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会議設計の支援 AI を作って気づいた、AI は「考え方を組織で再利用する媒質」であるという話

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こんにちは、ログラスで EM をしている塩谷 @shioyang です!

最近、社内で利用している Gemini の Gem で「会議設計の支援 AI」という AI エージェント(ここでは特定の目標達成のために自律的な思考と対話を行うAIを指します)をつくったのですが、その過程で AI に対する見方が根本から変わる経験をしました。

この記事では、AI を単なる「人」のような存在から「考え方を組織で再利用する媒質」として捉え直すに至った経緯と、その視点に立ったとき、今後わたしたちの考えるという行為や組織にどのような可能性をもたらし得るのか、その理想像も併せて整理していきます。
AIとの向き合い方や、組織での未来の活用のヒントになれば幸いです!

はじめに:会議設計の支援 AI と AI 観の変化

最近、「会議設計の支援 AI」という AI エージェントをつくりました。この AI エージェントは、単に議事録を自動生成したり、会議の要点を整理したりするツールではありません。むしろ、「会議そのものをどう設計するか」という根本の問いを扱うための思考支援ツールです。

私たちが会議で感じる多くの課題──長時間の会議になってしまう、論点が出されていない、意志決定のための叩き台が用意されていない、必要な人がいない、必要のない人が呼ばれている──は、会議設定の段階で改善できるはずです。それによって会議の質を上げることが可能だと考えています。この AI エージェントは、AIとの対話を通して質の高い会議設定に必要な思考を促します。

たとえば、こういった問いかけや提案を行います。

  • 「この会議の目的と達成したゴールは何ですか?」
  • 「この論点を議論するために必要な人と役割は何ですか?」
  • 「この論点と人数であれば、25分が最適です。」
  • 「45分でこの議論に結論を出すには、事前に資料を送って参加者に背景を理解した上で臨んでもらうとよいでしょう。」

こうした対話によって、会議の主催者はより質の高い会議設定をすることができます。

そして、この AI エージェントをつくる過程で、AI という存在の捉え方が根本から変わりました。

Before:AI を「人」として見ていた頃

この AI エージェントをつくる前は、AI を「ひとりの人」のように扱っていました。

  • 質問すれば答えを返してくれる存在
  • 壁打ちのように思考を整理してくれる相手
  • 仕様を説明すればコードを生成してくれる便利な補助者

AIを「人」として捉えていた頃のイメージ図

AI はあくまで「自分の代わりに動く存在」だったのです。つまり、主語は常に自分であり、AI は従者のようなもの。自分が命令を与えて、AIが応答します。この構図の中では、AI の価値は「どれだけ精度よく答えられるか」や「どれだけ速く回答できるか」という軸でしかありませんでした。

Process:「AI をつくる」ことで見えた変化

しかし、今回の AI エージェントをつくる経験を通じて、まったく異なることに気づきました。AI は「答えてくれる相手」ではなく、「思考そのものを閉じ込めて再現できる媒質」になるのです。

AI を設計する中で、自分の理想とする思考の流れをAIの中に組み込んでいきました。例えば、問いの立て方、判断の仕方、構造の組み立て方などです。つまり、AI との対話を通して思考を「なぞる」ことができるようにしました。その結果、AI という存在が、思考の構造を保存し、他者に伝える媒質となりました。

このとき、初めて「AI を通して、思考の伝搬を起こすことができる」と感じました。AI の中に込められた思考の構造は、チームや組織の中で他のメンバーに影響を与え、再構成されていきます。AI は単に答えを出す存在ではなく、「思考の増殖装置」として機能し始めたのです。

After:「考え方を組織で再利用する媒質」という新たな定義

この体験を通して、AI を「人」ではなく、「考え方を組織で再利用する媒質」として捉えるようになりました。AI は単なる道具でも、擬人化された相棒でもありません。それは、思考そのものを構造的に拡張し、外へ広げる媒質です。

AIを「考え方を組織で再利用する媒質」として捉え直したイメージ図

AI を通して、自分の思考は構造化され、それが他者に伝わり、再び他者の文脈で再構成されます。その連鎖によって、思考がネットワークのように組織全体に広がっていきます。

この現象を次のように定義しています。

この定義にたどり着いたとき、「AI は自律的に考える存在ではなく、知の媒質だ」と深く理解しました。思考を運ぶ回路のように機能し、思考が流通するための構造(仕組み)を提供します。つまり、単なる「考える人」の代わりなのではなく、「考える力を共有する環境」そのものなのです。

組織への展開:AI による「思考のインストール」と「知の循環」

AI を「考え方を組織で再利用する媒質」として見るようになり、自分の仕事の捉え方や AI で考えるという行為の意味も再定義されました。AI で考えるとは、AI に正解を求めることではありません。それは、自分の思考の構造を AI に組み込み、その構造を組織や他者に渡すことです。

たとえば、会議設計の支援 AI で使われる質問やロジックは、個人の思考の蓄積(=考え方の型)でもあります。それを AI に組み込むことで、組織にとっての考え方の型を共有できます。これを「思考のインストール」と呼んでいます。

この「インストール」が組織で本格的に始まれば、AI が「媒質」として機能しはじめます。理想としては、誰かが考えた会議の理想像が、AI を「媒質」として別のメンバーの思考に溶け込む。A さんの問いが B さんの発想を刺激し、B さんの整理が C さんの判断基準を更新する、といった具合です。

知の循環プロセス:インストール、再利用、再構成

このように、思考の構造が組織全体で共有され、再構成されていく。これは自己組織化というより、「思考の循環」と呼ぶ方が近いです。AI によって思考の型を使ったメンバーが、そこから得た新たな知見や改善点をフィードバックし、それを受けて(たとえ現時点では作成者を介するとしても)AI エージェントがアップデートされていく。こうして、思考が AI という「媒質」を通って流通し、再び新しい形で人に戻ってきます。さらに、AI との対話で思考の質が高まったメンバー同士がコミュニケーションをとることで、組織全体の知のネットワークも(間接的に)強化されていきます。その循環のなかで、組織はただの人の集まりではなく、知が流れるネットワークになっていくと考えています。

この AI を「媒質」として捉える視点は、今回の AI エージェントを作成した体験から得たものですが、興味深いことに弊社の別のアプローチとも強く共鳴しています。

同僚の依田がイベントにて発表した「.mdc駆動ナレッジマネジメント」でも、AI (Cursor) を「ナレッジの仲介者」と定義し、SECI モデルをベースにした知識サイクルの仕組みを提唱していました。依田の発表が開発ナレッジを対象に知識の API 化というシステム的な実装を論じているのに対し、本記事は会議設計という業務プロセスから出発し、それがもたらす組織文化や自律性に焦点を当てている、と言えるかもしれません。異なる角度からスタートしても、AI を「知の循環のハブ」と捉える同じ結論に行き着くことは、AI 活用の本質的な方向性を示唆しているように感じます。

このように、思考の構造が共有されていけば、メンバーは都度指示を仰ぐことなく、共通の基盤で判断できるようになるはずです。それが、組織全体の自律性を高めることにつながると考えています。もし AI が「組織バリュー AI エージェント」として機能すれば、価値観や判断基準といった抽象的な思考の質そのものを、日々の意思決定のなかに浸透させることもできるでしょう。AI は、単なる効率化の手段ではなく、思考を伝える機能として進化していくのです。

まとめ:AI と共に思考する文化へ

会議設計の支援 AI を通じて得た最大の変化は、AI を「考える人」としてではなく、「考え方を組織で再利用する媒質」として捉え直せたことです。AI があることで、私たちは自分の思考を可視化し、他者と共有し、再構成できるようになります。

これからの組織には、AI が考えることよりも「AI という媒質を通して考える」文化が求められると思います。AI によって考え方の型が組織にインストールされ、それが AI を「媒質」として循環していく。そのプロセスの中で、私たちはより深く、より広く思考できるようになります。

もちろん、AI を「人」のように捉え、優れた対話相手として活用することにも大きな価値があります。しかし、AI の可能性はそれだけではありません。

AI は人を置き換える存在ではなく、人と人の思考を考え方の型としてつなぐ仕組みです。そして、その仕組みを通して組織が学び、考え、進化していく。それこそが、この AI エージェントを通じて体感した、AI と共に思考する文化がもたらす変化の始まりだと感じています。

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