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技術支援制度の企画・提案の方法論 ~予算額を数十倍にした話~

2024/02/21に公開

TL;DR

  • まずはアウトプット促進よりインプット支援を潤沢にすべきと考えた
  • 制度の「企画」は先行企業から類型化→優先度付
  • 制度の「提案」は費用対効果を雑でもいいから示し、それでも難しければ期限付きで通す
  • 結果、技術支援の予算額を数十倍にできた

はじめに

突然ですが、現在のレバテック開発部において利用できる技術支援制度がこちらです。
(※正確にはレバレジーズグループ全体の開発組織でこちらの制度を整備しています)

  • 技術書支援:技術書購入を月1万円補助
  • Udemy法人会員:Udemy講座学び放題
  • カンファレンス費用補助:有料カンファレンスの費用を全額補助
  • 技術顧問メンタリング:外部技術顧問や外部メンターとの相談

他にも

  • スクラムマスター研修補助:一定基準を満たした希望者の外部研修参加費補助(上限25万円)

などを中心に、挑戦するエンジニアを支援するための制度を整備しています。
より良い支援制度を有している企業さんはまだまだ沢山いるものの、
「支援制度の充実度」という観点ではそこそこ土俵に立てている状態かなと思います。

とはいえ、元々整備されていたわけではなく、1年前までは皆無に近い状態でした。
技術書支援制度は形式上あったものの、
「開発部50人で月3万円≒1人600円」 という誰が使うんだこれ状態でした。
ONE PIECEの新刊ならギリ買えますね。

自己紹介

レバテック開発部でDevRelやっているヤマモトヒロキ(Ymmt169)と申します。

元々マーケティングや事業開発畑の人間で、PdMやら開発組織関連の仕事やってるうちに気がついたらDevRelっぽい動き方していたので、勝手にDevRelを名乗っています。

上記の技術支援制度を企画・提案する過程で、
「参考になる他社事例がもっとあったら楽なのにな~」と思っていたので、
プロセスや実数値など含めて共有できたらと思います。

こういった制度の企画って、誰もがあったら嬉しいけど、
初速出すのが面倒な仕事なんですよね、、

Why:そもそもなぜ技術支援制度を?

レバテック開発部では「DevRel/技術広報の強化」をしていく前段として、
まず初手に「技術支援制度の強化」を図りました。

「DevRel/技術広報ってなんぞや」については参考資料が多いので、割愛します。

技術広報の定石は「アウトプットの継続」

技術広報つよつよ企業の方々はみな口を揃えて
「アウトプットの継続・習慣化こそが技術広報成功の定石である」 とおっしゃいます。

それはもう紛うことなき事実で、
「いかにアウトプットを続けられる環境や文化を作るか」が技術広報の至上命題なのでしょう。

しかし、エンジニアほど「アウトプット」を求められる職種が他にあるでしょうか。

一歩引いて見たときの、エンジニアのアウトプット文化の異常さ(いい意味)

エンジニア界隈で当たり前のように日々行われる、
テックブログの執筆や、カンファレンス登壇、勉強会の数々、、、
他職種ではありえない程のアウトプット量だと思います。

セールスブログや経理ブログなんてものがある会社は稀有ですし、見たことありません。
カンファレンスや勉強会の頻度や規模で見ても、全職種随一ではないでしょうか。

これはエンジニア特有の、各国共通の文化であり、
尊ぶべきものであると思いますし、めちゃくちゃ素敵だなと思っています。

がしかし、会社としてアウトプットを推進する上で、
その論拠が「採用に繋がるから」「アウトプットするもんでしょ」だけではやや雑であり、
そのまま自然の力学に身を任すと、大半の企業ではアウトプットが継続せず、
テックブログが廃れていく、、などもあるあるでしょう。

アウトプットを推進する前に、インプットへの支援は足りているのか

あらゆるもののアウトプットには、インプットが欠かせません。
牛は草を食べねば乳は出ませんし、
人は情報を得なければ発信はできません。

潤沢なインプットが、挑戦を支え、示唆を生み出し、
新たな知見を発掘し、アウトプットとして世に放たれていく。

アウトプットの継続は技術広報の要でありますが、
その前提としてのインプットの支援を何よりも初手に固めるべきだと考えました。

その他の事情

技術広報に限らず、エンジニア採用を強化していく上で、

  • 評価
  • 年収
  • フルリモート
  • 文化

等々変えるべきことはたくさんあるものの、大半のものが

  • 不可逆性が高く
  • 情報が世に出づらく
  • 変更までのリードタイムやコストが高い

という特性があります。
その点、「技術支援制度の充実」については

  • 職種横断性が低いので、全社の評価や制度を変えずともエンジニア組織だけに適用しやすい
  • 先行事例があり、公開されており、真似しやすい
  • 多くのことはお金で解決できる
  • 変更までのリードタイムやコストが低い
  • 運用コストも低い

という点において、技術広報や採用戦闘力を引き上げる上での1stステップとして
とっつきやすい領域だと思います。

How:企画編

長々と前提を話しましたが、やっとHowに入ります。

先行事例調査

先述の通り、技術支援制度を豊富に設けている企業は何社かあるので、
採用資料を中心に情報収集し、一覧化していきます。

現状の実態と異なる可能性もあるので、各社の社名は伏せてますが、
迷ったらCTO協会が出してる「エンジニアが選ぶ「開発者体験が良い」イメージのある企業ベスト30」とかから抜粋すれば外さないなと思います。

だいたいの傾向は以下の通りでした。

  • 多くの企業が最低限の「自己学習への金銭的支援」を揃えてる
  • 「自己学習への金銭的支援」は書籍購入が王道で、月5,000円が平均ライン
  • 有料カンファレンスや有料研修は単価も高いためまちまち
  • 高いレベルでのアウトプットが既に醸成されているTier1企業は、インプット支援は既に当たり前に揃えた上で、さらにアウトプット支援に寄ってきてる

優先度付・社内調査

改めて一覧化した上で、類型化し、社内のEM陣と優先度付けします。
自社の場合だと、

  • 対象人数の多さ
  • 需要の強さ
  • お金で解決できるか
  • インプット機会が社内の競争を生まないか
  • 運用工数が少ないか

などなどを観点として評価し、優先度付けしました。
とはいえ、他社の制度は上述の優先度検討を乗り越えて制度化されているものなので、
結果的には自社の優先度も他社と大きく変わることはなかったです。

How:提案編

費用対効果の試算

前提、精密な費用対効果の試算は難しいことを意思決定者に理解してもらうことは必要です。
が、提案する側としての説明責任は果たせる限りは果たす必要があると考えています。
今回は採用と定着への効果をそれぞれ試算して効果を見積もりました。

  • 採用への効果
    • 1人採用あたりの事業効果×採用増加数
  • 定着への効果
    • 1人離職あたり事業効果×離職人数
    • 離職した人分の追加採用コスト

詳細は割愛します。
ザルな試算になってしまうことは前提として、
それでも効果を見立てて長期で投資を回収しようという姿勢の継続が、
継続的な組織投資を可能にしていくのでは、と思います。

可逆性を約束してミニマムで始める

書籍+カンファレンス+有料研修など、すべて含めるとそこそこの金額になります。
「永続的に続くものではなく、途中で投資を取りやめる選択肢がある」と意思決定者としても安心してGOできます。

「もし効果が薄かったりその他都合で制度を停止する必要がある場合には停止して問題ない」という約束を元にするとミニマムでスタートできると思います。

非エンジニアの共犯者を作る

まあ全く罪ではないので、”共犯”ではないのですが。
「エンジニアによる、エンジニアのための、エンジニアだけの制度」だと、
経営層などの「職種横断での公平性を担保すべき立場の意思決定者」としては複雑な思いです。
「なんでエンジニアだけ」という他職種からの不満の声の噴出とそれに対する説明コストが懸念になりえます。

「僕らのために、僕らに投資してくれ」よりも、
非エンジニアかつ裁量がある人からの提案のほうが、
幾分通りやすかったりするかなーと思います。
組織に寄りますし、言っても微差ですが。
今回はその立場の私が推し進めたので、経営層含めたステークホルダーへの提案交渉等も進めやすかったです。

これは技術支援制度うんぬんに限らず、あらゆる開発者体験を引き上げていくプロセス全てに共通して言えることかなとも思います。

実際の利用度

多くの企業において、書籍購入支援から企画・導入を進めていくことが多そうなので、
書籍購入支援については実際の利用度実績を載せておきます。
企画・提案時の参考になれば幸いです。

制度を本格的に始めて4ヶ月の実績です。

利用率

60%なのでそこそこ使ってますね。

ちなみに、「4ヶ月間で一度でも制度を利用した事がある人」は全体の92%となりました。
そこそこ浸透してる制度になっています。

冊数・金額

買いたいと思うような技術書の平均価格が3,000円弱のことが多いため、
5,000円だと「1冊しか買えないな~」と、若干痒いところに手が届かず、
10,000円あると定常的に3冊上限で購買できそうだなと思います。

全体予算消化率

新たに制度化する際の稟議やら見積もりやらでの参考にしてください。
組織によっても変わりそうですが、自社の場合だと

  • 利用割合:60%
  • 1人あたり金額:8,000円(10,000円上限)

なので、組織で囲っている理論上の上限予算のうち、
50%程度が消化されていく形になります。

電子書籍比率

まあこれも参考程度に。
平均60%なのですが、傾向としては100%(電子派)の人と0%(紙派)の人が割とパキッと分かれます。

まとめ

この尊ぶべきエンジニアのアウトプット文化を盛り上げ続け、
技術進歩と社会課題解決を加速させるためにも、
各社でのインプット支援が増えると良いなー
と思い、この記事を書きました。

「弊社でも是非充実させたい!」という方の企画・提案の一助になれば嬉しいです。

後日談等

レバテック開発部では、インプット支援の結果として(他に色々要因もあるものの)
テックブログ等のアウトプット数が数十倍になっています(PVなどの露出数でみたらおそらく100倍以上の見込みかも)

インプット支援→アウトプットへのつなぎ込みについては、
また後日Zennで書こうと思っているので、
興味ある方はZenn及びXアカウントのフォローをお願いします↓↓

レバテック興味ある方

一応スライド貼っておきます

レバテック開発部

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