのプロフェッショナルとして知っておくべき理論・設計・実装・評価・応用の知見を、体系的にかつ実務目線で解説します。


🔍 そもそもRAGとは何か?

RAGとは、**検索(Retrieval)生成(Generation)**を組み合わせたアーキテクチャのことです。

従来のLLMは学習済みの知識しか持ちませんが、RAGは外部データベースからリアルタイムに関連情報を引っ張ってきて、それを文脈に使って回答を生成します。

🔑 RAGが解決する3つの課題

  1. 知識の最新性(モデルのトレーニングデータが古くても、最新情報を検索できる)
  2. ドメイン特化(医療、法務、社内文書など、独自の情報を使える)
  3. 幻覚の抑制(回答に根拠を持たせることができる)

🧱 RAGの基本構造

[ユーザー質問]
     ↓
[Retriever] ← ベクトル検索・全文検索
     ↓
[Contextual Document(s)]
     ↓
[Prompt with Context]
     ↓
[LLM (Generator)]
     ↓
[Answer]
  • Retriever:関連情報をDBから検索(例:Faiss, Elasticsearch, Weaviate)
  • Generator:検索結果をもとにLLMが応答生成(例:GPT-4, LLaMA, Claude)

🔧 Retriever設計の極意(プロフェッショナル領域)

① Chunking(文書分割)の戦略

  • 段落単位 vs 文単位 vs セマンティック分割
  • 重複コンテキストを減らすスライディングウィンドウ法
  • 「タイトル+本文」や「セクションヘッダー付き」で意味強化

② Embeddingの選定

  • OpenAI / Cohere / HuggingFace の埋め込みモデル
  • ドメイン特化(医療:BioBERT、法務:LegalBERTなど)
  • 多言語対応(日本語ではcl-tohoku/bert-base-japaneseなど)

③ 検索手法の選択

  • ベクトル検索(Semantic Search):意味の近さでマッチング
  • キーワード検索(BM25):正確なキーワードに強い
  • ハイブリッド検索:上記を組み合わせてリランキング

🎯 Generator(LLM)との連携で注意すべき点

① プロンプト設計

  • Context-awareプロンプト:「以下の文書に基づいて…」
  • 根拠の明示:「出典付きで答えてください」
  • 複数文書の結合戦略:文書の順序で出力が変わる場合あり

② Token管理

  • 長いコンテキストの扱い(GPT-4 128K、Claude 200Kなど)
  • Token量制限対策:重要度順で削る、要約して埋め込む

③ Generation制御

  • TemperatureやTop-pで出力の安定性と多様性を調整
  • Retrieval内容に強く依存させる「Reference強化プロンプト」

📏 評価指標とその設計

RAGでは、RetrieverとGeneratorを分けて評価するのが鉄則です。

Retrieverの評価

  • Recall@k:正解文書がTop-kに含まれる割合
  • MMR(Maximal Marginal Relevance):多様性と冗長性のバランス
  • Mean Reciprocal Rank(MRR):順位付き正解率

Generatorの評価

  • Faithfulness(事実性)
  • Relevance(質問への適合性)
  • BLEU / ROUGE / METEOR:参考回答との類似度(特に要約)

⚙️ 実装スタック(プロフェッショナル向け)

コンポーネント ツール / ライブラリ例
Embedding sentence-transformers, OpenAI Embedding
ベクトルDB Faiss, Weaviate, Pinecone
Retriever LangChain Retriever, Haystack
Generator transformers, vLLM, OpenAI API
組み込み基盤 LangChain, LlamaIndex, Haystack
フロント連携 FastAPI, Streamlit, Gradio

🧠 応用パターン(RAGの展開力)

  • 社内ナレッジQAボット(SharePoint / Notion連携)
  • 医療QA with citation(出典付き生成)
  • 法務ドキュメントのRAG要約
  • マルチモーダルRAG(画像とテキストのハイブリッド)
  • Long-form QA + Multi-hop RAG(複数文書をまたぐ生成)

💡 最近のRAG関連の進化トピック(2024〜)

  • Self-RAG:LLMが自らリトリーブ文書を再選択・再評価
  • RRHF + RAG:Human Feedbackを活かしたRetrieverチューニング
  • Conversational RAG:前の履歴も踏まえて動的検索(Chat型RAG)
  • Memory-RAG:RAGと長期メモリ(LangGraph, MemoryStore連携)

✍️ まとめ:RAGは「設計」が命

RAGは、LLMを業務や現場に実装するための架け橋ですが、その性能は

  • Retrieverの精度
  • プロンプトの工夫
  • Token制御と生成抑制
  • 評価手法の明確化

といった設計の巧拙によって大きく変わります。

プロフェッショナルとしてRAGを使いこなすには、「LLMだけでなく検索と評価に深く精通する」ことが何よりも重要です。


次回は、「LangChainでRAGを実装する際のベストプラクティス」をテーマに、コード付きで解説予定です。
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