AI・機械学習入門④教師なし学習モデルの基礎
教師なし学習モデルの基礎
はじめに
前回までの記事では、教師あり学習に分類される回帰・分類モデルを中心に解説しました。
今回は、ラベルが与えられていないデータから学習する教師なし学習について扱います。
教師なし学習は正解ラベルがない状況下で、データの構造や潜在パターンを発見することを目的とします。ビジネスや研究の現場では、未知のデータのグループ化、次元圧縮、潜在因子の抽出など、多岐にわたる応用があります。
1. 教師なし学習の特徴
ラベルが不要:ラベルのないデータでも学習可能
探索的アプローチ:データに潜むパターンや構造を自律的に発見
柔軟性:クラスタリングや次元削減など、分析目的に応じた手法を選択可能
2. 代表的な教師なし学習モデル
(1) クラスタリング
データを似たもの同士でグループ化する手法です。
K-means:データをK個のクラスタに分割。シンプルで高速だが、初期値に敏感
階層型クラスタリング:データ間の距離に基づき階層的にクラスタを構築
DBSCAN:密度に基づいてクラスタを検出。ノイズや異常値に強い
(2) 次元削減
高次元データを低次元に圧縮し、分析・可視化・特徴抽出を容易にします。
主成分分析(PCA):分散を最大化する方向にデータを射影
t-SNE / UMAP:非線形の関係を保持しながら低次元に可視化
(3) 潜在変数モデル
観測データの背後に潜む構造を説明する変数(潜在変数)を仮定して学習する手法です。
因子分析:観測変数を少数の潜在因子で説明
潜在ディリクレ配分(LDA):文書を潜在トピックに分類
3. 教師なし学習の評価
教師なし学習では正解ラベルがないため、評価方法も特殊です。
クラスタリングの指標:シルエット係数、ダビエス・ボウディン指数
次元削減の評価:再構成誤差、可視化の直感的評価
潜在変数モデルの適合度:対数尤度、情報量規準(AIC/BIC)
4. 実務上の考慮点
データの前処理(スケーリング、欠損値処理)が精度に直結
ハイパーパラメータ(クラスタ数K、密度閾値など)選定が結果を大きく左右
結果の解釈にはドメイン知識が必須
応用例
顧客セグメンテーション
教師なし学習を用いて、顧客の購買履歴や行動データを分析し、似た特徴を持つ顧客グループを抽出します。これにより、マーケティング戦略をグループごとに最適化できます。例えば、購入頻度や商品カテゴリの傾向から「高頻度購入顧客」「季節性購買顧客」「単発購入顧客」などを分類し、それぞれに異なるプロモーションを展開することで、ROIの向上が可能です。また、セグメンテーションは新規顧客のターゲティングやクロスセル施策にも活用されます。
商品レコメンドの類似グループ抽出
ECサイトや動画配信サービスでは、ユーザーや商品を教師なし学習でクラスタリングし、類似性の高いグループを作ります。商品間の類似性をもとに「この商品を買った人はこの商品も購入」などのレコメンドを実現できます。潜在変数モデルを使えば、ユーザーの明示されていない嗜好や関心を捉えることも可能です。実務では、クラスタ数や距離尺度の選択がレコメンド精度に直結します。
異常検知(製造ライン・セキュリティログ)
大量データの中から異常パターンを自動で検出するのも教師なし学習の強みです。製造ラインでは、センサー値や工程データを用いて、正常な運転パターンを学習し、逸脱した挙動を異常として検出します。セキュリティ領域では、ログイン履歴やアクセスパターンから不正アクセスや異常挙動を特定します。こうした応用では、異常サンプルが少ないため、教師なし学習でのパターン抽出が有効です。
文書や画像の自動分類
大量の文書や画像データに対して、教師なし学習で自動分類・クラスタリングを行うことで、管理や分析を効率化できます。文書の場合、ニュース記事や顧客レビューをトピック別に分類したり、類似内容の記事をまとめてアーカイブ化することが可能です。画像の場合、監視カメラの映像や医療画像をクラスタリングして、異常や特徴的なパターンを自動抽出できます。応用の幅は広く、コンテンツ管理、データ分析、異常検知など多岐にわたります。
5. まとめ
教師なし学習は、未知のパターン発見やデータ理解に不可欠です。
クラスタリング:似たデータをグループ化
次元削減:データを圧縮・可視化
潜在変数モデル:観測されない要因を仮定して構造を説明
これにより、回帰や分類では扱えない課題にも対応でき、実務でのデータ探索や意思決定に大きく貢献します。
参考文献
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URL: https://hastie.su.domains/ElemStatLearn/
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