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ふわっとした要件を整理するときに意識していること

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システム開発の現場では、「要件がまだふわっとしていて…」という状態で話が始まることがよくあります。
特にゲームやエンタメ系のプロジェクトだと、「面白くしたい」といった思いが先に立って、具体的な要件が後回しになりがちです。

でも、そんな状態で進めてしまうと、あとで必ずトラブルになるポイントが出てきます。
過去の実体験からよくあるパターンと対策をまとめてみました。

よくある“ふわっとした要件”のパターン

  • 依頼元の夢がたくさん詰め込まれている
    思いつきベースで「こんなことできない?」と話が進むことが多い。
    熱量はあるのですが、現実的なラインを決めるのが難しい。

  • やりたいことは多いが、予算が少ない
    「やりたいこと」は出てくるけれど「予算は0にして」という話が多い。
    ここは不思議ですが、なぜ予算がゼロになるのか疑問に思うこともあります。
    工数見積もりの結果、予算削減の話で口論になることが多いです。

  • 目的や目標が曖昧なまま「面白くするため」と言ってしまう
    誰のために、何を実現したいのかが明確でない。
    ゲーム業界では「楽しさ」や「熱量」で進んでしまうことが多く、熱量はわかるのですが、ターゲットが定まらないと判断がぶれます。

  • リリース後の効果検証をしない
    作って終わりになってしまい「目標が達成できたのか」を共有しない。
    結局目標が達成しているのかがわからない。開発メンバーのモチベーションにも影響する。
    また、ふりかえりを行わず、次のプロジェクトで同じ失敗を繰り返してしまう。

  • やらないことを決めない/決めることをネガティブに捉える
    「やめる」「削る」という判断を避けがち。ここも口論の原因になります。限られた時間やコストの中では、取捨選択も重要な要件定義の一部です。

  • 運用を考えられていない
    リリース後のサポート、問い合わせ対応、セキュリティ、個人情報の扱いなどの対応が開発段階で必要な議論をする時間がない。見えにくい箇所ではあるが、後々最も手間がかかる部分です。

自分が意識していること

ふわっとした要件のときは、**「問い詰める」ではなく「状況を聞く」**ように意識しています。

本当は『仕様』を決めてほしいという気持ちはあるのですが、相手が話しているのは「理想」や「想い」であって、「仕様」ではない場合がほとんどです。
それを現実の制約の中で形にしていくには、相手の熱を冷まさず、整理の方向へ誘導する工夫が必要です。

「なぜそれをやりたいのか?」は“問い詰めない”

目的を明確にするのは大事ですが、正面から「なぜ?」と聞くと、責められているように感じる人もいます。

そこで最近は、背景や理由をできるだけ引き出すように意識しています。
たとえば、

「この機能で、どのように使ってもらいたいか想定してますか?」

「もしこれが実現したら、どうなると嬉しいですか?」

のように、目的ではなく状況や理想像を聞くと、自然に背景が出てきます。
その中から、自分のほうで目的や仕様を整理していくイメージです。

予算・期間・人は“仮置き”から話す

多くの場合、

  • 予算 → 工数を出してから決まる
  • 期間 → とりあえずリリース時期だけ決まっている
  • 人 → そもそも未定

という順番です。

この状態で「リソースを決めてください」と言っても現場は動けません。
そこで、まずは自分のほうでざっくりと仮置き(もし〜だったら、〜場合なら)してみます。

「もし2ヶ月・2人でやるなら、これくらいの範囲になりそうです」

「半年・4人なら、ここまで広げられそうです」

こうして**“仮の現実”を置くことで、相手と同じ地図の上で話せる**ようになります。
決められていないことが多いほど、仮置きが有効です。

「やらないこと」ではなく「あとでやる」とポジティブに決める

ふわっとした要件の整理で一番大事でお互いの調整が難しいのは、“全部やる”前提を外すことです。

自分の場合は、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズが公開しているファンクションマトリクス(FM)を少しアレンジして全項目を書き出すところから始めました。(参考リンク)

急には浸透することはないので、まずは一人で書き出して整理し、その後相手に共有して優先度をつけてもらいます。
ポイントは、“削る”ためではなく、“見える化”するために書くこと。

最初はこんな感じで、全機能・アイデアを並べていきます。

いれたいものがつまった夢 ターゲットに定まった楽しさがあるか? / 目標達成に寄与するか? ざっくり予算
(開発・運用規模)
優先度
(高/中/低)
アバター着せ替え機能 ◯(メインユーザーが参加する軸)
ユーザー登録・ログイン機能 △(アバターを保存したい特定層のみ)
アバター公開機能 △?(画像機能に限定して、SNSでリンクの方が良いのでは?) 小〜中
フレンド機能 ✕(明確な目的なし)

この表を作って以下のような議論をすると、改めて考えてくれるようになります。

  • 「この機能はどのくらいのユーザーさんが利用しそうでしょうか?」
  • 「この機能は外部サービスを利用する方が良い効果になるのではないでしょうか?」
  • 「もし迷っているのであれば、リリース後の反応を見て検討はどうですか?」

最終的に優先度が低いものを後回しにするだけでも、プロジェクトの混乱がかなり減ります。

つまり、“やらない”のではなく、“今はやらない”を決めるイメージです。

リリース後の“運用イメージ”を描く

運用を考えるのは後回しにされがちですが、
「誰が」「どこまで」「どう対応するか」を軽く話しておくだけでも、要件の見通しが変わります。

「問い合わせが来たらどなたが対応しますか?」

「ログはユーザの問い合わせで過去の記録を確認する時は半年分で大丈夫ですか?」

「ターゲットの国はどこ?GDPR・個人情報の取り扱いの対応していますか?」

こうした話を早めに出すことで、設計段階の安心感が全然違うと感じています。

まとめ

要件がふわっとしているときは、どうしても焦りがちになります。
でも、相手を詰めずに整理するには、
**“現実を見せる”よりも“現実を一つ一つ確認する”**姿勢が大事だと思っています。
「聞き方」「仮置き」「優先順位」「運用の想定」
この4つを意識するだけでも、口論になりにくく、議論が前に進みやすくなります。

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