useReducer で華麗にステート管理をする
フライさんです.
限界開発鯖アドベントカレンダーの 16 日目の記事です.15 日目は Saigyo_HBK さんの YOLOX+motpyで始めるMultiple Object Tracking(MOT) でした.精度すごい…
🚚 ステート管理
みなさん,ステート管理はしていますか? 僕はよくしています.
🔄 useState を使ったステート管理と限界
普通 React の Function Component でステートを管理するとき,useState を採用することが多いと思います.
import React from "react";
export const SomeComponent: React.VFC = () => {
const [text, setText] = React.useState("");
return (
<input
type="text"
onChange={(e) => setText(e.target.value)}
/>
);
}
ある程度の規模のコンポーネントなら useState で困らないと思います.が,これが複雑になってくると少し困ります.
🧵 複雑なコンポーネント
例えば,都道府県と市町村区を選択する コンポーネントを考えてみましょう.都道府県のリストはこちら側で持っていますが,市町村区は国が提供してくれてる API から取得します.
シーケンス図です.

このコンポーネントを作るにあたっては,以下の 3 つのステート[1]が必要になりそうです.
-
選択された都道府県
デフォルトでは一番上 (1 番目,0-indexed で 0 番目) が選択されている. -
API から取得した市町村区リスト[2]
まだ取得していない場合はundefined. -
選択された市町村区
選択されていない場合はundefined.
これを考慮して,useState を用いてコンポーネントを実装するとこうなります.
私が問題だなあと考えているのは,「このコード,ステート管理に費やすコード量が多くない?」ということです.コード量が多いと単純にコードの見通しが悪くなり,読むのに頭を使い疲れるという問題があります[3].またステートの変更が愚直に書かれていて,「何がしたいのか」がひと目でわかりにくいです.
const [selectedPrefIndex, setSelectedPrefIndex] = React.useState(0);
const [cities, setCities] = React.useState<City[] | undefined>(undefined);
const [selectedCityIndex, setSelectedCityIndex] = React.useState<number | undefined>(undefined);
React.useEffect(() => {
setCities(undefined);
setSelectedCityIndex(undefined);
fetchCities((selectedPrefIndex + 1).toString().padStart(2, "0")).then((c) => {
setCities(c);
setSelectedCityIndex(0);
});
}, [selectedPrefIndex]);
このコンポーネントのコードの見通しをよくしたくなったとき,このステートの変更を別の関数に切り出す という手法が考えられます.こんな感じで書けるとうれしいです.
const [selectedPrefIndex, setSelectedPrefIndex] = React.useState(0);
const [cities, setCities] = React.useState<City[] | undefined>(undefined);
const [selectedCityIndex, setSelectedCityIndex] = React.useState<number | undefined>(undefined);
React.useEffect(() => {
+ clearCityList();
fetchCities((selectedPrefIndex + 1).toString().padStart(2, "0")).then((cities) => {
+ updateCityList(cities);
});
}, [selectedPrefIndex]);
ただし実際に実装してみようとすると…あまり一筋縄では行かないことがわかります[4].それに,上部のステート定義も煩わしく感じられてしまいます.
この,
- ステート管理を一括で,コンポーネント外のどこかしらでやりたい!
- ステート管理を関数呼び出し (的な感じ) でやりたい!
という願いを叶えるものがあります.Reducer パターン と,それを React の Function Component で実現しやすくする useReducer フックです!
🔀 Reducer パターン

いまいちわかりにくい Reducer パターンのアーキテクチャの図
Reducer パターンの大きな特徴は reducer の存在です (名前にもなっています). reducer に ステート計算の種類と引数にあたる "Action" と 現在の "State" を渡す (dispatch) と,それを基に 新しい State を計算してもらえます.それを新しく state として保存する…という流れになります.
React では,この Reducer パターンを Function Component で取り扱いやすくするために,dispatch した後の setState まで面倒を見てくれる useReducer というフックが存在します.Function Component で Reducer パターンを用いる場合は,基本的にこのフックを利用することになると思います.
✨ ここがうれしい Reducer
Reducer はその性質から,コンポーネントの関数とステート管理を分離できる という利点があります.そうすると,Function Component 自体の実装が書いてあるファイルの情報量が削減されるほか,ステート管理のテストも格段にしやすくなります.
🔎 具体例
一度具体的なコードの例を見てみましょう.
-1 と +1,リセットができるカウンタを Reducer を用いて実装する例を考えてみます.
Sandbox の URL をここに貼っておきます.
setState で実装した例です.
🪄 ステート管理部分を見てみる
コードの上から順に,Reducer パターンに現れる要素を見てみます.
📦 State
State は単純に,コンポーネントが持つ状態を説明しているのみです.
上記のコードでは,同時に初期状態 (initialState) も定義しています.
type State = {
count: number
};
const initialState: State = {
count: 0
};
📒 Action
Action はこのように定義されています.
type Action =
{
type: "INCREMENT",
args: { delta: number }
} |
{
type: "DECREMENT",
args: { delta: number }
} |
{
type: "RESET"
};
一般化するとこのように書き表すことができます.[5]
type Action = { type: string, args: any };
このように,type で計算の種類を定義して,args でその計算の種類ごとの引数の型を定義してやることで Action が定義されます.[6]
🍳 reducer
実際の Reducer はこのように実装されています.[^7]
const reducer = (state: State, action: Action): State => {
switch(action.type) {
case "INCREMENT":
return { count: state.count + action.args.delta };
case "DECREMENT":
return { count: state.count - action.args.delta };
case "RESET":
return { count: 0 };
}
}
返り値が State になっていることから,reducer は State を返している ということがわかります.また,Action の type を用いて計算処理を選び,args から計算に必要な情報を持ってきています.
TypeScript のすごいところ
TypeScript は,文脈から行われる型推論が尋常じゃなくすごいです.
// snip
switch(action.type) {
case "INCREMENT":
return { count: state.count + action.args.delta };
// snip
このコードの return で使われている,action.args の型について考えてみましょう.
このとき,action.type の値は INCREMENT で確定しています.そうすると,action の型は…
{
type: "INCREMENT",
args: { delta: number }
}
に決まりそうです.そうすると,args の型も { delta: number } になりそうです.
TypeScript はすごいので,ここまで考えてしっかりと args の型を { delta: number } に推論してくれます.なので,ここで action.args.foo などを参照しようとするとちゃんと怒られます.
また…
// snip
case "RESET":
return { count: 0 };
// snip
についても同様で,action.type が RESET に決まるので,action の型は…
{
type: "RESET",
}
に決まり,action.args の型は never になります.
✨ 構造のまとめ
まとめると,
- State 管理したい状態の構造を定義する
-
Action に
typeとargsをもたせ,操作とその引数の組を定義する -
reducer の中で,Action の
typeを基に処理を選び,argsを参考に処理をする
というのが Reducer パターンの実装の構造のおおまかなまとめになります.
🎨 表示部分を見てみる
これまで,ステート管理に限定された部分を見てきました.実際にこの Reducer パターンを React の Function Component で使用する際はどのような実装になるのでしょうか.
このようになります.同じように上から構造を見ていきます.
🙋 useReducer
const [state, dispatch] = React.useReducer(reducer, initialState);
useReducer は Function Component で Reducer パターンを利用するときに用いられるフックです.
reducer (関数) と initialState (初期状態) を渡すことで,現在の状態が保存される state と "dispatch" を行う関数 dispatch の 2 つをもらうことができます.
🚀 dispatch
// dispatch({ type: "DECREMENT", args: { delta: 1 } });
dispatch({
type: "DECREMENT",
args: {
delta: 1
}
});
先述したように,dispatch 関数を用いて "dispatch" を行います.dispatch を行ったあと,reducer の返り値は 自動で state に反映されて useState と同じように再レンダリングが走ります.
Dispatch は,現在の state と,type 及び args を持つ "Action" を "reducer" に渡すことを言うのでした.ここでは,type が "DECREMENT", args が { delta: 1 } な Action を渡して Dispatch を行っていることがわかります.
勘のいい人は,「あれ? state 渡してないけど」ということに気づくかもしれません.実は,dispatch() は自動で現在の state を Action と一緒に reducer に送ってくれます.なので,開発者は Action を渡せば自動で state も含めた Dispatch を行ってくれる…ということになります.
✨ 構造のまとめ
まとめると,
-
useReducerでstateとdispatchをもらう. -
dispatchで Action を渡し,reducer に dispatch してもらう.- reducer が計算した新 State は自動で state に反映され,再レンダリングが走る.
-
dispatchを呼んだ時,state は自動で reducer に送られるので開発者は Action だけ渡せば良い.
というのが Reducer を useReducer を用いて Function Component から使用する際の構造のまとめです.
🔬 Reducer パターンの動きをトレースしてみる
ここで,ボタンを押されたときの Reducer パターンの動作をトレースしてみます.別タブで CodeSandbox を開いていただくといいかもしれません.
カウントが 5 のとき,"Increment" ボタンが押された としましょう.
このときの State は { count: 5 } になります.
"Increment" ボタンは,ここで定義されています.
<input type="button" value="Increment" onClick={handleIncrement} />
ここがクリックされるので handleIncrement 関数が呼び出されます.
const handleIncrement = () => {
dispatch({ type: "INCREMENT", args: { delta: 1 } });
};
handleIncrement が取り扱うのは dispatch 関数.type は INCREMENT,args は { delta: 1 } な Action が渡されています.
dispatch 関数が呼び出されると,自動で state が補完されて reducer が呼び出されるのでした.
ここで舞台は移って controller.ts に移ります.
export const reducer = (state: State, action: Action): State => {
ありました.reducer 関数です.state は useReducer によって補完してもらえているので,ここの引数には…
-
state ={ count: 5 } -
action ={ type: "INCREMENT", args: { delta: 1 } }
が入ります.
switch(action.type) {
case "INCREMENT":
return { count: state.count + action.args.delta };
case "DECREMENT":
return { count: state.count - action.args.delta };
case "RESET":
return { count: 0 };
}
reducer 関数の中に鎮座していたのは switch です.reducer は action.type を基に処理を選ぶのでした.
action.type の値は "INCREMENT" です.そうすると,以下の処理が実行されることになります.
// case "INCREMENT":
return { count: state.count + action.args.delta };
state.count は 5,action.args.delta は 1 です.5 + 1 は 6 なので,この reducer 関数からは { count: 6 } が返ります.
ここで,dispatch 関数は reducer 関数を呼び出した後,その返り値を 自動的に state に反映してくれるのでした.
というわけで,無事に { count: 5 } は { count: 6 } に更新され,表示上のカウントも 5 から 6 に増えました.めでたしめでたし.
🧵 複雑なコンポーネントを Reducer で実装してみる
Reducer パターンを導入する前に提示したコンポーネントを,Reducer パターンで実装してみましょう.
管理する State の内容などは特に setState バージョンと変化はありません.
コード量は増えてしまいました…が,愚直に書かれたステート操作がなくなった ので useState の例よりもすんなりとコードが読めるのではないかと思います.
📝 まとめ
useReducer のうれしいところ
-
View から愚直なステート操作のロジックを取り除ける!
- 代わりに Action を渡しての Dispatch に置き換わる!
-
ステート操作を別ファイルに切り出せる!
- Function Component を定義しているファイルの情報量が減る!
- テストがしやすくなる!
Reducer パターン
-
reducer がキモ!
-
dispatch をする.
- 操作の種類を表す
typeと操作の引数を表すargsを持った Action - 現在の State
これらを reducer に渡すことを dispatch という.
- 操作の種類を表す
-
actionを基に,stateの値をいじり,新しい State を計算する. -
その State をコンポーネントに反映させる.
-
-
useReducerフックは dispatch 周りの面倒を見てくれるので便利!
👋 おわりに
初めての技術記事で至らぬ点が多すぎると思いますが,ここまで読んでくださりありがとうございました!
なにかご提案やマサカリがあれば飛ばしてくださると勉強になるのでぜひよろしくお願いします 🙏
-
都道府県リストは,最初からこちら側で持っていて状態が変化し得ないのでステートとしては列挙しませんでした. ↩︎
-
最初はこちら側で市町村区のデータを持っていない状態ですが,後から取得して持っている状態になり,状態が変化し得るので,市町村区リストはステートとして管理しなければなりません.また,都道府県が選択されるたびにリストの中身も変化したりします ↩︎
-
読んでくださっている方の中にも,ステート管理のコードを見て顔をしかめた方がいるかもしれません. ↩︎
-
ステートを司るクラスを作ってそれを Function Component で使うという手法が思いつきましたが,「それをするなら Class Component でよくない?」と思ってしまいました.ただ,プロジェクトの中の別のコードが全部 Function Component であるような状況だと,Class Component を書くのは多少勇気がいるかもしれません. ↩︎
-
stringは実際にはstring型リテラルの Union 型になると思います.また,anyを使っていますが,「ここは何でも良いよ」という意味であって,anyを使おうねという意味ではもちろんありません. ↩︎ -
このように Action を定義してあげると,TypeScript の文脈に基づく型推論の物凄さをふんだんに活用することができます.後述のコードについている注釈で詳しく述べています. ↩︎
Discussion
記事には関係ないのですが、スマホのchromeで記事を見てるとサンドボックス部分で超拡大してしまいます。
非常に分かりやすい記事だと思ったのでコメントいたしました。
ありがとうございます!! 励みになります!
超拡大か…解決できる方法はないか調べて見ます.ありがとうございます 🙏
useContextで複数コンポーネント間で状態を持ち回れるようにハンドリングしてみました。
nextStateへの状態算出はimmerを使って実現してみました。
デモコードです。
簡単ですが、以上です。