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行動経済学をアプリケーションに活かす

2024/07/06に公開

初めに

今回は、特定の技術に関する内容ではなく、行動経済学から得られる知見をどのようにプロダクトやアプリケーションに活かせるかを考えていきます。
したがって、今回は「Tech」カテゴリとしてではなく、「Idea」カテゴリとして公開しています。

目的

この記事で行動経済学について少しでも知ってもらい、プロダクト開発に活かしたり、現行のサービスを別の視点から見たりするきっかけになれば嬉しいです。
「実際のプロダクトではこの実装の方がいい」といったような意見も是非寄せていただけると嬉しいです。

行動経済学とは

まず初めに「行動経済学」について引用を用いながら述べます。
コトバンクから以下を引用します。

行動経済学は,経済学と心理学が融合した経済学の新領域であり,2002年にノーベル経済学賞を受賞した心理学者のカーネマンKahneman,D.,同じく心理学者のトベルスキーTversky,A.,そして経済学者のセイラーThaler,R.H.らによって創設された。行動経済学は,直感・感情に頼って判断・決定を行ない,ささいな情報に振り回される合理的とはいえない人びとが,どのような経済行動をし,その結果,市場で何が起こり,資源配分や所得分配,そして人びとの幸福や満足にどのような影響が及ぼされるのかを追究する。

経済学と心理学の融合から生まれた行動経済学は,認知心理学・社会心理学・進化心理学などの心理学分野から多大な影響を受けているし,社会学・人類学・脳科学などの関連諸科学との学際的分野でもある。研究方法も心理学と同様に,実験室やフィールドにおける実験,アンケート調査,脳の活動の測定などの実証的方法を多用する。

このような現実の人間行動に基づく行動経済学によって,標準的経済学では扱われてこなかった問題に対する新しい理解が進展しつつある。一つは社会的選好social preferenceであり,経済主体の利己心を前提とする標準的経済学では説明できない,人びとの協力行動,利他的行動などについて新しい光が当てられるようになってきた。また,所得が多いほど人は幸せなはずだと考える標準的経済学ではうまく扱うことのできない幸福についての研究も,行動経済学の重要な研究対象である。さらに,限定合理性によって時として不適切な選択を行なってしまう人びとを,いかにしたらより適切な選択をするように導くことができるのかを考察することによって,より効果的な政策手法を考案するという応用分野も進展しつつある。

引用したものをまとめると以下のようになるかと思います。

  • 行動経済学は経済学と心理学が融合した経済学の領域である
  • 直感や感情に頼って判断、決断、意思決定を行う非合理的な人間の行動を観察する
  • 研究方法は心理学と同様に実験室やフィールド実験、アンケート調査が多い
  • 今までの経済学では説明できない行動について検証できるようになる

アプリケーションとの関連

ここまでの内容で、「アプリとは関係ないのでは?」と思われた方もいらっしゃるかと思います。

しかし、ここで注目したいのは、「意思決定」という単語です。行動経済学は今までの経済学が前提としていた「合理的な人間」ではなく、より現実に即した非合理的な人間の「意思決定」を扱う学問です。

アプリケーションはユーザーによる「意思決定」によって成り立っています。ボタン一つをタップするかどうかといったアプリ内のアクションも意思決定であり、そもそもそのアプリケーションを使用するかどうかもユーザーの意思決定に含まれます。
また、ユーザーの生活を向上させるためにアプリ側から働きかけて、アプリ外の新しい習慣を作り出すこともユーザーの意思決定を助けることになります。

ユーザーの非合理性や特性を加味した上でアプリケーションの設計を行うことでユーザーのより良い意思決定を促進することができ、長く使われるアプリケーションを開発することができるかと思います。

実例

では早速、行動経済学をアプリケーションに活かす実例を挙げていきたいと思います。
今回は理論の名前とその活用方法をセットで紹介するような形にしたいと思います。活用方法のみを知りたい方はそちらのみを見ていただいても問題ありません。
今回提示している実例は、あくまで「行動経済学をこのように活かせるかもしれない」といった例であり、全てのプロダクトでの最適解ではないことを前提として見ていただけると嬉しいです。

[ 理論 ] プロスペクト理論

プロスペクト理論について以下を引用します。


価値関数は図3-1のように,S字型のように描くことができる.これは,価値関数の参照点依存性,感応度逓減性,損失回避性という 3 つの特徴によるものである.どのように価値を規定するかは人それぞれではあるが,プロスペクト理論では,3つの特徴がすべての人の価値関数に共通しているとされる
参照点依存性とは,前述でも少し触れたが,価値は参照点からの変化やそこからの比較によって測られる相対評価であるということである。
感応度逓減性とは,利得や損失の値が小さなうちは変化に敏感で,小さい変化でも比較的大きな価値変化をもたらすが,利得や損失の値が大きくなるにつれて,小さな変化での価格変化の感応度が低下する性質のことである
損失回避性とは,損失は同じ利得よりも強く評価されるという性質である.これは,同額の損失と利得がある場合,損失によってもたらされる不満足が,利得によってもたらされる満足よりも大きいということを意味する

引用元:萩原駿史. "プロスペクト理論からの幸福度分析の可能性." (2015).
http://repository.seinan-gu.ac.jp/bitstream/handle/123456789/1101/gsec-n2-p161-195-hag.pdf?sequence=1&isAllowed=y

上記の引用ではプロスペクト理論のうち「参照点依存性」「感応度逓減性」「損失回避性」の三つのついて述べられています。ここではそれぞれについて説明した後活用方法についても考察します。

[ 理論 ] 参照点依存性

参照点依存性とは、「あるものの価値は参照点からの変化やその比較によって測られる相対評価である」ということです。具体的には、商品の平均価格が500円の飲食店で2000円の商品が出されると高く感じるが、平均価格が5000円の飲食店で同じ2000円の商品が出されると安く感じるといったことになります。

この参照点依存性の有名な法則で「松竹梅の法則」という法則があります。
松竹梅の法則では、価格順に松・竹・梅の三つのプランをユーザーに提示します。例えば以下のようなプラン提示を行います。

松プラン 竹プラン 梅プラン
月額2000円 月額1000円 月額500円

この場合のユーザーは、参照点依存性により、価格順で中間にある「竹プラン」を参照点とします。
その結果として、「松プラン」は価格が高いため手が出ない、「梅プラン」は安くて十分なサービスが受けられるかわからないと考え、「竹プラン」を選ぶ確率が最も高いということがわかっています。
これが松竹梅の法則の簡単な説明です。

[ 活用方法 ] 価格設定の変更

Before

Premium Plus Basic
月額2000円 月額1000円 月額500円

After

Premium Plus Basic
月額2000円 月額1500円 月額500円

参照点依存性に基づくと、 Plus プランが最も選択される可能性が高いため、 Plus プランの価格を上げることで利益が上がる可能性があります。
また、価格変更をしない場合であっても、 Plus プランが最も選択される可能性が高いとわかっていれば、それを元にサービスから得られる利益の計算や費用との兼ね合いも考えることができるようになります。

[ 理論 ] 感応度逓減性

利得や損失の値が小さなうちは変化に敏感で、小さい変化でも比較的大きな価値変化をもたらすが、利得や損失の値が大きくなるにつれて、小さな変化での価格変化の感応度が低下する性質のことである。
具体的には、1000円の商品を購入した後に9000円の商品を購入する場合と、100万円の商品を購入した後に9000円の商品を購入する場合を比較すると、同じ9000円の損失に対して後者の方が鈍感になり、購入する確率が高まるということである。

[ 活用方法 ] 高価な商品のクロスセル

アプリケーションの内外に関わらず、ユーザーに高価な商品を購入してもらった後に比較的安価な商品を一緒に購入することを提案することで、購入してもらえる確率が高まると考えられます。
具体的には、月額1500円のサブスクリプションサービスへの加入をすすめ、加入してもらうことが決定した段階で「技術的サポート」として月額500円のサブスクリプションを追加で勧めるといった例が挙げられます。

[ 理論 ] 損失回避

損失回避性とは、損失は同じ利得よりも強く評価されるという性質である。
つまり、100円失う時のマイナスの利得(不幸感)は100円もらう時の利得(幸福感)よりも大きく評価されるということです。

[ 活用方法 ] ユーザーへの訴求の文言変更

ユーザーにある行動を促すときの文言を、「その行動から得られる利益を強調する」文言から「その行動をしなかった時に失う利益を強調する」文言に変更することで、ユーザーに特定の行動をしてもらう確率が上がるかと思います。

Before After

[ 理論 ] サンクコスト効果

サンクコスト効果について以下を引用します。

回収不能な過去の投資が将来の意思決定に影響を及ぼす効果はサンクコスト効果(sunk const effect)と呼ばれている。ひとたび金銭、労力、時間における投資がなされたら、その試みを持続する傾向が強くなること

引用元:井垣竹晴. "労力を先行投資した場合のサンクコスト効果の検討." 日本心理学会大会発表論文集 日本心理学会第 72 回大会. 公益社団法人 日本心理学会, 2008.
https://doi.org/10.4992/pacjpa.72.0_2PM069

サンクコスト効果の具体例を挙げると以下のようになるかと思います。

  • あるゲームに対して長い間課金をしてきて、今までの課金が無駄にならないようにそのゲームを継続してプレイする
  • あまり好みではない服を少し高い値段で購入してしまい、手放すのが勿体無いため着続ける

[ 活用方法 ] 登録フォームの改善

活用方法の一つとして考えられるのが、登録フォームの改善です。
ユーザーに対して入力を求める項目の内容や数は同じであっても、その順番を工夫することで離脱率を下げることができる可能性があります。具体的には、より入力時間が小さいものを初めに配置し、入力が進むにつれて入力時間が大きいものを用意します。こうすることで今までの入力にかけた時間が「サンクコスト」として働き、入力時間が長い項目において離脱率が下がる可能性があります。

Before

  1. ニックネーム (入力時間: 小)
  2. 住所 (入力時間: 大)
  3. クレジットカード番号 (入力時間: 大)
  4. メールアドレス (入力時間: 中)
  5. パスワード (入力時間: 中)
  6. 性別 (入力時間: 小)

After

  1. ニックネーム (入力時間: 小)
  2. 性別 (入力時間: 小)
  3. メールアドレス (入力時間: 中)
  4. パスワード (入力時間: 中)
  5. 住所 (入力時間: 大)
  6. クレジットカード番号 (入力時間: 大)

[ 理論 ] アンカリング効果

アンカリング効果について以下を引用します。

アンカリング効果(anchoring effect)とは,何かの値を推定させる前に,比較対象としての値(アンカー)を提示し,その値と推定する値はどちらが大きいかという比較課題をさせると,その後に推測する値がアンカーの値に近くなる現象のことを指す.

引用元:杉本崇, and 高野陽太郎. "アンカリング効果のメカニズムにおける 「カバー効果」 の検討." 認知心理学研究 12.1 (2014): 51-60.
https://doi.org/10.5265/jcogpsy.12.51

「アンカリング」は船の錨である「アンカー」からきており、比較対象としての値が船の錨となり、その後の判断をある方向に引っ張ることからその名前がつけられています。
具体例としては以下が挙げられます。

  • 夕方のスーパーなどに行くと割引のシールが貼られた食料品を見かけることがあるが、元の値段表示がアンカーとして作用し、よりお得であることがわかる

活用上の注意
このアンカリング効果はうまく活用すればサービスの利益につながりますが、活用には注意が必要です。
消費者庁「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」 における、「景品表示法違反」に抵触する可能性があります。特に「二重価格表示」の内容を確認してユーザーの不利益にならないよう細心の注意を払うことが重要です。

[ 活用方法1 ] 寄付や支払い金額の入力フォーム

寄付や支払いでユーザーが任意の額を支払うことができる機能の場合にデフォルトで金額を設定しておくことで、その金額がアンカーとなりより多くの寄付が得られる可能性があります。

デフォルトの金額を設定しておく場合

Before After

支払い平均価格を設定しておく場合

Before After

[ 活用方法2 ] サービスの初期価格設定

サービスの初期価格はユーザーにとって非常に強力なアンカーとなります。
サービスを普及させるために一時的にサービスを無料で提供し、一定程度顧客を獲得してから有料化するといった手法がありますが、これはユーザーにとっては初期価格の無料がアンカーとなっているため、強い不満が出ることが多くあります。
一見当たり前のことではありますが、注意してサービス運営を行う必要があります。

[ 理論 ] バンドワゴン効果

バンドワゴン効果について以下を引用します。

The term “bandwagon effect” denotes a phenomenon of public opinion impinging upon itself: In their political preferences and positions people tend to join what they perceive to be existing or expected majorities or dominant positions in society. It has been most intensely discussed with regard to elections and issue attitudes. Only in recent years have carefully designed studies succeeded in demonstrating that bandwagon effects really exist. However, the observed bandwagon effects have usually been rather weak, and contingent on specific conditions.

日本語訳
「バンドワゴン効果」という用語は、世論が自らに影響を及ぼす現象を指します。人々は政治的な好みや立場において、既存または予想される多数派や支配的な立場に従う傾向があります。これは選挙や問題に対する態度に関して最も議論されてきました。最近の慎重に設計された研究により、バンドワゴン効果が実際に存在することが証明されました。しかし、観察されたバンドワゴン効果は通常、かなり弱く、特定の条件に依存していることが多いです。

引用元:Schmitt‐Beck, Rüdiger. "Bandwagon effect." The international encyclopedia of political communication (2015): 1-5.
https://bbank.jp/president-ac/blog/behavioral-economics

引用内容から「バンドワゴン効果」とは、簡単にまとめると「世論(自分以外の周りの人々)の意見が自分の意思決定に影響を及ぼす」ということです。
具体例を一つ挙げると、自分の周りの友人たちが皆商品Aについて良い感想を述べている場合、その商品Aの良し悪しに関わらず良い印象を抱くようになると言えます。

[ 活用方法1 ] サービスの訴求

自身が関わっているサービスの訴求を行う際、実際のサービスを利用した人々の好意的なフィードバックを紹介したり、人気であることを示す文章を入れることでよりサービスを利用してもらえる可能性が高いと言えます。

Before After
・このサービスでは音楽再生機能が利用できます

・このサービスは簡単に始められます

・サービスの長所は利便性です
・App Store の評価4.3以上

・20代の10人に1人が使っているアプリ

・利用者の声「このアプリで生活が便利になりました」

[ 活用方法2 ] 他ユーザーの割合を提示

他のユーザーがどの程度課金プランに加入しているかを提示することで、ユーザーが課金プランに加入する可能性が高まることがあります。この場合、参加している割合が多いプランに対してバンドワゴン効果が生じてそのプランに入りやすくなる可能性があります。

Before After

[ 理論 ] 現状維持バイアス

現状維持バイアスについて以下を引用する。

選択行動に関して,選択肢間で魅力に大差がない場合には,現在ある状態のままをとりがちになる現状維持バイアス(statusquo bias)の存在が知られている。

引用元:生駒忍. "もうひとつの偽 MHD 確率的判断課題における強力な現状維持バイアス." 日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第 11 回大会. 日本認知心理学会, 2013.
https://doi.org/10.14875/cogpsy.2013.0_70

現状維持バイアスの例を挙げると以下のようなものがあるかと思います。

  • 毎日同じ席で同じメニューの昼ごはんを食べる
  • 数ヶ月前に契約して利用していないサービスのサブスクリプションを解約しない

[ 活用方法 ] デフォルトの設定

現状維持バイアスは特にアプリケーション開発において気をつける必要があります。
この現状維持バイアスの一つとして「デフォルト効果」があります。「デフォルト効果」とは、人が複数の選択肢を提示された際。その選択肢を判断するための軸が定まっていない場合や他の選択肢が突出して魅力的でない限りデフォルトで選択されている選択肢を採用することが多いという効果です。

Before After

デフォルトで選択されているプランは選択される確率が高くなります。
After ではデフォルトで選択されている Plus プランが選択される可能性が高くなると考えられます。

Before After

ユーザーが不便に感じない限り、設定項目などは現状維持バイアスからデフォルトのままにされることが多いです。
予めユーザーに使用して欲しい機能や設定をONにしておくことで、ユーザーがサービスをよりアクティブに使用してくれる可能性が高まります。

デフォルトの設定はユーザーにとって非常に強力に働くため、「自社の利益になっているか」と「ユーザーのためになっているか」のバランスを保って設定する必要があります。

[ 理論 ] 現在志向バイアス

現在志向バイアスについて以下を引用します。

私たちはあるものごとについて、異なる時点間で価値を比較し、選択していると仮定する。ここで、今すぐ得られる少ない報酬より、 将来の大きな報酬を選ぶ傾向を未来志向(その逆を現在志向)と呼ぶ。

引用元:串崎真志. "物語的思考は異時点間の選択を未来志向にする." 文学部心理学論集 8 (2014): 7-13.
https://kansai-u.repo.nii.ac.jp/record/5638/files/KU-1100-20040300-02.pdf

つまり、「今すぐ得られる少ない報酬を、将来の大きな報酬よりも優先して選ぶ傾向」を「現在志向」という。
合理的に考えれば、報酬の絶対量を比較することで将来的な大きな報酬はずだが、人々は今すぐ得られる少ない報酬を優先する傾向があるため、現在志向バイアスといいます。

具体例を挙げると以下のようになるかと思います。

  • 将来の仕事のために資格の勉強をしようと思っていても、ついゲームをやってしまう
  • ダイエットをしようと思っていても、つい食べ過ぎてしまう

[ 活用方法 ] 細かい報酬のフィードバック

こちらの活用方法としては、特に Before / After は提示しませんが、ユーザーに細かく報酬のフィードバックを与えることが考えられます。具体的には以下のようなことが考えられます。

  • 毎日ログインごとに報酬を与えたり、「連続ログイン○日目」といったフィードバックを与えたりする
  • 新規登録のフローに進捗バーを設けて、小さなステップごとに進捗がわかるようにする

[ 理論 ] ピークエンドの法則

ピークエンドの法則について以下を引用します。

ピーク・エンドの法則は、一連の経験に対する総合的な評価は、その経験の中のピークとエンドに依存するというものであり、「記憶に基づく評価は、ピーク時と終了時の苦痛の平均でほとんど決まる」と述べられている。このピーク・エンドの法則は、ユーザ(顧客)の満足度を向上させるための理論としてマーケティング分野などで参考にされている場合がある。ここでのピークの定義は曖昧で、気持ちが高揚する最高値としてピークとエンド(経験の終末局面)がよければ顧客満足度は高い解釈されている場合もある。

引用元: 土井彩容子, 土井俊央, and 山岡俊樹. "UX におけるピーク・エンドの法則の適用についての考察." 日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会 第 67 回春季研究発表大会. 一般社団法人 日本デザイン学会, 2020.
https://doi.org/10.11247/jssd.67.0_108

具体例を挙げると以下のようになるかと思います。

  • ある企業が不祥事を起こした際、迅速で誠実な対応をすればかえって好印象になることがある
  • 遊園地のアトラクションで実際に楽しむ時間は並ぶ時間よりも短くても満足することができる

[ 活用方法 ] 適切なタイミングでのアプリ評価

アプリ評価では以下の画像のように、アプリの評価をユーザーに求めます。評価の結果は App Store や Google Play ストアに記録され、非常に重要な指標となります。

画像参照: https://pub.dev/packages/in_app_review

このアプリ評価を求めるタイミングを開発者側で決めることができます。
ピークエンドの法則を用いて、サービス体験の「ピーク」と「エンド」でアプリ評価を求めることでユーザーの評価が向上する可能性があります。
具体的には、以下が「ピーク」や「エンド」として考えられるかと思います。

クイズアプリの場合

  • ピーク:ユーザーがクイズに全問正解した時
  • エンド:ユーザーがクイズを解き終わり、振り返りが済んだ時

SNSアプリの場合

  • ピーク:ユーザーがいいねやコメントを確認した時
  • エンド:ユーザーが自身の投稿を完了した時

[ 理論 ] ツァイガルニック効果

ツァイガルニック効果について以下を引用します。

Since Zeigarnik's (1927) classic study, it has repeatedly been demonstrated that incomplete tasks are better remembered than complete tasks (cf. Butterfield, 1964). Zeigarnik's explanation for this effect (now named for her) was that the subject beginning a task develops a need to complete it. If he is prevented from doing so, he is left in a state of tension. which manifests itself in improved memory for the uncompleted task.

日本語訳
ツァイガルニク(1927年)の古典的研究以来、未完了の課題は完了した課題よりもよく記憶されることが繰り返し示されています(例:バターフィールド、1964)。ツァイガルニクがこの効果の説明として提唱したのは、課題を始めた被験者はそれを完了する必要性を感じるというものです。もしそれが阻止されると、緊張状態が残り、それが未完了の課題に対する記憶の向上として現れます。

引用元:Heimbach, James T., and Jacob Jacoby. "The Zeigarnik effect in advertising." ACR Special Volumes (1972).
https://www.tcrwebsite.org/volumes/12042/volumes/sv02/SV-02

ツァイガルニック効果を簡単にまとめると、「人は一度始めてたことに関して、途中で放置することに抵抗があり、終わらせないといけないと考える傾向がある」と言えます。

具体例は以下が挙げられるかと思います。

  • 広告でよく用いられる、「続きはWebで」という文言はこの効果を利用したものであり、続きが気になるユーザーを惹きつける効果がある
  • 一度勉強を始めるとキリが良いところまで進めたくなり、途中やめにできない

[ 活用方法 ] 作業進捗の可視化

ユーザーに対して時間のかかる作業を要求する場合、進捗バーを設けて作業の進捗を可視化することで、ユーザーがどのステップにいるかがわかりやすいだけでなく、ツァイガルニック効果によって「作業を完了させなければならない」と思ってもらえる可能性があります。

入力状況の進捗バーを追加

Before After



学習時間の目標に対する進捗を追加

Before After

[ 理論 ] ザイオンス効果

ザイオンス効果について以下を引用します。

選択や反応(Inoue & Sato, 2017)など,刺激との相互作用は刺激に対する選好の形成に影響を与える。
こうした要因として最も代表的なものは刺激への接触経験だろう。実際,誰しも経験したことがあるように,日常的に見慣れた対象を好ましく知覚するはずである。このような反復接触による好意度の上昇は単純接触効果と呼ばれ(レビューとして,宮本・太田,2008や Bornstein, 1989),社会心理学(Zajonc, 1968)や認知心理学(Seamon et al., 1995)の分野で盛んに研究されてきた。

引用元:井上 和哉 単純接触効果の生起における内的表象の重要性
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jia/17/1/17_37/_pdf

ザイオンス効果についてまとめると、以下のようになるかと思います。

  • 日常的に見慣れた対象を好ましく感じる
  • 接触回数が多いと好感度が上昇する
  • 単純接触効果とも呼ばれる

具体例を挙げると以下があるかと思います。

  • 街中でよく聞く音楽を覚えて自分でも聞くようになる
  • 営業マンが顧客と何度も会う機会を設けて商品を購入してもらう

[ 活用方法1 ] 通知などでアプリに触れる機会を増やす工夫をする

ザイオンス効果を活用する例としては以下が考えられます。

  • 「今日も○○アプリで投稿してみましょう」「最後の投稿から1週間が経ちました」といった通知でアプリを開いてもらう回数を増やす
  • アプリを開いた際に「連続ログイン○日目」などの表示やログイン時の報酬などで、アプリ利用のインセンティブを与える

なお、あまりに通知の頻度が高い場合はユーザーにとってその重要度が薄れてしまったり、鬱陶しく感じてしまったりする可能性があるため、適切な頻度を検証する必要があります。

[ 活用方法2 ] ユーザーにとって見慣れた表示を用いる

「見慣れたものに対して好意的になる」ということは、言い換えると「見慣れないものに対しては抵抗を感じる」とも言えます。サービスに対して好意的になってもらうためにはユーザーにとって見慣れたデザインにする必要があります。具体例としては、以下のようにわかりやすく見慣れたアイコン表示を使用することなどが挙げられます。

Before

ホーム 編集 削除 設定

After

ホーム 編集 削除 設定

以上です。

まとめ

最後まで読んでいただいてありがとうございました。

今回の記事を書くにあたって「行動経済学とアプリケーション開発」というトピックについて調べみたところ、前例となる記事が少ない印象で、実際に親和性のある分野かどうかはわかりませんでした。しかし、個人的には行動経済学の知見を活かせる部分もあると考えているので、サービスを見る一つの視点として捉えていただけると嬉しいです。

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