🪸

Expedition33に見るテクニカルアーティストの役割:Houdiniの活用と継続的な学びの重要性

に公開

概要

https://expedition33.sega.jp/
リリース時点で32人+1匹という中小規模のチームで開発されました「Expedition33」。
その開発に携わるテクニカルアーティストが、ArtStationで非常に興味深いポートフォリオを公開しました。

Alexandre Breton(ArtStation)
Armande Lecointre(ArtStation)

このポートフォリオはそのような 「中小規模のUnreal Engine開発チーム」における「テクニカルアーティストの貢献」 を知るための貴重な実例です。

公開された資料からはHoudiniとシェーダーやブループリント等を用いて、テクニカルアーティストがUnrealEngineのProjectでチームが求める高品質なビジュアルを実現するために何を行ったかを見て取れることができます。
さらにその公開内容から SideFXがゲーム開発の手法としてYoutubeなどで提案している手法から同様のテクニックを再現できるのでは無いか ということについて文章としてまとめさせていただきました。

長文となりますがお付き合いいただけますと幸いです。

テクニカルアーティストがExpedition33で成した事

それでは、公開されているポートフォリオから、具体的な内容を見ていきましょう。

以下にいくつかの公開されている作品のリンクを紹介させてください。
特に多かったHoudiniを用いて表現の実現をした例をリストアップさせていただきました。

VAT

非常に多くの表現でVATが利用されていることが記載されています

プロシージャルモデリング

プロシージャルモデリングで作成された環境モデルが多数紹介されています。
HoudiniEngineを使っている言及もありました。

環境エフェクト

以上、公開されている中でいくつかピックアップさせてリンクを張らせていただきました。
今回はHoudiniに関する例をあげさせていただきましたが、BluePrintやShaderを中心として表現を行っている例も公開されています。

高評価のゲームででこれだけの大量のテクニカルアーティストのワーク実例を挙げてくださっている例は他に見たことありません。非常に有益な資料と感じます。

AAAゲームのビジュアル表現は大会社だけが実現可能な「魔法」では無い

さて、これらの素晴らしい作品群ですが、もう一つ、僕個人として非常に重要な気づきがありました。
それは、「この作品群にSideFXや革新的な情報を共有しつくれている著名なアーティストが提示している多くの技術提案が利用されている」
そして 「それらはYouTubeなどのオープンな情報ソースから知ることが可能なものではないか」 という事です。

Houdiniチュートリアルの群衆とExpedition33の群衆の比較

例えば以下はSideFXの公式ユーチューブで公開されているチュートリアルですが「UnrealEngineにてVATを用いて単一のマテリアルインスタンスを用いた軽量な群衆キャラクター」を実現するためのチュートリアルです。

https://www.youtube.com/watch?v=StGJ1l8noNs

チュートリアルで作成されるデータの形式

こちらの動画では最終的に

  1. カラーテクスチャは使わずにマテリアルで色を表現、アニメーション用のpos、rotテクスチャ2枚
  2. 頂点カラーのマスクを使って表示するパーツを切り替えることが可能なシェーダー、ブループリント
  3. 単一のマテリアルインスタンスを使って大量のキャラクターバリエーションを表示することでドローコールを削減
  4. レーム数を下げてストップモーションのような表示にしてキーフレームを削減

というデータフローの提案をしています。

Expedition33群衆のデータ形式

一方Armande Lecointreさんのポートフォリオに記載されているVAT群衆は以下のように説明されています。

  1. ビジュアル用のテクスチャ3つ、アニメーション用のpos、rotテクスチャ2枚
  2. 服や装飾品のマスク用に頂点カラーを使用
  3. マテリアルが1つ
  4. VATモデルのアニメーションは6fps~1fpsなどフレーム数を減らしている

比較から判ること

比較してみると表現に合わせてビジュアル面の調整は行っているものの、リソースの仕様が非常に似通ったものになっていることが判ります。

見た目は全く異なりますがマテリアルを調整することでBaseColor、Normal、Metal、Roughnessなどを割り当ててPBRのライティングに置き換えたものも作成できます。

個人でのテスト結果

(以下は僕個人でテストした際、BaseColor、Normalをわりあてて表示した画像です。)
上述のSideFXチュートリアルを追って構成したVAT群衆
上述のSideFXチュートリアルを追って構成した際のVAT群衆

SideFXがHoudiniを使ったフローとして提供してくれているVATy用マテリアルはBaseColor、Normalなどビジュアル面の設定を自由に変更できます。
Expedition33の群衆も恐らく、このHoudiniのチュートリアルを参考に作成された群衆システムではないでしょうか。

Expedition33のグラフィック表現を再現しようと考えた際に参考にできるチュートリアル

次の作品も技術のピースを感じるチュートリアルが思い当たります。

衝突を回避して絡み合うケーブル

元々Horizonの技術紹介として公開され、現在はEntagmaで同様の仕組みを再現するチュートリアルが公開されている「衝突を回避してケーブルを作るチュートリアル」は「根っこのプロシージャルモデリング」の参考になるでしょう

https://www.youtube.com/watch?v=yhTMKMBpOXg

岩につながる紐

「浮遊する岩をつなぐ紐」ですが「ProjectGROT」で似た表現のプロシージャルモデリングが紹介されています。
※チュートリアルの公開時期的にExpedition33が参考にしているとは考えづらいですが、少なくとも我々はこのチュートリアルを見ることで同様の表現をすぐに再現できます。

https://www.youtube.com/watch?v=Y5j_CBGdIHg&list=PLXNFA1EysfYnYXTCFn58Hu_fxRXxQiC0t&index=1&pp=iAQB

その他、見え隠れする技術のピース

他にも

  • インポスター技術を用いた雲の表現
  • 旗や布の自然な揺らめきを表現するVATアニメーション
  • サンゴの破壊アニメーションにおけるVATの活用
  • 多岐にわたるプロシージャルモデリング

などはSideFX社やアーティスト、エンジニア達がHoudiniの可能性として多くの技術をオープンな情報ソースで示しています。

Expedition33のテクニカルアートワークはそれら技術のピースを学んだテクニカルアーティストが独創性と結びつけ、実際のプロダクションに実用的な形となって組み込まれているものであったのではないでしょうか。

終わりに:私たちも明日から始められること

以上がExpedtion33におけるテクニカルアーティストの素晴らしい事例でした。

ハイエンドなグラフィック表現は大手企業で秘匿された「魔法」だけではない

Expedition33は非常に素晴らしい作品ですが、そのグラフィックの実現に寄与した高度な技術は社外秘の「魔法」ではありません。Houdiniの公式情報やアーティストコミュニティで公開されている知識を学び、自身のプロジェクトに応用する探求心と実践力こそが、今日のクリエイティブの最前線を切り拓きます

すでに公開されている多くのノウハウを学ぶ価値とこれから来るゲーム業界の変革

この事例から学ぶべきことは**「高度な技術は、学ぶ意欲さえあれば誰の手にも届く場所にある」**ということです。Expedition33が証明したように、Houdiniの公式チャンネルやコミュニティで共有される情報を学び、試すこと。その一歩が、やがて大きな成果へと繋がるのです。

さらに現在、開発の形態はAIの進化によって大きく変化を遂げている最中です。

開発プロセスが大きく変わろうとしている今だからこそ、好奇心を持って学び試し続ける姿勢が目を見張るような大きな成果につながる重要な素養となるだろうと感じます。

Discussion