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Clojureを仕事で使うにあたって早めに押さえたい知識/技術

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Clojure言語を仕事で使いたい(もしくは使い始めた)という方向けに、Clojurianである私lagénorhynque🐬の実践と初学者指導/支援の経験から、主にWebサービス(バックエンド)開発において早期に習得すると捗りそうな知識や技術について簡単にまとめてみました。

はじめに: 基本的な考え方

プログラミング言語Clojureは2007年頃に登場した動的型付き関数型言語・JVM言語・Lispです。
2025年現在においても定番入門書として挙げられることが多いのは『プログラミングClojure 第2版』もしくはその原書最新版Programming Clojure, Third Editionと思われますが、仕事としてチーム開発でClojureを使うとなると

  • 入門書でたいてい解説されていて実用上も重要な知識/技術
  • 入門書で必ずしも扱われていないが実用上不可欠もしくは有用性の高い知識/技術

を焦らず着実に習得していくことが円滑な開発に繋がります。

とてもありがたいことに、Clojure言語本体や標準/サードパーティライブラリの多くは後方互換性重視の開発ポリシーを採用しているため、ソースコードやドキュメント、書籍、記事の最終更新が古くなっていてもほとんどの場合に現在まで変わらず有効です。

参考: A History of Clojureで紹介されているClojureのコードベースの変遷
https://x.com/lagenorhynque/status/1270587892780331008

また、Clojureに関する日本語の書籍や記事はあまり多くないのですが、英語の書籍や記事は近年も活発に書かれているので、興味があるものを読んでみることをお勧めします。

知識/技術

以降で紹介する個別のテーマについて、意識/利用する頻度の高さなどから私🐬の考える相対的な重要度を星の数で示すことにします(※あくまで大雑把な目安です)。

重要度
⭐️⭐️⭐️
⭐️⭐️
⭐️

1. 言語機能と標準ライブラリ

入門書入門記事公式ドキュメントなどを参考に、以下のような内容について基本的な概念/用語を把握し、使い方を身につけましょう。

関数型言語Clojureではプログラムとは究極的に「データの変換を行う関数の連鎖」なので、実用上最も重要なのは標準ライブラリの(特にコレクション/シーケンスの操作に関する)関数/マクロの効果的な使い時や組み合わせ方に慣れ親しんでいくことにあると考えられます。
Clojureではユーザー定義型を定義するよりもシーケンシャル(sequential)なコレクション(= 主にシーケンス)と連想的(associative)なコレクション(= 主にマップ)を汎用的にアプリケーションのあらゆるレイヤーで取り回すことが多いため、そのハンドリングに習熟すればClojureプログラミングのコアを制したといえます。
コンパイラーやリーダー(reader)の一種の拡張であるマクロとタグ付きリテラルは、アプリケーション基盤やユーティリティを整備する機会があるまで忘れてもよいかもしれません(実装手段として知っておくに越したことはないのですが)。
また、atom/ref/agentなどの並行処理プリミティブについては(もちろん開発対象次第ですが)実用上扱う機会はあまりなく、習熟する優先度は低そうと判断して上記の基本事項として挙げていません。

主要な言語/標準ライブラリ機能について基本的な理解を得たら、書籍Clojure Appliedなどで実践的な活用方法を学んでいくのがお勧めです。

2. 開発環境/ツール

Clojureでの基本的な開発環境とツールに親しみましょう。
その習熟/活用度合いが開発の快適さや生産性に直結するはずです。

3. コーディングスタイル/イディオム/ベストプラクティス

開発プロジェクト/チーム独自のスタイルを検討(もしくは新規メンバーとして理解)しながら継続的に改善を模索していくことになりますが、コミュニティで一般的なスタイルを把握するには例えば以下のような情報源があります。

  • ⭐️⭐️⭐️ 公式ドキュメントのガイドリファレンス
  • ⭐️⭐️ リンターやフォーマッターの警告/エラー
  • ⭐️⭐️ 言語の設計思想やコミュニティの文化: 公式ドキュメントSimple Made EasyをはじめとするRich Hickeyのプレゼンテーション(の解説)、書籍や記事などから読み取れる
  • ⭐️⭐️ ClojureDocsでの利用例
  • ⭐️ 主要/人気ライブラリのソースコード

4. Webサービス開発に関するライブラリ

具体的なライブラリは開発対象や採用する(または採用されている)スタック次第ですが、Webサービスを開発するにはたいてい以下のような種類のライブラリを扱うことになります。

同種のライブラリはひとつに触れるとその差分で他のものも理解しやすくなるでしょう。
他言語で同等のものが見られないのはアプリケーションの状態/ライフサイクル管理ライブラリで、これは機能実現に必須なものではありませんが、リローダブルで快適なREPL環境とモジュラーで疎結合なアーキテクチャのために有用なことがあります。

5. 周辺知識/技術

以下は過去に学習/利用経験がない場合に徐々に学んでいくと有益と思われる、周辺的な知識/技術領域の例です。
興味のあるところを掘り下げていくと、やがて自身の強みになるかもしれません。

  • ⭐️⭐️ JVM/Javaエコシステム

Java, Scala, Kotlinという主要な他のJVM言語とそのエコシステム(ライブラリやツール、開発/実行環境など)に親しむことでClojure開発でも役立つ知見が得られる可能性が大いにあります。
例えば、多くのClojure標準/サードパーティライブラリの下層にはJavaライブラリがあり、実行時の振る舞いを理解するにもJava/JVMの知識があると非常に有用です。
毎年春と秋に開催されるJavaコミュニティカンファレンス「JJUG CCC」など、コミュニティイベントへの参加/登壇も貴重な知見共有の機会になります。

参考: Scala/Clojure開発経験者🐬がKotlinに触れ始めた印象

  • ⭐️⭐️ 関数型プログラミング(言語)

静的型付き関数型言語Haskell, Scalaや動的型付き関数型言語Elixirなど他の関数型言語に触れて似ている/異なる言語機能や設計/実装手法に親しむのも有益です。
2025年6月初開催で(おそらく)毎年開催予定の関数型プログラミングカンファレンス「関数型まつり」にもぜひご参加/登壇ください。

参考: 関数型言語としてのHaskell, Scala, Clojure, Elixirの基本

  • ⭐️ 並行/非同期プログラミング

Clojure標準提供の機能のほか、Go言語のgoroutineとchannel (Clojureのcore.asyncと同じくCSP由来のモデル)、Erlang/Elixirのプロセスとメッセージ(アクターモデル)などの並行/非同期プログラミングモデルや関連する知見に触れることで、Clojureでの効果的な活用の示唆が得られるかもしれません。

参考: Clojureでの並行/非同期プログラミングを扱っている書籍の例
https://pragprog.com/titles/pb7con/seven-concurrency-models-in-seven-weeks/
https://pragprog.com/titles/vmclojeco/clojure-applied/

  • ⭐️⭐️⭐️ その他の(開発対象に関して必要な)知識/技術

プロジェクト/チームで取り組んでいる問題や解決策に関するドメイン固有の知識/技術について理解を深め、その知識や技術をClojureのコードとデータで上手く扱う方法を考え続けましょう。
実務上の重要で困難な問題はそもそもプログラミング言語やソフトウェアに関する知識/技術以外にあることさえ少なくないかもしれません。

おわりに: Clojurian/Lisper仲間と繋がろう

Clojureコミュニティのうち、国内コミュニティでのClojureプログラマとの主な接点には

があります。
Clojureに関する相談や発信に国内外のClojurian/Lisper仲間がきっと反応してくれるはずです。
自らの経験や学びをシェアすることが自身の成長、コミュニティのさらなる発展のもとになります💪

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