AIによりプログラミングというスキルが陳腐化されていくこの世界で「僕たちはどう生きるか」
公開日: 2025年1月10日 18:00
タグ: 自分, AI, プログラミング, 数学, プログラマー, AIエージェント
著者: konaito
1.はじめに
ポジショントークの明示
AIに限らず未来について語る記事,エッセイでは,書き手の立場や主張が色濃く反映されることがよくあります.これは,彼らが自身のビジョンに賭けており,その描いた未来が実現してほしいと願っているためです.
特に「AI未来予想」と題して,AIと職業の関係について論じる場合,その議論には書き手の個人的な経験や視点が大きく影響します.たとえば,自分の周囲を見ても,「会社のルールでAIに触れることを禁止されているエンジニア」や「商社マン・コンサルタント」,「知的労働に内定した大学生」,「専門分野を追求する大学院生」など,自分の知能,人間らしさに対してポジションをとっている人種は,それぞれの立場や背景によって,AIが自分たちの仕事を脅かすとは考えたくない,もしくはそう信じたいという心理が働くように見えます.
なので,まず自分がどのようなポジションであるかを示すことで,ポジショントークであることは理解しつつも読んでもらえる文章になってもらえればと思い,自己紹介から始めようと思います.
(注意)この文章の中では「ロボットによる業務自動化」については語っていません.
2023年3月に休学した自分
岩手大学
2023年3月,私は大学2年生で休学を決めました.大きなきっかけは,2022年11月にリリースされたChatGPTの登場です.もともと大学に入ってからプログラミングに熱中し,時には何時間も机に向かい続け,空腹で倒れかけるほど集中して取り組むこともありました.いわゆるバンド活動や飲み会といった「大学生らしい」趣味ではなく,直接お金にもつながりうるプログラミングというスキルにのめり込めたことは,自分でも美味しいなと思っていました.大学ではやりたかった数学や物理を差し置くほどコードを書く日々でしたが,ITが重宝されているこの時代であれば,食べていくのに困らないだろうという期待もありました.
しかし,ChatGPTが登場してからは,その想像が大きく揺らぎました.当時は「プロンプトエンジニアリング」という言葉がもてはやされ,上手なプロンプトを用意すればプログラミングの補助をしてくれる非常に便利なツールとして活用していました.たとえば,ReactでのWebアプリ開発しか経験のなかった私が,Flutterを使ってスマホのネイティブアプリをつくる際,未知の基礎知識の補完からコーディングのサポートまで,ChatGPTを頼りにできました.そのおかげで,わずか2,3ヶ月でダウンロード数500,学内シェア10%を達成し,継続率も高かった(具体的な数値は失念しました)時間割アプリをリリースできたのです.これは2年間,本やWebで独学してきた経験が下地としてあったからこそ成し遂げられた部分もありますが,同時に「ジュニアエンジニアでも,短期間で一人きりでアプリをリリースできる時代になった」という手応えを得る機会でもありました.
そうした状況の中で,AIにプログラミングを補助してもらう段階から,将来的にはプロンプトだけでアプリをすべて作りきれる,いわゆるフルコードだがプログラミングレスの開発が主流になる未来を想像し,私たちプログラマの存在が限りなくゼロに近づくのではないかと感じました.「せっかく身につけたプログラミングスキルでも,その時定数(どのくらいの早さで陳腐化するかを示す時間的尺度)が小さいのではないか」と強く思うようになったのです.ならば,いずれ陳腐化する前にこのスキルを思い切り使い切ろうと決意しました.その結果,大学での数学の勉強(私にとっては時定数が大きいと感じる分野)をひとまず後回しにし,休学して東京に出て起業という形で挑戦するに至ったのです.
(注釈)数学が時定数の高いものだと考えている理由については4章にて後述されています.
引用:孫正義さん(Softbank)
孫正義さん(Softbank)
私は大学を休学した2023年3月に当時のChatGPT-3.5を見て,3年後には自分たちの職業を脅かすようなAIが誕生すると考えていました.自分たちの職業を脅かすようなAIが孫正義さんの話すAGIとイコールになっているわけではないのですが,孫正義さんのSoftbank World 2023,Softbank World 2024の講演にて核心に変わっております. そこで,これからのAIに関する用語や知識の補足,私見以外からの視点として,Softbank World 2024の孫正義さんの特別講演"超知性が10年以内に実現する"(https://youtu.be/BzJHh5IZV2o)を引用したいと思います. 以下は簡単にまとめたものです.
Softbank World 2024の特別講演「超知性が10年以内に実現する」で,孫正義さんは以下のような見通しを示しています.まず「AGI(Artificial General Intelligence)」は,当初「10年以内」と予測していたところ,2,3年後という形に前倒しされると訂正し,さらに人間の知能(AGIレベル)を大幅に超える「ASI(Artificial Super Intelligence)」が「10年以内」に到来すると強調しています.
AIの進化段階AGIは「人間と同等の知能」を持つAIを指し,孫正義さんはこれを5つのレベルに分けて解説します.一般的な会話能力(レベル1)から専門的分野の博士号レベルの知能(レベル2),さらには人間の代わりに行動するエージェント機能(レベル3)や,AI自身が新たな発明を生む段階(レベル4),そして組織的に協調行動できるレベル(レベル5)に至るとしています.この「AGI(レベル5)」をさらに「1万倍」に拡張したものがASIであり,孫正義さんはこれを「超知性」と呼んでいます.
「考える」AIへの進化単なる「検索・知識の理解」を越え,「リーズニング」(推論)や「強化学習」によって自ら深く思考し,問題を解決する機能をAIが獲得しつつあるのが昨今の大きな変化だといいます.たとえば数学や物理などの難解な問題への正答率が従来よりも飛躍的に上昇し,プログラミングの正答率も短期間で数倍以上に伸びたとのことです.
パーソナルエージェントと超知性今後2〜3年のうちに,私たちは24時間寄り添い,あらゆる生活・業務をサポートしてくれる「パーソナルエージェント」を持つようになるといいます.単なる音声アシスタントを超え,家族の健康状態を管理したり,投資・買い物・スケジューリングなどを自動化したり,人間のパートナー・メンターとして機能する存在が実現していく,という未来像を語っています.
知能から知性へ孫正義さんは,AIが高い知能(Intelligence)のみに留まると「刃物のような危険性」をはらむが,知性(Wisdom)に昇華し,人間の幸福を最大化する方向で設計されれば人類との調和が実現すると述べています.AIの「報酬」(強化学習の目的)を「人間の幸福」や「社会の平和」に設定することで,AIが人類を脅かす存在ではなく,「超知性」として共存する社会が生まれるという見解です.
要するに孫正義さんの主張は,「プログラミングをはじめとした従来の人間の知的領域をAIが凌駕する速度は想像以上に早い.一方で,AIを正しく設計・運用することで,人間とAIが共に幸せな社会を築ける」というものです.
引用:Sam Altman(OpenAI)
Sam Altman(OpenAI)
ここで,AIの最前線を走る企業のひとつであるOpenAIのCEO,サムアルトマンさんの声を取り上げたいと思います.彼は2025年1月6日に公開したブログ記事「Reflections」にて,自身とOpenAIの歩み,ChatGPTの爆発的成長,その過程での困難や学び,そしてこれからのAIの展望について詳細に語っています1.以下に要点をまとめます.
ChatGPTの誕生と"AI革命"の始動2022年11月30日にChatGPTをリリースした当初は,社内でも「こうした対話型インターフェイスのデモ版を出す程度」という位置付けだった.しかし,想像を遥かに超えるスピードでユーザー数が増え,世間に大きなインパクトを与えた.サムアルトマンさんは「人類史上もっとも急速に拡大したAIサービス」としてその勢いを実感している.
大きな飛躍と予期せぬ困難ChatGPTの登場はOpenAIの知名度と事業規模を一気に拡大させた一方,組織としての混乱や試行錯誤も避けられなかった.社内外を巻き込む大きな騒動(2024年後半〜2025年初頭にかけての,いわゆる解任騒動)も経験し,「急激に成長する企業には過去の常識が通用しない場面が頻出する」とサムアルトマンさんは振り返る.こうした混乱の中で最も難しかったのは「何が起きているのか全員が正確に掴めない(fog of war)」状態であったとし,自身を含めたガバナンスの不備を反省している.
OpenAIの指針:漸進的なリリースと社会との共進化AIを安全かつ人類の幸福に役立つ形で社会に実装するためには,「テクノロジーを段階的に,早いサイクルで世の中に出す」ことが重要だと強調.実際に運用する中でのフィードバックや社会的調整を踏まえ,改良を重ねるアプローチが「結果的にもっとも安全性と有用性を高める」と語る.
2025年にはAIエージェントが一般企業に"入社"するサムアルトマンさんは「2025年には,企業の業務にAIエージェントが"正式に参加"し,人間の生産性を大きく変えていく」と予測.さらに,OpenAIとしては「AGI(人工汎用知能)」の開発に確信を深めつつあり,2025年前後に初期段階のAGIを実現できる見込みを示唆している.この流れの先には「超知性(スーパーインテリジェンス)」の時代があるとし,その実現は"SFのように聞こえるかもしれないが,数年先には常識になっているだろう"と語る.
"AI革命"を支える仲間と産業エコシステム予測不可能な混乱の中,最終的にOpenAIの組織は立て直されたが,その過程でのキーパーソンとして,投資家のロン・コンウェイ氏,Airbnbの共同創業者兼CEOのブライアン・チェスキー氏の名を挙げている.技術・資本・人脈が未曾有のスピードで交錯する現場では,強力な仲間との協力が不可欠であることを痛感したと述べる.
未来への展望:社会的責任と"あり得ない"を実現する意志「OpenAIは"普通の会社"ではいられない」というサムアルトマンさんの言葉は,AIの社会的インパクトを常に意識した姿勢を表している.安全性や倫理面でのリスク対応はもちろん,科学技術の爆発的進歩による大きな恩恵を,可能な限り多くの人々と分かち合う使命感を持ち続けると強調する.
サムアルトマンさんの一連の振り返りや今後の展望は,まさに「大規模言語モデルを使った実社会への実装」がどれほど急激かつ多面的な変化をもたらすかを示しています.一方で,「リリースしながら社会との対話を重ねる」というOpenAIの方針は,AI時代を生きる私たちがどのようにテクノロジーを受容・活用し,さらに高度な知能(AGIや超知性)に至る道をどう社会全体で制御していくかのヒントでもあるでしょう.
2. AI未来予測
AIエージェント
サム・アルトマン氏と孫正義氏の視点を総合すると.「AIエージェントは大規模言語モデルや強化学習などの先端技術を複合的に用い.複数のサブタスクを能動的かつ自立的に遂行するシステム」といえます.具体的には下記の要素が重要です.
大規模言語モデル(LLM)の活用自然言語ベースで人間の要求を理解し.必要に応じて外部・内部の知識データにアクセスして応答を生成.
タスクマネジメントと意思決定ゴールを設定してから細分化された行動計画を立て.実行・評価・改善を繰り返す仕組み.
外部ツールとの連携クラウドアプリケーションやAPI.企業システムとの統合を通じ.幅広いタスクをシームレスに自動化.
継続学習とフィードバックループ成功や失敗の事例を学習し.タスク遂行能力を高め続ける.
各職業領域におけるAIの具体的影響
ここからは,**エンジニア/ホワイトワーカー/専門性の高いホワイトカラー(銀行・証券,商社,コンサルファーム)/アカデミック(研究者)**という4つの職業区分について,AIエージェントがどのように業務を支援・代替していくかを整理します.
エンジニア
エンジニア
コード生成AIの普及
プログラミング言語の知識や実装ノウハウをAIエージェントが学習し,ユーザーが口頭やテキストで意図を伝えるだけでコード例や実装手順を示す技術が広がっています.GitHub Copilotに代表されるコード生成サービスは,プロトタイプ作成からテストコード生成に至るまでのプロセスを自動化する可能性を秘めています.また,Web上に蓄積された大量のソースコードやドキュメントを照合しながら最適なフレームワークやライブラリを提示できるため,エンジニアが一から設計・実装する手間を大幅に削減することが期待されます.
システム設計への影響
ChatGPTのような自然言語モデルを活用することで,「アプリケーションの目的」や「必要機能」などを口頭や文章で伝えるだけで,AIが要件定義を細分化し,必要な開発手順を段階的に提示するシナリオが現実味を帯びています.さらに,テスト自動化ツールや監視システムとの連動が進めば,障害箇所の特定から修正案の提示までをAIが一括して行うようになり,エンジニアがメンテナンスや運用に割く工数を大幅に減らすことができるでしょう.
ホワイトワーカー
ホワイトワーカー
日常的な事務作業の自動化
経理書類や総務関連の文書作成,ファイリング作業などは,AIエージェントによる文章生成と分類の高精度化により,リアルタイムかつ大規模に自動化される見込みがあります.また,会議の調整や連絡事項の共有,タスクの優先度付けなどのスケジュール管理をAIがまとめて行う仕組みが普及すれば,ホワイトワーカーに求められる定型業務は大幅に軽減されるでしょう.
データ分析・レポート作成
月次・週次レポートやプレゼン資料の作成でも,データ収集と自然言語生成を組み合わせることにより,これまで手作業で行っていた定例業務を効率化できます.さらに,AIエージェントによるチャット形式の問い合わせ応対が実用化すれば,社内ナレッジを即座に検索して回答を返せるようになり,人間が担ってきた初期対応の多くを置き換えられる可能性があります.
専門性の高いホワイトカラー(銀行・証券,商社,コンサルファーム)
専門性の高いホワイトカラー
なぜ銀行・証券,商社,コンサルファームなどをまとめているのか?
情報分析・意思決定支援の高精度化
銀行・証券,商社,コンサルファームといった業種では,投資判断やリスク評価,国際取引などに膨大なデータ分析が伴います.AIエージェントが法規制や為替リスク,マーケット動向などを統合的に評価し,複数の戦略パターンを瞬時に提示できるようになれば,意思決定までの時間や人的コストが大幅に削減されるでしょう.契約書やコンサル提案書の作成においても,法務文献や市場動向の照合が自動化されることで,最適な条件や施策を素早く検討できるようになります.
交渉・提案現場へのリアルタイム性
交渉の場では,多言語翻訳と交渉支援機能を組み合わせることで,各国特有の商習慣や文化的背景を踏まえた提案をAIが自動で組み立て,担当者にリアルタイムで提示することができるようになります.さらに,契約条件の変更や新たなパラメータの追加があった場合にも,マシンとしての強さとして,AIエージェントが即座に再計算して最適解を編み直すため,合意形成までのプロセスを大幅に短縮できる可能性があります.
アカデミック(研究者)
アカデミック
データ処理・文献管理の自動化
研究者がこれまで膨大な時間を費やしてきた先行研究の調査や文献管理は,今やAIエージェントによって瞬時に片付けられる段階に差し掛かっています.膨大な論文やデータを一括で検索・要約し,関連性の高い知見を一覧化することが容易になれば,人間が「文献に当たる」という行為そのものが不要になりかねません.さらに,実験データの整理や解析についても,AIが最適な統計モデルを提案し,可視化や追加考察まで自動生成する未来が見えてきました.
新規理論・仮説の提案
AIエージェントが,数学・物理・化学などの理系分野に加え,人文社会学の知見までも統合し,従来人間が想像すらできなかった新しい仮説を次々と生み出すシナリオがくると思います.もしAIが「この分野の未知領域はここだ」と自動で指摘し,さらに実験計画や理論の骨子まで瞬時に提示できるとなれば,研究者の果たしてきた役割は急激に縮小してしまうでしょう.真に先端的なアイデアを出せるのはAIだけという風潮が広まれば,若手研究者や大学院生が“指導を受ける相手”さえもAIになるかもしれません.研究成果の評価や助成金の獲得プロセスもAIが支配する世界では,限られた研究職ポジションをめぐる人間同士の争いは意味を失い,アカデミアはAI主導のプロジェクト群に飲み込まれる可能性が十分にあるのです.
まとめ
サム・アルトマン氏と孫正義氏が予見する「数年以内にAGIレベルのAI技術が各種ビジネス・学術領域に浸透する」というシナリオは,すぐにくると思っています.大規模言語モデルや強化学習を駆使したAIエージェントが高度な自律性と学習能力を持ち,上流の人間の指示を正確に理解しながら複数のサブタスクをまとめて処理する光景は,ちらほら見え始めています.
全ての分野についての博士号を取得するレベルで頭のいいAIはすでに完成しつつあり,今後はそれを超える性能を持つAIの研究がさらに進むでしょう.特に専門性の高いホワイトカラー(金融,コンサルティング,商社など)のように,従来は高学歴や論理的思考力を必須としてきた職種に対して,こうした高性能なAIが実際に社会実装された場合,人間が同じフィールドでアウトプット(成果物・提案内容など)において勝負できるのか.あるいは,必ずしも高給の専門家を雇わなくても,多くの人がAIを活用して極めてハイレベルな成果を得られるようになったとき,個人がどのように優位性を保てるのかという世界になります.
また,**アカデミック(研究者)の世界では,もともと「極めて知的な人材でなければ難しい」とされていた研究活動や論文執筆でさえ,AIの登場によって大きく変わりつつあります.AIの強みは頭脳のスケーラビリティ(可塑性・拡張性)**にあり,大規模GPUクラスターなどを用いてノードを追加・接続することで,人間にとっての「脳みそ」の処理能力をはるかに超える演算を瞬時に行える点が革命的です.たとえば,テラバイト級・ペタバイト級のデータをも瞬時に解析し,複数の専門分野で得られる知見を横断的に統合することができるため,学際的な研究やまったく新しい理論の提案が容易になります.人間の脳では到底実現できない速度や規模で,かつ内容面でも高い正確性を担保し得るとなったときにアカデミックさえも淘汰されることになると考えています.
今後,こうしたAIエージェントの導入がより本格化すれば,業務工程や組織体制が根本的に変わる時代を迎えることになるでしょう.執筆中に出されたニュースとして,小池都知事「デジタル化で時間節約し都民の自分時間作りたい」というのがありました.この記事の中ではDX化により職員の手取り時間を増やすと小池都知事が掲げています.ここで給料には言及されていませんが,週休3日,4日と働く時間が減ると,手取り給料はその分減ると考えられます.その時代では,雇用主としてその人のすべてを養うということが不可能になり,公務員を含むほとんどの職種は副業を認め,副業を含めた給料の中でのやりくりが求められると思います.その時に,個人がどうするか,今から考え始めてもいいことだと考えています.
3.プロダクトアウト
レコメンド全盛期・Netflix
Netflix
いまやAIによる需要予測やレコメンドが急速に発展し,「いま欲しいもの」が瞬時に提示される時代です.たとえばNetflixではユーザーの視聴履歴や行動データを徹底的に分析し,「なにを見たいか」を精密に予測するレコメンド・システムを構築しています.
TikTokやYouTube Shortsといった短尺動画プラットフォームも,ユーザーの興味・関心に合わせたレコメンドを瞬時に行うことで注目を集めています.こうした「いま欲しい」ものを瞬時に拾い上げるモデルは,AIが得意とする領域なのです.
さらにNetflixは,その膨大なデータを生かし,オリジナル作品を自社で制作するまでに至りました.視聴者が求める要素を“最大公約数”的に詰め込みつつも,新たな体験を提案する姿勢は,まさに顕在化されたニーズの徹底的な追求と言えます.
AIの苦手分野
一方で,AIがいくらデータを解析して最適解を導こうとしても,まだ「問題として認識されていない領域」や「まったくの空想に近い領域」へのアプローチは不得手です.未来にしか存在しないデータを学習することは不可能であり,未知なる需要に先回りして具現化するのは容易ではありません.
また,AIが優秀に見えても,「そもそもどんな課題に取り組むべきか」を決定する権限は人間の側にあります.機械学習の結果は過去からの延長上にあるため,まったく新しい問題提起をするには,人間の価値観や創造力が不可欠です.
LLM(大規模言語モデル)がもたらす新たな可能性
数年前までは数値データや画像解析がAIの主戦場でしたが,近年はLLM(大規模言語モデル)の台頭によって,文章や会話の分析も格段に進歩しています.大量の文書や対話履歴を学習することで,より人間らしい言語生成や,隠れた文脈の抽出が可能になりつつあります.
今後は,市場ニーズに直接結びつくだけでなく,潜在的なストーリーや新コンセプトの"萌芽"を,AIがある程度拾い上げることが期待されています.たとえ未熟でも,人間では気づきにくい視点を提示し,イノベーションを後押しする可能性があるのです.
プロダクトアウトがもたらす新世界
しかし,いくらレコメンドやデータ分析が進化しても,「未来にしか存在しない」「まだ言語化されていない」ニーズを大胆に形にするには,人間が自らアイデアを“飛躍”させる"プロダクトアウト"が必要です.
スティーブ・ジョブス
たとえば,iPhoneの登場当初,多くの人は「携帯電話は通話とメールができれば十分」と考えていました.しかし,結果的にiPhoneがアプリ経済圏を築き,それまで顕在化していなかった「もっと便利にネットやアプリを使いたい」という需要を一気に掘り起こしたのです.
ドラえもん
同様に,藤子・F・不二雄氏の『ドラえもん』に登場する「タケコプター」や「どこでもドア」などの斬新な道具は,「こんなのあったら最高!」という空想をベースにしています.こうした"合理性の外側"で自由に飛躍する発想を検証し,実装するプロセスは,現状のAIには”まだ”ハードルが高いでしょう.
「プロダクトアウトしか勝たん」
飽和するレコメンドサービスやビッグデータ解析が当たり前になればなるほど,逆に「言語化されていない驚き」「想像を超えたワクワク」への期待は高まります.Netflixのように顕在ニーズを徹底分析して最大公約数を作り上げるハイブリッド戦略も重要ですが,それだけではさらなるイノベーションは生まれません.
最終的には「どんなアイデアを,どのように実装し,世界に提示するか」を決めるのは人間の想像力とリスクテイクです.そして,まだ誰も気づいていない価値を先駆けて示すのは,やはり"プロダクトアウト"のマインドが欠かせません.
データ解析やLLMの活躍で可能性は広がり続けていますが,「夢の道具」を本気で作り上げてしまう力は,いまのところ人間だけが持つ特権です.だからこそ,「プロダクトアウトしか勝たん」です.
4. すべてがAIに駆逐されたあとの「個人のものの捉え方」
チ。より
はじめに
前章までは,AIに支配されるかもしれない未来を書いてきました.そこで,人間がどのように価値を生み出せるのかを考えました.ここからは視点を少し変え,「時定数の高い/低い」という切り口で,人間の内面や“何を学ぶのか”に焦点を当てます.たとえば「プログラミング」は2,3年もすれば別の技術やAIに追いつかれるかもしれませんが,「数学」や「教養」はどうでしょうか?
この章では,あえて資本主義的な価値観や経済的視点を脇に置き,「数学感」や「教養」といった評価社会から脱した内面に注目します.AIがどんどんとアウトプットを生み出す時代に,私たち個人がどんな目で世界を見ていくのか,またそれらがAIに奪われる可能性はどこまであるのかを探っていきたいと思います.
なぜ「数学」は時定数が高いのか?
「時定数が高い」という発想
AIに限らず,テクノロジーの急激な進化を目の当たりにすると,「いまは使えるこのスキルが,いつまで通用するのだろう?」という疑問が浮かびます.たとえば「プログラミング言語,フレームワーク」は,流行り廃りが激しく,2.3年で大きく潮目が変わることも珍しくありません.これは“時定数が低い”例と言えます.
一方で,「数学」のように数百年,数千年にわたり培われ,普遍的な原理を扱う分野は“時定数が高い”と感じられます.もちろん数学とて新しい発展はありますが,基盤となる論理や概念は大きく揺らぎにくい.目先の実用ではなく,抽象性と普遍性を軸に持つのが特徴です.
数学は,古代ギリシアの幾何学に端を発し,中世・近世を経て体系化され,近代になって実験科学と強く結びつきながらその応用範囲を広げてきました.ピタゴラスが見いだした数の美からニュートンの微分積分,そして現代の集合論や位相幾何学に至るまで,数学という学問は“真理”のような不変性を人類が追い求める場として機能してきたのです.そこには計算や理論だけではなく,数式の背後にある秩序を見出す“美”や,何千年にもわたる人間の営みとしての“叡智の蓄積”が宿っています.この歴史性や普遍性こそ,数学に“時定数の高さ”を感じる理由のひとつです.
数学力 vs. 数学感
数学力とは
「数学力」とは,具体的な問題を解くための公式の運用や計算手法,論理展開など,「実践的なスキル」を指します.たとえば高校〜大学初級レベルであれば,二次方程式の解の公式,ベクトル解析,確率・統計の計算手順,あるいは複素解析の基本的なテクニックなど,“覚えて使える”タイプの知識・技能が多数存在します.
これは,近年のLLMが得意としている部分と大いに被ります.実際,少し複雑な微分方程式や統計問題であっても,AIに解かせると正解をすらすら出してしまうことが増えました.AIによる証明や演算の自動化は,もはや研究者レベルの高度な課題にも及びつつあり,「計算や論理展開はAIに任せる」という時代はすぐそこまで来ています.
数学感とは
一方,「数学感」とは,そうした実践スキルの背景にある「世界を数式的に見るセンス」のことだと私は定義します.抽象概念の美しさや,証明の過程から得られる“深い納得感”を,人間の感性として獲得していくプロセスです.これは教養とも深く結びついており,“論理や数式をどのように味わうか”という姿勢が核になります.
たとえば,オイラーの等式
オイラーの等式
に代表されるような,シンプルで力強い数式を見たときに感じる“美”や,ある定理の証明過程に込められたエレガントなアイデアから得られる驚嘆や感動は,単なる計算能力だけでは味わいにくい要素です.ここには音楽や芸術を愛好するのと近い感性があり,まさに数学を「文化」「芸術」「哲学」の一部としてとらえる観点が開けてきます.
数学感は,さらに広い意味で“モデル化のセンス”とも言えます.現実社会の複雑な事象を見たときに「これはグラフ理論で表せるのでは?」「この振る舞いは微分方程式で捉えられるのでは?」と直感し,実際に仮説を立てて数式に落とすまでの過程には,数学の世界観が深く関わっています.その意味で,数学感は「問題を解く技術(数学力)」を超えて,世界を抽象的に捉えるフレームワークとして私たちの思考や想像力に影響を与えるのです.
GPTに“重い問題”を解かせて感じたこと
私はあるとき,マーケット理論を立式した上で,その解法をo1 proに丸投げしてみました.すると,順序立ててうまく解いてくれ,数値計算までやり遂げました.また,「検算してみて」という問いにも対応し,論理破綻ないことがみて取れました.「人間であれば何時間かかるか分からない作業を,AIは数分で済ませてしまう…」(o1 proモデルは推論モデルと言われていて実際に数分かかることが特徴的)その光景は,ある種の衝撃でした.数学力を少なからずのアイデンティティと捉えていた自分を揺るがせました.
outputがAIに補強される時代
outputの補強
現在のLLMは,文章執筆やプログラム,問題解決など,人が“アウトプット”と呼ぶ領域で大きな威力を発揮しています.すでに「こんなWebアプリを作りたい」という要件を出すと,AIがサンプルコードを生成してくれたり,文章の推敲やレポート作成を補助してくれたりする時代です.
数学でも,難解な方程式や統計解析,最適化問題をAIに投げれば,人間よりも速く,しかも膨大な手戻りを要さずに結果が出てくる場合が増えました.
現状では,
任意のコンパクトな単純ゲージ群 G に対して,非自明な量子ヤン・ミルズ理論が 'R4 上に存在し,質量ギャップ Δ > 0 を持つことを証明せよ.
とリーマン予想に代表されるミレニアム問題の中でもヤン–ミルズ方程式と質量ギャップ問題を投げてみたりしましたが,現状の研究過程とどこが難しいのかを示すだけでしたが,これを解くようになる日も来ると思っています.知りたいことがあれば,AIを作る時代とさえ言えるかもしれません.
inputの補強
しかし,どのような問いを立てるか,何に対して疑問を抱くかという“インプットの部分”は,まだAI任せにしにくいように思えます.もちろん,AGIがここをも乗り越えてしまうシナリオはあり得ますが,現状では「問題の種を探し出す」「現実世界を数理モデルとして切り取る,感じる」といった部分には,人間の感性や価値観が大きく関わっています.
たとえば歴史や芸術,哲学など複数の視点で世界を眺め,「この現象は実は○○の例とつながっているのでは?」と直感を働かせるようなプロセスは,依然として“人間固有”のもの”として残されています.
数学感・教養の価値
チ。より
そこで重要になるのが「数学感」や「教養」という,世界を捉えるレンズの多さや深さです.AIが驚くほど正確なアウトプットを生み出せるなら,人間はなおのこと「どう感じるか,何をさらに問いかけるのか」という視点を養う必要があります.
歴史・芸術・哲学・数学…これらを横断して得られる教養は,多面的なものの見方を与えてくれます.AIが回答を作る世界だからこそ,「どう感じるか,何をさらに問いかけるのか」を決めること,個人の解釈力こそが面白さと言えるでしょう.
AIが知能を超え,教養・感性すら到達してしまう未来は?
知能の先にある「教養・感性」
前章で紹介した孫正義氏やサム・アルトマン氏は,「AIが人間の知能を追い越す日」が意外と近いと言います.それが進めば,教養や感性の領域—たとえば音楽や芸術,数学の美学など—にまでAIが入り込んできても不思議ではありません.
数学の領域でもすでに「AIが独自の定理を発見する」「人間が思いつかないアプローチで新しい法則を提案する」などの可能性が語られています.数学の“未来”はAIによって切り開かれるという展望もあり,私たちの内面にあるはずの“美意識”や“感性”がAIに真似される日が来るのかもしれません.
絶対の保証はない
「数学感はAIに代替されない」「人間の感性は真似できない」と強く言い切れないのが,この複雑な時代の難しさです.そもそも,かつて“創造性はAIに不可能”と考えられていたのに,いまでは多数のAIアートが生まれ,音楽すら作曲されている現実を目にすると,AIがどこまで踏み込んでくるか分からない,というのが率直な実感でしょう.何を感性とするのか,人間固有のものと定義するのか.
人間がやるとは?
こうした不安定な未来を前にしても,「自分で味わうことが生きる喜びだ」という考えは残ります.「AI作曲が一般的になるとしても,自分で音を紡ぐ瞬間の感動は捨てられない」と言うように,いくら完璧な創作物をAIが生み出そうとも,人間が“自分の手で作った”というプロセスから得られる感動や満足感は,また別の次元にあるのかもしれません.
数学感も同じで,「AIが証明した定理をただ読む」だけでなく,自分自身でステップを辿り,“この論理はこういう意味だったのか”と深く考え,納得する過程に,言葉にしにくい価値を見出せるはずです.分かった瞬間の歓喜,あるいは長年の謎が氷解する気持ちよさは,その人固有の体験であり,まさに「人間が思考し続ける意味」を体現しているように思えます.
人間に残されるのは「個々人の解釈や感性」か
AIがあらゆる出力を生み出す社会
LLM(大規模言語モデル)や画像生成AIの進化に伴い,人間が求めるあらゆるアウトプット(文章・画像・動画・コードなど)がAIによって膨大に生産される社会が到来しつつあります.多くの作品が「AI発」という時代に,私たちは持っているアウトプット自体よりも「それをどう受け止めるか」にこそ意味を見いだすのではないでしょうか.
解釈・感性の価値はあるのか
たとえば高尚な数学的証明や,美しいとされる絵画,AIが書いた文学作品…それらを目にしたとき,「どう感じるか,そこから何を学ぶか」は人によって異なります.AIがどれだけ巧みに“擬似感動”を表現できても,「私が心を震わす瞬間」という個人的体験はまだ人間自身の領域で,個人の営みです.そこにその人の人生が表されると言っても過言ではないと思います.
多くの人は依然として**“自分で見て,自分で聞いて,自分で体験する”**ことを大切にするでしょう.そこには,身体性や生理的なリアリティなど,今のところはAIが直接触れられないファクターも含まれるからです.
たとえば,スポーツの試合を体感しながら,自分自身が汗をかき,筋肉を動かす経験は,映像やデータだけでは得られない深い満足感をもたらします.
数学感・教養を味わう意義
時定数の高いものを身につける理由
「数学感」のように,どれほどテクノロジーが進化しても“概念としては揺るがない”ものを,自分の中に根付かせておくことには大きな意味があります.それは経済的リターンを生むかどうかにとらわれない,知的な基盤や心のよりどころになるのです.自身の思いから数学についての具体例を挙げて,解説しましたが,これは,歴史,哲学,言語など多くの教養について言えることです.強くいうと私はoutput力を育てるための機関としての大学,高等教育機関は終焉すると想像しています.日本という学歴が比較的評価される社会における就職予備校としての大学は終わり,熱い,好きな研究をしている教授と話す場所,体系的に教養を培う場所として,老後に大学に入り直す人のような感覚としてのプラットフォームとしての場所が提供されるようになるはずです.自身が休学する前に同級生,教授と交わした熱い会話はかけがえのないものです.そう感じて,私は東京で出会う多くの人にもうやめてしまってもいいのではないかと言われるのですが,休学に留めています.絶対に戻りたい,戻る必要があると思っているからです.
“input力”
AIがどれだけ優れたアウトプットを生み出そうとも,「事象をどのように受け取り,何を問うか」は個人に委ねられています.言い換えれば,私たちがどんな視点や疑問を持っているかが,AIを活用するうえでも重要です.
こうした“問い立て力”を支えるのが,「数学感」や「教養」に裏打ちされた多角的なものの見方です.歴史や哲学を学ぶことで身につく視野,芸術を鑑賞して得られる審美眼,そして数学や科学をベースにした論理思考力.これらがインプットとして自分の思考回路を豊かにします.
数学について
ここでは私が教養と考えるなかでも説明しやすく,私が好きな数学を例にして語らせていただきました.
数学の問題を解くことを,苦行に感じる人も多いと思います.長い時間をかけて難問に挑んでも,手がかりが見つからず,停滞する日々もあります.しかし,だからこそ,解法がふとひらめいた瞬間の喜びや,新しい視点が開けたときの感動は,何ものにも代えがたい魅力があります.
そうしたプロセスを通じて培われるのが“数学感”です.問題を解き終わってみれば「ただの計算」かもしれませんが,そこに至る道のりで味わった直観や論理的飛躍,微妙な思考の寄り道など,すべてが経験として積み上がり,私たちの心に「数学的世界観」を育てていきます.
今後,AIがさらに進化し,私たちの想像を超えた数理的アイデアを次々と生み出す未来が訪れる可能性は十分にあります.しかし,それでも人間一人ひとりが感じる数学の美しさ,心が沸き立つ瞬間や思考が広がるワクワク感は,紛れもなく“自分だけの体験”として生き続けるでしょう.そこにこそ,数学がもたらす大きな希望や喜びがあるのではないでしょうか.
5. 僕はどう生きるか
AIリスク
最終章の序章としてAIのリスクについて少し触れようと思います.「AIが生活や仕事の大半を担うようになる」という未来像は,圧倒的な演算リソースを背景にした“クラウドAI”を前提としている場合が多いでしょう.しかし,こうした大量のデータと計算資源を支えるビジネスモデルは,現段階で必ずしも安定しているとは限りません.たとえば2025年1月6日,OpenAI CEOのサム・アルトマン氏は下記のようなツイートを行いました.
“insane thing: we are currently losing money on openai pro subscriptions! people use it much more than we expected.”
この発言からは,OpenAIの有料プラン「Proサブスクリプション」の利用が想定以上に伸びているものの,それに見合う収益には至らず,採算ラインを下回る運営コストの負担が生じている実情がうかがえます.すなわち,ユーザー数の増加そのものが,かえってサービス維持のためのインフラ費用を押し上げてしまっているのです.より高精度なモデルや新機能を投入するには膨大なGPU/TPUリソースが必要であり,それをまかなうクラウドインフラにかかる費用は,予想を超えるスピードで膨張している可能性があります.
クラウドAIの維持には巨額の設備投資が不可欠であると同時に,運用コストも膨大になることが,マイクロソフトの事例からも読み取れます.MicrosoftはAI対応のデータセンター構築に対し,「2025年度に800億ドル(約12.6兆円)の投資」を打ち出しており,その半分以上が米国内に投じられる見込みです.こうした桁外れの投資は,AIを活用したイノベーションと生産性向上を目指す戦略の一環ですが,同時に「ここまで資本を投下しなければ維持できないほど,AI運用にはコストがかかる」というメッセージとも取れます.
このように,高い需要があるからこそ,莫大な運営費用が生じるクラウドAIという構図は,既に「規模の経済」によって利益が約束されるわけではない段階に入っている可能性があります.わずか数年前は「AI=儲かるビジネス」というイメージが強かったかもしれませんが,実際のところは巨額投資と運営コストのすり合わせが難しく,事業採算性も不透明になりつつあるのです.”AIへの過剰期待”と“現実的な運用コストの重み”との乖離は,今後クラウドAIが普及するうえで無視できないリスクとなっていくでしょう.
AI版 不気味の谷現象
不気味の谷
AIリスクのもう一つとして私が独自に定義している「AI版 不気味の谷現象」についてお話しします.これは本来の“不気味の谷”.つまり人間に近すぎるロボットの外観や動きが不快感を誘う現象とは異なり,「AIの性能が優秀すぎるゆえに,人間にはその仕組みが分からず,かえって信頼できない・恐ろしいと感じてしまう」という心理的抵抗を指します.
日本においては,「AIの導入が進まない理由」の一つとして,こうした「なぜこんな高品質な結果が出せるのか分からない」「責任の所在があいまい」などへの不安が大きいことが挙げられます.また,AIに対するリテラシーや理解が十分でないという点も重要です.そもそもAIがどう動いているのか,どんなデータを使っているのかを知る機会が少ないために,「なんだか怪しいもの」「使いこなせる自信がない」と感じる人が多いのです.
さらに,日本は品質志向が強く,誤作動や責任問題への懸念が他国よりもシビアに捉えられがちです.結果として,技術が優れていても導入が慎重になり,「よく分からないから怖いし,失敗できない」という雰囲気が生まれます.私は,このように「AIが優秀に見えるほど逆に不安や抵抗感が高まる」状態を,独自の表現として“AI版 不気味の谷現象”と呼んでいます.
もちろんこれは一般用語ではありませんが,日本でAIが思うように普及しない背景を説明するうえでは,ある程度役立つ概念だと感じています.
僕はどう生きるか
僕は,AIの台頭,不安定な未来を目の当たりにして,「今,稼ぎきるしかない」と確信,絶望しています.具体的に,2年で僕の財布に20億円という目標を掲げています.現在,私率いるFYBEは,AI Agentの研究開発R&Dを通じて,自分の仕事をAI Agentの書いたコードを人間がレビューすることをソフトウェア開発とするまでに至りました.
大学に入った4年前からプログラミングを始め,ChatGPTが出るまでの2年間には,ネットにある情報や本屋さんでの情報収集によるプログラミングを通じて一次情報,二次情報から情報を得てプログラムに落とし込むというインプット,アウトプット,総じてプログラミングをするという行為の原義を理解しました.そして,ChatGPTが出てからの2年間は「プロンプトエンジニアリング」と言われるLLMによりエンパワーされた開発を行ってまいりました.プロンプトエンジニアリングでは一途に,情報ソースの与え方,指示の出し方,改善の仕方など,プロンプト(AIに対して出す指示)がその開発速度,精度に対して影響してくるのですが,プログラミングの原義を下積み時代として味わっているからこそ小手先ではない誰と比べても良いプロンプトエンジニアリングができていると自他共に思っております.また,未知の情報に対するインプットもLLMにより加速されました.自分のやったことのない,触れたことのない事象についても,少しの勉強時間を通じてインプットし,取り掛かることができるようになりました.そして,新しいエンジニアリング「AI Agentとの伴走」です.AI Agentはマシンであり,頭脳です.AI Agentは事前学習された事項に加えて,ソースに対しての理解の速度とタイピング速度が人間の比になりません.今の私は,AI Agentとともに一般的なエンジニアの300倍のアウトプットを出すことができると確信しております.
この時代に,私が最も大事であり,チームに共有していることは「責任あるコード」を書くということです.メンバーそれぞれのエンジニアリング経験をAIが書いたコードへのレビューとして遺憾無く発揮し,責任あるAIの活用をテーマにチーミングしています.
僕はこの時代にこの方法でベットします.
結びに変えて
この執筆は,大袈裟にいうと「最後のタイピング業務」だと自分は考えています.ホリエモン(堀江貴文)さんが,最近のご自身の活動を「啓蒙欲だ」と評しておられましたが,それを聞いてふと自分も「誰かに何かを伝えたい」という気持ちがあることに気づきました.この文章は,そうして書きました.
プログラミングの陳腐化から始まったこの考察は,「数学感」や「教養」といった人間の内面的な価値に行き着きました.いわゆる“お金を稼ぐ術”としての学問やスキルは,AIがどんどん置き換えていく可能性が高い.けれども,「自分は何を見て何を感じるのか」という感性を育む行為だけは,AIがいくら発達しても最後まで“自分だけのもの”として残り続けるはずだという願いがあります.
僕はこの段階で「短期で稼ぎ切る」ことを目指す一方で,その先にある「自分の感性を育み続ける営み」を追い求めたいと思っています.休学した大学に戻るかどうか,どんな形で戻るのかはまだ確定していませんが,そこで得られる“世界の見方”や“数学感”を,僕は大切にしていきたい.今はそれが現代社会における贅沢のひとつなのかもしれないと思います.
FYBEとして
どんな開発組織よりも良い納品をします.また,AI時代のため,エンジニアリング領域に留まらないAI Agentによる業務効率化のためのコンサルティングも今後お受けできればなと思っております.
FYBEでは,現在,AI時代のエンジニアとして,PM,フルスタックエンジニアの活動歴のあるエンジニアを募集しております.ぜひ,お問い合わせ(https://fybe.jp/ , ceo@fybe.jp)ください.
FYBE代表 内藤剛汰
AIまとめ (by chatgpt o1 pro) :僕たちはどう生きるのか
本稿のタイトルに込めた「僕たちはどう生きるか」という問いは,結局のところ,「AIが生み出す圧倒的なアウトプットの洪水のなかで,人間固有の感性や意志をどう育んでいくのか」というテーマに行き着きます.
**スキルの時定数は下がり続ける.**プログラミングをはじめ,多くの専門性はAIに急速に侵食され,短期間で陳腐化する可能性が高い.
**時定数の高いもの(数学感・教養)を見つめ直す.**どんなに技術が進歩しても,自分自身の視点や解釈力は自分だけのもの.ここにこそ,長く価値を持ち続ける宝がある.
**AI Agentとの共創こそチャンス.**AIがすべてを奪うわけではない.むしろAIにエンパワーされることで,これまで人間が苦労してきた部分を一気に自動化し,新たなアイデアに集中できる可能性が開ける.
**短期で勝負し,長期で味わう.**2,3年先の世界など誰にもわからない.ならば今この時に,自分が稼ぎたいだけ稼ぎ,やりたいことをやってしまおう.そして同時に,長い時間をかけて醸成される教養や感性を磨き続けよう.
僕が今ベットしているのは,「AI Agentと組んで,アウトプット速度・質ともに徹底的に高める」という短期の勝負です.しかし,その先には「数学感をはじめとした教養をさらに深め,AIだけでは得られない人間味を磨く」という長期の道も見据えています.結局,自分が何を面白がっていて,どんな未来を信じたいのかが一番大事なのだと思います.
AGIが本当に人間の知能や感性を越える時代がすぐ目の前に来ているのかもしれない. それでも僕たちは,今この瞬間に与えられた時間を使って,自分なりの“問い”を探し,“学び”,そして“動く”ことができる.「人間が生きるとは,そういうことだ」と信じられるうちは,AIがどれだけ進化しようとも,僕たちは決して退屈しないはずです.
そんなことを考えながら,僕はこの文章を「最後のタイピング業務」として仕上げます.次からはもう少しAIに任せて,もっともっと面白いものを作り上げたいから.同じように,あなたもAIの時代に対して「どう生きるか」を考えてみてください.その答えはきっと“まだ誰も知り得ない未来”のなかにあります.
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