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AIを使ったDJ楽曲選択の現実と限界

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1. はじめに

  • DJとAI技術の接点が増えている現状
    • アーティスト、BPM、レーベル、時間など楽曲のメタデータは構造化されている
  • 数万曲のコレクションから最適な楽曲を選ぶ課題
    • いつどこでどのように入手した楽曲なのか、所有者自身も正確には記憶していない。これは本来AIが情報抽出に得意なダークデータと位置付けできる
  • 本記事の目的:現実的なAI活用法を探る
    • 過去に起きたことを検証するのはAIの得意範囲だが、未来に関してはどうか

1.2 DJは何をしているのか?

  • What's DJ?

    • DJとは「ディスク・ジョッキー(Disk Jockey)」の略で、音楽を選曲し、再生して聴衆を楽しませる人を指します。ラジオパーソナリティのような「ラジオDJ」や、クラブなどで音楽をミックスしてフロアを盛り上げる「クラブDJ」など、活動する場所や役割によってさまざまな種類があります。

  • クラブDJの作業プロセスそのものを可視化してみました。

2. AIが得意な領域:楽曲の類似性検索

2.1 ベクトル類似性による楽曲推薦

  • 音響特徴量の数値化
    • 楽曲の持つメタデータから音楽のジャンルを認識
  • 膨大なコレクションからの効率的な絞り込み
    • アーティスト、レーベルの楽曲特徴から同様の傾向を持つデータを抽出

2.2 メタデータによる分類・検索

  • 構造化されたデータの活用:アーティスト、レーベル、BPM、ジャンル、リリース年
  • 実用的な検索例
    • 「BPM 100-110のDubTechno」で絞り込み
    • 「2020年以降のBasic Channelレーベル」で検索
    • 「Max Richterと同じレーベルの楽曲」を抽出
  • 複数条件の組み合わせによる高精度フィルタリング
  • メタデータレベルでの類似性検索の限界
    • 同じBPM・ジャンルでも実際の音色やムードは大きく異なる
    • 「似た感じ」という音楽的な本質は捉えられない

3. AIの限界:「流れ」という見えない技術

3.1 セットリストから読み取れない情報

  • 楽曲のどの部分でミックスするか、フェーダー、EQ、エフェクトの操作タイミング
  • その場の空気感、楽曲の持つストーリーとその曲前後の曲とのバランスや雰囲気で変える
  • 実際の音響的相性(キー、音色、グルーヴ)
  • 現場で採用しているサウンドシステムを考慮したサウンドエンジニアリング

音響特性の分析や最適化はAIが得意な領域

  • 例としてAI(Claude Sonnet4.0)に機器の特徴からどのようなベクトルで構成すればいいか提案させた。
システム構成:AlphaTheta DJM-A9 + FunctionOne Resolution 2 + E-15アンプ

DAC: ESS SABRE32 ES9018K2M 32bit/96kHz → 理論S/N比 127dB の超高性能DAC
周波数特性: 20Hz-20kHz ±0.3dB → 極めてフラットな再生特性
THD+N: 0.0018%以下 → 業界最高クラスの低歪率
4バンドアイソレーター: HI(13kHz), HI-MID(3kHz), LO-MID(1kHz), LO(70Hz) → 各帯域の完全分離制御

FunctionOne Resolution 2 技術仕様:
ツイーター: 1" ベリリウムドーム、磁束密度1.4T → 40kHzまでの超高域再生
ウーファー: 6.5" アルミコーン、長ストローク設計 → 45Hzまでの正確な低域再現
クロスオーバー: 2.8kHz、24dB/oct Linkwitz-Riley → 位相特性の完璧な整合
インピーダンス: 8Ω、感度89dB/W/m → E-15との理想的なマッチング

E-15アンプ 駆動特性:
出力: 8Ω負荷時150W RMS → Resolution 2の連続許容入力120Wに最適
ダンピングファクター: >300 → 超高制動力によるタイトな低音制御
周波数特性: 10Hz-50kHz ±0.1dB → DJM-A9の性能を完全に活用
AIによる具体的システム最適化提案:

DJM-A9の高性能DAC活用:
96kHz/32bit音源の優先選択 → ES9018K2Mの性能を最大活用
127dB S/N比を活かす超低ノイズ楽曲選択
4バンドアイソレーター活用

HI(13kHz): ベリリウムツイーターの40kHz特性を活かす設定
LO(70Hz): Resolution 2の45Hz特性との最適バランス調整
各帯域の完全分離による精密なミックス制御
システム全体の位相特性最適化

DJM-A9のリニアフェーズフィルター + Resolution 2のLinkwitz-Riley設計
位相歪みのない完璧な音像定位実現
ダイナミックレンジ最大活用

DR値18以上の楽曲選択 → システム全体の127dB性能活用
E-15の300超ダンピングファクターを活かすパンチのある低音楽曲
  • システム特性とDubTechnoの相性分析
ミニマルな構成 × 超高解像度の相性

DubTechnoの少ない音数 → 各音の細部まで127dB S/N比で再現
ベリリウムツイーターが捉える微細なリバーブテール、ディレイの減衰
音数が少ないからこそ、一つ一つの音の「質感」が際立つ
深い低音 × E-15の制動力

DubTechnoの特徴的な深いサブベース(40-60Hz)
ダンピングファクター300超 → ボワつかない締まった低音
45Hzまでの正確な再現 → サブベースの「圧」を正確に表現
空間系エフェクト × 音像定位

Dubの特徴的なディープリバーブ、エコー
Linkwitz-Riley設計 → 位相歪みのない立体的な音場
2.8kHzクロスオーバー → 中域の音像が崩れない
AIが推薦する具体的DubTechno楽曲特徴:

最適な楽曲例の特徴:

Basic Channel系統

極めてミニマルな構成 → システムの解像度を最大活用
深いサブベース(45-50Hz) → E-15の制動力で正確な再現
長いリバーブテール → ベリリウムツイーターの40kHz特性で微細な減衰まで再現
Deepchord系統

アンビエント要素の多い構成 → 127dB S/N比の静寂性を活用
複雑な空間系エフェクト → 完璧な位相特性で立体感実現
中域の温かみ → 2.8kHzクロスオーバーで自然な音色
Rhythm & Sound系統

オーガニックなグルーヴ → ダンピングファクターでタイトなリズム
アナログ的な質感 → 0.0018%低歪率でクリーンに再現
ダブエフェクトの奥行き → リニアフェーズで正確な音像定位

避けるべき楽曲特徴:

音数の多いテクノ → システムの解像度が活かされない
高域がキツい楽曲 → ベリリウムツイーターで耳に刺さる
低域がブーミーな楽曲 → E-15の制動力で逆に物足りなく感じる

AIによる楽曲選択アルゴリズム:
周波数分析: 45-60Hz帯域にエネルギーがある楽曲を優先
ダイナミックレンジ: DR15以上の楽曲で静寂性を活用
音数カウント: 同時発音数8以下のミニマル楽曲を選択
リバーブ分析: 2秒以上のリバーブテールを持つ楽曲を推薦

テクノは音響技術で構築する音楽なので楽譜は音楽の一部しか表現できず、本質的な部分(音色、エフェクト、空間性)は楽譜化は困難。
一方でJazzはリズム・構造中心なので楽譜で完全表現可能で、AIもよりウィットに富んだ提案が可能だと推測できる。

3.2 DJプレイの本質的要素

  • 楽曲同士の「生体学的相互作用」
    1. 音響的な相互作用
      • キーの相性: Aマイナーの楽曲の後にCメジャーの楽曲 → 自然な調性の流れ
      • BPMの微妙な差: 105BPMから107BPMへの移行 → 気づかないうちにエネルギーが上昇
      • 音色の補完: 楽曲Aの高域が少ない → 楽曲Bの豊かな高域が際立つ
    2. 構造的な相互作用
      • 楽曲Aのアウトロ (ミニマルなベースライン) + 楽曲Bのイントロ (同じようなベース) = シームレスな継続感
  • 瞬間的な判断による調整
  • 会場の空気感に応じたアドリブ
  • 音楽的な「間」の取り方
    これらの要素は人間の聴覚・認知システムと深く結びついており、特に個々のDJが持つ独自の「音楽的な間の取り方」や「感覚的なタイミング」は、経験と感性に基づくめちゃくちゃ高度に個人的な技術であるのでAIは楽曲の数値的な分析は可能だが、こうした生体学的・心理学的プロセスに基づく音楽的判断は理解することができない。

3.3 教師データの限界

  • セットリストは「楽曲の順番」でしかない
  • ミックス技術や流れの作り方は含まれない
  • 豊富なセットリストがあっても本質(「なぜ」「いつ」「どのように」判断・操作したかという、音楽的・技術的・感覚的な意思決定プロセス)は学習できない

4. 実践例:DubTechnoセットでの検証

4.1 コンテキスト設定

  • 会場:ラグジュアリーホテルのBar・レセプション
  • 客層:30-50代、会話重視
  • 音楽的要求:BGM的役割、会話を妨げない

4.2 AIによる楽曲提案の結果

  • 類似性検索による候補楽曲の精度
  • メタデータフィルタリングの有効性
  • 実際の選曲との比較

4.3 人間の判断が必要だった部分

  • 楽曲の実際の雰囲気や音色
  • 会場環境に適した音量・音域
  • 時間経過に伴う構成の調整

4.4 実際にAIによって作成されたセットリスト

イントロが数曲続いたり(BPM90で考えた時にそのBPMで構成される曲の多くはBPM110前後のものよりイントロに利用しやすい楽曲が多く、AIが曲中のブレイクなどを認識して提案したわけではない。)、唐突に転換曲が入ったりして全体の流れが考慮されておらずに全く使い物にならなかった。(違和感の無いようにMix技術で仕上げることは可能)

1. Adhémar - Radiance in the eyes
2. Donato Dozzy - Le Chaser
3. Donato Dozzy - Santa Cunegonda
4. Far Out Radio Systems - Oracle Emile
5. Cook & Stans - North Shore
6. Claro Intelecto - Still Here
7. Vytis - Deep Minded
8. Silentwave - Voltage Butterfly #2
9. Claro Intelecto - You Not Me
10. Avguchenko - Circle (Original Mix)
11. Claro Intelecto - Beautiful Death
12. AUME - A2
13. MR. CLOUDY - Control Loss
14. Feral - Radha
15. MR. CLOUDY - Mute Stream
16. Feral - Vishnu
17. Schulz Audio - Small Piece 3 (Original Mix)
18. Feral - Krishna
19. Dublicator - Souldance

5. 合理的なAI活用法

5.1 役割分担の明確化

  • AI:素材の提案者(候補楽曲の絞り込み)
  • DJ:芸術的な構成者(流れと繋ぎの判断)

5.2 効率的なワークフロー

  • AIによる初期候補の生成
  • 人間による最終的な選択と構成
  • リアルタイムでの調整と判断

5.3 AIツールの使い分け

  • 楽曲発見:類似性検索
  • 条件絞り込み:メタデータフィルタ
  • 最終判断:人間の感性と経験

6 サマリー

ベクトルが似た楽曲の提供はジャンルが違うが意外性も多く、短時間に膨大なコレクションからDigるには最適であるので、そのような使い方が現実的なのが現在。
rekordbox、seratoなど、楽曲を解析し、実際の演奏内容が記録される統合ソフトウェアへのAI搭載が待たれますね。そうなればよりそのDJの傾向に近い楽曲提案ができると推測します。

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