Crypto × AIエージェントによるブロックチェーン活用のセキュリティリスクと対策
こんにちは!Web3特化の開発会社 Komlock lab エンジニア阿部です!
AIエージェントがブロックチェーンを活用することで、自律的な暗号通貨送金やスマートコントラクトの実行が可能となり、人間の介在を極力減らした新たな経済活動や契約履行が実現していく未来がすぐそこまできています。
しかし、その一方で、秘密鍵管理の不備、AIの判断操作、外部連携部分の脆弱性、さらにはブロックチェーンの特性に依存したセキュリティリスクが存在します。
本記事では、初心者にも理解しやすい形で Crypto × AIエージェント を開発する際の各リスクと対策を整理します。
1. AIエージェントとブロックチェーン活用の概要
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自律的な経済活動
AIエージェントは、独自のウォレットを保有し、トークンの送受信や必要に応じたスマートコントラクトのデプロイを自律的に行うことが可能です。たとえば、あるAIが外部の指示なしに資金移動や契約履行を実施することで、従来の人間中心の運用から大きな変革が期待されます
(Key Management for Autonomous AI Agents with Crypto Wallets)。 -
新たなセキュリティリスクの発生
AIの自律性向上に伴い、従来以上の鍵管理の難しさや外部連携システムの脆弱性、さらにはAI自体への攻撃(プロンプトインジェクション、ポイズニングなど)によるリスクが顕在化します。
2. AIエージェント×ブロックチェーンの相互作用におけるリスク
2.1 プライベートキー管理と盗難リスク
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リスク:
- AIエージェントは暗号通貨管理のため、ウォレットの秘密鍵を保持する必要があります。
- 鍵が暗号化されずに保存されたり、弱い暗号方式を採用すると、第三者による不正アクセス・資金盗難のリスクが高まります
(Crypto AI Agents | Use Cases, Risks and How to Navigate Them)。
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想定されるインシデント:
- 秘密鍵が漏洩すると、攻撃者はその鍵を用いて不正なトランザクションを実行し、全資産が一度に失われる可能性があります。
- 漏洩により、スマートコントラクトへの不正アクセスや、他の連携システムへの侵入が引き起こされ、システム全体の運用停止や信頼性の喪失につながる恐れがあります。
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対策:
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基本対策:
- 秘密鍵は必ず暗号化し、安全な保管場所(セキュアなキーストア)に保存する
- AI自身に鍵操作を任せず、アクセス制御の厳格なシステムを導入する
- MPC(マルチパーティ計算)などを活用できるウォレットを利用する
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基本対策:
2.2 一般的なAIの誤判断誘導攻撃リスク
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リスク:
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プロンプトインジェクションやエージェント ハイジャックにより、攻撃者が悪意ある情報を注入してAIの判断基準を操作する恐れがあります
(Technical Blog: Strengthening AI Agent Hijacking Evaluations | NIST)。 - さらに、AIが参照する外部データソースのポイズニングにより、誤った意思決定が誘発される可能性もあります
(Mitigating the Top 10 Vulnerabilities in AI Agents - XenonStack)。
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プロンプトインジェクションやエージェント ハイジャックにより、攻撃者が悪意ある情報を注入してAIの判断基準を操作する恐れがあります
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想定されるインシデント:
- AIが誤った指示に基づき、意図しない大規模な資金移動や不利な条件でのスマートコントラクト実行を行う結果、経済的損失が発生する可能性があります。
- AIの制御が乗っ取られると、攻撃者がAIエージェントを悪用して詐欺的な取引や不正な資金移動を実行し、ユーザーだけでなく関連するシステム全体の信頼性が低下する恐れがあります。
- 法的・規制上の問題が発生し、利用者に対する責任追及や訴訟リスクが高まる可能性もあります。
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対策:
- AIの判断プロセスに人間による監視や確認を組み合わせる
- 安全なプロンプト設計と、悪意ある入力を排除するフィルタリングルールを実装する
2.3 外部連携部分の脆弱性
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リスク:
- AIエージェントはAPIやウォレットソフトウェア、スマートコントラクトと連携するため、外部システムに潜む脆弱性によって、秘密情報が漏洩するリスクがあります。
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想定されるインシデント:
- APIキーや認証情報が漏洩すると、攻撃者がこれらを悪用してAIエージェントの取引や資金管理に不正アクセスし、意図しない取引が実行される可能性があります。
- 外部システムが改竄されることで、AIエージェントが誤った情報に基づいて判断を下し、結果として不正なスマートコントラクト実行や大規模な資金損失につながる恐れがあります。
- 脆弱な連携先との相互作用により、システム全体が乗っ取られ、連鎖的なセキュリティ事故が発生するリスクが考えられます。
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対策:
- APIキー管理やアクセス権限を極力限定する
- 複数の情報源による検証で、連携先の安全性を常に監視する
3. トランザクションと暗号通貨送金のセキュリティ
3.1 アドレス指定ミスと不可逆性
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リスク:
- ブロックチェーンの取引は一度実行すると基本的に取り消しができないため、アドレスのタイプミスや不正確な指定は取り返しのつかない被害につながります。
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対策:
- アドレスのフォーマットチェックやチェックサムの検証を徹底する
- トランザクションポリシーを設定できるウォレットを利用し、AIエージェントが自由に利用できる金額を制限することで被害を限定的にする
3.2 トランザクション手数料(ガス代)の管理
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リスク:
- ガス代の見積もりを誤ると、取引が途中で失敗したり、過剰な手数料を支払うリスクがあります。
- 特にスマートコントラクトの呼び出しでは、処理内容によってガス消費が大きく変動します。
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想定されるインシデント:
- ガス代が不足して取引が失敗した場合、実際に消費されたガス分の費用は返還されないため、資金が無駄に減少する。
- ネットワーク混雑時に予期せず高騰するガス代を設定してしまうと、必要以上のコストを支払う結果となり、資金効率が悪化する。
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対策:
- Ethereumの
eth_estimateGas
などのAPIを活用し、正確なガス限度を算出する - ネットワークの混雑状況に応じたガス価格の設定と、取引失敗時の予算上限を設ける
- ガス最適化を目的としたコントラクト設計を検討する
- Ethereumの
3.3 二重支払い(ダブルスペンド)問題
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問題点:
- ブロックチェーン、特にBitcoinでは、攻撃者による意図的な二重支払いが発生する可能性があります。
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想定されるインシデント:
- 二重支払いが実現すると、既にサービス提供後の取引が取り消され、結果として商品やサービスの対価を失うリスクがある。
- ユーザーやサービスプロバイダーの信頼性が大幅に低下し、ブロックチェーンネットワーク全体の信用問題に発展する可能性がある。
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対策:
- Bitcoinでは通常、6ブロック、Ethereumでは数ブロックの**承認(confirmation)**を待って取引確定とする
- AIエージェントにも「○ブロック承認待ち」のロジックを組み込み、即時のサービス提供を避ける
4. 結論
AIエージェントとブロックチェーンの融合は、経済活動や契約履行に革新をもたらす一方で、鍵管理の徹底、外部連携の堅牢化、取引手数料・二重支払い対策、そしてスマートコントラクトの監査など、複数のセキュリティ課題を孕んでいます。
AIエージェントを手放しで利用するのではなく、ポリシーにより制限や人間による監視を行うことにより、行動を限定することが必要です。
基本原則―「鍵を守る」「コードを監査する」「分散性を保つ」―を確実に押さえ、最新の技術動向を追うことが求められます。
今後もAIエージェント、暗号通貨関連の情報発信を強化し、社内のメンバーとも共有していく予定です。
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