watsonx|概要:IBMのAIエージェントを触ってみた
知識は武器とかけまして、レゴブロックと解く、その心は――
今日もKnowledge Oasisへようこそ
案内人はkoふみです
本日のテーマは『IBMのAIエージェントを触ってみた!』
はじめに
「IBMにもAIエージェントがあるの?」
あるんです!
IBMのAIエージェント watsonx Orchestrate
に関するワークショップに参加したのでその内容について紹介します。
対象読者
- watsonx Orchestrateについて知りたいあなた
- watsonx Orchestrateに興味のあるあなた
- watsonx Orchestrateの現在の実力が気になるあなた
watsonx Orchestrateとは
watsonx Orchestrate は、チャット画面に自然言語で指示を入力するだけで、複数システムをまたいだ連携処理を自動的に組み立て・実行できる AI エージェント構築プラットフォームです。たとえば「新規案件登録後、自動でメールを送りたい」「生成 AI に文面を作成させてから承認フローを回したい」といった要望を入力すると、ビジネスルールやワークフロー、外部 API 呼び出し、生成 AI 呼び出しなどを組み合わせた処理フローをバックグラウンドで自動生成。結果はチャット上で確認でき、まるで対話するように業務が進みます。
watsonx Orchestrateの特長
企業向けに用意されたテンプレートエージェント(Prebuilt Agents)が豊富で、HR、Sales、調達など業務領域別に最適化済みのエージェントをすぐに利用可能。IBM社内の実践知見をベースに開発されているため、必要に応じて処理フローだけをカスタマイズすれば、開発期間を大幅に短縮できます。
ローコード派の方にはドラッグ&ドロップで振る舞いを設定できる GUI「Agent builder」を、開発者には500種類近いエンタープライズアプリ連携コネクタを活用できる「Agent Development Kit(ADK)」を用意。ノーコードからフルコードまで一貫した開発体験を提供し、利用シーンやスキルに合わせて柔軟に選べるのが強みです。
さらに、「Multi-Agent Orchestration」により、独自開発のカスタムエージェントや他社製エージェントともシームレスに連携。チャット上の一度の指示で、最適なエージェントにルーティングし、検索→生成→送信といった複雑なワークフローを一気通貫で実行します。
watsonx Orchestrateの機能概要
-
Agent Builder
ドラッグ&ドロップでエージェントを構成できるローコード画面。業務ナレッジをアップロードすれば、RAGを活用した高度な回答も可能です。 -
Agent Development Kit (ADK)
Python や OpenAPI 定義を使ったカスタムツール開発環境。ローカルで作成したツールをそのまま本番環境へデプロイできます。 -
Knowledge 設定
PDF や外部検索データベースをナレッジソースとして登録。社内マニュアルや独自データを生成 AI に取り込ませられます。 -
Tool 連携
カタログツールの呼び出しや、Python/OpenAPI で自作ツールを登録可能。条件分岐を含むフローチャートもローコードで構築できます。 -
MCP連携
Model Context Protocol によって、生成 AI モデルと外部ツールのコンテキストを共有。拡張性の高いエコシステムを実現します。 -
Agent analytics
会話履歴やトークン数、レイテンシなどを可視化。日別サマリーやトレース情報で運用状況の把握とチューニングが行えます。
watsonx Orchestrateの費用
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為替レート連動の基本料金
IBM Cloud版では月初のドル円レートで変動(2025年7月時点:1USD=145.885円)。 -
アドオンライセンス
- MAUライセンス:$150/1,000 MAU(1 MAU=50メッセージ)
- Voice MAUライセンス:$100/1,000 Voice MAU
- Prebuilt Agents:$100/月(Essentialプラン向けオプション)
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ドキュメント制限
- エージェントあたり最大50ファイル、1ファイル25MBまで
- 合計容量10GB(大規模RAGは watsonx.data を検討)
-
プラン比較
プラン | 月額 | Prebuilt Agents | MAU | ADK | Data isolation |
---|---|---|---|---|---|
Essential | $500 | 別途 $100/月でオプション購入 | 4,000 | ○ | ― |
Standard | $6,000 | 標準提供 | 40,000 | ○ | ― |
Premium | $18,000 | 標準提供 | 50,000 | ○ | ○ |
IBM Agent Connect によるエージェントエコシステムの実現
IBMの Agent Connect は、ベンダーを問わず多彩な AI エージェントとツールを一元カタログ化したマーケットプレイス。自社製・他社製エージェントを横断的に選択・組み合わせられるため、拡張性と運用効率をさらに高められます。
ワークショップ
API呼び出し
天気情報を取得するAPIを呼び出すエージェントを作成しました。いわゆる Function Calling
です。OpenAIのGPTsと同様にOpenAPIのスキーマを登録すると、関数呼び出しが可能になります。AWSのAPI Gatewayで構築した自作APIも問題なく呼び出せましたが、認証の設定はGUIの「Agent builder」では対応していませんでした。認証が必要な場合は「Agent Development Kit(ADK)」を利用する必要がある点にご注意ください。
RAG
ファイルをKnowledgeとしてアップロードし、簡易的なRAGを構築できます。OpenAIのGPTsではアップロードが比較的速く完了する一方、watsonx Orchestrateではやや時間がかかりました。ワークショップでは「予算情報」「技術情報」「請求書」を分けてアップロードし、動作確認を実施。それぞれ別のKnowledgeとして登録しないと適切に参照されないため、まとめすぎには注意が必要です。
Flow
Flowは、startからendまでの間にツールをドラッグ&ドロップしてエージェントをローコードで組み立てる仕組みです。画面にはツールや条件分岐のパーツがありましたが、現時点では並列処理やループはグレーアウトされて利用できない状態でした。シンプルな直線的フローは問題なく作れますが、複雑フローは今後のアップデートを待つ必要があります。メール送信はツールを配置して簡単な設定するだけで動いたのでツール類は充実していそうです!
コードブロック
Flow内でPythonコードを実行できる機能です。Agent builder上でエディタが起動し、Pythonコードを記述しますが、VSCodeのように見えるエディタはまだ未完成の印象で、正しいコードでもエラー表示が消えないことがありました。保存が明示的に行えず、編集内容が反映されない場合も。外部ライブラリのimport機能もなく、シンプルな処理向きに留まります。ワークショップではドルから円への変換処理を試しましたが、実行速度が遅く、本番運用には厳しい印象を持ちました。
まとめ
watsonx Orchestrateは、IBMが長年培ってきた知見を結集したAIエージェントです。豊富なノウハウが詰まったPrebuilt Agentsや多彩なベンダー連携によるエコシステムは、流石はIBMです。一方で、Flow内のコードブロック機能はまだ発展途中で、日本語サポートにも改善の余地があるため、現状では日本企業が本格導入を検討する際にやや慎重にならざるをえません。IBMの強みを活かした今後の成長に期待したいです!
知識のひとつひとつは小さなレゴブロック
でも、組み合わせれば世界を変えるアイディアをカタチにする武器になる!
またKnowledge Oasisでお会いしましょう
案内人はkoふみでした
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