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16. DHCP,フローティングスタティックルート

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1. DHCP (Dynamic Host Configuration Protocol)

1.1. DHCPとは?

DHCPは、ネットワークに接続するコンピュータ(クライアント)に対し、IPアドレス、サブネットマスク、デフォルトゲートウェイ、DNSサーバーのIPアドレスなどを自動的に割り当てるためのプロトコルです。

なぜDHCPが必要か?

  • 設定の手間削減: 数十台、数百台のPCに手動でIPアドレスを設定するのは手間。
  • 設定ミスの防止: IPアドレスの重複などの設定ミスを防止。
  • IPアドレスの効率的な利用: 使われていないIPアドレスの再利用。

1.2. DHCPの動作フロー (DORA)

DHCPクライアントとDHCPサーバーは、主に以下の4つのステップで情報のやり取りを行います。

  1. DHCP DISCOVER (ディスカバー)
    • クライアント:「DHCPサーバーさん、いませんかー?IPアドレスをください!」とネットワーク全体(ブロードキャスト)に問いかけます。
    • この時、クライアント自身のIPアドレスはまだないので 0.0.0.0 を使用します。宛先MACアドレスはブロードキャスト用の FF:FF:FF:FF:FF:FF です。
  2. DHCP OFFER (オファー)
    • DHCPサーバー:「はい、私DHCPサーバーです。このIPアドレス(例: 192.168.1.100)と関連情報(サブネットマスク、ゲートウェイなど)を貸し出せますよ」とクライアントに応答します。
  3. DHCP REQUEST (リクエスト)
    • クライアント:「ありがとうございます!では、提案いただいたIPアドレスを使わせてください」と、利用したいIPアドレスをDHCPサーバーに(通常はブロードキャストで)伝えます。複数のDHCPサーバーからOfferがあった場合、クライアントはいずれか一つを選びます。
  4. DHCP ACK (アック)
    • DHCPサーバー:「了解しました。そのIPアドレスをあなたに正式に貸与します。利用期間(リース期間)はX日間です」とクライアントに最終確認を通知します。

このDORAのプロセスを経て、クライアントはネットワーク設定を自動で取得し、通信が可能になります。

1.3. DHCPサーバーの設定要素 (概要)

DHCPサーバーを設定する際には、主に以下の情報を定義します。

  • 除外IPアドレス (Excluded Address): ルーターや他のサーバーなど、DHCPで自動割り当てしたくないIPアドレスの範囲を指定します。
  • DHCPプール (Pool): クライアントに割り当てるIPアドレスの範囲や関連情報をまとめたものです。
    • network: 割り当てるIPアドレスのネットワークアドレスとサブネットマスク。
    • default-router: クライアントに設定するデフォルトゲートウェイのIPアドレス。
    • dns-server: クライアントに設定するDNSサーバーのIPアドレス。
    • lease: IPアドレスの貸与期間。

1.4. PortFastとは? (スイッチ側の考慮点)

PCなどの端末をスイッチに接続した際、スイッチのSTP(スパニングツリープロトコル)機能により、通信が可能になるまで数十秒かかることがあります。この待ち時間中にDHCPのやり取りがタイムアウトし、IPアドレスが取得できない(169.254.x.xのようなリンクローカルアドレスが割り当てられる)ことがあります。
PortFastは、PCなどが接続されるスイッチのポートでSTPの計算をスキップし、すぐに通信可能状態にする機能です。DHCPを利用する環境では、クライアントが接続するポートに設定することが推奨されます。


2. AD値とフローティングスタティックルート

2.1. AD (Administrative Distance) 値とは?

AD値(アドミニストレーティブディスタンス値)は、ルーターが学習した経路情報が、どの情報源(ルーティングプロトコルや手動設定など)から得られたものであるかを示す「信頼度」を表す0から255までの数値です。 AD値が小さいほど、その経路情報は信頼性が高いと判断されます。
ルーターは、宛先ネットワークに対して複数の経路情報を持つ場合、最もAD値の小さい経路を最適経路としてルーティングテーブルに登録します。

代表的なAD値:

情報源 AD値
Connected (直接接続) 0
Static (スタティックルート) 1
EIGRP (内部) 90
OSPF 110
RIP 120
eBGP (外部BGP) 20
iBGP (内部BGP) 200

2.2. フローティングスタティックルートとは?

フローティングスタティックルートは、通常のスタティックルートよりも意図的に高いAD値を設定したスタティックルートのことです。

なぜフローティングスタティックルートが必要か?

  • バックアップ経路の実現: メインの経路(通常はAD値が低い)に障害が発生した場合に、自動的にバックアップ経路に切り替えるために使用します。
  • メイン経路が正常な間は、AD値が高いためルーティングテーブルには現れず、「浮いている(floating)」状態になります。メイン経路がダウンすると、この経路が「浮かび上がって」有効になります。

例えば、通常はOSPF(AD値110)で学習した経路を使い、OSPFがダウンした場合には、AD値120(OSPFより大きい値)を設定したスタティックルートをバックアップとして使用する、といった構成が可能です。

2.3. デフォルトルートとの違い (補足)

デフォルトルート (0.0.0.0/0) は、ルーティングテーブルに他のどの経路情報にも一致しないパケットの転送先を指定するものです。これは「最後の手段」の経路であり、通常、インターネットへの出口などに設定されます。
フローティングスタティックルートは特定の宛先ネットワークに対するバックアップ経路であるのに対し、デフォルトルートは「未知の宛先すべて」に対する経路という点で異なります。


3. DHCPとフローティングスタティックルートの連携

DHCPクライアントは、DHCPサーバーからデフォルトゲートウェイの情報を取得します。このデフォルトゲートウェイとなるルーターが、宛先ネットワークへの経路としてフローティングスタティックルートを含む冗長構成を持っていれば、クライアントは意識することなく、ネットワーク障害時にも通信を継続できる可能性が高まります。

  • クライアントPCはDHCPでIP設定を取得。
  • ゲートウェイルーターは、メイン経路とフローティングスタティック(バックアップ)経路を保持。
  • メイン経路障害時、ゲートウェイルーターが自動でバックアップ経路に切り替え。
  • クライアントPCの通信は継続(経路変更による一時的な遅延は発生する可能性あり)。

4. まとめと次のステップ

この講義編では、以下の内容について学びました。

  • DHCP: IPアドレスなどのネットワーク設定を自動化する仕組みとその動作フロー。
  • AD値: 経路情報の信頼度を示す指標。
  • フローティングスタティックルート: AD値を利用してバックアップ経路を実現する手法。

これらの知識は、安定したネットワークを構築・運用する上で非常に重要です。
次のハンズオン編では、実際にこれらの技術を使ってネットワークを構築し、その動作を確認していきます。お楽しみに!

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