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消費財メーカーでの生成AI活用の2年間を振り返ってみる

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はじめに

ライオン株式会社にて生成AIの活用推進を担当しているユリです。生成AIが爆発的に普及し始めてから早くも2年以上が経過しました。現在もその進化は目まぐるしく日々キャッチアップに明け暮れていますが、今回は私たちの活動のご紹介も兼ねて、消費財メーカーでの生成AI活用という観点で、この2年ほどの取り組みを振り返ってみたいと思います。

当社は生成AIの活用に積極的に取り組んでおり、日本でChatGPTが話題となった2023年初頭から社内向け生成AIチャットを内製で構築するなどの事例創出を行なってきました。新しい技術を素早く組織内に展開することで、DXによる組織変革を推進しています。(当社HPリンク

本記事では、非エンジニア社員が多数を占める当社において、生成AIの普及をどのように進めてきたのかを中心にご紹介します。

1.ライオングループの生成AI活用について

IT部門主導の内製開発で生成AI活用を加速する

現在、当社ではデジタル部門のエンジニアを中心に、生成AIの開発・導入から社内事例の創出までのほぼ全てを内製で推進しています。このような体制をとったきっかけは、ChatGPTの登場でビジネス利用への期待が急速に高まる一方で、機密情報を外部サービスに入力するリスクがクローズアップされたことで、このリスクに早期に対処するために内製開発での導入に舵を切りました。

具体的な対応として、「LION AI Chat」というチャットアプリをAWS上で開発し、導入判断から約1か月というスピードで国内グループ全体への展開を実現しました。

生成AIとのやり取りは自社で管理するクラウド内でセキュアに管理し、入力情報をAIの学習に使わないオプトアウトの設定も行い、機密性の高い情報の入力も安心して行える仕組みを構築しています。現在も複数の新しい言語モデルを追加しつつ、社員が利用しやすいようにテンプレート機能などを開発しながら、アップデートを続けています。

LION AI Chatの画面


※一部イメージを含みます

従業員への普及活動と活用状況

導入と共に注力したのが従業員への普及活動です。生成AIは従来のAIと異なり様々な用途に用いることができるため、具体的なユースケースや使いこなし方を理解し、各自の業務へ落とし込んでもらう必要がありました。

特に導入当初は今ほどモデルの精度も高くなかったので、プロンプトエンジニアリングの講座や、ユースケースのアイデア出し会などを開催しながら、従業員と一緒に活用事例を作っていきました。

左:アイデア出し会の様子、右:直近実施した説明会の案内

アプリのアップデートや普及活動の甲斐もあり、この2年間で利用数は右肩上がりに増え続けています。直近では週に約20,000回(APIへのリクエストベースで)の利用ペースとなっており、導入当初の週2,000回から約10倍まで増やすことができました。

実際に従業員からも、プログラミングや資料の作成・チェック、調査など様々な用途に活用しているという声を聞くことが増え、2年間をかけてようやく組織文化として生成AIの活用が根付いてきたのかなと感じています。

最近では、DeepResearchやMCP等の所謂AIエージェントが大きなインパクトを生み出しており、今後も引き続き新しい技術を素早く取り入れ、仕事のやり方そのものを変えていくようなチャレンジを続けていきたいと考えています。

2.現在注力している取り組みのご紹介

記事が長くなってしまうため詳細は次の機会になりますが、現在注力している取り組みを2つほど簡単にご紹介したいと思います。ご興味ある方は、ぜひ文中のリンクから記事をご覧いただければ嬉しいです。

研究開発・生産技術のナレッジ継承への活用

RAG(Retrieval-Augmented Generation)を中心とするナレッジ検索の仕組みを開発することで、過去の研究知見を効率的に検索し、研究開発サイクルを加速する取り組みを進めています。既に研究開発や生産技術の部門で利用されており、情報検索のスピードを従来の1/5以下に効率化したという結果を得られています。当社リリース
この取り組みは、AWSのオンラインイベントでも紹介しました。AWSブログ記事

情報検索の効率化という目的は満足のいくレベルで達成できましたが、今後はより高度なナレッジ活用を目指して、仕組みのアップデートを行っていく予定です。

業務特化のAIエージェント開発

社内で生成AIの活用が普及した結果、以下の理由で通常のチャットアプリでは業務への活用に限界があるケースが増えてきました。

  • 生成AIへの指示文を毎回書くのが大変
  • 複雑なプロセスは精度が低くなりやすく、安定しない
  • 業務活用が個人に依存してしまい、効果創出や標準化が進みにくい

今後、生成AIを業務プロセスの中にしっかりと組み込んでいくには、これらの課題を解決でき、チーム内で標準的に利用できる専用エージェントを開発していく必要性があると考えています。
具体的にはDifyなどのプラットフォームを用いて、専用のツール開発と業務への組み込みを進めています。既にカスタマーサポート等の領域では、AIエージェントが従業員の業務をサポートするなどの事例が生まれ始めています。

まとめ

2年間の活動を通じて、生成AIを組織に広く普及するためには、以下のステップが重要であると実感しました。

  1. まずは各従業員が生成AIを使ってみて、自身の業務への使い所を理解する
  2. 人とAIの役割分担を定義し、AIを組み込んだ新しい業務フローを考えてみる
  3. Difyなどのプラットフォームを活用し、なるべく低い開発コストで素早く検証を行う

AI全般に当てはまることだとは思いますが、生成AIについても、一足飛びに流行りのAIエージェントの開発を進めるのではなく、使いどころやその限界を利用者が理解をして業務に組み込んでいくことが大事だと考えています。今後も開発と普及の両輪で進めていくことで、様々な部門の方と共に組織変革を実現していきたいと思います。

最後まで読んでくださりありがとうございました。少しでも参考になる内容であれば幸いです。

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