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【情報数学】線形代数/基本変形と階段行列

2021/12/07に公開

はじめに

【情報数学】にてこの記事の目的について読んで頂けると幸いです。

線形代数のスクラップ

基本行列

意味不明なら一旦飛ばして大丈夫です。
この基本行列の存在は実用上非常にありがたいものですが(なぜなら、基本変形の手続きを行列の写像として計算でき、すなわちその手続きの合成も行えるから)手計算するだけなら後述の行(列)基本変形の説明でできます。

I_n=diag(1,1,\dots,1)とする\\ \quad\\ \begin{aligned} &(1)\quad P_n(i,j;c)をI_nの第i行に第j行のc倍を加えたものとする。\\ &(2)\quad Q_n(i;c)をI_nの第i行をc倍したものとする。\\ &(3)\quad R_m(i,j)をI_nの第i行と第j行を入れ替えたものとする。 \end{aligned}\\ \quad\\ これらの行列をn次基本行列という。

\begin{aligned} &(1)\quad P_n(i,j;c)P_n(i,j;d)=P_n(i,j;c+d)\\ &(2)\quad Q_n(i;c)Q_n(i;d)=Q_n(i;cd)\\ &(3)\quad R_n(i,j)^2=I_n\\ &(4)\quad \!^tP_n(i,j;c)=P_n(j,i;c)\\ &(5)\quad \!^tQ_n(i;c)=Q_n(i;c)\\ &(6)\quad \!^tR_n(i,j)=R_n(i,j)\\ \end{aligned}

「系」というのは、「(ある定理や定義からただちに求められる)自明な定理」くらいの適当なノリです。
人の匙加減で決まる類のものなので別に定理と言ってもいいのですが、系という言葉をここで導入しておきます。

基本行列の正則性

基本行列は正則で、以下が成り立つ。\\ \quad\\ \begin{aligned} &(1)\quad P_n(i,j;c)^{-1}=P_n(i,j;-c)\\ &(2)\quad Q_n(i;c)^{-1}=Q_n(i;c^{-1})\\ &(3)\quad R_n(i,j)^{-1}=R_n(i,j) \end{aligned}

右辺が基本行列の逆行列になるのは逆行列の定義と前述の系を考慮すればすぐにわかります。
重要なのは正則だという事実です。

基本変形

基本変形というのは基本行列を掛けることであり、下記に示す操作であるとも考えていいです。
基本変形は一見無意味に思えますが行列について語るには必須の知識です。

A\in M(m\times n)について、以下の計算は次のような操作になる。\\ \quad\\ \begin{aligned} &(1)\quad P_m(i,j;c)Aは(便宜上の表記として)A(i,j;c)と同じである。\\ &(2)\quad Q_m(i;c)AはA(i;c)と同じである。\\ &(3)\quad R_m(i,j)AはA(i,j)と同じである。\\ &(4)\quad AP_n(i,j;c)はAの第i列をc倍して第j列へ加える。\\ &(5)\quad AQ_n(i;c)はAの第i列をc倍する。\\ &(6)\quad AR_n(i,j)はAの第i列と第j列を入れ替える。\\ \end{aligned}\\ \quad\\ このような演算を基本変形という。

行基本変形

基本行列を左から掛けること。つまり\\ \quad\\ \begin{aligned} &(1)\quad ある行をスカラー倍したものを他の行に足す。\\ &(2)\quad ある行をスカラー倍する。\\ &(3)\quad ある行と他の行を入れ替える。 \end{aligned}\\ \quad\\ という操作のことである。

列基本変形

基本行列を右から掛けること。\\ つまり、行基本変形と同様の操作を列について行うことである。

階段行列

基本変形は階段行列をつくるための道具です。
階段行列をつくる意義に関してはまだ説明しませんが...

A=(a_{ij})\in M(m\times n),\quad r \in \mathbb{N}について\\ \quad\\ \begin{aligned} &(1)\quad 第1行から第r行までの行ベクトルがすべて零ベクトルではない。\\ &(2)\quad r<mのとき、第r+1行以下の行ベクトルがすべて零ベクトル。\\ &(3)\quad 第i行の行ベクトル(1\leqq i\leqq r)の最初の0ではない成分が存在する第j_i列\\ &\quad についてa_{1j_1}<a_{2j_2}<\dots<a_{rj_r}が成立する。\\ \end{aligned}\\ \quad\\ 以上が成立するときAを階段行列という。またrを階数といい、\\ \operatorname{rank}A\stackrel{\mathrm{def}}{=}r

と言っても訳がわからないので

階段状になっている行列を階段行列といい、階段の数を階数という。

くらいの認識がいいと思います。例として、

\begin{pmatrix} 1 & 3 & 2 & 0 \\ 0 & 0 & 2 & 6 \\ 0 & 0 & 0 & 9 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}\\

これは階数3の階段行列です。

簡約階段行列

上記の階段行列の成分a_{ij_i}が全て1で、これを除く第j_i列の\\ 全ての成分が0であるものを簡約階段行列という。

つまり次のような階段行列です。

\begin{pmatrix} 1 & 5 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}\\

\operatorname{rank}Aが最大であれば単位行列になることが分かります。

定理1

行列は行基本変形を繰り返すことで(簡約)階段行列にできる。

この階段行列にする操作の手法に関してもここに記しませんが、機械的にできるので簡単です。
得られる階段行列は一意に定まらないことは明らかですが(適当な行をスカラー倍すれば別の階段行列になる)、簡約階段行列や階数に関しては一意に定まります。

定理2

F_{mn}(r)\stackrel{\mathrm{def}}{=} \left( \begin{array}{c|c} I_r & O \\ \hline O & O \\ \end{array} \right) として、次が成立する。\\ \quad\\ 階数rの行列A\in M(m\times n)に行(列)基本変形を行えばF_{mn}(r)に変形できる。\\ すなわちXAY=F_{mn}(r)を満たす基本行列らの積X,Yが存在する。\\ F_{mn}(r)を標準形という。

基本変形を繰り返すだけここまで簡素な状態になります。

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