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ディスプレイアームにカメラを取り付けるための板金パーツを設計する

2022/01/22に公開

概要

この記事では,ディスプレイアームとディスプレイの間に板金部品(ブラケット)を一枚挟み,そこからカメラリグ用の汎用部品を経由してカメラを取り付ける方法と,その板金部品の設計について記述します.

板金部品は製造工程に由来する制約が付きまといますが,そのぶん強度が高く薄いものが作れるなど,板材特有の利点もあります.リードタイムも案外早く,たとえばミスミの MEVIY は注文から3日で届きます.今回のような見た目をあまり気にしない部品(治具など)を作るケースでは,3Dプリントで作るよりもコストパフォーマンスが良い可能性すらあります.


ディスプレイアームにカメラを取り付けた様子


MEVIYに注文した板金部品

設計

部品の接続関係を考える

ディスプレイに物を取り付けるときによく使われるのは,ディスプレイに備わっている VESA 規格の取付穴の利用です.この穴はディスプレイの背面にあり,27インチ程度のディスプレイでは 75 mm または 100 mm 間隔の M4 ねじ穴が一般的です.モニタアームを取り付ける際に利用します.

今回はディスプレイアームが付いているため,ディスプレイ側のねじ穴は利用できません.しかし,ほとんどのディスプレイアームには 75mm 間隔の通し穴と 100mm 間隔の通し穴の両方が付いており,余っているほうの通し穴を利用してブラケットを取り付けることができます(図1左).あるいは,ディスプレイとディスプレイアームの間にブラケットを挟み込む方法をとることもできます(図1右).まとめると,下図のようになります.


図1. ブラケットの固定方法.ねじと部品の色は,それぞれのねじが固定を担当する部品を示す.

この2つの方式のうち,今回は左側を採用しました.右側のディスプレイの固定ねじでまとめて締める方法は簡便ですが,いわゆる「3枚締め」の状態になります.ディスプレイアームの固定に正確さは期待できないので,この方式ではカメラの水平出しをするために絶妙な力加減で緩めなければいけません.左側の方式の場合,ディスプレイを固定したままブラケットのみを緩めて角度や固定位置の微調整ができます.

なお,「3枚締め」は建築などではよくみられる方法です.おそらく位置の微調整などがあまり必要がなく,一度固定したら動かさない用途が大半であるためだと思われます.

ディスプレイ側の寸法を決める

今回は制約がきついので,ほぼ議論の余地なく決まります.ディスプレイとディスプレイアームを実測した結果,寸法は以下の通りでした.

  • ディスプレイ (DELL U2720QM) 側の取付穴周囲の凹み: □ 122 x 深さ約 8 mm
  • ディスプレイアーム (Ergotron LX) のプレート外側寸法: □ 115 mm


図2. ディスプレイまわりの寸法(実測)

ここから,ディスプレイアームとディスプレイ側の取付穴周囲の凹みの間の隙間は約 3.5 mm であることが求められます.実際はディスプレイアームの通し穴が多少大きめにあけられているため,取付をわずかにずらすことにより片側を 4 mm 程度にはできるでしょう.

今回部品を発注する MEVIY の標準仕様では曲げ部分の内Rは板厚程度とされているため,平らに取り付けるためには板厚 1.5 mm の SUS304 なら 内R 1.5 mm とあわせて板の外側の面から 3 mm の間隔が必要ということになります.板厚 1.5 mm もあれば今回の用途では強度は十分だろうと考えられるため,これで進めることにします.万一内Rが大きくなりすぎて取付にガタが生じるようならワッシャかシムプレートでも挟めば足ります.


図3. プレートの干渉検討

さて,今回は板厚が 1.5 mm なので M4 のねじでは山の数が2山しか切れません.力はそれほどかかりませんが,それなりのお値段のカメラを載せる部品なので念のためプレートの穴はバーリングタップとします.バーリングタップの説明は割愛しますので,詳しくは Amada 板金加工の基礎講座 第12回 タップ加工 などを参照してください.MEVIY では,フランジ形状をモデリングすることでバーリングタップの指示を行えます.

スペーサーを追加する

板金部品を固定する場合,ほぼ必ずネジの頭が飛び出ます(というよりも,ねじの先端には不完全ねじ部があるので,薄い板金ではねじが3山程度飛び出ないと締めつけの機能を果たしません).これがディスプレイを傷つけないよう,スペーサーを入れる必要があります.今回は 5 mm の中空スペーサーを入れました.


図4. スペーサー(赤色)を追加する

カメラ側の取付部品を考えて寸法を決める

Amazon を探し回った結果,以下の製品を組み合わせてカメラを固定することにしました.これらは本来カメラリグとよばれるものを構成する部品で,径 15 mm のパイプに取り付けるクランプ, UNC 1/4-20 ねじなどがデファクトスタンダードです.(以下のリンクはアフィリエイトリンクです)

使う部品が決まったので,ブラケットのカメラ側の穴の位置と寸法を決めることができます.今回使うロッドクランプは UNC 1/4-20 のねじ穴があいているので,これに対応する通し穴 6.5 mm をあけておきます.間隔はキリよく 25 mm 間隔で3つあけておきました.

その他の寸法を決める

これ以外の部分の寸法は機能的には重要ではないので,手を怪我しないように丸めるなどしていきます.せっかく特注で作るので,少数生産ではコストアップにたいして寄与しない外周形状で遊んでみようと思い,今回は見える部分を C 面っぽく作ってみました.

組み立て

特に難しい点はありませんが,スペーサーを挟むのを忘れるとディスプレイを傷つけるおそれがあります.


1. ディスプレイアームにブラケットを固定する


2. スペーサーを挟んでディスプレイアームにディスプレイを固定する

完成した部品


完成品(再掲)


取付の様子


ディスプレイの前からはほとんど固定部が見えない

Discussion