なぜAptosは爆速なのか?1秒未満で取引が確定する「コンセンサスアルゴリズム」の秘密

ブロックチェーンを利用していると、「トランザクションがなかなか確定しない…」「ガス代が高い…」といった経験はありませんか?特にDeFiやブロックチェーンゲームなど、リアルタイム性が求められるアプリケーションでは、この「待ち時間」が大きなストレスになります。
しかし、この常識を覆すブロックチェーンがあります。それがAptosです。Aptosは、ユーザーが取引を送信してから1秒未満で、その取引が完全かつ永久に確定(ファイナリティ)することを実現しています。
この記事では、なぜAptosがこれほどの「速さ」と「安さ」を、高い「安全性」を維持しながら両立できるのか、その心臓部であるコンセンサスアルゴリズムの仕組みを、ユーザー目線で分かりやすく解き明かしていきます。
そもそも「ファイナリティ」って何?なぜ重要?

まず、すべての基本となる「ファイナリティ」という言葉を理解しましょう。簡単に言えば、**ファイナリティとは「あなたの取引がブロックチェーンに記録され、二度と覆されることのない状態になること」**です。これが完了して初めて、あなたの送金やNFTの購入は本当に「完了した」と言えます。
実は、このファイナリティにはいくつかの種類があり、ブロックチェーンによって保証レベルが異なります。
| ファイナリティの種類 | 特徴 | 例 | ユーザー体験 |
|---|---|---|---|
| 確率的ファイナリティ | 時間が経つほど覆る確率が低くなるが、100%ではない | Bitcoin | 「6ブロック承認を待つ」など、数十分の待機が必要 |
| 楽観的ファイナリティ | 一旦は高速に承認されるが、後で覆る可能性がある | Solana, L2 Rollups | すぐに反応があるが、真の確定には時間がかかる |
| 決定的ファイナリティ | 一度承認されたら、即座に100%覆らないことが保証される | Aptos | 1秒未満で取引が完全に完了し、安心できる |
Aptosが提供するのは、最も強力な決定的ファイナリティです。これは、まるで現金を手渡しするようなもので、取引が完了した瞬間にすべてが確定します。この「即時確定」こそが、ストレスのないユーザー体験の鍵なのです。
なぜAptosは1秒未満で取引が確定するのか?
Aptosの驚異的な速さは、主に3つの技術的革新によって支えられています。
秘密①:コンセンサスと実行の「分離」

多くのブロックチェーン(特にEVMチェーン)は、取引の「順序決め(コンセンサス)」と「実行」を直列で行います。これは、一人の作業員が注文を受け、調理し、提供するまでをすべて一人でこなすようなものです。当然、処理が詰まってしまいます。
一方、Aptosはこれを完全に分離し、パイプライン化しています。
Aptosは、コンセンサス、実行、ストレージ、状態同期といった各コンポーネントをパイプライン化し、並列処理することでリソースを最大限に活用し、遅延を削減します。
これは、まるで工場の組立ラインです。「順序を決める専門家」が効率的な作業計画を立て、その計画に基づいて「複数の実行担当者」が同時に作業を進めることで、全体の処理能力が劇的に向上します。
秘密②:超効率的なコンセンサス「AptosBFT」
Aptosは、Meta社(旧Facebook)のDiemプロジェクトで長年研究されてきた**「AptosBFT」**というコンセンサスアルゴリズムを採用しています。これは、ビザンチン障害耐性(BFT)という、一部の裏切り者がいてもシステム全体が正しく動き続けるための仕組みを発展させたものです。
AptosBFTは、バリデーター(取引を検証する人たち)間のコミュニケーションを最小限に抑えることで、合意形成のスピードを理論的な限界まで高めています。これにより、わずか数百ミリ秒という驚異的な速さで取引の順序が確定します。
秘密③:並列実行エンジン「BlockSTM」

これがAptosとEVMチェーンの決定的な違いです。EVMチェーンが取引を1つずつ順番に処理するのに対し、Aptosは**「BlockSTM」**というエンジンを使って、互いに関係のない取引をすべて同時に実行します。
これは、1車線の道路と複数車線の高速道路の違いに似ています。前の車が終わるのを待つ必要がなく、空いているレーンをどんどん使って進めるため、大量の取引を瞬時にさばくことができるのです。この並列実行により、Aptosは理論上、毎秒16万トランザクションという圧倒的な処理能力を誇ります。
他のチェーン(EVM)との決定的な違い
ここまでの技術的な強みを、身近なEVMチェーン(Ethereumなど)と比較してみましょう。
| 項目 | Aptos | Ethereum (EVM) |
|---|---|---|
| ファイナリティ | 約0.9秒(決定的) | 約13分(確率的) |
| 実行モデル | 並列実行 (BlockSTM) | 順次実行 |
| 理論TPS | 160,000+ | 約100 |
| ユーザー体験 | ストレスフリーで即時確定 | 長い待ち時間と不確実性 |
この差は歴然です。Aptosでは、あなたがDEXでスワップボタンを押した瞬間に、取引はほぼ完了しています。一方、Ethereumでは、コーヒーを一杯淹れて戻ってきても、まだ取引が確定していないかもしれません。
並列処理で「犠牲にしたもの」はあるのか?
「並列処理でこれだけの性能向上があるなら、何か犠牲にしているものがあるのでは?」という疑問は当然です。確かに、並列処理には根本的な課題があります。
並列処理の根本的なジレンマ
通常、並列処理では以下のような問題が発生します:
- 処理順序の不確定性: 複数のトランザクションが同時実行されると、完了順序が毎回変わる可能性がある
- 競合の発生: 同じリソース(例:同じアカウントの残高)に複数のトランザクションがアクセスすると競合が起きる
- 結果の不一致: バリデーター間で異なる実行結果が生まれる可能性がある
これらの問題を解決するため、多くのブロックチェーンは「順次実行」を選択し、結果として低いスループットに甘んじています。
Aptosの巧妙な解決策:「プリセット順序」

しかし、AptosのBlock-STMは、この問題を**「制約を逆手に取る」**という発想で解決しました。
Block-STMでは、トランザクションの順序を事前に固定し、その順序に従った結果と必ず同じになることを保証します。これは一見制限のように思えますが、実際には大きなメリットをもたらします:
- 決定論的結果: どのバリデーターも必ず同じ最終状態に到達する
- 同期コストの削減: 順序が決まっているため、競合時の調整が簡単になる
- 開発者の負担軽減: 並列処理を意識せずに開発できる
「順序が事前に決まっていることで、一般的なSTM(Software Transactional Memory)が解決しなければならない複雑な合意問題を、Block-STMはより単純な実行問題に変換している」
実際に「犠牲にしたもの」と「得たもの」
| 項目 | 犠牲にしたもの | 得たもの |
|---|---|---|
| 実行順序 | 完全に自由な順序変更 | 決定論的で予測可能な結果 |
| メモリ使用量 | 若干の増加(STMメタデータ) | 160,000+ TPSの圧倒的性能 |
| システム複雑性 | 内部実装の複雑化 | 開発者には完全に透明な並列処理 |
重要なのは、これらの「犠牲」が実際にはブロックチェーンの要件と完全に合致していることです。ブロックチェーンでは元々決定論的実行が必須であり、Aptosはこの制約を「障害」ではなく「最適化の機会」として活用したのです。
なぜ安くて、それでいて安全なのか?
「これだけ高性能だと、セキュリティが心配…」「手数料が高いのでは?」と思うかもしれません。しかし、Aptosはその両方の課題をクリアしています。
なぜ安いのか?
理由はシンプルです。処理能力が非常に高いからです。高速道路の車線が多ければ渋滞が起きにくいのと同じで、Aptosは大量の取引を効率的に処理できるため、ネットワークが混雑しにくいのです。その結果、ユーザーは高い手数料を払って取引を優先してもらう必要がなく、常に安価なガス代が維持されます。
なぜ安全なのか?
Aptosの安全性は、2つの強固な柱によって支えられています。
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実績のあるBFTコンセンサス: AptosBFTは、悪意のあるバリデーターが全体の1/3未満である限り、ネットワークの安全性が数学的に保証されています。これは、分散システムにおけるセキュリティのゴールドスタンダードです。
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安全なプログラミング言語「Move」: Aptosで使われる「Move」という言語は、設計段階から「資産の安全性」を最優先に考えて作られています。これにより、二重使用や資産の消失といった、他のブロックチェーンで頻発する多くの脆弱性を言語レベルで防ぐことができます。これは、燃えやすい木材で家を建ててから消火器を置くのではなく、最初から耐火性の高い建材で家を建てるようなものです。
まとめ:ユーザー体験を第一に設計されたブロックチェーン
Aptosがなぜこれほど高速・安価・安全なのか、その秘密がお分かりいただけたでしょうか。
- 超高速のファイナリティ: 分離・パイプライン化されたアーキテクチャと効率的なAptosBFTにより、1秒未満で取引が確定する。
- 圧倒的な処理能力: 並列実行エンジンBlockSTMにより、EVMチェーンとは比較にならないスループットを実現し、低コストを維持する。
- 妥協のない安全性: 実績あるBFTコンセンサスと、安全なMove言語によって、資産が堅牢に保護される。
これらの特徴はすべて、最終的に**「優れたユーザー体験」**という一つの目標に集約されます。Aptosは、これまでのブロックチェーンが抱えていた「遅い・高い・使いにくい」という課題を根本から解決し、Web3が真にメインストリームになるための道を切り拓いています。
次にあなたがAptos上で何かをするとき、その背後で動いている驚異的なテクノロジーに思いを馳せてみてください。その一瞬の確定の裏には、ユーザー体験を極限まで高めるための、無数の技術革新が詰め込まれているのです。
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