YANS参加報告 (2023)
はじめに
2023年8月29日~8月31日に浅草橋ヒューリスティックホールで開催された NLP若手の会 第18回シンポジウム (YANS 2023) に参加しました。
このページではその参加報告をさせていただきます。
YANSの概要
NLP若手の会(YANS)とは
NLP若手の会 (YANS) は、自然言語処理および関連分野の若手研究者・若手技術者の交流を促進し、若手のアクティビティを高めることを目指したコミュニティです。
NLP若手の会(YANS) Web Site より
このNLP若手の会 (YANS) では、年に1度シンポジウムが開催されています。
NLP若手の会は,自然言語処理,計算言語学および関連分野の,若手研究者および技術者の学問研究および技術開発の促進をはかり,参加者の相互交流および成長の場を提供し,培われた学問研究および技術開発の成果が実社会に応用されることを奨励し,この分野の学問および産業の進歩発展に貢献することを目的として,年に1度,研究シンポジウムを開催しています.
NLP若手の会 (YANS) 第18回シンポジウム (2023) より
今回開催された第18回シンポジウムは、分野交流ハッカソンとシンポジウムで構成されていました。
日程
0日目:ハッカソン
[13:00-20:00] デモアプリ開発ハッカソン
[13:00-20:00] リーダーボードハッカソン
1日目:シンポジウム(1)
[10:00-10:30] オープニング
[10:30-11:30] チュートリアル (1) 「グラフを用いた近似最近傍探索の理論と応用」
[11:40-12:40] ポスターセッション (1)
[12:40-14:00] 昼休憩
[14:00-15:00] ポスターセッション (2)
[15:15-16:20] ラウンドテーブル
[16:35-17:40] スポンサーセッション (1)
[17:50-18:50] ポスターセッション (3)
[19:00-19:30] YANSスペシャルセッション
2日目:シンポジウム(2)
[10:00-11:00] チュートリアル (2) 「その研究ChatGPTでいいんじゃないですか?~LLM時代の対話システム研究~」
[11:00-11:30] スポンサーセッション (2)
[11:40-12:40] ポスターセッション (4)
[12:40-14:00] 昼休憩
[14:00-15:00] ポスターセッション (5)
[15:15-16:15] パネルディスカッション
[16:25-17:25] 招待セッション
[17:40-18:40] クロージング
4年振りの現地開催であることに加え、言語処理学会30周年記念事業も開催されており、参加申し込みの時点でかなりの激戦でした。
参加報告:デモアプリ開発ハッカソン
ハッカソンはデモアプリ開発ハッカソンとリーダーボードハッカソンを選択できました。
私は「せっかくだから何か形に残るものを作りたい」という思いから、デモアプリ開発ハッカソンを選択しました。
デモアプリ開発ハッカソンでは、OpenAI APIや画像生成APIを用いて画像と言語のマルチモーダルな入出力を行うWebアプリを開発します。
1チーム 4,5人ほどのチームで開発に取り組み、そのアイデアや面白さを競います。
私が所属するチームの名前は「ブルボンズ」で、全員お菓子が好きで「お菓子といえばブルボン」という話になったことがチーム名の由来です。
私たちが開発したデモアプリは「YANS with CAT Quiz」という名前で、YANSに関連したアプリを作りたいという気持ちをベースに、「画面に表示された画像がどの発表タイトルをもとに生成されたものか」を選択肢から回答するような、ゲーム性のあるアプリとなっています。
さらに、意見を出し合う中で「ネットミームと猫はウケる」という結論に達したことから、画像を生成する際に、猫×ネットミーム×発表タイトルを取り入れました。
このような理由から、生成される画像は猫に関連付けられており、「まだ見ぬ発表と猫に出会おう」というコンセプトとなっています。
このアプリを利用することによって、
- 発表者:自身の発表を知ってもらえる
- 聴講者:より多くのプログラムについて知ることができる
というWin-Winな点がアピールポイントです。
処理フローはこのようになっています。
- YANSのポスターセッションのタイトルから発表タイトルを抽出
- Pythonでキーワードを抽出
- ChatGPTでキーワードを平易化・文章化
- DALL・E2で画像を生成し、猫の画像と合成
YANSの発表タイトルを用いるという柔軟な発想にも驚かされましたが、個人的には 2-3 の発表タイトルからキーワードを抽出して平易化・文章化という点が「そんな工夫の仕方があるんだ...」と一番衝撃を受けました。
ハッカソンを振り返ると、学生だけではなく社会人の方もいらっしゃったので、コンセプトがどうだとか、処理フローがどうだとか、「こういう考え方で開発が進んでいくんだ」と色々と勉強になりました。
たった4時間でアプリケーションの開発とプレゼン資料を作成するハードなスケジュールではありましたが、楽しかったし学びも多かったです。
参加報告:ポスター発表
シンポジウム2日目のポスターセッション (4)で『雑談対話にキャラクタ性を付与するためのスタイル変換』というタイトルで発表しました。
研究概要
雑談対話システムに対してユーザに親しみを持ってもらうためのアプローチの1つに「キャラクタ性の付与」があります。
近年、人間と自然に会話できる雑談対話システムが開発されつつあるため、生成される応答の流暢性や妥当性の枠を超えて生成スタイルの制御に関心が高まっています。
雑談対話システムに対してキャラクタ性の付与を付与する先行研究は、応答生成モデルに対して追加学習を必要とするため、大規模なモデルやブラックボックスモデルに対しては適用できません。
そこで私たちは 応答生成とスタイル変換のパイプラインによって 応答生成モデルに対して追加学習をすることなく 雑談対話システムにキャラクタ性を付与できないかと考えました。
具体的には、既存の応答生成モデルによって得た出力に対し、スタイル変換を適用することでこれを実現します。
複数のご当地キャラクターの対話データにおける評価実験の結果、BLEUによる自動評価と人手評価において提案手法の有効性を確認できました。
発表ポスター
実際にポスター発表で使用したポスター
いただいた質問
Q. キャラクターのデータはどうやって入手したのか
A. ご当地キャラクターの皆様にご協力いただき、Twitterのデータを提供していただきました。
Q. 人手評価について、評価者はちぃたん☆を知っているのか
A. ほとんどの人は知っていました。また、評価時には、ちぃたん☆の発話例を300件ほど見てもらっています。
Q. 折り返し翻訳によってどのくらいキャラクタ性を除去できたか / どのくらい除去できないものが残ったのか
A. (カウントが容易で)特徴的なキャラクタ性であるオカザえもんの「ござる」とキャベッツさんの「にゃべ」の折り返し翻訳前と折り返し翻訳後の語尾の数の推移を調べてみました。
キャラクター | 折り返し翻訳前 | 折り返し翻訳後 |
---|---|---|
オカザえもん | 39,803 | 348 |
キャベッツさん | 8,908 | 1,018 |
綺麗さっぱり消え切るわけではありませんが、この特徴に関しては、ほとんどの場合において除去できていることがわかります。
発表を経て
よかった点
実際に発表をしてみて良かったこと、嬉しかったことはたくさんありましたが主に次の3つが挙げられます。
- 憧れていた方々からアドバイスをいただけた。
- 見落としていた問題点に気付けたことにより、次のビジョンが見えた。
- 想像していたよりもはるかに暖かい雰囲気で、同じ分野や興味を持つ友達が増えた。
YANSシンポジウムは、同じ分野の友達が欲しい・様々な視点から研究に対するアドバイスが欲しいという人にはうってつけの場だと思います。
気付き
また発表の方法について、ポスター発表は遠目から見た時のデザインも大事であることが分かりました。発表を聞いてもらう/見てもらうためには、まず視界に入ったときに興味を持ってもらう必要があります。その目に留めてもらうための1つのきっかけとして、ポスター全体のデザインは大きな要因となるのではないかと思います。
また、今回の発表ではポスターの縮小版を配布したのですが、これも大成功でした。
その理由として以下の3点が挙げられます。
- 印象に残る
- 遠目で見ている人にも興味を持ってもらえる
- 名刺も一緒に配れるため、私自身について知ってもらえる
特に今回のような投票制のシステムが導入された発表では、「印象に残る」というのが一番うれしいポイントだったと思います。
自身の時間を割いてポスター縮小版の配布や、私の代わりに質疑応答の対応をしてくれた同期たちには感謝してもしきれません。
今回の発表を振り返ると、たくさんの反省点が残りましたが、主なものとして「もっと回転率を上げたい(質疑応答と発表の切り替えが難しかった)」,「抑揚のある発表をしたい」という点が上がりました。
次の学会発表までに具体的な策を考えることと、抑揚のある発表の練習を自身への課題としたいと思います。
おわりに
人前で話すことが特に苦手で発表に抵抗がありましたが、周りの暖かい雰囲気によって緊張もほぐれ、リラックスして発表に臨むことができました。
実は学会発表は初めてでしたが、初めて参加した学会発表がYANSシンポジウムでよかったと心から思います。
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