偏光とは?原理と応用例を解説[円偏光・直線偏光]【光学】

2025/01/02に公開

偏光とは

電磁波は、伝搬方向に垂直な方向で電場と磁場が振動する横波であり、光も電磁波の一種です。伝搬方向に垂直な平面内で電場ベクトルの先端を追うと、規則的な軌跡を描く様子が確認されます。この現象を偏光(polarization) といいます。

例えば、z 軸の正方向に伝搬する平面波について、ある xy 平面上で電場ベクトルの先端が直線を描くとき、この光を直線偏光(linear polarization) といいます。


z 方向に伝播する直線偏光の平面波
(青い矢印:電場ベクトル、赤い矢印:ある xy 平面でみた電場ベクトル)

また、後述する位相に関する条件が異なる場合、電場ベクトルの先端が円を描くことがあり、これを円偏光(circular polarization) といいます。


z 方向に伝播する右回り円偏光の平面波
(青い矢印:電場ベクトル、赤い矢印:ある xy 平面でみた電場ベクトル)

偏光は、後述する円偏光フィルターや液晶などへの応用が可能であり、工学分野において重要な性質とされています。

偏光の原理と分類

ここでは、z 軸の正方向に伝搬する角周波数 \omega の平面波の電界ベクトル \bm{E}(x,y,z,t) を仮定し、その偏光状態を考察します。

z 軸の正方向に伝搬する平面波の電界ベクトルは、x, y に依存しないことに注意して、次式で与えられます。

\bm{E}(z,t) = \begin{bmatrix} E_x(z,t) \\ E_y(z,t) \\ 0 \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} A_x \cos(\omega t - kz + \phi_x) \\ A_y \cos(\omega t - kz + \phi_y) \\ 0 \end{bmatrix}

ここで各変数は以下を表します。

  • A_x, A_y:電界のx, y成分の振幅
  • \phi_x, \phi_y:電界のx, y成分の初期位相
  • \omega:角周波数
  • k:波数

なお、電界の z 成分は電磁波の伝搬に寄与しないため、0 と仮定しています。

偏光状態を考える上では、電界の x, y 成分の位相差が重要になり、これを \delta := \phi_y - \phi_x と定義します。以降の節では、位相差 \delta と振幅 A_x, A_y に基づいて偏光状態を3つに分類し、それぞれ解説します。

直線偏光

A_x = 0 のとき、電界は y 成分のみなので、振動方向が y 軸と平行な直線偏光となります。以降、A_x\neq 0 として扱います。

位相差が \delta = 2m\pimは整数)のとき、次式が成立します。

\frac{E_y(z, t)}{E_x(z, t)} = \frac{A_y \cos(\omega t - kz + \phi_x)}{A_x \cos(\omega t - kz + \phi_x)} = \frac{A_y}{A_x}
\therefore \quad E_y(z, t) = \frac{A_y}{A_x} E_x(z, t)

よって、ある xy 平面で電界ベクトル \bm{E} の先端を見ると、直線を描くことが分かります。直線の傾きの角度を \theta とすると、\tan{\theta} = A_y/A_x が成立します。

例として、下図に \delta = 0, A_x = A_y のときの直線偏光の平面波を示します。傾きの角度は \theta = 45^\circ となります。


直線偏光の平面波(\delta = 0, A_x = A_y, \theta = 45^\circ

次に、\delta = (2m+1)\pi のとき、A_x \neq 0 として次式が成立します。

E_y(z,t) = \frac{A_y \cos \left( \omega t - kz + \phi_x + \pi \right)}{A_x \cos \left( \omega t - kz + \phi_x \right)} = -\frac{A_y}{A_x}
E_y(z,t) = -\frac{A_y}{A_x} E_x(z,t)

このときも電場ベクトルの先端は直線を描きます。なお、直線の傾き角は次式で与えられます。

\theta = \pi - \tan^{-1} \left( \frac{A_y}{A_x} \right)

例として、下図に \delta = \pi, A_x = 1, A_y = \sqrt{3} のときの直線偏光の平面波を示します。傾きの角度は \theta = 120^\circ となります。


直線偏光の平面波(\delta = \pi, A_x = 1, A_y = \sqrt{3}, \theta = 120^\circ

円偏光

\delta = \left( 2m \pm \frac{1}{2} \right)\pi (m は整数) かつ A_x = A_y =: A のとき、

\begin{align} E_y(z,t) &= A \cos \left( \omega t - kz + \phi_x \pm \frac{\pi}{2} \right) \notag \\ &= \pm A \sin \left( \omega t - kz + \phi_x \right) \notag \quad (\text{複号同順}) \end{align}

と表せるので、任意の z,t

E_x^2(z,t) + E_y^2(z,t) = A^2

が成立します。したがって、電場ベクトルの先端は円を描き、これを円偏光と呼びます。

\delta = \left( 2m + \frac{1}{2} \right)\pi のとき、z 軸の負の方向を向いて電場ベクトルの先端を眺めると、右回り(時計回り)の円を描くので、右回り円偏光 あるいは 右旋円偏波 (right-handed circular polarization: RHCP) と呼ばれます。


右回り円偏光の平面波(\delta = \pi/2, A_x = A_y

対して、\delta = \left( 2m - \frac{1}{2} \right)\pi のときは、左回り(反時計回り)の円を描くので、左回り円偏光 あるいは左旋円偏波 (left-handed circular polarization: LHCP) と呼ばれます。


左回り円偏光の平面波(\delta = -\pi/2, A_x = A_y

楕円偏光

直交する2つの成分(ここでは E_x, E_y)で構成され、さらに上記の直線偏光や円偏光の条件に該当しない偏光状態を楕円偏光 (elliptical polarization) といいます。

電界ベクトルの x, y 成分 E_x, E_y は、A_x \neq 0, A_y \neq 0 の条件下で次式を満たします(導出は補足:楕円の式の導出を参照)。

\left( \frac{E_x}{A_x} \right)^2 + \left( \frac{E_y}{A_y} \right)^2 - \frac{2E_xE_y \cos \delta}{A_xA_y} = \sin^2 \delta

これは楕円の式になっており、楕円の x 軸から測った傾き角を \theta とすると、

\tan 2\theta = \frac{2A_xA_y \cos \delta}{A_x^2 - A_y^2}

を満たします。

例えば、\delta = 60^\circ, A_x = 1, A_y = 0.8 のとき、電場ベクトルの先端の軌跡は、およそ \theta \sim 33^\circ だけ傾いた楕円を描きます。


楕円偏光の平面波(\delta = 60^\circ, A_x = 1, A_y = 0.8, \theta \sim 33^\circ

偏光の応用:円偏光フィルター

本節では、偏光の応用例として、カメラなどに用いられる円偏光フィルターについて解説します。

円偏光フィルターは、太陽光などの自然光 (natural light) から、円偏光の光のみを透過させるフィルターです。このフィルターをカメラのレンズに取り付けることで、水面やガラス面などの反射光を抑えた写真を撮ることができます。円偏光フィルターの原理の説明にあたり、自然光の偏光状態、偏光子、および移相子について順に解説します。

自然光の偏光状態

太陽や蛍光灯などから放射される光は、多数の原子から放出される光で構成されるため、時間的・空間的にランダムな偏光状態の光が集まっていると考えることができます。この偏光状態は非偏光 (unpolarized light) と呼ばれます。

本記事では、非偏光の光を八方向に伸びた矢印で、直線偏光は一方向の矢印、円偏光は円とその回転方向を示す矢じりを用いて表現します。


本記事で用いる各偏光状態を表す記号

偏光子

偏光子 (polarizer) は、自然光の入力に対して、ある特定の偏光状態の光のみを出力する光学素子です。例えば、自然光を直線偏光子 (linear polarizer) に入力すると、偏光子の透過軸 (transmission axis) と平行な成分のみを透過します。透過軸とは、直線偏光子が透過させる成分の方向を指します。


直線偏光子によって透過軸に平行な成分のみが透過するイメージ図

移相子

移相子 (retarder) は、互いに垂直な方向に振動する2つの直線偏光の間に、所定の相対的な位相差を与える光学素子であり、波長板とも呼ばれます。移相子は2つの直交する進相軸 (fast axis)遅相軸 (slow axis) をもち、入力した光の進相軸方向の成分と遅相軸方向の成分の間に所定量の位相差をもたらします。

移相子は、与える位相差の大きさによって、1/4波長板、1/2波長板、1波長板などに分類されます。例えば、90^\circ の位相差をもたらす1/4波長板に直線偏光の光を入力すると、円偏光の光が出力されます。


進相軸方向の成分が90度だけ位相が進むことで直線偏光が円偏光になる場合

円偏光フィルターの原理

円偏光フィルターの構成を下図に示します。


円偏光フィルターの基本的な構成図。直線偏光子の透過軸と1/4波長板の進相軸とのなす角が 45^\circになるように配置される。

円偏光フィルターは、直線偏光子と1/4波長板の2つで構成されます。非偏光の自然光が直線偏光子に入力されると、その透過軸と平行な方向の直線偏光が出力されます。出力された直線偏光は、透過軸と進相軸のなす角が45度になるように設置された1/4波長板に入力され、円偏光に変換されます。

水面やガラスからの反射光は、部分的に直線偏光を含むため[1]、円偏光フィルターを用いることで表面反射を効果的に抑えた写真を撮影することができます。例えば、海中の魚やサンゴ礁を撮影する場合を考えます。水面からの反射光は直線偏光になっていますが、水中からの屈折波は自然光と同様に非偏光になっています。そのため、円偏光フィルターを回転させ、直線偏光子の透過軸が水面からの反射光の偏光方向と直交するように調整することで、水面からの反射光を抑えた写真を撮影することができます。


円偏光フィルターで水面からの反射光を抑えている様子を表した図

円偏光フィルターの構造上、以下の点に注意する必要があります。

  • 円偏光フィルターを回転すると反射光の透過する割合が変化する
  • 円偏光フィルターには表裏がある

円偏光フィルターの直線偏光子の透過軸方向が反射光の偏光方向と直交する場合、反射光を抑えた写真を撮ることができます。一方で、透過軸方向が反射光の偏光方向と平行な場合は、透過する光全体に対する反射光の割合が増加するため、水面上のてかりが強調された写真になります。実用上はフィルターを回転させ、写り具合を確認する必要があります。

また、円偏光フィルターは直線偏光子と1/4波長板で構成されますが、作用する順番を逆にすると、円偏光フィルターとしての機能を失います。円偏光フィルターを回転させても効果が現れない場合、フィルターの表裏が逆である可能性が考えられます。

偏光の応用:液晶

液晶(liquid crystal: LC) とは、固体と液体の中間的な物理特性を持つ物質の一種で、その分子は一般的に棒状になっています。外部から電界が印加されていない場合、液晶分子の重心位置はランダムに配置されますが、分子の向きは相互作用によって平行に整列します。

電極間に電圧が印加されていないときに、その間に充填された液晶の分子が全体で90度だけ回転するように配向するものを、ツイステッドネマティックセル (twisted nematic cell) といいます。電圧が印加されていない状態のセルに入力された直線偏光の光は、偏光方向が90度回転して出力されます。一方で、電圧を印加した場合、セル内の分子が電場に揃うため、偏光方向は回転せず、入力された光と同じ方向で出力されます。この性質を応用したのが、液晶表示や液晶ディスプレイです。


左:液晶の分子によって偏光方向が90度回転する。右:偏光方向は回転しない。

例えば、電卓や時計などで用いられる液晶表示を想定して、その原理を考えてみます。下図のように、透過軸が互いに直交する2つの直線偏光子の間にツイステッドネマティックセルを挟み、最後に鏡を置いておきます。


セルがOFFのとき、セルで偏光方向が90度ねじれるので、2つの直線偏光子を透過し、外部に光が出力される。

セルに電圧を印加しない場合、非偏光の光は、1つ目の直線偏光子を通過することで直線偏光に変わり、セル内で偏光方向が90度ねじれます。セルから出力された光は、1つ目の直線偏光子の透過軸と垂直な透過軸を持つ直線偏光子を透過します。その後、鏡から反射されて、再度セルに入力されますが、この場合も偏光方向が90度ねじれるため、直線偏光子を透過して外部に光が出力されます。

一方、セルに電圧を印加した場合、セル内の液晶分子が電場の方向に揃うことで、偏光方向をねじる効果がなくなります。そのため、2つ目の直線偏光子で光が遮られ、外部に光は出力されません。


セルがONのとき、2つ目の直線偏光子で光が遮断され、外部に光は出力されない。

液晶表示の時計の数字部分は、該当する電極に電圧を印加して、その部分を暗くすることで表示しています。LEDなどの光源を必要とせず、太陽光などの自然光のみで表示できるため、電力消費を抑えることができるという利点があります。

補足:楕円の式の導出

楕円偏光の以下の式の導出を行います。

\left( \frac{E_x}{A_x} \right)^2 + \left( \frac{E_y}{A_y} \right)^2 - \frac{2E_xE_y \cos \delta}{A_xA_y} = \sin^2 \delta
  • E_x, E_y: 電界ベクトルの x, y 成分
  • A_x, A_y:電界の x, y 成分の振幅で、A_x \neq 0, A_y \neq 0 を仮定。
  • \delta:電界の x, y 成分の位相差

一般に、z 方向に伝搬する平面波の電界ベクトルの x, y 成分は次式で与えられます。

\begin{align} E_x(z,t) &= A_x \cos (\omega t - kz + \phi_x) \notag \\ E_y(z,t) &= A_y \cos (\omega t - kz + \phi_x + \delta) \notag \end{align}

ここで \omega は平面波の角周波数、k は波数、\phi_x は電界の x 成分の初期位相です。以降、(z,t) の表記を省略します。これらの式を変形すると、次の関係式が得られます。

\begin{align} \frac{E_y}{A_y} &= \cos (\omega t - kz + \phi_x) \cos \delta - \sin (\omega t - kz + \phi_x) \sin \delta \notag \\ &= \frac{E_x}{A_x} \cos \delta - \sqrt{1 - \left( \frac{E_x}{A_x} \right)^2} \sin \delta \notag \end{align}
\therefore\quad \frac{E_y}{A_y} - \frac{E_x}{A_x} \cos \delta = -\sqrt{1 - \left( \frac{E_x}{A_x} \right)^2} \sin \delta

両辺を二乗して整理すると楕円の式が得られます。

\left( \frac{E_y}{A_y} - \frac{E_x}{A_x} \cos \delta \right)^2 = \left[ 1 - \left( \frac{E_x}{A_x} \right)^2 \right] \sin^2 \delta
\therefore \left( \frac{E_x}{A_x} \right)^2 + \left( \frac{E_y}{A_y} \right)^2 - \frac{2 E_x E_y \cos \delta}{A_x A_y} = \sin^2 \delta

参考文献

  1. Eugene Hecht(2019)『原著5版 ヘクト 光学 II』(尾崎義治・朝倉利光訳)丸善出版 pp.84-99, 126-128, 131-132, 138, 143-144, 162-166

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