健診・レセプトデータ分析が明かす口腔ケアの重要性
1.イントロ
皆さん、こんにちは。ライオンデジタル部門のムラカミです。今回は、デジタル部門のオーラルヘルスケア分野での取り組みについて、皆様に知っていただくことを主な目的としています。デジタル技術を活用した健康データの分析など、当社のデジタル領域での活動の一端をお伝えできればと思います。
私たちデータサイエンスグループでは、何年にもわたり蓄積された当社従業員の医科健診・歯科健診・レセプト(医療費)データを活用し、統計解析技術を駆使して、オーラルヘルスケアに有用な知見を導出する取り組みを行っています。健康診断やレセプトのデータは、一般的には人事部門(健康管理部門)や健康保険組合で管理・分析されることが多いのですが、当社では、健康管理部門でデータの匿名化を行い、データ分析やクラウド開発の技術に長けた我々デジタル部門が参画し、データ管理部門のドメイン知識と組み合わせることで、分析のスピードや質の向上を図っています。データの管理・分析はAWSクラウドを採用しており、作業の属人化予防や高負荷データ処理高速化などを実現する環境を構築し、分析を推進しています。現在いくつかの知見を得ており、今回は、その一例として、2024年10月に開催された産業衛生学会全国協議会で歯科部会優秀賞を受賞した研究内容[1]の一部をご紹介します 。
2.研究内容
2-1.背景
近年、日本では「データヘルス計画」が推進されており、健康・医療情報を活用した効果的・効率的な保健事業の実施が求められています。また、定期的な歯科健診の機会・歯科診療の受診を通じて生涯を通じた歯・口腔の健康を目指す「国民皆歯科健診」(政府が発表)の実現 に向けた取り組みも進んでおり、口腔の健康が全身の健康に与える影響への注目が高まっています。このような社会的背景のもと、私たちは以下の点に着目して研究を行いました:
・予防目的の歯科通院や歯科保健活動への参加と医療費の関係
・職域成人における口腔ケア習慣の影響(これまでの研究は高齢者を対象としたものが多かった)
2-2.目的
職域成人における口腔ケア習慣や口腔状態が生活習慣病医療費に与える影響について検証すること。
2-3.対象
2015年から2023年までのデータ利用に同意した当社従業員1,891名
2-4.方法
2016年から2023年までの8年間で、歯科医院でのクリーニング(プロケア)の受診頻度によって2群に分類 プロケア習慣あり群:8年間で7回以上受診 プロケア習慣なし群:8年間で1回以下の受診 両群の2016年から2023年までの累計生活習慣病医療費を比較 交絡因子(年齢、性別、職種、喫煙習慣、運動習慣、口腔状態など)の影響を排除するため、傾向スコアマッチングを実施
2-5.結果
プロケア習慣あり群は、習慣なし群と比較して、生活習慣病医療費が有意に低いことが分かりました。8年間の累計で、プロケア習慣あり群の方が約19.5万円医療費が低くなっています。
2-6.考察
この結果から、継続的な口腔ケア習慣が生活習慣病医療費の適正化 につながる可能性が示唆されました。歯科医院での定期的なクリーニングを受けることで、口腔内の健康が保たれ、それが全身の健康にも良い影響を与えている可能性があります。
【まとめ】本研究により、職域成人においても口腔ケア習慣の重要性が明らかになりました。定期的な歯科検診やクリーニングは、単に歯の健康だけでなく、全身の健康維持や医療費の抑制にも貢献する可能性があります。今後は、より長期的な観察や、他の要因との相互作用なども考慮した分析が必要です。また、この研究結果を踏まえ、従業員の健康増進施も推進していきたいと思います。
3.最後に
以上が研究内容の紹介でした。実は私はライオンに 研究員として入社しており、統計分析やプログラミングなど全くわからない素人だったのですが、大学医学部への派遣などを経て健診ビッグデータ分析技術を習得したことが強みとなって、今の仕事に繋がっています。データの不定期な仕様変更への対応など苦労することもありますが、自分の強みを活かしながら、社会的意義のある学術情報を発信できる仕事を任され、とてもやりがいを感じています。
今回の記事では、オーラルヘルスケアにおけるデジタル部門の取り組みの一部を紹介させていただきました。当社のデジタル部門では、今後もこのようなデータ分析を通じて、皆様の健康増進に寄与する知見を創出し、製品開発や社会貢献活動に活かしていく予定です。当社の取り組みにご期待ください。
当社のデジタル部門では、データ分析やクラウド開発など様々な職種で、一緒に働く仲間を募集中です!興味のある方は、ページ下部のリンクをチェックしてみてください。
学会での授賞式の模様
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武田ら「口腔ケア習慣および口腔状態が現役世代の生活習慣病医療費に与える影響」(産業衛生学会全国協議会(2024/10)) ↩︎
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