いきなりログイン画面を見せて11%のユーザーを失ったわけ
個人開発でアプリをリリースした後、インストールされたものの新規登録せずにログインを試みて離脱するユーザーが一定数いることに気づきました。
子供向け画像認識学習アプリ「KORENANI」を開発する中で、いきなりログイン画面を表示したことで、約11%のユーザーを初回起動時に失っていました。
なぜこの設計がユーザーを迷わせたのか、理由を分析して改善を試みた話を共有します。母数が少ない(n=96)ので、「検証」というほどではないですが、こういうこともあるよ、という感じで読んでもらえればと思います。
TL;DR
事実:
- 初回起動後、約11%のユーザーがアカウント作成せずにログインを試みて失敗・離脱
失った理由:
- いきなりログイン画面を表示したため、ユーザーが混乱した
- 新規登録への動線が画面下部で気づきにくかった
- 新規ユーザーと既存ユーザーの導線が不明確だった
改善策:
- Welcome画面を追加(実装済み、効果測定はこれから)
11%の離脱という事実
アプリをリリースして数週間後、気になるデータに気づきました。
項目 | 数値 |
---|---|
インストール数 | 96 |
新規登録成功 | 74アカウント (77%) |
ログイン試行→失敗→離脱 | 11アカウント (11%) |
インストールのみ | 11 (11%) |
約11%のユーザーが、新規登録ではなくログインを試みて失敗していました。
もちろん母数が少ないので統計的には微妙ですが、個人開発では1人1人が貴重です。この11人は何に困っていたのか?
なぜいきなりログイン画面を選んだのか
改善前のUIは、アプリ起動時にいきなりログイン画面を表示していました。
(画面は開発中の画面)
画面構成:
- 目立つソーシャルログインボタン(Apple, Google)
- メールアドレス/パスワード入力欄
- 画面下部に小さく「Create Account」リンク
この設計を選んだ理由:
- 既存サービスの模倣:Instagram、Xなど多くのアプリが採用している
- シンプルさの追求:余計な画面を挟まない
- 開発効率:Welcome画面を作る工数を省きたかった
一見合理的に見えるこの判断が、実は大きなミスでした。
なぜ11%のユーザーを失ったのか - 3つの理由
理由1:認知度の違いを考慮していなかった
InstagramやXは「アカウントを作成して使うもの」という認識が既にあります。ユーザーは初回起動時に、当然のように新規登録するつもりで画面を見ます。
しかし、KORENANIのような無名のアプリでは状況が全く異なります:
ユーザーの認識:
- 「これは何をするアプリなのか?」
- 「アカウントが必要なのか?」
- 「試しに使ってみたいだけなのに...」
参考までに、Duolingoでは初回起動時にWelcome画面を表示し、「GET STARTED」(新規ユーザー向け)と「I ALREADY HAVE AN ACCOUNT」(既存ユーザー向け)を明確に分けて提示しています。
理由2:ユーザーの行動を誤解していた
私は「Create Accountは下にあるから見ればわかるでしょ」と考えていました。
しかし、実際のユーザー行動はこうでした:
- App Storeで「子供 学習」などで検索してインストール
- アプリを起動
- いきなりログイン画面が表示される
- 「あれ、このアプリ使ったことあったっけ?」と混乱
- 一番目立つログインボタンをとりあえずタップ
- 認証に失敗する(アカウントがないので当然)
- 「よくわからないアプリだな」とアプリを閉じる
ユーザーは:
- 画面を最後まで見ない
- 説明を読まない
- 一番目立つボタンを押す
「Create Account」は画面下部にあり、スクロールしない限り気づきにくかったのです。
理由3:ビジュアルヒエラルキーの失敗
改善前の画面では、視覚的な優先順位が間違っていました:
改善前のビジュアルヒエラルキー:
- ソーシャルログインボタン(大きく、目立つ)
- メールアドレス/パスワード入力欄
- ログインボタン
- Create Account(小さく、下部)← 最も重要なのに最も目立たない
新規ユーザーが大多数を占めるはずなのに、既存ユーザー向けの「ログイン」が最も目立つという矛盾した設計でした。
改善策:Welcome画面の追加
(画面は開発中の画面)
これらの理由を踏まえて、新しいフローではWelcome画面を追加しました。
画面の構成:
- KORENANIのロゴとブランディング
- 「Learn through photos with fun」というキャッチコピー
- 目立つ緑色の「Get Started」ボタン(新規ユーザー向け)
- 「Already have an account? Sign In」(既存ユーザー向け)
改善のポイント:
1. 選択肢を平等に提示
- 新規ユーザーと既存ユーザーの導線を明確に分離
- どちらも視認性を確保
2. ビジュアルヒエラルキーの修正
- 新規ユーザー向けのアクションを最も目立たせる
- 既存ユーザーも迷わない程度に明示
3. アプリの価値を伝える
- ロゴとキャッチコピーで「何をするアプリか」を伝える
- ユーザーの不安を軽減
効果測定はこれから
正直に言うと、改善の効果はまだわかりません。
- Welcome画面の実装:完了
- App Store審査:通過待ち
- データ収集:未開始
リリース後、以下を確認する予定:
- ログイン試行→失敗率が下がるか
- 新規登録率が上がるか
- 全体の離脱率が改善するか
もし効果が見られなかったら、他の要因(アプリの価値提案、マーケティング、ターゲット層など)を疑って、さらに改善していきます。
(なお、改善されたUIは今週リリース予定です)
この経験から学んだこと
1. 「ベストプラクティス」には前提条件がある
大手サービスの真似をするときは、その前提条件を理解する必要があります:
- 認知度:ユーザーはそのサービスを知っているか?
- 文脈:どのような経緯でアプリを開いているか?
- 期待値:ユーザーは何を期待しているか?
これらを無視して形だけ真似ても失敗します。
2. 「シンプル」の意味を取り違えていた
「シンプル」には2つの意味があります:
- 見た目がシンプル:要素が少ない、ミニマル
- 体験がシンプル:迷わない、わかりやすい
私は「見た目のシンプルさ」を追求して、「体験のシンプルさ」を損ないました。
Welcome画面を追加することで画面数は増えましたが、ユーザーの体験はシンプルになる...はずです(効果測定待ち)。
3. データを見て初めて気づく
「ユーザーは画面を最後まで見るだろう」という思い込みは、データを見て初めて間違いだと気づきました。
データがなければ、11%の離脱は「アプリの品質の問題」だと誤解していたかもしれません。
まとめ
11%のユーザーを失った理由:
- 認知度の違い:大手アプリと無名のアプリでは、ユーザーの前提が全く異なる
- ユーザー行動の誤解:ユーザーは画面を隅々まで見ない、一番目立つボタンを押す
- ビジュアルヒエラルキーの失敗:新規ユーザーが大多数なのに、ログインが最も目立っていた
小さなUIの判断ミスが、大きな影響を与えることを実感しました。
効果が出るかはわかりませんが、データを見て、仮説を立て、実装し、測定する。このサイクルを回し続けることが大事だと思っています。
同じような問題に直面している方の参考になれば幸いです。効果が測定できたら、また続編を書くかもしれません。
おまけ:プロダクト紹介「KORENANI」
この記事で紹介した改善は、子供向け画像認識学習アプリ「KORENANI」の開発経験に基づいています。
KORENANIとは
「これなに?」という子供の好奇心を育むことを目的とした、画像認識技術を活用した学習アプリです。世界を百科事典に変えることをコンセプトに、子供たちが身の回りのものをカメラで撮影すると、アプリがそれを認識し、学習コンテンツとして提供します。
執筆者について
kondo - 子供向け画像認識学習アプリ「KORENANI」を開発。普段はコミューンという会社で働いています。
注意事項
この記事は、限定的なデータ(n=96)に基づく仮説と改善案を共有したものです。統計的な確実性は低く、因果関係は推測に過ぎません。「こういうこともあるよ」という軽い気持ちで読んでいただければと思います。
効果が測定でき次第、続編を書くかもしれません。
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