イキりを卒業し、尖る

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はじめに

テックリードとして技術選定やプロジェクトを任されるようになった頃、弊社CTOにこう言われた。

「君は、尖っているというより、イキっているよね」

正直ショックだった。自分では尖っているつもりだったのに、なぜ「イキっている」と評されたのか。その違いを整理したくて、この文章を書いている。

この記事では、僕自身の経験から「イキる」と「尖る」の違いを構造的に整理し、「尖り」を意図的に作るための「3点構成」という方法論を紹介する。読了後、自分の現在地を診断し、次に取るべきアクションを1つ決められる状態を目指す。

この記事の前提

この記事は、僕自身の経験に基づく整理だ。学術的な根拠ではなく、テックリードとしてチームを率いる中で感じた「イキる」と「尖る」の境界線をまとめたものになる。

対象読者は、エンジニアとして一定の経験を積み、「次のステージ」を模索している人を想定している。

イキるとは何か

ここで言う「イキる」は、他者比較が行動の中心になっている状態を指す。相手を打ち負かすことや、評価スコアの上下に意識が寄っている状態だ。

例えば、こんな思考パターンに陥りやすい。

  • 正当性の表明: 「自分が正しい / 相手が間違っている」
  • 能力の比較: 「自分の方が優秀だ / 相手の方が劣っている」

学歴・資格・年収マウントも「イキり」の一種だと思う。

関心の矢印が「人」に向いている状態

イキる状態の特徴は、関心の矢印が「人」に向くことだ。相手より優位に立ちたいという欲求が行動のモチベーションになる。

観点 イキる状態の特徴
時間感覚 今この場の評価・勝敗にフォーカス
空間的広がり 自分の周辺・その場のコンテキスト内に限定
発話のスタンス 「自分が正しい / 相手は分かってない」
動機の出どころ 劣等感・承認欲求・比較心
持続性・影響力 短期的に目立つが消耗しやすい

イキりを助長しやすい構造

エンジニアは技術力(スキル)で評価されたいという価値観を持ちやすい。僕自身も、スキルの有無やテクノロジーへの理解の深さを成長テーマとして掲げてきた。この成長欲求が、結果としてイキりに繋がりやすい構造になっている。

構造 具体例 人に矢印が向く仕組み
評価・ランキング構造 受験偏差値・年次評価のベルカーブ 相対評価が可視化され、他者との優劣を意識しやすい
コンテスト / コンペ文化 AtCoder / LeetCode ランキング・Kaggle リーダーボード ランキングが目的化し、順位が自己価値の指標になる
報酬テーブル・バンド制 Salary Band / タイトル昇格競争 上位バンドへの昇格がゴールとなり、同僚との比較が激化
ソーシャルメディア Twitter いいね数・Qiita / Zenn LGTM 数・GitHub Stars 定量スコアが即時可視化され、承認欲求が刺激される

イキることの限界

技術力の高低を競い合う中でスキルアップし、課題解決能力は高まる。しかし、イキる状態ではどこかで行き詰まりを感じ始める。

僕が長期的に見て問題だと感じたのは、次の3つだ。

  1. 短期的な勝利と、長期的な消耗: チームメンバーが失敗したとき、「やっぱり自分が正しかった」と人への批判に繋がりやすい。チームは疲弊する
  2. 個人最適による、事業機会の損失: 競争や優位性に意識が向くと、組織や事業として成長するチャンスを見逃す
  3. チームの創造性の低下: 個人の優劣ばかり気にしていると、知恵を出し合って問題を解決する文化が生まれない

ただし、イキること自体が完全に悪いわけではない。競争心はスキル向上の強いドライバーになる。問題は、競争心が唯一の行動原理になっている場合だ。

イキるではなく、尖る

尖るとは、「イキっていない状態」のことではない。イキると尖るは全く別の軸だ。

僕の定義では、「尖る」とは構想を描き、人を動かすことだ。

尖っている状態では:

  • 構想は、遠く魅力的でないと人は動かない
  • 「こうだったらワクワクしない?」「もっとこうしたら良くなりそう!」という対話が生まれる
  • 矢印が「未知の未来」に向かう

尖りの本質: 未来に向かう矢印

尖る状態の特徴は、関心の矢印が「事・未来」に向くことだ。価値ある問いや仮説に集中し、共創が生まれる。

観点 尖る状態の特徴
時間感覚 数年後の世界や未来価値を見据える
空間的広がり 異分野・異文化・異業種をまたぐ
専門性の構成 3点構成(2点は近く、1点は遠く)
発話のスタンス 「こんな未来どう?一緒に行こう」
動機の出どころ 好奇心・構想力・問題意識
持続性・影響力 中長期で他者を巻き込む力になる

尖りを構造的に作る: 3点構成

ここからは仮説だ。僕自身まだ「尖れた」とは言えないが、CTOとの対話から見えてきた構造を整理する。

仮説: 尖りとは「遠くの視点を持ち込み、業界にない問いを立てる能力」

「尖った人 = 魅力的なビジョンで人を動かせる人」と定義したとき、その魅力はどこから生まれるか。

それは「時間的・空間的に遠い視点を持ち込んで、業界にない問いを立てる能力」だ。

CTOの言葉を借りれば、**「尖るには3つの専門領域を持ち、そのうち1つは遠くにあることが重要」**だ。

3点構成のレベル

3つの専門領域が必要という前提で、尖りにレベル分けをしてみた。

レベル 構造 問いの質
Lv.1 近い2つを掛け算 マーケティング x コーディング よくある組み合わせ。差別化しにくい
Lv.2 遠い1つが加わる コーディング x 教育理論 x 発達心理 「なぜ人はこう学ぶのか?」という問いが技術設計に入る
Lv.3 遠い視点で課題を再定義 「学ぶとは何か?」から SaaS 設計を変える 業界の前提を問い直す力。最も尖った状態

「遠さ」の3つの種類

この「遠さ」には、いくつかの種類がある。

  1. 知的距離: 領域・文脈が大きく異なる(例: ソフトウェア x 哲学、教育 x 神経科学)
  2. 時間距離: 現在から遠い未来や過去の視点(例: 5年後のテクノロジー、歴史からの洞察)
  3. 空間距離: 身の回りから遠い文化・国・業界(例: 異なる地域のユーザー体験、異業種の発想)

遠さが加わることで、問題設定や課題の意味づけに深みが生まれる。尖りが単なる技術的強さではなく、見識になる。

注意: 3点構成の限界

この「3点構成」はあくまで僕の仮説であり、万能な方法論ではない。

  • 遠い領域を「知っている」だけでは不十分: 表面的な知識では問いの質は変わらない。その領域で実際に手を動かした経験が必要
  • 組み合わせの妥当性は事後的にしかわからない: 「遠い1点」を選ぶ基準は、正直まだ言語化できていない
  • 個人の適性に依存する: 好奇心の方向は人それぞれで、無理に遠くを取りに行くと中途半端になるリスクがある

自己診断ワークシート

以下のステップで、自分の現在地を確認してみてほしい。紙やメモアプリに書き出すと効果的だ。

Step 1: 矢印の方向を確認する

直近1ヶ月の仕事を振り返り、以下を書き出す。

【質問1】最近、仕事で一番感情が動いた場面は?
→ 記入:

【質問2】そのとき、意識は「人」と「事」のどちらに向いていた?
- 人: 「あの人より自分の方が〜」「認められたい」「負けたくない」
- 事: 「この課題を解きたい」「こうなったら面白い」「この仮説を検証したい」
→ 記入:

【質問3】チームメンバーが失敗したとき、最初に浮かぶ感情は?
- a) 「やっぱり自分が正しかった」
- b) 「次にどうすればこの失敗を防げるか」
- c) 「この失敗から何が学べるか」
→ 記入:

a が多い場合、関心の矢印が「人」に向いている可能性が高い。

Step 2: 自分の専門性を3点で書き出す

【専門領域1(本業)】:
【専門領域2(隣接)】:
【専門領域3(遠い1点)】:

3つ目が埋まらない場合、それが「次に取りに行くべき視点」のヒントになる。

Step 3: 次のアクションを1つ決める

Step 1-2 の結果をもとに、次の1ヶ月で試すことを1つだけ決める。

例:

  • 矢印が「人」寄りだった場合 → 次の1on1で「この課題をどう解くか」に話題を絞ってみる
  • 3つ目の専門領域が空欄だった場合 → 自分の業界と最も遠い分野の本を1冊読む
  • 両方できている場合 → 3つの専門領域を掛け合わせた「問い」を1つ言語化してみる

まとめ

技術やスキルの高さを、自分の力を証明するためだけに使うのは勿体ない。

僕自身、テックリードとして成長する中で、イキることの限界と尖ることの可能性に気づいた。この記事で整理した内容を振り返ると:

  • イキる = 関心の矢印が「人」に向いている。競争・比較が行動の中心
  • 尖る = 関心の矢印が「事・未来」に向いている。構想で人を動かす
  • 3点構成 = 2つの近い専門性 + 1つの遠い専門性で、業界にない問いを立てる

技術を「人を動かす構想」のために磨く。それが、イキりから尖りへの転換だ。


自己診断ワークシートを試して、自分の矢印がどこを向いているか確認してみてほしい。

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