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外部システムとのSSO連携の「失敗する原因」を潰すための完全ガイド

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概要

本記事ではシステム間のSSO連携に関わる、もしくは興味があるエンジニアに向けて、運用を見据えた設計を行うためにはどうすればいいか?を解説します。SSO(Single Sign On)連携とは、社内の認証基盤(IdP)とサービスをつなぎ、一度のログインで共通アカウントから複数システムを利用できるようにする仕組みです。自社システムと外部システムとのSSO連携は、ユーザ体験の改善やセキュリティの観点から多くのシステムで実施されています。これらの連携自体は、技術的なマニュアルに従えば実現できるケースが多くなりました。

しかし、連携プロジェクトが成功するかどうかは、「技術的に連携できたかどうか」 ではなく、「リリース後に運用が回るかどうか」、そして 「ビジネス要件を長期的に満たせるかどうか」 で決まります。つまり、連携プロジェクトにおいて、事前のリスクマネジメントと運用を見据えた徹底的な準備が重要です。

SSO対応しているからOK、ではない

特に認証連携において、「SSO対応しています!」 と謳うサービスは多くあります。しかし、この一言の裏には大きな落とし穴が潜んでいます。SSOと一口に言っても、SAML、OIDC(OpenID Connect)など、利用されているプロトコルは多種多様です。プロトコルが違えば、設定手順、必要な情報、さらにはユーザ属性の連携方法やデバッグ手法が全く異なります。また同じプロトコルでもシステムによって連携手順に差異があります。「SSO対応だから大丈夫だろう」と安易に進めてしまうと、

外部システム側が対応しているプロトコルと想定しているプロトコルが異なったり、特定の制約があったりして、結果的に想定していた体験を実現できない可能性があります。

本記事のチェックリストについて

自分自身、内製の認証基盤とプロダクトのOIDCによるSSO連携、マルチテナントログイン機能の開発、自社サービスとSalesforceの連携など、様々なSSO連携に関する業務に携わってきました。本記事ではその経験をもとに、外部システム連携を検討する際のチェックリストをまとめます。このチェックリストを活用することで以下のリスクを事前に回避できます。

  • 「運用コストが異常に高い」 という運用破綻リスクの回避
  • 「SSOで想定外の制約があった」 という技術選定ミスリスクの回避
  • 「ビジネスに必要な情報が連携できなかった」 という要件未達リスクの回避

実際に同様のチェックを行った結果、採用候補としていた外部システムを利用すると逆に運用負担が増えてしまうと気付いたケースがありました。関係者にも事情を説明した結果、このシステムは見送ることになりました。もしそのまま採用していた場合は運用負荷が増えて業務に支障をきたしてしまう危険性がありました。このように新しいシステム導入のために無理やり突き進むのではなく、実際の運用を見据えることでリスクの回避ができます。

SSO(認証連携)の要件チェック

先述の通り「SSO対応」と銘打っていても、実際にはSAML SSOしか対応していない、OIDCが利用できない、といったケースがあります。またプロトコルは想定したものでも「特定の環境でしかSSOが使えない」「想定していたID連携(属性マッピング)ができない」「テスト環境での再現が難しい」など、プロジェクトが進行してから技術的に連携不可と分かる可能性があります。こういった事象を防ぐためにも以下の様な要件をチェックしておきましょう。

    1. SSOはサポートされているか?対応しているプロトコルは?(SAML、OIDC などの対応状況)
    • 「SSO対応」という言葉に騙されず、具体的なプロトコルを確認する。
    1. SSOの設定を行うために必要な要件・手順は?
    • 連携先のシステムが、どの形式(メタデータXML、手動入力など)で情報を求めているかを確認する。
    1. IdP(Identity Provider)との連携に関する設定や制限は?
    • 自社のIdP(例:Microsoft Entra ID、Okta、Auth0など)側で、特定の属性(Email,Roleなど) を渡せるか、あるいは特定のセキュリティ要件(証明書の形式など) があるかを確認する。
    1. SSO認証後のセッション管理はどうなっているか?(有効期限、リフレッシュ方法など)
    • 認証が通った後、セッションがいつ切れるのか、自動でリフレッシュできるかはユーザビリティとセキュリティに直結する。
    1. SSO導入時の既存ユーザの移行フローは?
    • 既存ユーザがSSOに切り替える際、アカウントの紐づけ(ID統合) をどう行うかを確認する。
    1. テスト環境でSSOの動作確認を行う方法は?
    • 本番環境でいきなりテストはできない。サンドボックスやステージング環境で、安全に動作確認できる手順を確立する。

要件チェックにあたり、様々な種類のユーザ、システム、ログイン方法が登場します。これら関係性を整理してステークホルダーとの認識を揃えるために、以下のような構成図を作成することをおすすめします。

ユーザ管理・同期の仕組みチェック

システム連携で難しいのが、ユーザの状態(ライフサイクル)を常に整合させることです。例えば 「ユーザが退職した」「メールアドレスが変更された」「一時的にアカウントを停止したい」など、ユーザの状態が変更された際に、連携先のシステムにその変更が即座に反映されるかを考慮する必要があります。場合によっては、認証基盤では削除されたのに連携先にはアカウントが残り続け、セキュリティリスクになります。また連携元で権限が付与されても、連携先では手動でアカウント作成が必要になり、運用工数が増加してしまいます。このような事態を防ぐために以下を確認しましょう。

    1. ユーザ同期の仕組みはあるか?(自動同期 or 手動同期)
    • SCIMのようなプロトコルや専用の機能があるかを確認する。手動同期しかない場合、どれくらいの頻度で、誰が、どういう手順で行うかを事前に定義する必要がある。
    1. どのタイミングでユーザ情報が同期されるか?
    • リアルタイム同期なのか、ログイン時のみなのか、バッチ処理なのか。ビジネスの要件(例:即時アクセスが必要か)と照らし合わせて確認する。
    1. ユーザ追加・削除・更新のフローはどうなっているか?
    • 「認証基盤で追加/削除した場合」 と 「サービス側で追加/削除した場合」 の双方向での挙動を確認する。特に削除は、セキュリティリスクに直結する。
    1. ユーザの役割・権限の管理はどのように行うか?
    • 認証と同時に権限(ロール) も連携できるか(例:SAML属性で渡せるか)確認する。できない場合、権限付与が手作業になるため、運用工数を計算に入れる。
    1. ユーザ同期で競合やエラーが発生した場合の対応策は?
    • ユーザIDやメールアドレスの重複が発生した場合、システムがどう振る舞うか(停止するのか、スキップするのか)確認する。
    1. サービス側でメールアドレス更新したらどうなるのか?
    • 連携のキーとなるメールアドレスが変更された場合、IdP側のIDとの紐づけがどうなるかを確認する。サービスによっては、メールアドレス更新を不可にしたり、再作成を促したりする場合がある。

このあたりのユーザの状態は複雑になりがちで、関係者間の認識の相違が起きがちです。そのため以下のような状態遷移図を用意して認識のすり合わせをすることをおすすめします。ただし、この図はかなり簡略化したもので、最終的に目指す仕様や利用するシステムの挙動によって、大きく変わることに注意してください。

操作の自動化・API対応のチェック

SSO連携をしたい目的としてアカウント管理を簡易的することが挙げられます。もしSSO連携しない場合は各システムごとにアカウントの準備・同期が必要となりますが、SSO連携ができればこのような手続きを自動化できます。しかし自動化、API対応のチェックが不足していると、実運用における手作業が発生し、当初の目的を達成できない可能性があります。

    1. 各操作(ユーザ登録・更新・削除など)は手動操作が必要か?
    • 「できる操作」と「APIで自動化できる操作」は異なる。手動操作が残る場合、その頻度と工数を算出し、運用フローとして組み込む必要がある。
    1. どの部分が既存機能で自動化可能か?
    • 連携先が提供する標準機能(例:一括インポート、カスタムフィールドの設定など) で事足りる部分がないかを確認する。API連携はコストや複雑性が高いため、標準機能の活用を優先する。
    1. 公開APIは提供されているか?(エンドポイント一覧・ドキュメントの有無)
    • APIの存在だけでなく、「やりたい操作に対応するエンドポイントがちゃんと存在するか」 をドキュメントで確認する。ドキュメントがない、または古い場合は、実装リスクが跳ね上がる。
    1. APIを利用する場合、認証方式は?(APIキー、OAuth など)
    • 認証方式が複雑な場合や、セキュリティ強度が低い(例:APIキーのみ)場合は、セキュリティ設計や実装工数に影響する。
    1. APIのリクエスト制限(Rate Limit)はあるか?
    • ユーザ数が多いなど、大量のデータ投入や連携が必要な場合、レート制限(1分間に何回まで叩けるか)は致命的な制約になる。事前に業務要件と照らし合わせ、制限を超える場合の対策(バッチ処理、分散処理など)を検討する。
    1. Webhookやイベント通知の仕組みはあるか?(リアルタイムでの変更検知)
    • リアルタイムでデータの変更を検知する必要があるケースがある。もし機能として無い場合、ポーリング(定期的なAPI問い合わせ)が必要になり、システム負荷とレート制限のリスクが高まる。

ユーザ管理関連においても様々な操作があります。社内オペレーションとして具体的にどのような操作が必要になるのか。お客様側で必要な操作は何があるか。追加実装により自動化できるところはどこか。といった内容は、以下のように業務フローとして整理することで見通しやすくなります。具体的な業務内容が明らかになるため、後述する運用負担のチェックにおいても活用できます。

システム導入・運用負担のチェック

ここまでの技術的なチェックだけではなく導入、移行、運用を実現するためにはどうすればいいかを考慮する必要があります。連携自体は実現しても、運用が回らないのであれば連携プロジェクトは失敗です。

    1. 設定・導入にかかる工数の目安は?
    • 連携先システムの担当者にヒアリングを行い、概算の工数を把握する。特にカスタム開発が必要な部分があれば、その工数・コストを見積もる必要がある。
    1. SSOやユーザ同期の設定変更時にシステムの再起動は必要か?
    • 設定変更がサービス停止(ダウンタイム)を伴う場合、メンテナンス計画と影響範囲を厳密に定義する必要がある。これが頻繁に必要だと顧客体験が悪化し運用負荷も大きくなる。
    1. 運用開始後、定期的に必要な手作業(メンテナンス、アップデート)は?
    • 例外的なエラーログの監視、証明書の更新、APIキーのローテーションなど、人の手によるルーティン作業を把握する。これらを運用設計に組み込まないと、忘れられてインシデントの原因となる。
    1. 障害発生時の問い合わせ窓口は?対応時間は?
    • 外部連携で障害が発生した場合、自社・連携先・IdPのどこに責任があるかの切り分けが困難である。連携先のサポート体制が自社の重要度に合っているかを判断する。

まとめ

各カテゴリの活用ポイントをまとめると以下になります。

カテゴリ 目的 活用タイミング
SSO(認証連携)の要件 セキュアでシームレスな認証体験を保証する。 システム選定初期 プロトコル(SAML/OIDC)の適合性を判断する。
ユーザ管理・同期の仕組み 運用工数の増加を防ぎ、データ整合性を保つ。 要件定義時 ユーザの追加/削除/更新フローを明確化する。
操作の自動化・API対応 手動オペレーションを減らし、運用が回る仕組みを作る。 技術調査時 APIの有無、レート制限、Webhookの有無をチェックする。
システム導入・運用負担 実装が進まない、ログインができないといったトラブル時のリカバリ方法を把握する。 契約前・運用設計時 ダウンタイムの有無やサポート体制を確認する。

事前にリスクを見据えることができれば安心してシステム連携を進めることができます。経営情報を取り扱うログラスのプロダクト開発においても、こうした運用を見据えた設計思想が不可欠です。本記事を参考にして安心・安全にシステム連携プロジェクトを進めることができれば幸いです。

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