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OpenRouter R1とブロックチェーン ~LLMがブロックチェーン上でホストされる仕組みを調査してみた~

2025/03/23に公開

OpenRouter R1とブロックチェーン ~LLMがブロックチェーン上でホストされる仕組みを調査してみた~

TL;DR

  • OpenRouterの「R1」はBittensor(ビットテンソル)という専用ブロックチェーンネットワーク上でホストされている
  • モデルの重み自体はブロックチェーン上に保存されておらず、分散ノードが個別に保持している
  • ブロックチェーンは主に計算リクエストの仲介とインセンティブ(報酬)の管理を担当
  • 「Chutes」というサブネットを通じてR1の推論サービスが提供されている
  • 技術的には「完全にブロックチェーン上」というより「ブロックチェーンで制御された分散ネットワーク上」が正確

最近、OpenRouterで無料提供されているDeepSeek-R1というLLMが「ブロックチェーン上でホストされている」というポストを見て、「えっ、そんなことできるの?」と思ったので調べてみました。巨大なAIモデルをブロックチェーンに載せるなんて現実的なのか?という疑問から始まり、実際の仕組みを深掘りしてみたいと思います。

https://x.com/sholana0421/status/1903668934202789977
https://x.com/OpenRouterAI/status/1889732807481561112

1. R1はどのブロックチェーン上でホストされているのか?

結論から言えば、R1はEthereumやSolanaといった汎用ブロックチェーンではなく、機械学習特化の分散ネットワーク「Bittensor(ビットテンソル)」上でホストされています

Bittensorは独自トークン「TAO(タオ)」を持つブロックチェーンベースのプロトコルで、世界中のマイナー(参加者)が機械学習モデルの計算資源を提供し、その貢献に応じて報酬(TAOトークン)を得る仕組みになっています。

OpenRouterはこのBittensorネットワーク上の「Chutes(チューツ)」と呼ばれるサブネットを通じてR1の推論サービスを提供しています。実際、DeepSeek社の最新モデルR1およびV3はBittensorのSubnet-64上で稼働しており、Rayon Labs社の「Chutes」プラットフォーム経由でアクセス可能です。

つまり、OpenRouterのR1はChutesサブネット上で動作するR1モデルにリクエストを転送することで実現されており、その背後にはBittensorブロックチェーンが存在するというわけです。

2. 「ブロックチェーン上でホストされている」とは何を意味するのか?

「ブロックチェーン上でホストされている」という表現は、R1のモデルが中央集権的なサーバではなく、ブロックチェーンによって管理された分散ネットワーク上で動作していることを指します。

この場合、モデルへの問い合わせ(プロンプト)はブロックチェーンネットワーク経由で**複数のマイナー(計算ノード)**に送られ、分散的に推論が行われます。そして、ブロックチェーン(Bittensor)が各ノードの応答を取りまとめ、品質評価を行い、最終的な応答を提供するとともに、貢献したノードにトークンで報酬を分配します。

要するに、モデルの推論処理や課金・報酬の仕組みがブロックチェーン上で動いているという意味です。

ただし注意すべきは、「ブロックチェーン上でホスト」と言っても、モデルの全データ(パラメータや重み)がブロックチェーン上のブロックに直接書き込まれているわけではない点です。後述するように、巨大なモデルそのものはブロックチェーンに格納できないため、実際にはモデル実行に関する制御・記録やトークン決済部分がブロックチェーンで管理されていると理解できます。

例えば、BittensorではTAOトークンが計算資源の売買(推論リクエストの課金)やサブネットへの投票に使われ、ネットワーク全体の合意形成とインセンティブ付けにブロックチェーン技術が用いられています。

一方で、ユーザから見ればOpenRouterのAPIを使ってR1に問い合わせると、裏側でそのリクエストがChutes経由でBittensorネットワークのR1ホストノードに振り分けられ、分散ノード上で推論処理が走るというイメージです。

3. 大容量のモデルをブロックチェーンに保存できるのか?

結論として、数十GB~数百GB規模のLLMモデルの重みをそのままブロックチェーンに保存することは現実的ではありません。

R1は総パラメータ数6710億(671B)にも及ぶ非常に大きなモデルであり、全ての重みデータをブロックチェーンの台帳上に書き込むのは技術的・経済的に困難です。実際、Bittensorの設計に関する技術解説でも「モデルの重みはチェーン上のどこにも記録されない」と明言されています。

ブロックチェーンは分散合意のためのデータベースとしては優れていますが、大量のバイナリデータ(モデル重み)の保存には不向きで、サイズや手数料の面で非効率だからです。

そのため、R1をブロックチェーン上で動かすと言っても、モデル重みはブロックチェーンの外部で管理されます。具体的には、R1の開発元であるDeepSeek社はモデルの重みデータをオープンソースで公開しており、誰でもダウンロードできるようにしています。たとえば公式にはHugging Face上にR1関連のモデルデータが公開されており、必要に応じて分割されたチェックポイントを取得できるようになっています。

Chutesなどのノード運営者はその公開された重みデータを自前のGPUサーバ上にロードし、ノードとして動作させています。要は、モデル自体は分散ネットワークの各ノード(マイナー)のストレージに存在し、ブロックチェーンはそれらノードへのタスク配信と結果統合、トークン報酬の配分を担当している形です。

理論的には、IPFS(InterPlanetary File System)やArweave、Filecoinといった分散ストレージにモデル重みを置き、そのハッシュや参照先をブロックチェーンに記録する方法も考えられます。これによりブロックチェーンと外部ストレージを連携させて大容量データを扱うことも可能です。

しかし、R1プロジェクトにおいてそのような特殊な仕組みを採用したという公表はありません。現状では、巨大モデルの重みはブロックチェーン外(従来型のストレージやクラウド、または公開リポジトリ)に置き、必要に応じて分散ノードが取得・保持する運用となっています。

これは、Bittensorネットワーク自体も**「知識(モデル重み)の永続的共有は行わない」**設計であるためで、各ノードが独自にモデルやデータを持ち寄ってネットワークに参加する形式をとっています。

4. スマートコントラクトや分散ストレージ技術の活用はあるか?

OpenRouter R1のブロックチェーンホスティングでは、主にBittensor独自のブロックチェーン機構が使われており、一般的なEthereumのスマートコントラクトプラットフォームを直接利用しているわけではありません。

BittensorはSubstrateフレームワークで構築された専用チェーン(Subtensor)で、機械学習モデルのための経済圏とプロトコルを内蔵しています。このため、R1のホスティングにスマートコントラクト(例えばSolidityで書かれたEthereum上の契約コード)を自前で実行しているわけではなく、Bittensorネットワークの組み込みロジック(サブネット内のバリデータとマイナーのインセンティブアルゴリズムなど)によって推論処理や報酬配分が行われます。

もっとも、Bittensorは将来的にEVM(Ethereum Virtual Machine)互換の拡張も検討されており、他チェーンのスマートコントラクトと連携できる可能性もありますが、R1提供においてそうした汎用スマートコントラクトを直接使っている情報はありません。

分散ストレージ技術についても、R1に関してArweaveやFilecoinといった名前は公式には登場していません。先述のようにモデル重みはHugging Faceで提供されており、ノード運営者がそれをダウンロードする形なので、専用のブロックチェーン連携ストレージは使われていないようです。

しかし一般論として、IPFSのような分散ファイルシステムを利用してモデル重みや生成データを配信し、そのハッシュ(内容識別子)をブロックチェーン上のトランザクションに記録するという方法は考えられます。これによりブロックチェーン上でデータの認証や指示だけ行い、実体データはP2Pネットワークから取得するという設計です。

現に、一部の分散AIプラットフォームではIPFSにモデルを置き、Filecoinでその保存を経済的に担保するといった構想もあります。ただ、R1の場合はBittensorネットワーク自体がインセンティブを提供してノードがモデルをホストするので、追加で他のストレージチェーンを組み合わせる必要性は低かったのでしょう。

モデルの公開に関しては既存の機械学習コミュニティで広く使われるHugging Faceに委ね、推論サービス部分のみをBittensorのサブネットで分散実行する形をとっています。

5. 信頼性の確認(技術資料・ホワイトペーパー等から)

以上の内容は、公式情報や技術資料、コミュニティの検証によって裏付けられています。

DeepSeek-R1はMITライセンスで完全オープンソース化されており、技術レポートも公開されています。OpenRouterのモデルカタログ上でもR1は「6710億パラメータのオープンソースモデル」であることが明記され、Hugging Faceへの公式モデル重みリンクが提示されています。

また、コミュニティの調査(Reddit上の報告)によれば、OpenRouterで無料提供されているR1はBittensor(TAO)という暗号マイニングネットワーク上で動いていることが確認されています。このネットワークではマイナーが計算資源を提供し、その見返りにTAOで報酬を得る仕組みである点も指摘されています。

さらに、Binanceの情報発信プラットフォームなどでも「DeepSeekの大規模LLMがBittensorのサブネット経由で利用可能になった」ことが取り上げられており、Chutesサブネットを通じてDeepSeek-R1とV3(671Bパラメータ)がアクセス可能だと報じられています。

加えて、Bittensor自体の解説記事(Mediumなど)から、同ネットワークではモデル重みをチェーン上に保存しない設計であることや、データの永続化には別途工夫が必要なことが述べられており、R1のホスティング方式とも整合します。

個人的な感想

ブロックチェーンとAIの組み合わせは、どちらも流行りの技術なので「バズワード掛け合わせ」的な印象を最初は持ちました。しかし調べてみると、Bittensorのような専用ネットワークを使うことで、分散型の推論サービスを実現するという点では理にかなっていると感じます。

特に、オープンソースモデルの場合、誰でもモデル重みを入手できるので、それを持ち寄って分散ネットワークを形成し、インセンティブ(TAOトークン)によって参加を促すという仕組みは面白いと思います。

ただ、「ブロックチェーン上でホスト」という表現は少し誤解を招きやすいかもしれません。モデル自体はブロックチェーン上にはなく、ブロックチェーンはあくまで「分散ノードの調整役」という位置づけだからです。

とはいえ、中央集権的なサーバに依存せずにAIサービスを提供できるという点では、Web3の思想に沿った取り組みと言えるでしょう。今後、このようなブロックチェーンを活用した分散型AIインフラがどう発展していくか、注目していきたいと思います。

参考資料

以上。

CryptoAI, Inc.

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