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自律的組織の設計図:ジャズに学ぶ5つの原則

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ログラスはジャズです

優れたプロダクト開発チームと、卓越したジャズ・アンサンブル。
実はこれ、目指すところや抱えがちな課題は同じなんです、って言ったら、信じられるでしょうか。


はじめに

はじめまして。
2025年6月から、株式会社ログラスへ QA として入社しました、テラと申します。
音楽系の人生設計から、何の因果か QA の世界へと飛び込み、直近ではオンラインゲーム QA を担当しておりました。
前回の Loglass Tech Blog 担当である、同じゲーム業界出身の Akinov さんと同じタイミングでログラスへ入社したので、やはり自分はゲームに愛されていると勝手に運命を感じています。

https://zenn.dev/loglass/articles/b77d9f4ca8dca0

さて。
ログラスでは事業の成長に伴って、アジャイルフレームワークとして FAST (Fluid Adaptive Scaling Technology) を導入していました。

https://agilejourney.uzabase.com/entry/2024/12/23/103000

ログラスへのジョイン前に FAST について少しばかり勉強したものの、どう頑張っても「なるほど、わからん」という感想しか出てきませんでした。
それでも、入社してからログラス独特のスピード感に翻弄され、どうにか体が慣れて来たころに、ふと頭に思い浮かんだのです。

なるほど、これはジャズだと。

ジャズと学習する組織

ソフトウェア開発と演奏では、全く異なる世界のように思えます。
しかし、その根底に流れる「人が集まり、価値を創造する」という原則には、多くの共通点が存在します。

自分は昔、音楽で食べていこうとジャズを学んだ時期がありました。未熟ながらも教え教わる過程で、自分の技術を磨き、他者と瞬時に呼応しながらお互いに高め合い、協創する。そんな時間が、とてもヒリつく緊張感で心地よいものでした。

この協創の原体験を、今、自分はログラスのプロダクト開発チームに再発見しています。ここでは、自分が抱いていた一般的な開発チームへのイメージを(もちろんいい意味で)根底から覆してくれました。

10分勉強会の取り組み、各所での登壇や発信と、ここではメンバーの一人ひとりが絶えず能力を磨き、互いを深くリスペクトし、共に学びながら最高のプロダクトを目指しています。自らの業務が全体にどう貢献するかを理解し、自律的に動くこのあり様には、おそらくログラス QA の品質富士山の概念も強く寄与しているのだと思います。

https://note.com/k_kotatsu1992/n/n8fbdec5d5043

その姿は、個々の音色が高度な技術によって奏でられ、完璧に調和しながらも、自由な即興を繰り広げるジャズセッションそのものです。そしてこのあり様が、経営学者ピーター・センゲが提唱した「学習する組織」(※)と重なりました。

今回は、このジャズの原体験と、私なりに解釈した「学習する組織」の姿を重ね合わせ、「静的な構造」と「動的な実践」という二つの側面から、自律的組織の本質を探ってみたいと思います。

※ センゲについての自分の理解は浅く、あくまで一人の実践者としての解釈に過ぎません。識者の方からご指摘など頂けますと、たいへんありがたく存じます


◆静的な構造:チームの安定性を支える「骨格」

最高の演奏は、それを支える強固な土台となる基礎があって、初めて可能になります。
これは言わば、チームの活動の前提となる共有されたルールや役割、そして目標です。

1. システム思考 ⇔ 音楽理論:全体の構造を捉える共通言語

システム思考とは、個々の事象を切り離して見るのではなく、それらが相互に影響し合う一つのシステムとして、全体の構造やパターンを捉える思考法です。
これに一致するのは音楽理論と言えそうです。
音楽理論は、音、ハーモニー、リズムといった要素がどう関係し合い、一つの楽曲というシステムを形成するかを体系化した共通言語となります。
この共通言語があるからこそ、チームは全体最適を志向し、「一部の和音が正しくても、全体の響きを壊す」といった部分最適の罠を回避できるのです。
また、音楽における緊張(テンション)と解決(レゾルーション)の関係のように、フィードバックループを認識する解像度も高まります。

2. 自己実現 ⇔ 楽器の音色:多様性が生み出すシナジー

自己実現とは、自らが持つ独自の機能や価値を深く理解し、磨き上げることです。
これは、それぞれの楽器が持つ固有の音色を探求するプロセスそのままです。
オーボエの音色はトランペットでは基本的に代替不可能であり(稀に代替できてしまう人もいますが)、その多様性こそが、アンサンブル全体の表現力を豊かにします。
チームにおいても、各専門職が他者になろうとするのではなく、自らの「音色」を磨き、その共鳴によってシナジーを生み出すことこそが、個人の成長と組織の成功を両立させることに繋がります。

3. 共有ビジョン ⇔ モチーフ:活動を方向づける中心思想

ビジョンは、チーム全体の活動に一貫性を与え、方向性を示す中心的な思想です。
音楽におけるモチーフ(≒主題、繰り返されるメロディ)は、このビジョンの役割を見事に果たします。
優れたモチーフは、誰もが記憶しやすく伝播力があるだけでなく、楽曲の中で様々に形を変えながら展開していく展開可能性を秘めています。
同様に、優れたビジョンもまた、様々な状況で多様に解釈・応用されながら、チームの創造性の源となります。


◆動的な実践:価値を創造する「血流」

強固な構造の上で、日々の価値創造を担うのが動的な実践です。
これは、変化する状況にリアルタイムで対応していく、チームのパフォーマンスそのものです。

4. メンタルモデル ⇔ 音楽的語彙:個人の思考と判断の様式

メンタルモデルとは、個人が無意識に依拠している思考の前提やパターンです。
これは、演奏者が即興で使う、手持ちの音楽的語彙の集合体に相当します。
その語彙は、長年の経験を通じて内面化された暗黙知や経験則であり、ジャズにおけるリック(短い決まり文句)のように、複雑な状況で迅速な判断を可能にする思考のショートカットとして機能します。
でも、常に同じ手癖で演奏されたら、だんだん飽きてしまいますよね。つまりこの語彙は固定的なものではなく、外部からの刺激や新たな経験によって常に更新・進化させていくのが望ましいものです。

5. チーム学習 ⇔ インタープレイ:集合知が生まれる相互作用

チーム学習とは、個人の能力の総和を遥かに超える「集合知」が生まれる状態を指します。
これを音楽で表現するなら、それはインタープレイに他なりません。
インタープレイは、対話と傾聴(コール・アンド・レスポンス)を起点とし、個々の相互作用から誰も予測しなかったアイデアが生まれる創発の連続です。
こうした創造的なセッションは、既存の理論から外れた音すら新たなアイデアのきっかけとなりうる心理的安全性の高い場があってこそ可能になります。


おわりに:最高のグルーヴとは?

「ログラスのプロダクト開発とジャズは、どこか似ているかもしれない」

そんなふとした思いつきから、様々なことを音楽に喩えてみました。すると、我々が日々感じている課題や、目指すべき姿に関して、驚くほど多くの共通点が見えてきたように思います。
同時に、これから我々が特に課題としていきたいと感じた、2つの気づきがありました。

1つ目は、優れたパフォーマンスは、ただ何の制約もない完全な自由から生まれるわけではない、ということです。理論や技術、そして「この曲で何を伝えたいか」というテーマが体に染み込んでいるからこそ、心からの自由なプレイが生まれます。
この関係性は、私たちの仕事にもそのまま当てはまります。揺るぎない土台となる骨格があって初めて、急激な変化にも混乱せず、しなやかな対応が可能になります。

そしてもう1つ。
これまで、ログラスでの連携を「インタープレイ」に喩えてきました。しかし、よく考えると、非常に重要な登場人物が抜け落ちていました。それが、演奏を聴いてくれる観客です。
私たちのプロダクトも、それを使ってくれるユーザーという観客がいて、初めて意味を持ちます。その反応や声援、そして時には厳しい沈黙に対して、真摯に向き合うことなしに、本当に良いものは作れないのだと、改めて気づかされます。

どんなにリアルタイムな対話ができる関係性が築けていても、前提となる演奏技術や目指すべきモチーフにギャップがあれば、悲劇を生みます。どれだけお互いが高い技術を持ち合わせていても、演奏中に対話できない関係性では、早晩に瓦解します。
そしてどんなにすばらしいパフォーマンスでも、それが真に観客へ向けた演奏ではないのなら、その音はどこか息苦しく、ゆるやかに停滞していきます。
これらが、いわゆる「音楽性の違い」です。

揺るぎない基礎が、しなやかなパフォーマンスを支え、観客と一体となって呼応する。
この三柱が実現してこそ、きっと最高のグルーヴが生まれるのでしょう。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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