会社主催の勉強会を継続的に運営する
はじめに
株式会社ナレッジワーク Enablement Groupの上田(@tenntenn)です。
ナレッジワークでは、2023年3月から社外向けにソフトウェアエンジニアや学生向けイベントをはじめ、2023年12月までに25回のイベントを開催しました。また、多くの方に参加頂き、connpassグループの登録者は2200名を超えました。
その中でもEncraftシリーズは、「できる喜びが巡る日々を届ける」というミッションのとおり、技術にこだわりを持つ人々が集まって互いに知見を交換し、できることを増やしていく場を提供すべく開催しています。Encraftは”Enablement”(ひとりひとりの成果・能力の向上)とナレッジワーク社員が取るべきスタイルの1つである”Craftmanship”(こだわりを持って)を合わせた造語となっています。
Encraftは月に1回のペースで3月から11月まで、これまで9回開催してきました。各回テーマを設定し、バックエンドやWebフロントエンド、QA、SRE、エンジニアのキャリアなどさまざまなテーマを扱ってきました。これまでのレポート記事やアーカイブ動画をご覧になりたい方は、以下の記事にまとめてありますので、ぜひご覧ください。
Encraftの開催の思いについては、ナレッジワークの同僚のyoshikoが別の記事で語ってくれると思いますので、本記事ではTechPRや運営視点での分析や運営ナレッジをまとめたいと思います。
開催体制と運営の再現性
Encraftはyoshikoが社内に声をかける形で始まりました。その思いにソフトウェアエンジニアが所属するEngineering Unitの有志が賛同し、開催が始まりました。ナレッジワークとしては初めてのオフライン開催のイベントでしたので、初回は20名と少なめに募集し、結果としては100名を超える方に申し込んで頂き、需要の高さを感じました。
2回目まではyoshikoが主導して開催し、3回目からは筆者(tenntenn)が企画に加わりました。11月から筆者の所属するEnablement Groupが主導する形になりましたが、運営は相変わらず有志という形を取っています。
企業主催のイベントは、一部の主導するメンバーの努力によって開催されがちで、継続性が課題に挙がります。しかし、ナレッジワークはEnablement(ひとりひとりの成果・能力の向上)をミッションに掲げている会社です。yoshiko主導の時からハンドブックという形でナレッジをまとめ、誰でも運営に関われる形を作っています。
ハンドブックは対象によって複数あり、「開催ハンドブック」には、企画から事後処理まで、いつ、どのようなタスクがあるのかが書いてあります。また、「スタッフハンドブック」にはメンバーが運営スタッフとして、事前準備や当日タスクにはどんなものがあり、どういう手順で行うべきなのかがまとまっています。はじめて運営に関わるメンバーでもハンドブックと多少のヘルプがあれば、比較的早期に自分でタスクをこなせるようになります。
来年(2024年)以降は、Enablement Group主導でより再現性の取れる形で運営を進めて行く予定です。まずは手始めに年間スケジュールの作成を行い、運営に関わりやすい土台を作っていっています。
ハイブリッド開催
Encraftが力を入れているのは、コンテンツや運営の再現性だけではありません。Encraft #2からオフラインとオンラインのハイブリッド開催を行っています。Encraft #1で多くのキャンセル待ちの方を出してしまった反省からオンライン配信も行うことを決めました。
ハイブリッド配信は、オンラインだけやオフラインだけと比べて多くのノウハウが必要です。幸い、筆者がGo Conferenceやtenntenn Conferenceの運営を通してオンライン配信のノウハウを学んでいたため、初期のハードルは低く済みました。
一方、属人性の高いタスクのため、全体の運営と同様にハンドブックを作成し、以下のような構成図などを作成することでナレッジの共有に努めました。属人性はあるものの、配信を行えるメンバーが増えていき、Encraft #9では私が現場にいなくてもトラブルなく配信が行えるようになっています。
属人性の高いタスクだからこそ、少しずつナレッジを共有し、メンバーのEnablementを促す必要があると、改めて感じています。
振り返り
Encraftでは、毎回アンケートを取っており、その結果と運営メンバーの視点から振り返りを行っています。FigJamでホワイトボードを作り、全体、コンテンツ・テーマ、会場、配信、懇親会、振り返り・後処理の観点からGood(良かった点)とOpportunity(改善点)を付箋を貼りながら出していきます。最後にNext Tryを決めて改善に取り組んでいます。
なお、GoodとOpportunityを振り返る機会は、G&Oという名前でナレッジワークの企業文化として根付いており、Encraft以外でも頻繁に行われています。
結果分析
11月に行ったEncraft #9終了後、来年(2024年)に向けて、各回の振り返りでは分析しきれなかった部分をEnablement Groupのメンバーで行いました。我々が結果を分析する意味は、参加者により良いコンテンツを提供することでEnablementを加速させたいという気持ちと企業として開催する以上、技術ブランディングや採用を始めとする企業活動への貢献を高めるという理由もあります。
企業と技術コミュニティの関係は、筆者の前職である株式会社メルペイのMerpay Tech Fest 2021の「技術発信のための文化とリレーション」というセッション参考になります。このセッションに登場する「三方良しの技術発信文化」は非常に大切です。企業としての活動に貢献することは、そのイベントや企業活動の継続性や活動量を高めることに繋がり、そこで生まれたナレッジをシェアすることで更に技術コミュニティの発展に寄与します。ナレッジワークにおいても、その観点を大切にしたいと考えています。
3月に開催したEncraft #1から11月に開催したEncraft #9までの統計情報をまとめたところ、以下のような結果になりました。申し込み者数を除き、計画の行については、開催後の後付けになっており、このくらいを期待したいよねという数字がイベントによらず一律で入っています。なお、アンケートにナレッジワークから連絡しても良いと回答した方の数と割合は、人数および割合によっては個人を特定できてしまう恐れがあるため、この画像からは削除してあります。この数字の全体の平均はオフライン参加者で10%(出席者比)、オンライン参加者で0.1%(ユニーク視聴者数比)となっていました。
分析の詳細は後述しますが、まずはGood & Opportunity形式で整理してみましょう。
Good(良かった点)
- 平均出席率が80%
- テーマの特性でオンライン視聴が多い回がある
- 新しい技術を学ぶ回は人気
- オフラインのアンケート回答率は高い
Opportunity(改善点)
- 満席率の低い回がある
- 周知がうまくできてなかった回がある
- オンラインのアンケート回答率が低い
- オフラインでもアンケート回答をうまく促せてない回があった
オフラインの出席率は全体平均で80%となっており、筆者の勉強会運営経験からしても高いのではないかと考えています。申し込み枠に対する申込者の割合である満席率は、全体的には高い傾向がありますが、低い回もありました。イベント自体の周知に課題があったと反省していますが、どの回もコンテンツ自体はとても良かったという実感があり、参加者のみなさんと話したり様子を見ていてもそう感じられました。
Encraft #8(Engineers Career)は、オンラインのユニーク視聴者数が400人を超えており、テーマを考えると、対面にややハードルを感じるためか、オフラインよりオンラインの方が需要が高いようでした。
Encraft #4(React/Next.js 最前線)の出席率、アンケート回答率、オンラインのユニーク視聴者数も高く、非常に注目の高い回でした。Encraft #5 - Go1.21+ 最前線 - も高い傾向があるため、新しい技術について扱う回は注目が集まりやすいことが分かります。
アンケート回答率については、オフラインでは概ね高い傾向があります。これは、Triple-WIN アンケートと呼んでいるアンケートの回答数に応じて、OSSに寄付するという取り組みが影響していると考えています。予算の関係上、オフラインの方からの回答に限定しているため、オフライン参加者のアンケート回答のモチベーションを向上させたのではないでしょうか。参加形態によらず、アンケートに回答していただいた数を元に寄付するようにすればオンラインの回答も増えそうです。その場合は、寄付の上限を設けることで予算内に収めることができるのではないかという案も出ました。来年以降、この案をベースに改善を試みようと思います。
Encraft #9(QA Enablement - Practical Test Design -)のアンケート回答数が少ないように感じますが、現地の様子を聞いた限り、非常に盛り上がっていたとのことなので、盛り上がりすぎてアンケートを回答する時間がなかったのではないかと考えています。振り返りでは、会場内にQRコードを設置するなど、懇親会に入ってもアンケートに回答できる仕組みを作ると良いのではないかという意見も出ていました。
筆者は、コンテンツの質や参加者の満足度を高めることが結局は一番、その企業のプレゼンスを高め、認知を向上させ、そして採用活動の貢献につながると考えています。遠回りのように感じますが、筆者の技術カンファレンスの運営経験から見てもそう感じます。
来年のEncraftの計画もすでに動き始めており、分析結果を基に改善を試みています。我々はアンケートで提案頂いた改善案には真摯に取り組んでいますので、ぜひEncraftを始めとするナレッジワークのイベントに参加された際には、忌憚のないフィードバックを頂ければと思います。もちろん、技術コミュニティや他社様のイベントにおいてもフィードバックは重要ですので、アンケートの回答を習慣化して頂いて、勉強会の改善にご協力頂ければと思います。
おわりに
本記事では、Encraftの運営ナレッジや分析結果について紹介しました。来年(2024年)もEncraftをはじめとするソフトウェアエンジニアや学生向けのイベントを開催する予定です。
ナレッジワークのEnablement Groupでは、「エンジニアにできる喜びを届ける」をミッションに活動を行っています。どうすればソフトウェアエンジニアの皆様に「できる喜び」を届けられるのか考えながら、セッション形式のイベントだけではなく、ワクワクするようなワークショップや実践的なブートキャンプなど色んな形式の勉強会を計画しております。
2024年1月30日(火)には、「Go1.22+ Enablement Lesson」というテーマで、スクール形式という珍しい形式でEncraft #10を開催予定です。2024年2月にリリース予定のGo1.22とそれ以降の新しい機能について、筆者が講師役となり、生徒役の登壇者を中心に双方向なやり取りをしながら講義を行う予定です。そのため、参加者は準備なしで少人数で開催されているようなインタラクティブな講義を疑似体験できるようになっています。ぜひご参加ください!
ナレッジワークでは、一緒に働くエンジニアを募集しています。興味がある方はぜひ一度お話しましょう。
筆者とのカジュアル面談は以下のURLから申し込めます。
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