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郵便番号から住所を自動入力するシンプルな機能でも、いろいろと考えて悩んだりして学ぶことが多かった今日この頃

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はじめに

「郵便番号を入力すると住所が自動で入力される」

EC サイトや会員登録フォームなどで、誰もが一度は見たことがあるであろうこの機能。ユーザー体験を大きく向上させる便利な機能ですが、いざ実装しようとすると、意外と考えることが多いことに気づきます。

  • 外部 API を使うべきか、それとも自前で持つべきか?
  • 個人情報の扱いはどうする?
  • パフォーマンスやメンテナンス性は?
  • セキュリティ要件やネットワーク制約は?
  • SSR(サーバーサイドレンダリング)への対応は?

本記事では、郵便番号検索機能を実装する際に検討した3 つのアプローチと、それぞれのメリット・デメリットを実体験をもとにご紹介します。

実装にあたっての共通検討ポイント

どのライブラリやサービスを選ぶにしても、以下の 3 つの観点は必ず確認するようにしています。

1. ライセンス:商用利用可能か

業務で使う以上、商用利用が許可されているライセンスであることは必須条件です。

  • MIT、Apache 2.0 などの寛容なライセンスか
  • 利用規約に商用利用の制限がないか
  • 郵便番号データ自体のライセンスは問題ないか(日本郵便のデータは基本的に利用可能)

2. メンテナンスの頻度

郵便番号は定期的に追加・変更されます。

  • 最終更新日はいつか
  • 定期的に更新されているか(理想は月次更新)
  • メンテナンスが止まっているプロジェクトではないか

3. 利用者の数、スター数など

コミュニティの活発さは、問題発生時の解決のしやすさにつながります。

  • GitHub のスター数、フォーク数
  • npm/Docker などでのダウンロード数
  • Issue/PR の活動状況

これらの観点を踏まえて、3 つのアプローチを試しました。

アプローチ 1:外部サービスの API(zipcloud 等)を利用する

どんな方法?

最初に検討したのは、zipcloud 等の郵便番号検索 API を提供している外部サービスを利用する方法です。

実装イメージ:

// 例:郵便番号検索APIを呼び出す
async function searchAddress(zipcode) {
  const response = await fetch(
    `https://zipcloud.ibsnet.co.jp/api/search?zipcode=${zipcode}`
  );
  const data = await response.json();
  return data.results[0].address;
}

メリット

  • 実装が簡単:API を叩くだけなので、数行のコードで実装できる
  • データの更新を気にしなくて良い:サービス側が郵便番号データを最新に保ってくれる
  • 初期コストが低い:すぐに導入できる

デメリット、そして却下理由

1. 個人情報の扱いに懸念がある

郵便番号は、それ単体でも個人を特定する情報の一部です。特に KYC(本人確認)の一環として郵便番号を扱う場合、外部サービスにユーザーの郵便番号を送信することは、以下のリスクを伴います。

  • 外部サービスでアクセスログが保存される可能性
  • 第三者にデータが渡るリスク
  • プライバシーポリシーへの影響

2. 処理がブラックボックス

  • どのようにデータが処理されているか分からない
  • セキュリティ上の懸念(通信の暗号化、データの保存方法など)
  • 障害時の原因調査が困難

3. サービス依存リスク

  • サービスが突然終了する可能性
  • 有料化されるリスク
  • API の仕様変更への対応が必要

4. ネットワーク制約

  • お客様の環境によっては外部 API への通信が制限されている場合がある
  • レスポンス時間がネットワークに依存する

結論

実装は簡単でしたが、プライバシーリスク、ブラックボックス性、サービス依存リスクという点で不安が大きかったので次のアプローチを考えました。

アプローチ 2:yubinbango-core2(クライアントサイド実装)

どんな方法?

次に採用したのが、yubinbango-core2というライブラリを利用した方法です。

yubinbango-core2 の仕組み:

  • オープンソースのライブラリで、処理内容を確認可能
  • yubinbango-dataという別リポジトリで管理されている郵便番号データを参照
  • GitHub Pages 上の静的ファイルを参照する仕組み
  • 郵便番号の最初 3 桁のみを使ってデータファイルを特定するため、個別追跡が困難

実装イメージ:

import { fetchAddress } from "yubinbango-core2";

async function searchAddress(zipcode) {
  const result = await fetchAddress(zipcode);
  return result;
}

メリット

  • オープンソース:ソースコードが公開されており、仕組みを理解できる
  • プライバシー保護:郵便番号の最初 3 桁のみ送信するため、個別追跡が困難
  • データが最新:yubinbango-data が定期的に更新されている
  • フロントエンドで完結:バックエンドの実装が不要
  • バンドルサイズが小さい:必要なデータだけを動的に読み込む

デメリット、そして移行を決めた理由

当初はこのアプローチで実装していましたが、プロジェクトの進化に伴い、以下の問題が浮上しました。

1. ブラウザ環境専用(DOM に依存)

yubinbango-core2 は、ブラウザの DOM API に依存する設計になっています。

// yubinbango-core2の内部実装(イメージ)
function fetchData(url) {
  // DOM APIを使用しているため、Node.js環境では動作しない
  const script = document.createElement("script");
  script.src = url;
  document.body.appendChild(script);
}

これにより、サーバーサイドでは動作しないという制約がありました。

2. SSR(サーバーサイドレンダリング)非対応

React Router v7 を採用し、SSR を導入する方針になった際、yubinbango-core2 はクライアントサイド専用のため、SSR 環境では以下の問題が発生します。

  • サーバー側でコンポーネントをレンダリングする際にエラーが発生
  • document is not definedのようなエラーが出る
  • クライアントサイドでのみ動作させるための条件分岐が必要になり、コードが複雑化

3. React Router v7 との相性が悪い

React Router v7 では、ローダー関数でデータ取得を行うパターンが推奨されていますが、yubinbango-core2 はこのパターンに対応しづらい構造でした。

// React Router v7のローダーパターン(理想)
export async function loader({ params }) {
  const address = await searchAddress(params.zipcode);
  return json({ address });
}

// しかしyubinbango-core2はブラウザ専用のため、ローダーでは使えない

4. GitHub への通信が発生する

アプローチ 1 よりはマシですが、結局は外部(GitHub)への通信が発生します。

  • お客様の環境によっては、GitHub への通信が許可されていない場合がある
  • GitHub がダウンすると機能が使えなくなる

結論

クライアント側で完結し、プライバシー保護の観点でも優れていましたが、SSR 対応が必須となったことで、サーバーサイドでも動作するライブラリへの移行が必要になりました。

アプローチ 3:jp-zipcode-lookup(サーバーサイド実装、最終的な選択)

どんな方法?

最終的に選択したのが、jp-zipcode-lookupというライブラリを使用する方法です。

jp-zipcode-lookup の特徴:

  • ライブラリをインストールすると、郵便番号データをローカルに保持できる
  • Node.js 環境で動作するため、SSR 対応が可能
  • TypeScript 完全対応(組み込み型定義)
  • バックエンドで実装することで、外部通信を一切発生させない

実装イメージ:

// バックエンド(Node.js)での実装例
import { searchByZipcode } from "jp-zipcode-lookup";

app.get("/api/address/:zipcode", (req, res) => {
  const { zipcode } = req.params;
  const result = searchByZipcode(zipcode);
  res.json(result);
});
// フロントエンド
async function searchAddress(zipcode) {
  const response = await fetch(`/api/address/${zipcode}`);
  const data = await response.json();
  return data;
}

または、React Router v7 のローダーパターン:

// React Router v7のローダー
import { searchByZipcode } from "jp-zipcode-lookup";

export async function loader({ params }: Route.LoaderArgs) {
  const address = await searchByZipcode(params.zipcode);
  return json({ address });
}

メリット

1. サーバーサイド互換性:SSR 対応

  • Node.js 環境で動作するため、SSR に完全対応
  • React Router v7 のローダーパターンで使える
  • サーバーサイドとクライアントサイドの両方で動作

2. 外部通信が不要:プライバシー保護

  • 郵便番号データをバックエンドのローカルに保持
  • お客様の環境のネットワーク制約に影響されない
  • 自社のバックエンドで完結するため、外部サービスにデータが送られない

3. TypeScript 完全対応

  • 組み込み型定義があるため、型安全に使える
  • 開発体験が向上

4. 高速な検索性能

  • ローカルのデータから検索するため、外部 API よりも高速
  • ネットワーク遅延の影響を受けない

5. 活発なメンテナンス

  • 2025 年 6 月に最終更新されており、活発にメンテナンスされている
  • 郵便番号データの更新も定期的に行われている

6. フロントエンドのバンドルサイズへの影響がない

  • 郵便番号データはバックエンドに置くため、フロントエンドの JavaScript には含まれない
  • ページの読み込み速度に影響しない

デメリット

1. バックエンドの実装が必要

  • API エンドポイントを作成する必要がある
  • バックエンドがない静的サイトでは使えない(その場合はアプローチ 2 が良い)

2. データの更新を自分で管理する必要がある

  • 郵便番号データが更新されたら、ライブラリのバージョンを上げる必要がある
  • 定期的なメンテナンスが必要(とはいえ、月次や四半期ごとのアップデートで十分)

3. サーバーリソースを消費する

  • 郵便番号データをメモリやストレージに保持する必要がある
  • とはいえ、データサイズは数 MB なので、現実的には問題にならない

結論

デメリットはあるものの、SSR 対応、セキュリティ、パフォーマンス、環境への適応性のバランスが最も良いため、このアプローチを採用しました。

3 つのアプローチの比較

アプローチ 1
外部 API(zipcloud 等)
アプローチ 2
yubinbango-core2
アプローチ 3
jp-zipcode-lookup
実装の簡単さ ⭐⭐⭐ ⭐⭐ ⭐⭐
個人情報の扱い ❌ 外部送信(KYC 懸念) ⚠️ GitHub 通信(3 桁のみ) ✅ 自社内完結
SSR 対応 ✅ 可能 ❌ 非対応(DOM 依存) ✅ 完全対応
ネットワーク制約 ❌ 影響大 ❌ 影響大 ✅ 影響なし
バンドルサイズ ✅ 小さい ✅ 小さい ✅ 影響なし
レスポンス速度 ⚠️ ネットワーク次第 ⚠️ ネットワーク次第 ✅ 高速
データの更新 ✅ 自動 ✅ 自動 ⚠️ 手動
TypeScript 対応 ⚠️ サービス次第 ⚠️ 型定義なし ✅ 完全対応
処理の透明性 ❌ ブラックボックス ✅ オープンソース ✅ オープンソース
サービス継続性 ❌ 不透明 ✅ OSS で安定 ✅ OSS で安定

まとめ

「郵便番号から住所を検索する」というシンプルに見える機能ですが、実装方法によって以下のような違いが生まれます。

重要な検討ポイント:

  1. 個人情報の扱い:外部にデータを送信するリスク
  2. SSR 対応:サーバーサイドレンダリングの要件
  3. ネットワーク制約:お客様の環境で動作するか
  4. パフォーマンス:レスポンス速度とバンドルサイズ
  5. メンテナンス性:データ更新の手間とサービスの継続性

最終的な選択:

今回は、SSR 対応、セキュリティ、パフォーマンスを重視し、jp-zipcode-lookup をバックエンドで使用する方法を選択しました。
定期的なデータ更新の手間は増えますが、お客様の環境に依存せず、安定して動作する点が決め手となりました。

使い分けの指針:

  • 外部 API(zipcloud 等):プロトタイプや個人開発で、すぐに実装したい場合
  • yubinbango-core2:静的サイトで、ネットワーク制約が少なく、SSR が不要な環境
  • jp-zipcode-lookup:企業向け SaaS など、セキュリティと SSR 対応を重視する場合

今回の体験を振り返って

最初から要件や制約を考えられていればベストだったのですが、
いざ実装して気づくことがあったりします。
ただ、こうやって選んだ経緯や考えがあることや、
最終的に行き着いた選択自体はとても学びになったと思っています。

参考リンク

Discussion