イキりを卒業し、尖る

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はじめに

あなたは、業界に新たな地平を切り開く "尖ったエンジニア" や"イノベーター"になりたい──そう思ったことはありませんか?

私は、まさにその思いに突き動かされてきました。

「尖った」ビジネスパーソン、エンジニアになりたいと願い、日々研鑽してきました。
その努力は実を結び、エンジニアからテックリードへ、チームを率い、技術選定やプロジェクトを任されるようになりました。

ところがある日、弊社CTOにこう言われます。

「君は、尖っているというより、イキっているよね」

正直ショックでした。

自分では尖っているつもりだったのに、なぜ「イキっている」と評されたのか。
その違いを整理したくて、この文章を書いています。

この記事はポエムです

この記事は、僕自身の経験から「イキる」と「尖る」ってどう違うんだろう?と考えたことをまとめた、ちょっとポエムっぽいお話です。
もし同じように感じている人がいたら、何かのヒントになれば嬉しいです。

イキるとは何か

「イキる」とは何でしょう? それは端的に言えば、人や数字と競争している状態のこと。

イキっている状態では、他者との比較や優位性の証明に意識が向かいがちです。

例えば、こんな思考パターンに。

  • 正当性の表明
    • 「俺が正しい / あいつが間違っている」
  • 能力の比較
    • 「私の方が優秀だ / 相手の方が劣っている」

他にも、学歴・資格・年収マウントも「イキり」の一種かなと思っています。

人に矢印が向いている状態

イキる状態の特徴は、関心の矢印が「人」に向くことです。つまり、相手より優位に立ちたいという欲求が行動のモチベーションになります。

観点 イキる状態の特徴
時間感覚 今この場の評価・勝敗にフォーカス
空間的広がり 自分の周辺・その場のコンテキスト内に限定
発話のスタンス 「俺が正しい/お前は分かってない」
動機の出どころ 劣等感・承認欲求・比較心
持続性・影響力 短期的に目立つが消耗しやすい

イキるを助長しやすい構造

エンジニアは職人気質であることも多く、技術力(スキル)で評価されたいという価値観が強い生き物です。私自身も、スキルの有無やテクノロジーへの理解の深さを長く成長テーマとして掲げてきました。
この成長欲求が、結果としてイキりへ繋がりやすい構造になっていると感じています。

構造 具体例 人に矢印が向く仕組み
評価・ランキング構造 受験偏差値・年次評価のベルカーブ・Stack Overflow Reputation 相対評価が可視化され、他者との優劣を意識しやすい
コンテスト/コンペ文化 AtCoder/LeetCode ランキング・Kaggle リーダーボード・ハッカソン受賞 ランキングが目的化し、順位が自己価値の指標になる
報酬テーブル・バンド制 Salary Band/タイトル昇格競争・ストックオプション配分 上位バンドへの昇格がゴールとなり、同僚との比較が激化
ソーシャルメディア可視化バイアス Twitter いいね/RT 数・Qiita/Zenn LGTM 数・GitHub ⭐ 定量的な"スコア"が即時に見える化され、承認欲求が刺激される

とはいえ、イキることの限界

技術力の高低を競い合う中でスキルアップし、課題解決能力は高まります。

とはいえ、イキる状態ではどこかで行き詰まりを感じ始めます。
僕が長期的に見て問題だと感じたのは、主に次の3つです。

  1. 短期的な勝利と、長期的な消耗
    チームメンバーが失敗した時、イキっていると「やっぱり俺が正しかった」「メンバーはスキル不足だ」と、人への批判に繋がりがちです。これではチームは疲弊してしまいます。

  2. 個人最適による、事業機会の損失
    競争や優位性といった個人的な成果に意識が向くと、組織や事業として成長するチャンスを見逃してしまいます。

  3. チームの創造性の低下
    個人の優劣ばかり気にしていると、みんなで知恵を出し合って問題を解決する、という文化が生まれません。

イキるではなく、尖る

尖るとは、「イキっていない状態」のことではありません。
イキると尖るは全く別の軸だと、僕は思っています。

「尖る」とは何でしょう?
それは構想を描き、人を動かすことだと、僕は考えています。

尖っている状態では:

  • 構想は、遠く魅力的でないと人は動かない
  • 「こうだったらワクワクしない?」「もっとこうしたら良くなりそう!」という対話が生まれる
  • 矢印が「未知の未来」に向かう構想モードで思考する

尖りの本質:未来に向かう矢印

尖る状態の一番の特徴は、関心の矢印が「事・未来」に向くことです。価値ある問いや仮説に集中し、共創が生まれるようになります。

観点 尖る状態の特徴
時間感覚 数年後の世界や未来価値を見据える
空間的広がり 異分野・異文化・異業種をまたぐ広がり
専門性の構成 3点構成(2点は近く、1点は遠く)によるビジョン形成
発話のスタンス 「こんな未来どう?一緒に行こう」
聴衆の体感 ワクワク・共感・未来への没入感
動機の出どころ 好奇心・構想力・問題意識
持続性・影響力 中長期で他者を巻き込む力になる

尖りについて深める

僕はまだ尖れていないので、ここからは仮説です。

(仮説)尖りとは「遠くの視点を持ち込み、業界にない問いを立てる能力」

「尖った人=魅力的なビジョンで人を動かせる人」と定義したとき、その魅力はどこから生まれるんだろう?と考えました。

それは「時間 / 空間的に遠い視点を持ち込んで、業界にない問いを立てる能力」なのかなと。

弊社CTOの言葉を借りれば、「尖るには3つの専門領域を持ち、そのうち1つは遠くにあることが重要」です。この「3点構成」が、尖りを構造的に再現する方法論になるのかもしれません。

(仮説)尖りのレベルと発展段階

3つの専門領域が必要という前提で、尖りにレベル分けをしてみました。

レベル 尖りの構造 備考
Lv.1 近い2つを掛け算 例:マーケティング × コーディング(よくある組み合わせ)
Lv.2 遠い1つが加わる 例:コーディング × 教育理論 × 発達心理(鋭さが出る)
Lv.3 遠い視点で課題を再定義 例:「学ぶとは何か?」という根源からSaaS設計を変える

(仮説)「遠さ」の3つの種類

この「遠さ」には、いくつかの種類がありそうです。

  1. 知的距離:領域・文脈が大きく異なる(例:ソフトウェア × 哲学、教育 × 神経科学)
  2. 時間距離:現在から遠い未来や過去の視点(例:5年後のテクノロジー、歴史からの洞察)
  3. 空間距離:身の回りから遠い文化・国・業界(例:異なる地域のユーザー体験、異業種の発想)

この遠さが加わることで、問題設定や課題の意味づけに深みが生まれ、尖りが単なる技術的強さではなく、"見識" になるのかなと、思っています。

まとめ

自己診断:あなたはどちらの状態にいますか?

以下の問いかけを通して、自分の現在地を、よかったら確認してみてください。

  • あなたは今、誰と競争していますか?
  • 技術力が向上したと感じたときに、どんなセリフが出ますか?
  • チームメンバーの失敗に対して、どのような反応をしますか?
  • どんな未来をワクワクして語れますか?
  • あなたの専門性の中に「遠い1点」はありますか?

技術力の真の目的を見つめ直す

技術やスキルの高さを、自分の力を証明するためだけに使うのは勿体ない。

私自身、技術者として成長する中で、イキることの限界と尖ることの可能性に気づきました。これからは技術を「人々を、世界をもっと素敵にするため」に磨いていきたいと思っています。

優秀な技術者であればあるほど、その能力を競争の道具ではなく、魅力的な未来を描き人々を導くための力として活かせるはずです。

あなたも、イキるための技術ではなく、未来を照らすための技術を磨いてみませんか?


この記事が、多くの技術者の方々にとって、自分の成長の方向性を見つめ直すきっかけになれば嬉しいです。

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