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# ゾロアスター教から学ぶ ― 宗教とマーケティングにおける“アイコン”の力

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はじめに

食品、アパレル、ヘアケア、自動車、ワイヤレスイヤホン・・・
この10年で消費者の選択肢は爆発的に増加し、あらゆるカテゴリーが群雄割拠の状況。

そんな中で小さなブランドは、厳しい立場にあります。
広告予算も知名度も、大手にはまず敵わない。
たしかにチャンスはあるけど、気づけば棚から消えていた──そんな話は枚挙にいとまがありません。

でも一方で、不思議と生き残っているブランドがある。
それも「運がよかった」では済まないような存在感で。

じゃあ、その違いはどこにあるのか?

僕がヒントになると思っているのが「宗教」です。
宗教は数千年単位で信者を失わず、共同体を守り続けてきました。
長い歴史のなかで蓄積された、熱狂的なユーザーを流出させないための仕掛けづくり。
その一部は、現在のマーケティングにも応用できるんじゃないかと思うんです。

このシリーズでは宗教から学べる人の心をハックするアイデアをまとめていきます。
今回はシリーズの最初という事で世界最古の一神教であるゾロアスター教を入り口に、
「象徴=アイコン」が持つ力を紹介します。


ゾロアスター教の「火」というアイコン

ゾロアスター教。皆さんはご存知でしょうか?
名前を聞いたことがある人は多いかもしれませんが、詳しく知っている人は少ないと思います。

古代ペルシアで生まれた宗教で、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の世界3大宗教の形成に影響を与えたと言われています。
現在の信者数は十万〜二十万人程度。
非常に長期間にわたって信仰が続いています。

この宗教を象徴するのが「火」です。
善神の象徴として強い意味性を持っています。

その証拠に神殿には今も炎が灯り続け、絶やさずに守られています。
家庭の炉やランプの火も神聖なものとされて、火の管理が重要な宗教行為になっているというユニークな特長があります。


1000年以上燃え続けてるそう…スゴすぎる

経典よりも、燃える火そのものが人を動かす。
言葉にしなくても、炎を前にすれば「ここに神がいる」と分かる。
シンプルで強いアイコンの力です。

しかも火は神殿だけでなく、日々の暮らしにも入り込んでいました。
ランプを灯す、太陽に祈る、台所の炉を清める。
日常の行為がそのまま信仰と結びつくのです。

つまり、火は「シンボルであり、生活の一部」でもありました。
炎を絶やさず、穢さず、皆で守ることが、信仰を続ける=共同体を成り立たせることに直結していた。
火を守る営みは、ゾロアスター教の社会的な連帯を強め、安定化させる役割を果たしていたのだと思います。

現代のブランドにも象徴的なアイテムは数多くありますが、ゾロアスター教の「火」ほど長い歴史をもつものはありません。
ただの象徴ではなく、コミュニティに意味を与え、存在を支え続けるアイコンとして機能していたのです。

その条件を整理すると、次の三つになるのではないでしょうか。

  1. シンプルで誰もが理解できること
  2. きちんと『意味性』を含むこと
  3. 暮らしに溶け込むこと

ここからは、この三条件を満たしている現代のブランド事例を紹介し、日々の業務に活かせるヒントに落とし込んでみます。

Supreme:ロゴが生む力

宗教だけじゃなく、現代のブランドにも「火」のような象徴を持っている例があります。
まず紹介したいのは Supreme です。


別名、"ボックスロゴ"。

赤地に白字でブランド名を書いたロゴデザイン。
薄目で見ても「Supreme」と分かる、まさに象徴です。

シンプルすぎて何が特別なのか分からない──最初はそう思うかもしれません。
でも街角で、SNSで、あるいはステッカーやTシャツで何度も見かけるうちに、このロゴが「線引き」をすることに気づきます。

持っている人と持っていない人。
その違いが、コミュニティへの参加・不参加を示してしまう。
人は火を囲むように、ロゴを囲んで共同体を形づくるんです。


5400円。ブランド力ですよね…

そして面白いのは、このロゴが「何にでも宿る」ことです。
スケートデッキでも、パソコンでも、果てはレンガや消火器にだって。
どんなものにでも赤いボックスロゴを貼ってしまえば、それだけでアイコンになってしまう。

象徴の力が、対象を一瞬で“Supreme化”してしまうんです。

Supreme のロゴも、あの三条件を満たしています。
シンプルで、信じることに意味があって、生活に入り込んでいる。
だからこそ、ただのデザインを超えて「文化」になったんだと思います。

Dr. Martens:ステッチが生む力

もう一つ、ロゴに頼らず象徴をつくった例を見てみましょう。
Dr. Martens です。


僕ももう10年以上お世話になってます

あのブーツの黄色いステッチ。
ロゴを見なくても「マーチン」と分かるほど、強烈なサインになっています。

このステッチを独自のアイコンとして法的に守ろうとしている点は、見逃せないポイント。
オランダやアメリカでは模倣品との訴訟で
「黄色ステッチ=Dr. Martens のブランド識別子」と認められました。
日本では登録が通らなかった例もありますが、
それでも国内外で「このステッチを守る」取り組みは続けられています。

つまり黄色いステッチは、単なるデザイン要素ではなく、
ブランドとファンのアイデンティティ そのものになっている。
ゾロアスター教の火が絶やされず共同体を支えたように、
Dr. Martens もステッチを守る営みを続けることで、自分たちの共同体を強くしているんです。

ロゴやコンセプトなどブランドアセットではないものも
ブランドの象徴となり得る面白い事例なんじゃないかなと思います。

https://www.youtube.com/watch?v=qEkeG-eOobY

まとめ

ゾロアスター教の火、Supreme のロゴ、Dr. Martens のステッチ。
ジャンルも時代もまったく違う三つですが、共通しているのはやっぱりあの条件です。

  1. シンプルで誰もが理解できること
  2. きちんと『意味性』を含むこと
  3. 暮らしに溶け込むこと

この条件を満たしたアイコンは、人を動かし、共同体を守る。
大きな広告予算や流通網を持たなくても、文化として残っていく。

アイコンが生む力こそ、小さなブランドが生き残るための鍵なのだと思います。

今回は宗教とブランドを通して「アイコンが持つ力」を見てきました。
もし自分のブランドにこの3条件を満たす象徴があるとしたら?
あるいは、まだないとしたらどう設計できるか?
日常の中に浸透し、無意識に思い出されるアイコンを作れるかどうか。
それが、小さなブランドが生き残るための最初の問いになるのかもしれません。
あなたのブランドに“火”のような象徴はありますか?

それではまた次回!

参考文献・関連リンク

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