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日本語は「おもてなし」、英語は「指示書」AIが喜ぶプロンプト術

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日本語は「おもてなし」、英語は「指示書」AIが喜ぶプロンプト術

皆さんはAIに何かをお願いするとき、どんな言葉で話しかけていますか?「〇〇について教えて」と尋ねたり、「〇〇するプログラムを作成して」と依頼したり、その関わり方は様々でしょう。ご存知の通り、この「プロンプト」の書き方一つで、AIから得られる回答の質は劇的に変わります。

これまで私は、Webチャットでの対話を通じて、丁寧な日本語でプロンプトを作成することにある程度の自信を持っていました。しかし、Claude CodeやGemini CLIといった、より高度なタスクを自動化するAIエージェントを前に、その経験が通用しない壁に直面します。

それは、AIの性能を限界まで引き出そうとする場面では、日本語よりも英語のプロンプトが圧倒的に有利になるという現実です。なぜなのでしょうか? 本稿では、その理由を解き明かし、日本語と英語、それぞれの言語でAIの能力を最大限に引き出すための実践的なアプローチを考察します。

【本題】なぜ、今「英語プロンプト」が重要なのか?

小規模なコード生成や日常的な質問であれば、日本語でも十分に高品質な回答を得られます。しかし、AIに自律的かつ大規模なタスクを任せ、その成功率を高めようとするほど、英語の重要性が増してきます。その理由は、主に3つあります。

  1. トークン効率とパフォーマンス
    AIが一度に処理できる情報量(コンテキストウィンドウ)は有限です。日本語は、ひらがな・カタカナ・漢字が混在するため、AIが言語を処理する最小単位である「トークン」の消費量が、同じ意味の英語に比べて多くなる傾向があります。例えば、「AIアシスタント」は英語なら AI assistant の2トークン程度ですが、日本語では「A」「I」「アシ」「スタント」のように細かく分割され、より多くのトークンを消費します。これがコンテキストウィンドウを圧迫し、複雑な指示を出す際のパフォーマンス低下や、API利用料金の増加に繋がるのです。

  2. 学習データの「質」と「量」
    現在の主要なAIモデルは、インターネット上の膨大なテキストデータを学習しています。そのデータの大部分は英語で書かれた技術文書、学術論文、高品質なコードです。そのため、特に専門的な分野や最新の技術に関する質問では、英語でプロンプトを入力する方が、AIが学習した豊富な知識に直接アクセスでき、より正確で質の高い回答を引き出しやすくなります。

  3. グローバルスタンダードとしての知見
    世界中の開発者や研究者が、AIの能力を引き出すための効果的なプロンプト(プロンプトエンジニアリング)を日々研究し、その知見は主に英語で共有されています。優れたプロンプトのテンプレートやテクニックを探す際も、英語で検索する方が遥かに多くの情報にアクセスできます。

英語が得意ではない私にとっても、これは避けて通れない課題となりました。しかし、この「言語の壁」の背景を理解することで、より戦略的にAIと付き合う道筋が見えてきます。

日本語プロンプトの極意 - 「丁寧さ」の奥にある「具体性」

英語が有利と分かっていても、複雑な要求を母国語で考えたい時もあります。そのような状況で、日本語プロンプトの質を最大限に高めるアプローチが「おもてなし」の心です。

日本語でプロンプトを書く際、私たちは無意識に「〜してください」といった丁寧語を使いがちです。これはAIに媚びを売っているわけではなく(笑)、私たちの文化に根差した合理的なアプローチです。

「コード書け」と命令するよりも、「〇〇をするためのコードを作成してください」と丁寧な文章を組み立てる過程で、自分自身の要求が整理され、より具体的になるという大きなメリットがあります。つまり、日本語における「丁寧さ」とは、AIへの敬意というよりも、AIが仕事をしやすいように情報を整理し、配慮してあげる「おもてなし」 なのです。

最良の日本語プロンプトの構成要素

  1. 役割設定: AIに専門家として振る舞ってもらう。「あなたは経験豊富なRust開発者です。」
  2. 背景・文脈の共有: 何を作っているのかを伝える。「Tauriでデスクトップアプリを開発しています。」
  3. 具体的な依頼: 何をしてほしいのかを明確に。「フロントエンドから呼び出せるように、指定したファイルパスのテキストを読み込むコマンドを作成してください。」
  4. 制約・条件の明記: 守ってほしいルールを伝える。「Result<String, String> 型で結果を返すようにしてください。」

【実践例:日本語】

あなたは経験豊富なRust開発者です。

現在、Tauriを使ってデスクトップアプリケーションを開発しています。
フロントエンドのJavaScriptから呼び出せるように、バックエンドで特定のテキストファイルの内容を読み込む機能が必要です。

以下の要件を満たすRustの関数(Tauriコマンド)を作成してください。

要件
  • 関数名は read_file_content としてください。
  • 引数としてファイルの絶対パスを path: String で受け取ります。
  • ファイルの読み込みに成功した場合は、その内容を Ok(String) で返してください。
  • ファイルが存在しない、または読み込みに失敗した場合は、エラーメッセージを Err(String) で返してください。
  • この関数をTauriのコマンドとして公開するための #[tauri::command] アトリビュートを付けてください。

英語プロンプトの神髄 - 「直接性」がもたらす「効率性」

一方、AIの性能を最大限引き出すための標準的なアプローチが、英語の「指示書」スタイルです。技術的な文脈での英語プロンプトは、日本語とは対照的に直接的な命令形が主流です。これは無礼なのではなく、最も効率的で明確なコミュニケーション方法とされています。

プログラミングのドキュメントやチュートリアルが Create a function... のように命令形で手順を指示するのと同様に、AIもこの形式のデータで学習しているため、最も理解しやすいのです。

英語プロンプトにおける「直接性」は、無駄な情報を削ぎ落とし、AIがタスクの核心部分を即座に認識できるようにするための、エンジニアリング的なアプローチと言えます。

最良の英語プロンプトの構成要素

構成要素は日本語と本質的に同じですが、表現がより直接的かつ簡潔になります。

  1. Role: Act as an expert Rust developer.
  2. Context: I'm building a desktop application with Tauri.
  3. Task: Create a Rust function (Tauri command) that reads the content of a text file.
  4. Constraints/Format: The function should return a Result<String, String>.

【実践例:英語】

Act as an expert Rust developer.

I'm building a desktop application using Tauri and need a backend function to read the content of a specific text file, which will be callable from the JavaScript frontend.

Create a Rust function (Tauri command) that meets the following requirements:

Requirements
  • Name the function read_file_content.
  • It must accept an absolute file path as an argument: path: String.
  • If the file is read successfully, return its content as Ok(String).
  • If the file does not exist or fails to be read, return an error message as Err(String).
  • Include the #[tauri::command] attribute to expose it as a Tauri command.

【徹底比較】一目でわかる!日本語 vs 英語 プロンプトスタイル

比較項目 日本語 英語
基本スタイル 丁寧な依頼形 (〜してください) 直接的な命令形 (Create...)
言葉のニュアンス 配慮、協調、おもてなし 明確性、効率性、指示
文化的背景 ハイコンテクスト(察する文化) ローコンテクスト(言葉通りの文化)
AIへのスタンス 優秀な「対話パートナー」「アシスタント」 高性能な「ツール」「実行エンジン」
推奨される構成 役割設定、背景共有、丁寧な依頼、条件明記 Role, Context, Task, Constraints

考察:言語の壁を越え、目的に応じて使い分ける

ここまで見てきたように、日本語と英語のプロンプトスタイルは大きく異なります。しかし、表面的なスタイルの違いを超えて、AIの能力を引き出す「良いプロンプト」の本質は共通しています。

明確なゴール設定 (Clear Goal): AIに何をしてほしいのかが具体的であること。
十分な文脈提供 (Sufficient Context): なぜそれが必要なのかを伝えること。
具体的な制約 (Specific Constraints): 守るべきルールを明確にすること。
対話による改善 (Iterative Refinement): 一度の指示で完璧を求めず、対話を重ねて精度を上げること。

では、私たちは常に英語を使うべきなのでしょうか? 答えは「目的に応じた使い分け」です。

  • 日常的な質問、アイデアの壁打ち、思考の整理といった場面では、思考のスピードを妨げない日本語が適しています。
  • 高度なコーディング、専門分野の調査、最高のパフォーマンスが求められるタスクでは、AIの能力を最大限に引き出す英語の使用を強く推奨します。

英語に不慣れでも、DeepLのような翻訳ツールや、ChatGPT自体に「この日本語を、AIへの命令として最適な英語に翻訳して」とお願いする方法もあります。まずは翻訳ツールを使ってでも、英語プロンプトを試してみる価値は十分にあります。

まとめ

AIとのコミュニケーションを成功させる鍵は、その特性を理解し、適切な言葉を選ぶことです。

  • 日本語では、相手を慮る「おもてなし」の心で、情報を整理し、具体的に依頼する。
  • 英語では、効率性を重視する「エンジニア」のように、直接的かつ明確な「指示書」を書く。

どちらの言語を使うにせよ、良いプロンプトの原則は同じです。しかし、AIの真のポテンシャルを引き出したいと願うなら、ぜひ一度、英語で話しかけてみてください。それが、AIを「便利なアシスタント」から「最強のツール」へと変える、最初の大きな一歩となるでしょう。

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