フロントエンドのテスト基盤を Jest から Vitest に移行した話
こんにちは。ナレッジワークの torii です。
7 月にフロントエンドエンジニアとして入社してもうすぐ半年、そろそろ技術記事の一つも書きたいなと思っていたところに、ちょうどいいネタを見つけたので投稿してみます!
Jest から Vitest に移行してみた
早速やったことですが、フロントエンドのテストフレームワークを Jest から Vitest に移行しました。理由としては、Jest が CJS を前提として動作しており、ESM 前提のモジュールを動かすのに一手間も二手間もかかるからです。
ナレッジワークのフロントエンドは Next.js を採用しており、テストフレームワークには Next.js と相性の良い Jest を採用していました。関数単位のテストや UI コンポーネントのテストを書く分には問題なかったのですが、それより上層(ページなど)になるとたちまち ESM 互換性の問題を踏み、テストを書こうにも腰の重い状態が続いていました。そんな時、とある機能でページ単位のテストを重点的に書く必要性が生まれ、この際シュッと Vitest に移行してしまおうということになりました。Vitest は最近 v1.0.0 がリリースされたこともあり、移行するには絶好のタイミングです。
移行作業の詳細
ここからは、移行の際に行った具体的な作業を書いていきます。Jest からの移行方法は公式ドキュメントにも記載があるので基本的にはその通りにやればできるのですが、プロジェクト固有の事情などで公式には書かれていない部分もあり少しつまづく部分もありました。
依存の更新
色々右往左往した結果、最終的に追加・削除されたパッケージは次のようになりました。
- @storybook/jest
- @types/jest
- jest
- jest-css-modules
- jest-environment-jsdom
+ @next/env
+ @storybook/test
+ @vitejs/plugin-react-swc
+ jsdom
+ vite-tsconfig-paths
+ vitest
直接の依存の数だけ見ると増えていますが、 pnpm-lock.yml の差分を見ると 682 additions / 1,109 deletions
という結果なのでだいぶ身軽になったと思います。
設定ファイルの更新
Jest の設定を Vitest 用に書き換えました。
コメントを省くと、ざっと以下のようになりました。
import nextEnv from "@next/env";
import react from "@vitejs/plugin-react-swc";
import tsconfigPaths from "vite-tsconfig-paths";
import { defineConfig } from "vitest/config";
nextEnv.loadEnvConfig(process.cwd());
export default defineConfig({
plugins: [react(), tsconfigPaths()],
test: {
globals: true,
root: "src",
environment: "jsdom",
setupFiles: ["./vitest.setup.mts"],
testTransformMode: {
ssr: ["**/*"],
},
reporters: ["default", "hanging-process"],
},
});
特筆すべき点は以下になります。
-
plugin-react
の代わりにplugin-react-swc
を使うことで、Babel 部分のトランスパイルを高速化しています - 元々設定に使っていた
next/jest
をやめたため、@next/env
を使って自前で環境変数をセットする必要が生じました -
vite-tsconfig-paths
を使って、インポートのエイリアス設定('@/...'
)を tsconfig.json から読み込んでいます - Vitest はデフォルトで
describe
やtest
といった global 変数がデフォルトでは使えないためglobals
をtrue
に設定しました- これに加えて、tsconfig.json に
"types": ["vitest/globals"]
を追記しています
- これに加えて、tsconfig.json に
- jsdom より happy-dom の方が高速という記事をいくつか見ましたが、一部の動作に不具合(例)があったため見送りました
-
testTransformMode
は Vitest 0.33 -> 0.34 で起きたパフォーマンス劣化(Issue)の対策です -
reporters
の"hanging-process"
は、まれにテスト終了時にプロセスが終了しないことが起きたためデバッグのために追加しました
セットアップファイルの更新
ここは長くなるため、ファイルの中身をいくつかに分割して説明していきます。
import "@testing-library/jest-dom/vitest";
import { loadEnvConfig } from "@next/env";
import { configure } from "@testing-library/react";
import { mswServer } from "@/libs/msw/mswServer";
loadEnvConfig(process.cwd());
configure({
testIdAttribute: "data-test",
});
-
"@testing-library/jest-dom"
の代わりに"@testing-library/jest-dom/vitest"
を使います - 設定ファイルと同じく、
@next/env
を使って環境変数を読み込んでいます -
testIdAttribute
はgetByTestId()
で要素を取得する時の命名規則の設定です
/** @see https://github.com/jsdom/jsdom/issues/1695 */
Element.prototype.scrollIntoView = vi.fn();
Element.prototype.scrollBy = vi.fn().mockReturnValue(undefined);
/** @see https://jestjs.io/docs/manual-mocks#mocking-methods-which-are-not-implemented-in-jsdom */
beforeAll(() => {
Object.defineProperty(window, "ResizeObserver", {
writable: true,
value: vi.fn().mockImplementation(() => ({
disconnect: vi.fn(),
observe: vi.fn(),
unobserve: vi.fn(),
})),
});
// 他にも
});
jsdom で定義されていないメソッドやグローバルな値を差し込んでいます。ここは Vitest に移行する前からあったコードをそのまま利用しています。
// Setup MSW
beforeAll(() => mswServer.listen());
afterEach(() => mswServer.resetHandlers());
afterAll(() => mswServer.close());
MSW (Mock Service Worker) の設定です。API からのレスポンスを差し替えられます。便利ですね!(このコードだけでは完結しないため、公式ドキュメントの記載も参考にしてください)
関数の更新
Vitest は Jest との互換性をかなり重視した作りになっており、ほとんどの関数を単純な置換で移行することができました。
-
jest.spyOn()
->vi.spyOn()
-
jest.fn()
->vi.fn()
-
jest.mock()
->vi.mock()
-
jest.useFakeTimers()
->vi.useFakeTimers()
- ...
少しだけ違うところは、jest.requireActual
の代わりに vi.importActual
を使い、非同期に動的インポートするあたりでしょうか。しかし、大した差分はなく機械的に置き換えられました。
- jest.mock('@/libs/react', () => ({
- ...jest.requireActual('@/libs/react'),
- useState: jest.fn(),
- }))
+ vi.mock('@/libs/react', async () => ({
+ ...(await vi.importActual('@/libs/react')),
+ useState: vi.fn(),
+ }))
scaffolding を更新
ナレッジワークのフロントエンドでは scaffdog というライブラリを愛用してしているため、こちらもあわせて書き換えました。(ちなみに今月 scaffdog 作者の wadamaru がジョインしました 🎉 心強いです!)
storybook/jest を storybook/test に移行
今回の移行と時を同じくして Storybook 7.6 がリリースされました。
このリリースにより、@storybook/test
がそれまでの Jest から Vitest を使うように変更されたため、こちらも一緒に移行しました。
トレードオフ
Vitest への移行に際して、以下に挙げるようにいくつかのトレードオフがありました。
トランスパイル実装の違い
Vitest は Vite プロジェクトでの使用を想定していますが、 Next.js のプロジェクトでも問題なく使用できます。しかし Next.js と Vite ではコードのトランスパイル結果が違うことには留意する必要があるでしょう。Next.js は SWC を使用し、 Vite は esbuild を使用してコードをトランスパイルするため、厳密に本番で使用されるコードをテストすることができません。
しかし、今回は微妙な差異を気にするよりもそもそテストが書けないという問題を解決するメリットが大きかったため、無視することにしました。
速度
ローカル実行は Jest と Vitest で体感できるほどの差がありませんでしたが、 CI (GitHub Actions) 上での実行は約 1.5 倍の時間がかかるようになってしまいました。高速化したという声も多いので実行環境やコードベースなどの条件にもよるのだと思いますが、今のところ原因はわからず。ちょっと残念な結果です。
しかし、現状の CI のボトルネックがそこではない(※)ことや、まだ CI の最適化の余地があることなどを勘案した結果、全体の判断としては Vitest に乗っておいた方が良いだろうという結論に至りました。
※ VRT (= Visual Regression Test) の方が遅い
その他
vi.mock()
を使ってモジュールから export される関数をモックする時、ちょっとした注意点があるようです。この点については公式ドキュメントにも記載があります。
例として、次のように同じモジュールで export されている foo()
をモックに差し替えることはできますが、 foobar()
の中で使われている foo()
を差し替えることはできません。
export function foo() {
return "foo";
}
export function foobar() {
return `${foo()}bar`;
}
Jest ではこの問題は起こりません。Jest と Vitest で挙動の差異は、それぞれが内部で使っているトランスパイラが生成するコードの差異によって生じているようです(参考)。
今回の移行ではこの挙動の違いによるトラブルは起きなかったのですが、知らないと思わぬハマり方をしそうなので注意するに越したことはないでしょう。
まとめ
Jest から Vitest へ無事に移行することができました。移行にかかった期間は調査やレビューを含めて足掛け 3 日ほどです。この移行によってこれまでテストを書けなかった未開の地への道が開かれたので、早速どんどん新領域を開拓していこうと思っています。
ナレッジワークのフロントエンドエンジニアは、ギルドというコミュニティ活動の中で技術的な知見を共有したり雑談・相談を積極的に行っており、今回の移行も「やりたいね、じゃあやりましょう」ですぐに始まり、レビューも沢山もらうことができました。(特に今回は設定周りで yukita の助けを大いに借りました 🙇♂️)
現在エンジニア積極採用中ですので、気になった方は是非カジュアル面談でお会いしましょう!
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