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非減衰単振り子の運動(Part 1 -シミュレーション準備編-)

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非減衰単振り子の運動(Part 1 -シミュレーション準備編-)

はじめに

単振り子は、糸の先におもり(質点)を吊るした単純な振り子です。
本記事では、次回のシミュレーションに向けた準備として、減衰のない単振り子の運動方程式を 2 通りの方法で導出します。

※本記事は note にも掲載しています。(note 版はこちら: note 版)


単振り子のモデル

単振り子の模式図
Fig.1 Schematic of a simple pendulum

Fig.1に示すように、単振り子の構成要素は以下です。

  • 質点 m(糸の先端)
  • 糸の長さ l
  • 重力加速度 g

仮定:

  1. 糸は質量がなく、伸縮しない。
  2. 空気抵抗や軸の摩擦はない。
  3. 振れ角は十分小さい場合、小振幅近似が可能。

運動方程式の導出

運動方程式はニュートンの運動方程式ラグランジュの運動方程式の 2 通りで導出します。 より複雑な系へ拡張する際は、後者の方が式を立てやすいことが多いです。

1. ニュートンの運動方程式

単振り子の力の分解
Fig.2 Force decomposition of a pendulum

Fig.2に示すように、振り子には重力 mg が働き、その接線方向の下向き成分は mg \sin\theta です。
ニュートンの運動方程式より

m l \ddot{\theta} = - m g \sin\theta \tag{1}

が得られます。両辺を ml で割ると、

\ddot{\theta} + \frac{g}{l} \sin\theta = 0 \tag{2}

となり、これは非線形の 2 階同次微分方程式です。

振れ角 \theta が十分小さいとき、\sin\theta \approx \theta として線形化できます。
弧長 ss = l\theta で、小角では水平変位 x \approx s となるため、\theta \approx x/l が成り立ちます。|x|/l \ll 1 が線形近似の目安です。

\ddot{\theta} + \frac{g}{l} \theta = 0 \tag{3}

これにより線形化モデルが得られます。


2. ラグランジュの運動方程式

単振り子の運動は一般化座標 \theta で表せます。
糸の長さ l、質量 m、重力加速度 g のもとで、ポテンシャルエネルギー U と運動エネルギー T は次のようになります。ただし、ポテンシャルの基準面は原点Oとします(Fig.3)。

ポテンシャルの基準面
Fig.3 Reference surface for potential energy

  • 運動エネルギー
T = \frac{1}{2} m (l \dot{\theta})^2 = \frac{1}{2} m l^2 \dot{\theta}^2 \tag{4}
  • ポテンシャルエネルギー
U = -m g l \cos\theta \tag{5}

ラグランジアン L

L = T - U = \frac{1}{2} m l^2 \dot{\theta}^2 + m g l \cos\theta \tag{6}

ラグランジュの運動方程式

\frac{d}{dt} \left( \frac{\partial L}{\partial \dot{\theta}} \right) - \frac{\partial L}{\partial \theta} = 0 \tag{7}

に代入すると、

m l^2 \ddot{\theta} + m g l \sin\theta = 0 \tag{8}

両辺を m l^2 で割って、

\ddot{\theta} + \frac{g}{l} \sin\theta = 0 \tag{9}

となり、ニュートンの運動方程式による導出(式(2))と同じ結果が得られます。


(補足) 束縛条件と一般化座標

デカルト座標 (x, y) で表すと、この運動は xy の 2 つの座標で記述できます。
一見すると2 自由度に見えますが、この運動では糸の伸縮を考慮していないため、自由度を 1に減らせそうです。

実際、おもりの運動は (x, y) で表せますが、糸の張力 S によって、おもりは半径 l の円周上に束縛されています。
その束縛条件は

x^2 + y^2 = l^2 \tag{10}

となります。このように自由度が 2 から 1 に減ったとしても、x または y だけでは運動を完全には記述できません。

では、平面極座標 (r, \theta) で表す場合を考えます。このとき

r = l \tag{11}

は定数であり、したがって \dot{r} = 0, \ddot{r} = 0 です。
つまり、(r, \theta) のうち r変数ではなくなり\theta が唯一の時間に依存する変数として残ります。

したがって、デカルト座標で束縛条件 (式(10)) を課すよりも、はじめから (r, \theta) を一般化座標として採用すれば、r = l を変数から除外でき、扱いがずっと簡単になります。

一般に、あらかじめ物体にどのような力を与えるかが分かれば、その物体の運動は決定できます。
しかし、単振り子の運動における束縛条件は、既知の力だけでは説明できません。
つまり、張力 S はあらかじめ決まっている力ではなく、束縛条件を満たすために必要に応じて現れる力と考えるべきです。

したがって、

  • 「張力 S → 運動(束縛条件)」
    ではなく、
  • 「運動(束縛条件) → 張力 S

という関係として扱うのが適切です。
束縛条件に関する詳しいことは別の機会にまとめたいです。


3. 単振り子の一般解

角振動数 \omega

\omega = \sqrt{\frac{g}{l}} \tag{12}

とおくと、式(3)は

\frac{d^2\theta }{dt^2} = - \omega^2 \theta \tag{13}

と書き換えられます。
単振動の微分方程式の一般解の詳しい求め方は下のサイトが参考になります。

🔗 単振動の解法(金沢工業大学)

ここでは概要だけ示します。

まず、式(13)の解の 1 つを見つけてみると(これは比較的容易に見つけられます)、

\theta(t) = A \sin \omega t \tag{14}

があります。ここで A は任意定数です。

しかし、これは式(13)の一般解ではありません
式(13)は 2 階の線形微分方程式なので、一般解には任意定数が 2 つ必要です。

線形微分方程式の重要な性質として、次の 2 つがあります。

  • 1 つの解が見つかれば、その定数倍もまた解である
    x = f(t) \ \Rightarrow \ x = c f(t) も解
  • 2 つの独立な解の和もまた解である
    x = f(t),\ x = g(t) \ \Rightarrow \ af(t) + b g(t) も解

この 2 つ目の性質を使うと、B を任意定数として

\theta(t) = B \cos \omega t \tag{15}

も式(13)の解であるので、これらの和

\theta(t) = A \sin \omega t + B \cos \omega t \tag{16}

も解となります。A, B という2つの任意定数を持っているので、これが一般解です。
また、物理的な意味としてはA, Bは初期条件です。

任意定数の別表現
Fig.4 Alternative representation of constant

A, Bは任意に決定できるとして、Fig.4のように表現できます、すなわち、

\begin{cases} A = c \cos \alpha \\ B = c \sin \alpha \end{cases} \tag{17}

と表現し、c, \alpha が任意定数となります。
これを式(16)に代入すると

\begin{aligned} \theta(t) &= c \cos \alpha \sin \omega t + c \sin \alpha \cos \omega t \\ &= c \sin (\omega t + \alpha) \end{aligned} \tag{18}

となり、c, \alpha の 2 つの任意定数を含んでいるので、これも式(13)の一般解です。

この単振動の周期T

T = \frac{2\pi}{\omega} = 2\pi \sqrt{\frac{l}{g}} \tag{19}

となります。長さlが長いほど単振り子の周期Tは長くなるが、質点の質量mには依存しない。
また、単振り子の振動数は次式で表されます。

f = \frac{1}{T} = \frac{1}{2\pi} \sqrt{\frac{g}{l}} \tag{20}

次回予告

この運動方程式を用いた数値シミュレーションを行います。

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