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宇宙からの地球観測10章 校正(Calibration)

2024/06/23に公開

宇宙からの地球観測 
第10章は、 校正についてです。 なにか校正と言われると紙の上のデザインをイメージしてしまうので、Calibrationと言われたほうがしっくりきます。 どんなに良いセンサーを積んでいてもCalibrationが不十分だと性能が悪いままです。民生品の場合は、製造工程の最終工程として重要なものですが、衛星の場合は打ち上げたあとの宇宙で行うことになります。 このCalibrationをいかに素早く行うかが、今後コンステレーション運用をしていく時に重要になるはずなので しっかり理解しておきたいと思います。

問題 10.1

打ち上げ前に幾何学校正された SAR を,打ち上げ後に用いて,地上に設置したCRを撮影したところ,遅れ時間は 0.00500秒であった。CRの位置とSARの位置も誤差なくわかっており、CRの位置と衛星の位置から距離を計算したところ750000.0mであった。この媒質内での平均的光速を 299,792,458 m/sとしたとき、衛星からの遅れ時間はいくらであるべきか?実測された遅れ時間との差はなにが要因と思われるか?

基本知識: 光速

光の速度は真空中で約299,792,458 m/sです。

光の速度が変わる理由

しかし、大気中や他の媒体中を通過する際には光の速度が遅くなります。これは、光が媒体の中で原子や分子に衝突し、その結果、エネルギーの一部が吸収され、再放射される過程を経るためです。この現象は、光の波長に対する媒質の屈折率(屈折率 n)によって説明されます。

n = \frac{c}{v}

地球上での光速度の変化

地球の大気中での光の速度変化は、主に以下の要因に依存します:

  1. 大気の密度:高度、気温、気圧によって変化します。
  2. 湿度:空気中の水蒸気の量によって変化します。
  3. 大気の組成:二酸化炭素やその他のガスの濃度によっても影響を受けます。

一般的に、大気中の屈折率は1.0003程度です。これは、大気中の光速が真空中の光速より約0.03%遅くなることを意味します。

大気中の光速の具体的な計算

大気中の光速を計算してみます。屈折率 ( n ) を1.0003と仮定すると、

v = \frac{c}{n} = \frac{299,792,458 \, \text{m/s}}{1.0003} \approx 299,702,758 \, \text{m/s}

実際の影響

大気中での屈折率の変化は高度や気象条件によって変動します。例えば、高度が高くなると大気密度が低下し、屈折率も低下します。逆に、湿度が高い場合は屈折率がわずかに増加します。これらの変動は通常非常に小さいため、SARや他の精密な測定においても通常は補正可能です。

回答10.1

import numpy as np

delay = 0.005
c = 299792458
dist = 750*1000

ideal = 2*dist/c
diff = delay - ideal
print(f'ideal delay:{ideal:.9f} diff:{diff:.9f}')
--
ideal delay:0.005003461 diff:-0.000003461

計算してみると理論値よりも、早くなっています。
これは問題の設定ミスではないかと想定します。
理論値よりも遅いのであれば、考えられる要因としてはSAR信号が大気を通過する際に、大気の屈折率が変わるため、光速が変化し、遅れ時間が増加する可能性があるといえます。ただ、この課題で設定されている 299,792,458 m/sは、一般的に真空中の光速なので、これよりも速くなるということは他のなにかの前提が間違っていると想定されます。

問題10.2

一边a(m〕の直角二等边三角形の3面コーナー反射鏡の後方散乱断面積は4\pi a^4 / 3\lambda ^2で与えられる。一方,1辺a(m)の正方形の3面コーナー反射鏡のそれは12\pi a^4 / \lambda ^2で与えられる。
今,aを1m, 2m, 3mとしたとき、上記2種類の後方散乱断面積はどうなるかdBm^2の単位で求めなさい。ここで,波長(\lambda) は23.6cmとする。

基本用語の理解

後方散乱

後方散乱(こうほうさんらん)とは、光や粒子が物体に当たった後、元の進行方向に対して逆方向(後方)に戻ってくる現象のことです。例えば、霧の中で車のヘッドライトを点けると、霧の水滴に光が当たって後方に散乱され、その光が運転手の目に戻ってくることで、前が見えにくくなる現象があります。これが後方散乱です。

散乱断面積 (RCS: Radar Cross Section)

散乱断面積(さんらんだんめんせき)またはRCS(Radar Cross Section)は、物体がレーダー波をどれだけ反射するかを示す指標です。大きな散乱断面積を持つ物体は、レーダー波を多く反射し、小さな散乱断面積を持つ物体は、レーダー波をあまり反射しません。これは、物体がどれだけ目立つかを示す指標とも言えます。

簡単に言うと、RCSは「レーダーにとって物体がどれだけ大きく見えるか」を数値化したものです。例えば、飛行機のRCSが大きいとレーダーに対して目立ちやすく、小さいと目立ちにくいということです。

散乱断面積 数式

数式で表すと次のようになります。

\sigma = R^2 \left| \frac{E_s}{E_i} \right|^2 = \frac{4 \pi R^2 |E_s|^2}{|E_i|^2}

ここで、

  • R はレーダーと物体との距離
  • E_i は入射する電波の強さ
  • E_s は散乱されて戻ってくる電波の強さ

この式が示しているのは、物体がどれだけ電波を反射しているかを測るために、距離や電波の強さを考慮したものです。RCSは物体の大きさや形状、材質によって異なり、大きいほどレーダーに対して目立つことを意味します。

後方散乱係数 (backscattering coefficient)

後方散乱係数(こうほうさんらんけいすう)は、物体が後方に散乱する能力を数値で表したものです。具体的には、物体に当たった光や粒子がどれだけ後方に散乱されるかを示す指標です。これは、物体の表面や内部の構造がどのように光や粒子を反射するかに依存します。

この係数が大きいほど、物体は光や粒子を後方に強く散乱します。例えば、霧の中の水滴や雪の結晶などが高い後方散乱係数を持っているため、これらが原因で視界が悪くなることがあります。

規格化散乱断面積と後方散乱係数

規格化散乱断面積(Normalized Radar Cross Section, NRCS)と後方散乱係数(Backscattering Coefficient)についてです。これらはRCSをある基準面積(A)で割ったもので、次のように表されます。

\sigma^0 = \frac{\sigma}{A} = \frac{4 \pi R^2 |E_s|^2}{|E_i|^2 A}

ここで、

  • A は基準となる面積

これにより、物体の反射特性を基準面積に対して規格化し、物体がどれだけ電波を反射するかをよりわかりやすく比較できるようにしています。

後方散乱係数のデシベル表記

後方散乱係数をデシベル(dB)で表す式です。デシベルは音や信号の強さを表す単位で、数値が大きいほど強いことを示します。数式で表すと次のようになります。

\sigma^0 = 10 \log_{10} \left( \frac{4 \pi R^2 |E_s|^2}{|E_i|^2 A} \right) \text{ [dB]}

この式を使うことで、後方散乱係数をデシベルで表すことができ、より直感的にその強さを理解できます。

CR: CornerReflector

複数の金属平板を組み合わせた反射体は明るさの基準になる。直角二等辺三角形の金属板を組み合わせた 3面コーナー反射鏡は SAR から送られる信号を減衰させることなく SARに送り返し,明るさと位置の校正に使用できる

コーナーリフレクターは、3つの直角に交わる面から構成された物体で、特定の方向から来た電波や光を元の方向に正確に反射する特性を持っています。この特性を利用して、レーダーや測距装置で物体の位置を正確に検出することができます。

参考 直角三角形 CR

これだけだと どんなものか 正確にイメージするのは難しかったので画像を検索しました。
下記のように直角三角形を組み合わせるのですね!


(京都大学大学院 工学研究科より引用)

参考正方形 CR


(千葉大学Jossaphat研より引用)

コーナーリフレクターのRCSの式

コーナーリフレクターのレーダー断面積 (Radar Cross Section, RCS) は次のように表されます。

\sigma^0 = \frac{4\pi R^2 \cos \theta}{s}

ここで、

  • \sigma^0 は規格化散乱断面積
  • R はリフレクターからの距離
  • \theta は入射角
  • s はSAR信号が相関したあとの立体角

この式は、リフレクターが反射する電波の強さを示しており、リフレクターの形状や配置によって反射される電波の量がどれだけ変わるかを表しています。コーナーリフレクターは、その特有の形状により、入射した電波を元の方向に強く反射するため、RCSが大きくなります。

一様性ターゲット(ランバーシアン)

一様性ターゲットとは、全方向に均一に散乱する理想的な物体です。ランバーシアンターゲットは全方向に均一に散乱するため、入射したエネルギーの一部があらゆる方向に同じ強さで散乱されます。

一様性ターゲット 数式

  1. 散乱エネルギーの広がり
    一様性ターゲットでは、全入射エネルギーが全方向に広がることを考えます。入射エネルギーの減衰と全方向への広がりを考慮すると次のようになります。

    C \cdot R^2 |E_s|^2 4\pi = |E_i|^2 A \cos \theta

    ここで、

    • C は定数(C > 1
    • R は距離
    • E_s は散乱電界強度
    • E_i は入射電界強度
    • A は面積
    • \theta は角度
  2. 規格化散乱断面積(NRCS)の式
    上記の式から規格化散乱断面積(NRCS)を求めると次のようになります。

    \sigma^0 = \frac{\cos \theta}{C}

実際の例

  • 森林
    一様性ターゲットとして森林を考えると、実際には全エネルギーの1/5から1/10程度しか散乱しません。残りのエネルギーは森林によって吸収され、熱に変換されます。そのため、自然物からの散乱は意外と小さい値になります。

具体的な例では、

  • \sigma^0_{HH}(水平偏波)は -7 dB
  • \sigma^0_{HV}(垂直偏波)は -10 dB

これにより、森林からの散乱の程度を定量的に評価できます。

回答 10.2

基本用語が理解できたので、やっと問題が何を聞いているのか理解できました。直角二等边三角形と、正方形それぞれのCornereReflectorが、レーダー波をどれだけ反射するかを聞いている問題だったのですね。

計算自体は与えられた式に数値をいれるだけなので単純です。

import math

l = 0.236 #wave length m

def calcTriRCS(a):
  return 10 * math.log10(4*math.pi*a**4/(3*l**2))


def calcSquareRCS(a):
  return 10 * math.log10(12*math.pi*a**4/(l**2))

print( "a=1m TriCR:",calcTriRCS(1),"SqCR",calcSquareRCS(1))
print( "a=2m TriCR:",calcTriRCS(2),"SqCR",calcSquareRCS(2))
print( "a=3m TriCR:",calcTriRCS(3),"SqCR",calcSquareRCS(3))

--

a=1m TriCR: 18.762646033622204 SqCR 28.305071128015456
a=2m TriCR: 30.803845860181454 SqCR 40.346270954574706
a=3m TriCR: 37.84749622240871 SqCR 47.38992131680195

問題 10.3

観測対象物が滑らかかどうかを表す指標としてレイリー条件とフラウンフォーファー条件がある。これについて,以下の波長での条件を計算しなさい。
入射角は45度とする。
(1) 波長 23.6cm
(2) 波長 3cm
(3) 波長 400 nm

基本用語の理解

レイリー条件

物体表面の粗さによって、光や電波がどのように散乱されるかが異なります。
本文式 (10.17) はレイリー散乱の条件を示しています。

\sigma_r < \frac{\lambda}{8 \cos \theta}

ここで、

  • \sigma_r は表面の粗さの標準偏差
  • \lambda は波長
  • \theta は入射角

レイリー条件は、表面の粗さが波長に比べて非常に小さい場合に発生します。具体的には、表面の粗さ \sigma_r が波長の \frac{\lambda}{8 \cos \theta} よりも小さいときに、この条件が満たされます。

フラウンホーファー条件

本文式 (10.18) はフラウンホーファー散乱の条件を示しています。

\sigma_r < \frac{\lambda}{32 \cos \theta}

フラウンホーファー条件も表面の粗さに関する条件式ですが、こちらはさらに厳しい条件を示しています。表面の粗さ \sigma_r が波長の \frac{\lambda}{32 \cos \theta} よりも小さい場合に、この条件が満たされます。フラウンホーファー散乱は、より滑らかな表面で発生し、主に干渉や回折といった現象に関連しています。

回答1.3

import math

# 入射角
theta = math.radians(45)

# 波長
wavelengths = [23.6, 3, 0.0004]  # 単位はcm、400 nm = 0.0004 cm

# 定数
cos_theta = math.cos(theta)

# レイリー条件
def rayleigh_condition(wavelength):
    return wavelength / (8 * cos_theta)

# フラウンホーファー条件
def fraunhofer_condition(wavelength):
    return wavelength / (32 * cos_theta)

# 計算
results = []
for wavelength in wavelengths:
    rayleigh = rayleigh_condition(wavelength)
    fraunhofer = fraunhofer_condition(wavelength)
    results.append((wavelength, rayleigh, fraunhofer))

import pandas as pd

df = pd.DataFrame(results, columns=["Wavelength (cm)", "Rayleigh Condition (cm)", "Fraunhofer Condition (cm)"])
df
波長 (cm) レイリー条件 (cm) フラウンホーファー条件 (cm)
23.6 4.171930 1.042983
3.0 0.530330 0.132583
0.0004 0.000071 0.000018

その他散乱の種類とSAR画像への影響

SAR画像を扱う上で、画像をみながら対象を推定することは非常に重要なナレッジになるのでこの章に書かれている下記の内容はしっかり理解したいです。

体積散乱

体積散乱は、樹木の葉や枝、雪、土壌の中の水分など、均一でない物質内で発生します。電波が複数の散乱体(例:葉や枝)に当たって反射し、その反射が複数の方向に広がります。

SAR画像への影響:

  • 体積散乱が強いと、画像は全体的にざらついたり、ノイズが多く見えることがあります。
  • 森林地域や雪に覆われた地表などでは、体積散乱が支配的であるため、地表の詳細な構造が見えにくくなります。
  • 画像としては明るめに見えることが多い

2回散乱

2回散乱は、電波が地表に当たって反射し、その後別の物体に当たって再び反射される現象です。例えば、建物の壁と地面の間で電波が2回反射することがあります。

SAR画像への影響:

  • 2回散乱が強い場所は、特に都市部で目立ちます。建物の壁や地面の間で電波が反射するため、画像に明るいエッジや強い反射が現れます。
  • この現象により、建物や構造物の形状が誇張されて表示されることがあります。
  • 例えば洪水で冠水した森林地帯など水面と木の表面で反射するばあい強い散乱係数になり白く見える。

表面散乱

表面散乱は、平坦な地表や水面など、表面からの反射です。電波が地表に当たり、その表面から直接反射します。草が生えていたりすると暗く見えます。

SAR画像への影響:

  • 表面散乱が支配的な場所では、画像が非常に明瞭で、地形や表面の詳細がはっきりと見えます。
  • 水面などでは、反射が強いために非常に明るい領域として表示されます。

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