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RTIC(Real-Time Interrupt-driven Concurrency)の徹底解説と実践的な活用方法

2024/11/12に公開

RTIC(Real-Time Interrupt-driven Concurrency)の徹底解説と実践的な活用方法

はじめに

組み込みシステム開発において、リアルタイム性と安全性の両立は非常に重要です。Rust言語のRTIC(Real-Time Interrupt-driven Concurrency)は、そのための強力なフレームワークとして注目されています。本記事では、main関数-loop構造との比較を通じて、RTICのメリット・デメリットを詳しく解説します。また、基本ルールや実践的なコードの構造化方法、所有権と借用システムにおけるペリフェラルやクロックの扱い方、RTICでの競合回避やDMAの活用方法についても深く掘り下げて説明します。


目次

  1. RTICのメリットとデメリット
  2. main関数とloop構造のメリットとデメリット
  3. RTICの基本ルール
  4. RTICの難しさの理由
  5. RTICでのコードの構造化方法
  6. 所有権と借用システムにおけるペリフェラルやクロックの扱い
  7. #[init]#[shared]の関係
  8. pac::Peripheralsの共有に関する注意点
  9. Arc<Mutex<T>>RefCell<T>の使用について
  10. #[shared]#[local]の違いと使い分け
  11. #[local]の必要性
  12. タスクをモジュールに分割する方法
  13. RTICでの競合回避と時間軸管理
  14. シングルコアマイコンでのasyncタスクの活用
  15. RTICでのDMAの活用
  16. 結論

RTICのメリットとデメリット

メリット

  1. リアルタイム性の確保
    RTICではタスク間の優先度を明確に定義でき、優先度の高いタスクが即座に実行されることを確実にします。これにより、リアルタイム性の保証が容易になります。

  2. 並行処理のサポート
    複数のタスクを簡潔に定義し、共有リソースへの安全なアクセス(例: Mutex)をサポートします。これにより、競合を防ぎつつ並行処理が可能です。

  3. コードの見通し向上
    タスクの定義や優先度設定により、コードが構造化され、複雑なロジックを整理しやすくなります。

  4. 割り込み管理の容易さ
    割り込みの管理が容易で、タスクの割り当てやデッドロックの回避がフレームワークによって補助されます。

  5. 組み込み開発の一貫性
    一貫したタスク管理フレームワークを提供し、大規模プロジェクトでも開発・保守がしやすくなります。

デメリット

  1. 学習コストの高さ
    RTICのタスク定義や優先度の管理など、main関数-loop構造に比べて習得するまでの学習コストが高いです。

  2. 柔軟性の制限
    RTICのルールに従う必要があり、特定の用途では柔軟性が制限されることがあります。

  3. オーバーヘッド
    シンプルなアプリケーションでは、RTICによるオーバーヘッドが無駄になる場合があります。

  4. デバッグの難易度
    複数のタスクが絡む場合、デバッグが複雑になることがあります。

まとめ

RTICは高度な機能を提供しますが、その分学習コストも高くなります。メリットとデメリットを理解し、プロジェクトの規模や要件に応じてRTICの採用を検討することが重要です。


main関数-loop構造のメリットとデメリット

メリット

  1. シンプルさ
    main関数-loop構造は、組み込み開発の基本であり、構造が単純で理解しやすいです。

  2. 低オーバーヘッド
    フレームワークを使わないため、オーバーヘッドが少なく、単純なプロジェクトで効率が良いです。

  3. 柔軟性
    開発者が自由にコードを書くことができ、制限なくシステムを構築できます。

デメリット

  1. リアルタイムタスク管理の困難さ
    優先度を手動で管理する必要があり、複雑なシステムではコードが煩雑になりやすいです。

  2. 割り込み管理の複雑さ
    割り込み処理を安全に扱うためのコードが増え、競合やデッドロックのリスクがあります。

  3. タスク間の同期の難しさ
    複数のタスクが互いに干渉しないようにするための同期処理の実装が難しいです。

まとめ

main関数-loop構造はシンプルなプロジェクトには適していますが、複雑なリアルタイムシステムには不向きです。プロジェクトの要件に応じて、適切な開発手法を選択する必要があります。


RTICの基本ルール

RTICにはタスク管理や優先度の設定を行うための独自のルールや構造があります。以下にRTICの基本ルールを詳しく説明します。

1. タスクの定義

  • #[task]アトリビュートを使ってタスクを定義します。これにより、タスクは特定の割り込みや関数として認識されます。
  • タスクは優先度を持ち、優先度が高いタスクが低いタスクを中断して実行されることがあります。
#[task(priority = 2)]
fn example_task(ctx: example_task::Context) {
    // タスクのコード
}

2. リソース管理

  • RTICは共有リソースを安全に管理するために、#[shared]#[local]の概念を導入しています。
    • #[shared]: 複数のタスク間で共有されるリソース。アクセスには排他制御が必要で、lockメカニズムで保護されます。
    • #[local]: そのタスク内でのみアクセスされるリソース。
ctx.shared.resource.lock(|resource| {
    // 安全にリソースにアクセス
});

3. 優先度の設定

  • 各タスクには優先度を割り当てることができ、優先度はRTIC内で数値として扱われます。高い数値の優先度は低い数値のタスクよりも優先されます。
  • 優先度の設定により、システムの実行順序が制御され、タスクの中断や再開が決まります。

4. スケジューリングとスパン

  • タスクはspawnを使って別のタスクから起動されます。これにより、スケジューリングが行われ、タスクが適切な優先度で実行されます。
ctx.spawn.new_task().unwrap();
  • スケジューリングは静的解析され、コンパイル時にタスクの優先度や依存関係がチェックされるため、リアルタイム性の保証がしやすくなります。

5. 割り込みの管理

  • RTICは割り込み処理をタスクとして管理するため、割り込みの有効化や無効化、優先度の設定が容易になります。
  • 割り込みタスクは特定のハードウェア割り込みに結びつけられます。
#[task(binds = TIM2, priority = 3)]
fn timer_interrupt(ctx: timer_interrupt::Context) {
    // 割り込み処理
}

6. 静的保証

  • RTICはコンパイル時にタスクの優先度やリソースのロックなどを静的にチェックし、デッドロックの可能性を防ぎます。
  • これにより、安全性と信頼性が高まり、ランタイムエラーの防止に役立ちます。

7. イベント駆動型設計

  • RTICはイベント駆動型であり、タスクがトリガーとなるイベントを待機します。これにより、無駄なCPUサイクルを消費せず、効率的な電力消費が可能です。

まとめ

RTICの基本ルールを理解することで、タスクの管理やリソースの共有を安全かつ効率的に行うことができます。これらの機能は、複雑なリアルタイムシステムの開発において非常に有用です。


RTICの難しさの理由

RTICのルールに従うには、以下のような特定の知識やスキルが必要です。

  • タスクの定義と優先度の理解: タスクをどのように定義し、優先度を設定するかを理解する必要があります。
  • リソースの管理: 共有リソースとローカルリソースの違いを理解し、適切に管理するスキルが求められます。
  • スケジューリングの制御: タスクの実行順序や依存関係を設計し、リアルタイム性を確保するためのスケジューリングを理解する必要があります。
  • 所有権と借用の理解: Rustの所有権システムを理解し、リソースの所有権を適切に管理する必要があります。

まとめ

RTICの学習には時間がかかるかもしれませんが、その高度な機能と安全性は、複雑なシステムの開発において大きなメリットをもたらします。段階的に学習を進め、小規模なプロジェクトから試すことで、その効果を実感できるでしょう。


RTICでのコードの構造化方法

RTICで開発を行う際、コードを適切に構造化することで、可読性と保守性を向上させることができます。

1. モジュール構造の整理

各機能を役割ごとにモジュールとして整理し、main.rsで必要なモジュールをインポートして使用します。以下は一般的なディレクトリ構造の例です。

src/
├── main.rs
├── tasks/
│   ├── task1.rs
│   ├── task2.rs
│   └── mod.rs
├── shared_resources.rs
└── config.rs
  • tasks/mod.rsでは、各タスクをモジュールとしてインポートします。
  • shared_resources.rsには、共有リソースの定義や初期化を含めます。
  • config.rsには、クロックや設定用の構成を記述します。

2. main.rsのシンプル化

main.rsをシンプルに保つため、各タスクや設定の定義をモジュールに分離します。

mod tasks;
mod shared_resources;
mod config;

use tasks::{task1, task2};
use shared_resources::SharedResources;

#[rtic::app(device = my_device_pac, peripherals = true)]
mod app {
    use super::*;

    #[shared]
    struct Shared {
        resource1: SharedResources,
    }

    #[local]
    struct Local {
        local_var: u32,
    }

    #[init]
    fn init(ctx: init::Context) -> (Shared, Local, init::Monotonics()) {
        let resources = SharedResources::new();
        task1::initialize();
        task2::initialize();

        (Shared { resource1: resources }, Local { local_var: 0 }, init::Monotonics())
    }

    // タスクの実装は別モジュールにあります
}

3. モジュールの分割と構成

各タスクをtasksモジュール内に定義し、それぞれ独立して管理します。

src/tasks/mod.rs

pub mod task1;
pub mod task2;

src/tasks/task1.rs

#[task]
pub fn task1(ctx: task1::Context) {
    // タスク1の実装
}

pub fn initialize() {
    // 初期化処理
}

src/tasks/task2.rs

#[task]
pub fn task2(ctx: task2::Context) {
    // タスク2の実装
}

pub fn initialize() {
    // 初期化処理
}

4. 共有リソースの管理

共有リソースは、shared_resources.rsに定義しておき、各タスクで使えるようにします。

src/shared_resources.rs

pub struct SharedResources {
    // リソースの定義
}

impl SharedResources {
    pub fn new() -> Self {
        SharedResources {
            // 初期化コード
        }
    }
}

5. クレートへの分離

プロジェクトが大規模になった場合、モジュールを別のクレートに分けることも有効です。Cargo.tomlで新しいクレートを定義し、それを依存関係としてmain.rsに取り込むことで、さらなる構造の分離と再利用が可能です。

まとめ

コードの構造化により、開発効率や保守性が向上します。RTICを使う場合、モジュールやクレートを適切に分割し、コードの見通しを良くすることが重要です。


所有権と借用システムにおけるペリフェラルやクロックの扱い

Rustの所有権と借用システムは、安全なコードを保証するために設計されていますが、組み込み開発のatsamd_halの使用では、特にRTICのタスク間でperipheralclockをどのように扱うかが難しく感じられることがあります。

1. 所有権と借用の基本的な考え方

RTIC内でペリフェラルやクロックを共有する場合、以下の方法を検討します。

  • 共有リソースとして定義する: #[shared]を使用してタスク間で共有します。
  • タスク内で局所的に借用する: #[local]を使用して特定のタスク内でのみ使用します。

2. クロックとペリフェラルの初期化

atsamd_halでクロックやペリフェラルを初期化する際、初期化はRTICの#[init]関数内で行うのが一般的です。これにより、初期化したリソースを共有リソースとしてRTICのタスク間で安全に共有できます。

:

#[init]
fn init(ctx: init::Context) -> (Shared, Local, init::Monotonics()) {
    // ペリフェラルの所有権を取得
    let mut peripherals = ctx.device;
    
    // クロック設定
    let clocks = GenericClockController::with_internal_32kosc(
        peripherals.GCLK,
        &mut peripherals.MCLK,
        &mut peripherals.OSC32KCTRL,
        &mut peripherals.OSCCTRL,
        &mut peripherals.NVMCTRL,
    );

    // 初期化したクロックとペリフェラルをリソースとして構造体に保存
    let shared_resources = SharedResources {
        clocks,
        // 必要なペリフェラルのみを含める
    };

    (Shared { shared_resources }, Local {}, init::Monotonics())
}

3. リソースの共有

RTICで共有リソースとしてクロックやペリフェラルを使いたい場合、#[shared]にこれらを定義し、lockメカニズムを使用してタスク内でアクセスします。

:

#[shared]
struct Shared {
    clocks: GenericClockController,
    // 必要なペリフェラルのみを含める
}

#[task]
fn example_task(ctx: example_task::Context) {
    ctx.shared.clocks.lock(|clocks| {
        // クロックを使用したコード
    });
}

4. リソースをローカルで使用する

リソースを一度だけタスク内で使用し、他のタスクで使用する必要がない場合、リソースを#[local]で定義することで、所有権の複雑な移動を避けることができます。

:

#[local]
struct Local {
    uart: hal::sercom::UART<...>, // 初期化されたUART
}

5. 所有権の移動を避ける方法

タスク間でリソースの所有権を移動することは、コンパイルエラーの原因になります。これを避けるには、リソースを適切に共有リソースとして定義し、lockメカニズムを活用します。また、Arc<Mutex<T>>RefCell<T>でラップする方法もありますが、リアルタイム性への影響を考慮する必要があります。

6. 具体例

以下は、atsamd_halでのクロックとペリフェラルをRTICで共有する方法の具体例です。

#[shared]
struct Shared {
    gclk: GenericClockController,
}

#[task]
fn configure_peripheral(ctx: configure_peripheral::Context) {
    ctx.shared.gclk.lock(|gclk| {
        // GCLKを使用してペリフェラルを構成
    });
}

まとめ

RTICのタスクでatsamd_halのクロックやペリフェラルを扱う際、#[shared]を使用して共有リソースとして定義し、タスク内でlockをかけてアクセスする方法が基本です。所有権や借用システムを活用して、安全かつ効率的にコードを記述してください。


#[init]#[shared]の関係

RTICにおいて、#[init]関数はシステムの初期化を行い、共有リソースやローカルリソースの初期状態をセットアップする場所です。#[shared]で定義したリソースは、この#[init]関数の戻り値として設定されます。

1. #[init]の役割

  • 必要なペリフェラルの初期化。
  • クロックの設定や他のシステムの初期設定。
  • 共有リソース(#[shared])およびローカルリソース(#[local])を構築し、それをRTICフレームワークに渡す。

2. #[shared]#[init]の関係

  • #[shared]で定義されたリソースは、#[init]関数内で初期化し、戻り値として返します。
  • これにより、初期化されたリソースがRTICによってシステム全体で共有されます。

3. #[init]での具体的な実装

#[init]では、(Shared, Local, init::Monotonics())という形式で初期化したリソースを返します。

:

#[shared]
struct Shared {
    gclk: GenericClockController,
    peripherals: pac::Peripherals,
}

#[local]
struct Local {
    some_counter: u32,
}

#[init]
fn init(ctx: init::Context) -> (Shared, Local, init::Monotonics()) {
    let mut peripherals = ctx.device;
    
    let gclk = GenericClockController::with_internal_32kosc(
        peripherals.GCLK,
        &mut peripherals.MCLK,
        &mut peripherals.OSC32KCTRL,
        &mut peripherals.OSCCTRL,
        &mut peripherals.NVMCTRL,
    );

    let shared = Shared {
        gclk,
        peripherals,
    };

    let local = Local {
        some_counter: 0,
    };

    (shared, local, init::Monotonics())
}

4. #[shared]リソースの初期化とアクセス

タスク内でctx.sharedを通じて共有リソースにアクセスし、lockメソッドで排他制御を行います。

タスクでの使用例:

#[task]
fn example_task(ctx: example_task::Context) {
    ctx.shared.gclk.lock(|gclk| {
        // gclkを使用するコード
    });
}

5. 初期化時に注意するポイント

  • pac::Peripherals全体を共有リソースとして渡すのではなく、必要なペリフェラルだけを抽出して共有します。
  • 所有権やサイズの問題を避けるために、リソースを適切に選別します。

まとめ

#[init]関数で共有リソースを適切に初期化し、#[shared]を通じてタスク間で安全に共有・アクセスすることが重要です。


pac::Peripheralsの共有に関する注意点

pac::Peripheralsを丸ごと#[shared]リソースとして渡すことは、ビルドエラーや非効率なコードを引き起こす原因となります。

1. ビルドエラーの原因

  • 所有権の衝突: pac::Peripherals!Copyな型であり、一度渡すと他の箇所で参照できなくなります。
  • 大きすぎるリソース: 全てのペリフェラルを持つpac::Peripheralsはサイズが大きく、効率的ではありません。

2. ペリフェラルの選別と共有

必要なペリフェラルだけを抽出して#[shared]リソースとして渡します。

:

#[init]
fn init(ctx: init::Context) -> (Shared, Local, init::Monotonics()) {
    let mut peripherals = ctx.device;

    let timer = peripherals.TC0;
    let uart = peripherals.SERCOM0;
    
    let shared = Shared {
        timer,
        uart,
    };

    (shared, Local {}, init::Monotonics())
}

#[shared]
struct Shared {
    timer: pac::TC0,
    uart: pac::SERCOM0,
}

3. 解決方法: 部分的な所有権の移動

必要なペリフェラルのみを構造体に含めることで、peripherals全体を渡さずに済みます。

4. 必要に応じたリソースのラップ

RefCell<T>Arc<Mutex<T>>を使用してリソースをラップすることも可能ですが、リアルタイム性への影響を考慮する必要があります。

5. コンパイルエラーが出た場合の対応

  • 所有権に関するエラーが出た場合は、ペリフェラルの初期化部分を見直します。
  • サイズに関するエラーが出た場合は、構造体に含める要素を必要最小限に抑えます。

まとめ

pac::Peripheralsを丸ごと共有するのではなく、必要なペリフェラルだけを共有リソースとして渡すことで、所有権やサイズの問題を解決できます。


Arc<Mutex<T>>RefCell<T>の使用について

1. RTICでの使用は推奨されない理由

  • リアルタイム性への影響: 動的ロックやランタイムのチェックが発生し、タスクの実行タイミングが予測できなくなります。
  • RTICの機能で代替可能: RTICは#[shared]lockメカニズムを通じて、タスク間での安全なリソース共有を保証しています。

2. 使わない方法を検討する

  • #[shared]lockメカニズムの活用: RTICの提供する静的解析と排他制御を利用します。
  • ローカルリソース(#[local])の活用: タスク専用のリソースを定義します。

まとめ

Arc<Mutex<T>>RefCell<T>を使用せずに、RTICの機能を活用することで、リアルタイム性を確保しつつ、安全なリソース共有が可能です。


#[shared]#[local]の違いと使い分け

1. #[shared]の概要

  • 複数タスク間で共有されるリソースを定義します。
  • 排他制御が必要で、lockを使ってアクセスします。

2. #[local]の概要

  • タスク専用リソースを定義します。
  • 排他制御不要で、タスク内で直接アクセスできます。

3. #[shared]#[local]の違いまとめ

特徴 #[local] #[shared]
使用目的 タスク専用リソース 複数タスクで共有されるリソース
アクセス制御 排他制御不要で直接アクセス lockで排他制御が必要
アクセス可能範囲 定義したタスクのみ 複数のタスク間で共有
オーバーヘッド 低い(排他制御不要) 排他制御によるオーバーヘッドあり
使用例 カウンタや一時的なデータ グローバルな設定やペリフェラル

4. #[init]との関係

  • #[init]関数: #[local]#[shared]の両方を初期化する役割を持ちます。
  • タスクはctx.sharedctx.localを通じてリソースにアクセスします。

まとめ

#[shared]#[local]を適切に使い分けることで、効率的なリソース管理と安全なタスク間のデータ共有が可能になります。


#[local]の必要性

1. RTICにおけるタスクの実行と#[local]の必要性

  • タスクの一時性: RTICのタスクはイベント駆動型であり、一度実行されて終了すると、そのタスクのローカル状態は消えます。
  • #[local]の役割: タスク間の実行で状態を保持したい場合、#[local]を使用します。

2. PythonやC#との比較

  • PythonやC#では、オブジェクトのプロパティはインスタンスのライフサイクル中ずっとメモリ上に保持されます。
  • RTICでは、タスクの状態を維持するために#[local]を使う必要があります。

3. #[local]が必要な理由

  • 状態の保持: #[local]を使用すると、タスク専用の状態を保持できます。
  • 効率的なリソース管理: 排他制御が不要なため、オーバーヘッドが低減されます。

:

#[local]
struct Local {
    counter: u32, // タスク内で状態を保持するためのローカルリソース
}

#[task(local = [counter])]
fn example_task(ctx: example_task::Context) {
    *ctx.local.counter += 1; // タスクが呼ばれるたびにカウンタが増加
    rprintln!("Counter: {}", ctx.local.counter);
}

まとめ

#[local]は、タスクの間で状態を保持し続ける必要がある場合に使われる重要な要素です。


タスクをモジュールに分割する方法

1. 技術的に可能か?

タスクをモジュールファイルに分割し、その中でタスク関数と#[local]リソースを定義することは技術的に可能です。

2. 技術的な制約

  • #[local]リソースは#[app]モジュール内で定義する必要があります。
  • タスク関数をモジュールに分割しても、RTICのルールに従う必要があります。

3. RTICの常識的な運用

  • #[local]の一元化: #[local]#[shared]のリソースはmain.rs内で定義します。
  • タスクロジックの分離: タスクのロジックをモジュールに分けることで、コードの可読性とメンテナンス性を向上させます。

4. 推奨される構造

  • main.rs: #[app]モジュール内でリソースを定義し、タスク関数を宣言します。
  • モジュールファイル: タスクのロジックや補助関数を配置します。

:

// main.rs
#[rtic::app(device = my_device_pac, peripherals = true)]
mod app {
    pub mod task1;

    #[local]
    struct Local {
        task1_counter: u32,
    }

    #[init]
    fn init(ctx: init::Context) -> (Shared, Local, init::Monotonics()) {
        (Shared {}, Local { task1_counter: 0 }, init::Monotonics())
    }

    #[task(local = [task1_counter])]
    fn task1(ctx: task1::Context) {
        task1::run(ctx);
    }
}

// task1.rs
pub fn run(ctx: task1::Context) {
    *ctx.local.task1_counter += 1;
}

5. まとめ

タスクロジックをモジュールに分離することでコードの整理がしやすくなりますが、リソース管理は一元化することが重要です。


RTICでの競合回避と時間軸管理

RTICは、リアルタイム性を持ったタスクのスケジューリングを管理し、設計者の意図しない競合を防ぐための優れた仕組みを提供しています。

1. RTICのスケジューリングと優先度管理

  • 優先度の設定: タスクの優先度を設定し、リアルタイム性の保証や競合の回避が可能です。
  • 排他制御: lockメカニズムで共有リソースへの安全なアクセスを保証します。

2. 時間軸管理と設計の考慮

RTIC自体は、タスクの時間軸を動的に調整して競合を回避する仕組みは提供しませんが、以下の設計方法を用いることで、意図しない競合を防ぐことができます。

  • タスク優先度の適切な設計: 競合を避けるために優先度を慎重に設定します。
  • タスクの周期性とタイミング: タスクの発生頻度や実行時間を考慮し、タスク間の干渉を最小限に抑えます。
  • ソフトウェアタイマーの活用: scheduleafterを使ってタスクの実行タイミングを制御します。

3. 競合を避ける設計パターン

  • タスクの非同期性: asyncタスクを使用して、長時間ブロックする処理を非同期で処理することで、他のタスクの実行を妨げない設計が可能です。
  • 共有リソースの分割: 同時にアクセスされるリソースを分割し、それぞれのタスクに専用リソースを持たせることで競合を回避できます。
  • 排他制御の最小化: 競合の原因となる排他制御の時間をできるだけ短くし、リソースをロックする時間を最小限にすることで、他のタスクの遅延を防ぎます。

4. デバッグとツールの活用

  • ロガーやトレースツール: ログを活用してタスクの実行順序やリソースのロック状態を確認し、競合が起こるタイミングを特定します。
  • シミュレーションとテスト: システムのシミュレーションを行い、タスクのスケジューリングや競合を再現してデバッグを行います。

5. まとめ

RTICの機能を正しく活用し、設計段階でタスクの優先度やタイミングを適切に設定することで、競合を防ぎ、安全な並行処理が可能です。また、デバッグツールやシミュレーションを活用して、意図しない競合の特定と修正を行うことが重要です。


シングルコアマイコンでのasyncタスクの活用

シングルコアのマイコンでasyncタスクを作る理由は、効率的なリソース管理と並行処理のためです。asyncタスクはマルチスレッドや複数のコアが必要なものではなく、シングルコアでも非同期処理のメリットを活かして、CPUが待機状態になる無駄を減らし、応答性の良いプログラムを実現できます。

1. I/O待ちの非同期処理

  • CPUのブロックを避ける: 待機中に他の処理が実行され、CPUの使用効率が向上します。
  • 高応答性: システム全体の応答性が改善されます。

:

#[task]
async fn read_sensor(ctx: read_sensor::Context) {
    // センサーのデータ読み込みを非同期で待機
    let data = read_sensor_data().await;
    // データの処理
}

2. 低消費電力のスリープとウェイクアップ

  • スリープ中に他のイベント待機: asyncタスクを使ってCPUを適切にスリープさせます。

3. イベント駆動型のプログラミング

  • 複数のタスクを効率的に切り替え: ブロックしても他のタスクが処理を継続できます。

:

#[task]
async fn handle_event(ctx: handle_event::Context) {
    loop {
        let event = wait_for_event().await;
        process_event(event);
    }
}

4. 時間待ちやディレイ処理

  • 効率的な時間管理: 一般的なブロッキングディレイを避け、他の処理が実行される余地を持たせます。

5. シンプルな状態管理

  • 状態機械の構築: 非同期タスクを使うことで、状態機械のようなシンプルな状態管理を構築できます。

まとめ

シングルコアでもasyncタスクを活用することで、効率的なリソース管理と高い応答性を実現できます。


RTICでのDMAの活用

RTIC自体にはDMA(Direct Memory Access)を直接サポートする特別な仕組みはありませんが、RTICのリアルタイム性と非同期タスク管理の機能を活用して、DMAを効率的に管理することは可能です。

1. DMAの概要とRTICの役割

  • DMAの役割: CPUを介さずにメモリ間やペリフェラルとメモリ間のデータ転送を行う仕組みで、CPUの負荷を軽減し、処理速度を向上させます。
  • RTICの役割: タスク管理とリソース共有を効率的に行えるため、DMAによる転送完了を割り込みとして処理し、その後の非同期処理をタスクとして実行することができます。

2. DMAの活用方法

ステップ1: DMAの初期化

#[init]関数内でDMAの初期化を行います。この段階で、DMAを使用するための設定やバッファの準備を行います。

:

#[init]
fn init(ctx: init::Context) -> (Shared, Local, init::Monotonics()) {
    let dma = initialize_dma(); // DMAの初期化関数を呼び出す
    (Shared { dma }, Local {}, init::Monotonics())
}

ステップ2: DMA転送の開始

DMA転送を開始し、完了したときに割り込みが発生するように設定します。DMA転送が開始されると、CPUは転送完了を待たずに他のタスクを処理できます。

:

#[task]
fn start_dma(ctx: start_dma::Context) {
    ctx.shared.dma.lock(|dma| {
        dma.start_transfer(); // DMA転送を開始
    });
}

ステップ3: DMA転送完了割り込みのハンドリング

DMA転送完了後に発生する割り込みをRTICでタスクとして処理し、その後の処理を行います。

:

#[task(binds = DMA_CHANNEL_X, shared = [dma])]
fn dma_complete(ctx: dma_complete::Context) {
    ctx.shared.dma.lock(|dma| {
        if dma.is_transfer_complete() {
            dma.clear_interrupt_flag(); // 割り込みフラグをクリア
            process_received_data();    // DMA転送後のデータを処理
        }
    });
}

3. DMAを活用するメリット

  • CPU負荷の軽減: DMAを使用すると、データ転送中にCPUを他のタスクに使用できるため、システム全体の効率が向上します。
  • 非同期処理の効率化: DMAの転送完了をRTICのタスクでハンドリングし、その後の非同期処理を連携させることで、システムの応答性を向上できます。

4. RTICの排他制御とDMA

RTICのlockメカニズムを使用して、DMAリソースへの排他アクセスを制御できます。これにより、複数のタスクがDMAリソースにアクセスする際の競合を防ぐことができます。

5. 注意点

  • DMAの設定とバッファ管理: DMAを使用する際は、転送元と転送先のバッファの管理が重要です。RTICのタスク内でバッファの所有権や借用に注意し、競合を避けるように設計します。
  • 優先度とリアルタイム性: DMA完了の割り込みタスクの優先度を適切に設定し、システムのリアルタイム性を保証することが求められます。

まとめ

RTICを活用することで、DMAを使用した非同期処理を安全かつ効率的に実装し、高効率なプログラムを実現できます。


結論

RTICは、タスクの優先度設定や同期の管理を簡潔に行いたい場合や、リアルタイム性が求められるシステムに適しています。一方、単純なシステムやRTICの学習コストが高いと感じる場合は、main関数-loopで十分です。RTICを使うことでコードのメンテナンス性や構造化が向上しますが、まずは小規模なプロジェクトで試して、慣れていくことをお勧めします。


ご覧いただきありがとうございました。本記事がRTICの理解と活用の一助となれば幸いです。

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