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電子工作で簡易版こっくりさん

2022/07/18に公開

こっくりさん

こっくりさん とは、よく知られた降霊術のひとつです。 次のような手順で行います。

こっくりさん 用紙
こっくりさん 用紙

  1. 上図のような紙と硬貨を用意します。 紙の上に硬貨を置き、硬貨の上に人差し指を添えます。
  2. 「こっくりさん、おいでください」と呼びかけます。 この際、硬貨が動くことがありますが、こっくりさんによるものです。
  3. こっくりさんに幾つかの質問をします。 こっくりさんは硬貨を動かすことでそれに答えてくれるでしょう。
  4. こっくりさんを使い終わったら解放する必要があります。 「こっくりさん、お帰りください」と呼びかけます。
  5. おわりです。

電子工作で簡易版こっくりさん

上のようなこっくりさんの振舞いのうち、「はい」と「いいえ」で答えられる質問に答えてくれるこっくりさんを電子工作で作ります。 今回の工作ではマイコンを利用しません。

ひとまず全体の回路図

全体の回路図は下図のようになります。 利用する IC は 74HC14 互換品です。 電源は乾電池 2 本の 3 V を想定しています。

簡易版こっくりさんの回路図
簡易版こっくりさんの回路図

部分ごとの解説

IC 74HC14

74HC14 は CMOS のシュミットトリガ・インバータです。

74HC14 のピン接続図
ピン接続図

インバータとは

インバータは論理を反転する部品です。 つまり、ハイレベル (3 V) を入力するとローレベル (0 V) を出力し、ローレベルを入力するとハイレベルを出力します。

シュミットトリガとは

入力にヒステリシスの特性をもつ回路、ハイレベルからローレベルに切り替わるときの閾値とローレベルからハイレベルに切り替わるときの閾値が異なる回路をシュミットトリガといいます。

発振回路

回路図の左下のあたりが発振回路です。

発振回路の回路図
発振回路

解説

ここで説明されている一連の動作を シミュレータ で確認することができます。

  1. いま、C の両端の電圧が 0 V であると仮定します。 インバータの入力電圧はローレベルですので、出力はハイレベルになります。 すると、R を通って C が徐々に充電されていきます。

  2. 充電が進み、インバータの入力電圧が閾値を超えると出力がローレベルに切り替わります。 すると、R を通って C が徐々に放電されていきます。

  3. 放電が進み、インバータの入力電圧が閾値を超えると出力がハイレベルに切り替わります。 以降、この動作が繰り返されます。

発振周波数の目安

発振周波数 f の目安は f = \cfrac{1}{CR} \quad (V_{CC} = 5\,\text{V}) です。 実際には、電源電圧や回路の寄生容量にも影響されます。 今回の回路では V_{CC} = 3\,\text{V} ですので f = 100\,\text{Hz} よりも小さくなります。 試作した回路では 70 Hz 程度になりました。

サンプル・ホールド回路

回路図の中央下のあたりがサンプル・ホールド回路です。

サンプル・ホールド回路の回路図
サンプル・ホールド回路

解説

ここで説明されている一連の動作を シミュレータ で確認することができます。

  1. スイッチが押されていない状態では初段のインバータの出力は次段のインバータに到達しません。

  2. スイッチが押されると、初段のインバータの出力によって C が充放電されます。 そして次段のインバータに信号が到達します。

  3. スイッチが離されると、次段のインバータの入力は C に充電された電圧になります。 例えば、C が充電されているとき (ハイレベルのとき) にスイッチが離されると、次段の入力は常にハイレベルになります。

  4. スイッチが離れている限り、次段のインバータの入力は変化しないので V_{out} のレベルも変化しません。

注意

CMOS IC の出力端子に大きなキャパシタ (>500 pF)を接続する場合、信号の切り替わるタイミングで大電流が流れることがあり、ノイズが発生したり IC が破損したりする恐れがあります。 これを防止するために電流制限抵抗を接続します (上図の R)。

この RC によってローパスフィルタ (LPF) が形成されることに注意が必要です。 ここで信号が均されてしまっては後続の回路が動作しません。 今回の回路では R = 1.0\,\mathrm{k\Omega}C = 1000\,\text{pF} ですので、LPF のカットオフ周波数 f_Cf_C = \cfrac{1}{2\pi CR} \approx 160\,\text{kHz} \gg 100\,\text{Hz} となり、きっと動作に影響を及ぼしません。

LED 駆動回路

回路図の右側が LED を駆動する回路です。

LED 駆動回路の回路図
LED 駆動回路

解説

V_{in} がハイレベルのときに左側の LED が、ローレベルのときに右側の LED が点灯します。

抵抗の値

抵抗 R は LED に流れる電流を制限します。 よくある LED は 5 mA も流してやれば立派に光ります。 LED の順方向降下電圧 V_FV_F = 1.8\,\text{V} と決め打つと、今回の回路では R = 330\,\mathrm{\Omega} ですので、LED に流れる電流 I_FI_F = \cfrac{V_{CC} - V_F}{R} \approx 3.6\,\text{mA} となります。 もう少し流しても良い気もしますが、ちゃんと点灯しているので良しとします。

電源回路

回路図の中央上が電源回路です。 電源は単三乾電池を 2 本直列に接続したものです。

キャパシタについて

C_3 はバイパスコンデンサ (通称、パスコン) と呼ばれるもので、電源電圧のノイズを除去し、IC の誤動作を防ぎます。 このキャパシタは IC の電源ピンの最も近くに配置してください。

C_4 は電源電圧を安定させるためのキャパシタです。

動作確認

スイッチを離すと左右の LED がランダムに一つだけ点灯します。 スイッチを押している間、LED は高速で点滅しています。

動作確認のアニメーション
こっくりさんに判断を委ねる

おわりに

おわりです。

今回の記事にプログラミングの要素は微塵も登場しませんでした。 Zenn は「エンジニアのための情報共有コミュニティ」ですから、電子回路の設計製作を専門としている人々がそのノウハウを共有したりメカニックが旋盤のコツを共有したりする、そんな世界線があっても良いのになぁと思いました。


参考文献

Discussion