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Rustにおける「spawn」の意味と活用:RTICや組み込み開発での視点

2024/11/23に公開

Rustにおける「spawn」の意味と活用:RTICや組み込み開発での視点

Rustでの開発を始めたばかりの方にとって、「クレート」「トレイト」「所有権」「借用」など、他のプログラミング言語ではあまり聞き慣れない用語が登場し、少し戸惑うことがあるかもしれません。その中でも、「spawn」という単語は、特に並行処理やリアルタイムシステムのコードでよく目にする重要な概念です。
今回は、Rustにおける「spawn」に焦点を当て、その意味や利用例を解説するとともに、Rust以外の言語や組み込み開発での類似表現にも触れていきます。


「spawn」とは? その語源と基本的な意味

「spawn」という単語は英語で「卵を産む」「生成する」という意味があります。この意味から転じて、プログラミングの文脈では「新しいプロセスやスレッドを生成する」ことを指すようになりました。
Rustではこの「spawn」が、新しいスレッドや非同期タスク、あるいはRTIC(リアルタイムタスク管理フレームワーク)の中でタスクを生成する操作に使われています。


Rustにおける「spawn」の利用シーン

Rustでは、主に以下のような場面で「spawn」という単語が使用されます。

1. 標準ライブラリでのスレッド生成

Rustの標準ライブラリには、std::thread::spawnという関数があります。これを使うと、新しいスレッドを生成して並行処理を実行することが可能です。

コード例:新しいスレッドの生成

use std::thread;
use std::time::Duration;

fn main() {
    thread::spawn(|| {
        for i in 1..10 {
            println!("新しいスレッドから: {}", i);
            thread::sleep(Duration::from_millis(1));
        }
    });

    for i in 1..5 {
        println!("メインスレッドから: {}", i);
        thread::sleep(Duration::from_millis(1));
    }
}

このコードでは、thread::spawnで生成したスレッドがメインスレッドと並行して動作し、それぞれが独立して出力を行います。

2. 非同期処理ランタイムでのタスク生成

Rustの非同期処理ライブラリであるtokioasync-stdでは、spawnを使って非同期タスクを生成できます。

コード例:非同期タスクの生成

use tokio::time::{sleep, Duration};

#[tokio::main]
async fn main() {
    tokio::spawn(async {
        sleep(Duration::from_secs(1)).await;
        println!("非同期タスクが完了しました");
    });

    println!("メインタスクが完了しました");
}

このように、非同期タスクとメインタスクが並行して実行されます。

3. RTICでのリアルタイムタスク管理

組み込みシステム向けのフレームワークであるRTICでも、spawnという用語が頻繁に登場します。RTICでは、タスクを生成・スケジューリングするためのメソッドとしてspawnが提供されています。

コード例:RTICでのタスク生成

#[rtic::app(device = crate::pac)]
mod app {
    #[shared]
    struct Shared;

    #[local]
    struct Local;

    #[init]
    fn init(ctx: init::Context) {
        ctx.spawn.some_task().unwrap();
    }

    #[task]
    fn some_task(ctx: some_task::Context) {
        // タスク処理
        println!("RTICタスク実行中");
    }
}

RTICでは、spawnを利用してタスクの実行をスケジュールし、リアルタイム性を確保します。


Rust以外の言語における「spawn」の類似表現

Rustだけでなく、他のプログラミング言語やシステムでも「spawn」と似た役割を持つ操作が存在します。以下はその例です。

C言語

C言語には直接spawnという関数はありませんが、WindowsのCライブラリには_spawn関数が用意されています。また、POSIX環境ではforkexecがこれに相当します。

Windowsでの例:_spawn

#include <process.h>
#include <stdio.h>

int main() {
    printf("子プロセスを生成します\n");
    _spawnl(_P_WAIT, "C:\\Windows\\System32\\notepad.exe", "notepad.exe", NULL);
    printf("子プロセスが終了しました\n");
    return 0;
}

Python

PythonではmultiprocessingモジュールのProcessや、asyncio.create_taskで非同期タスクを生成することができます。

Erlang

並行処理を得意とするErlangでは、spawnという関数が明確に用意されています。


組み込みシステムでの「spawn」的な機能

組み込み開発ではRTOS(リアルタイムオペレーティングシステム)を使い、タスクを生成する場面がよくあります。この場合、「spawn」という名前ではなく、以下のような関数名が一般的です。

FreeRTOS

xTaskCreate(TaskFunction, "TaskName", STACK_SIZE, NULL, PRIORITY, &TaskHandle);

μITRON

ID task_id = acre_tsk(&task_config);
sta_tsk(task_id);

Zephyr RTOS

k_thread_create(&thread_data, stack_area, STACK_SIZE, thread_function, NULL, NULL, PRIORITY, 0, K_NO_WAIT);

まとめ:Rustでの「spawn」を理解する重要性

「spawn」は、Rustにおける並行処理やリアルタイムシステム開発を理解する上でのキーワードです。この概念を理解すると、スレッドや非同期タスクの生成、RTICを使ったリアルタイムタスク管理など、Rustの強力な並行処理機能を活用できるようになります。また、Rust以外の言語やシステムでの類似概念を学ぶことで、他のプログラミング環境にも応用できる視点を得られます。

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